【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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国外
第1話


「これから国境をくぐる! 全員、二列で離れず進むように!」

 

 

 ヒイラギ先生の声に呼応して、この場の生徒全員が了承する。

 仮面舞踏会から数週間後、修学旅行に来ている。

 場所は武の国・アーマタス。

 隣国と言えど他国なので、フローレンタム内で近くまで転移し、国境付近は徒歩で移動していた。

 そして今は、アーマタスの国境で、審査を順番に受けている。

 学生なので、身分証を提示する。

 

 

「はい、次の人」

「はい」

「……はい、どーぞ」

 

 

 単純作業の繰り返しだからか、門番のような筋肉隆々のその人は流し目で確認。

 

 

「スグサ様! 一緒に行きましょう!」

「いや、俺が行くんだ!」

「わたくしとも、是非!」

「グループごとに移動だって言っただろうが!」

 

 

 国内に入った瞬間、これだ。

 仮面舞踏会でのうわさが広まってからというもの、私のことを「スグサ様」と呼ぶ人が多くなった。

 それだけスグサさんへの信仰? 信頼? 憧れ?

 まあそんなものが強いのだと思う。

 しかし『私』は『私』である以上、あまりいい気はしない。

 スグサさんのことはもちろん嫌いではないのだが、違う人間だと思われるのは、やはり、嫌だ。

 だから極力返事はしていない。

 それでも複雑なもので、『私』を生きている『人間』と扱ってくれていることについては……心のどこかで、嬉しいと感じてしまっている。

 

 

「ヒスイ、行くぞ」

「あ、はい」

 

 

 生徒全員がアーマタスに入った。

 荷物を置くためにもまずは宿泊先に向かうのが恒例。

 そこからは自由行動となる。

 ヒイラギ先生に一喝されてぶー垂れていた子たちを他所に、私は先生に耳打ちされる。

 

 

「お前、荷物置いたらグループの奴らと先に行け。めんどうだろ」

「いいんですか?」

「言いも何も、その方がトラブルにならん。先に行ってくれた方が安全だ」

 

 

 生徒たちは思いの外熱狂的だ。

 正直、同じタイミングで出てしまったらだめだと言われていてもついてくるだろう。

 『スグサ様』扱いの不自由さは、ないならない方が良い。

 先生の提案に了承し、割り当てられた部屋に荷物を置いてからグループの五人に声をかけた。

 そして、正面入り口に集合している同級生を横目に、裏口から外に出る。

 

 

「ヒスイがいてくれてラッキーだったな」

「だねー。早く行っちゃおー」

「あ! 靴脱げた!」

「あらあら。どうぞ肩に掴まって履いてください」

 

 

 私の居るグループは、よく一緒にいる人たち。

 みんな私を『ヒスイ』と呼んでくれるから、結構嬉しい。

 この人たちも違う呼び方をしていたら、さすがにショックは大きかっただろうな。

 休みが明ける前に寮に戻ってきたナオさんもいるが、じじさんの水葬から帰ってきてからというもの、さらに無口になってしまっていた。

 ライラさんの言葉にもジェスチャーで返すほど。

 

 

「最初はどちらに向かいましょうか」

「俺腹減ったー」

「あたしもー!」

「じゃあ腹ごしらえするか。名物でも食べよう」

 

 

 アーマタスは何というか、お祭りでもやっているような賑やかさがある。

 出店は多いし、人も多い。

 着ている服は大体薄着で、肉体美を見せつけているかのよう。

 『力こそ全て』と掲げているだけあって、みんな筋肉がすごい。

 肌を露出しているせいか、みんな良く焼けている人が多い。

 町並みは石やレンガを使っている建物が多く、少し原始的な雰囲気。

 しかし調べたところによると、文明がないわけではなく、ただ建築も筋トレのうち、みたいな。

 つまり脳筋。

 

 

「肉うまっ」

「味付けが濃いですわ……」

「おいしー!」

「……うん」

 

 

 堂々と掲げられた『絶品! 油滴る赤身肉の燻製焼き』というものを頬張る。

 殿下と食べた時よりも濃い味付け。

 単品で食べる分には濃いけれど、ご飯とはとてもよくあいそうな味。

 筋肉をつけるにはいいのかな。

 

 

「食べたらとりあえず観光だねっ」

「そうだな。どこか行きたい場所はあるか?」

「あ、私、明日の下見に行きたいです」

「あー、武術大会ねー。楽しみだなー」

 

 

 ……やだなあ。

 仮面舞踏会の次は、武術大会。

 しかも他国の。

 

 というのも、アーマタスでは国の代表を決める以外にも、毎年大会が開かれる。

 それは多種多様で、女性のみ、男性のみ、混合、年齢制限、武器あり、魔法ありなど。

 フローレンタムから修学旅行生が来る時期にも大会が開かれる。

 そして恒例となっているのが、修学旅行生から代表者一名の参加。

 それが今回は、私。

 

 

「逆指名受けちゃったらしょうがないよねー」

「いや、なんで私のことが広まってるのか……」

「そりゃあ、スグサ・ロッドは世界的な有名人だからねー。武の国でも魔法は使われてるしー。ただ、魔法よりも武の力を優先するから、熱狂的な人はあまりいないかなー。むしろ対抗心」

 

 

 アーマタス出身のセンさんに「当然っしょ」と言われる。

 もともと出身国とあって、目的さえ言えば案内してくれるとのこと。

 なので武術大会が行われる会場までもわかりやすい道で案内してくれた。

 野球やサッカーが行われそうなほど広い……。

 

 

「一対一の戦いをするにしては、大きすぎませんか?」

「そりゃあ、魔法も規模が大きかったり、召喚するなら大きい方が良いっしょ」

 

 

 召喚……魔法か……。

 この世界での召喚魔法。

 学校の図書館で見たことがある。

 『魔法を発動した場所とは別の場所で、契約した生物を呼び出す魔法』

 要約すると、そういう魔法。

 この世界に限るのかどうなのかとは書かれているものはない。

 スグサさんが言うには、私が紹介されたとき、『人間』、そして『魂』といういうところまで限定して発動したのだろう、と。

 世界を超えたというのは、わからない。

 ただの偶然かもしれない。

 

 

「過去にはどんな生き物が召喚されたんですか?」

「んーと、あ、ピーチ呼ばれてたな。あとルルやキャスト。大きいのだとドラグ・ナルとイズ」

「ドラグ! すっごいねー!」

 

 

 ピーチは遠足の時に討伐した毒鳥。

 ルルはギルドの任務で討伐したサソリ。

 あの二つは毒を持っているし、意思疎通さえ取れれば存在が牽制や武器になる。

 あとは図鑑でしか見たことがないが、キャストは猫型の幽霊。

 体は半透明。

 一度殺しても死なず、個体によって何回必要なのかが違うのだという。

 討伐は結構厄介な生態。猫型で可愛いのになあ。

 ドラグというのは、ドラゴンのこと。属性によって続く言葉が違うが、魔法の呪文と一致している。

 つまり大会で召喚されたドラグ・ナルは風属性、ドラグ・イズは水属性だ。

 ドラグは最低テニスコートぐらいの面積が必要。

 大きいと果てしないらしいので、会場に召喚された分は中ぐらいだろうか。

 

 

「見てみたいな」

「シオン様は見たことありそうだけどねー」

「ない。城でも使役していた奴がいても、城では呼び出せないからな」

 

 

 私も見てみたい。

 けど、呼び出された子たちが怪我をしたらどうなるのだろうか。

 治療、しているのだろうか。

 どうやって元の場所に戻っているのだろうか。

 元の場所に戻る方法がわかったら、私も、戻れるんじゃないのか。

 

 

「ここまでの道のりは覚えたー?」

「あ、はい。わかりやすい道を選んでくれたので、大丈夫そうです」

「よし、じゃあ次行こうかー」

 

 

 明日、ここに来る。

 エキシビジョンマッチのようなもので、本選であるトーナメントには参加しない。

 今回の魔法ありの大会では外国からも参加者がいて、参加人数が多い。

 そのためトーナメントは日程にして十日ほどかかるから、修学旅行中は無理。

 なぜ出るのか。

 言ってしまえばたたの見世物だ。

 アーマタスの学校の生徒とフローレンタムの学校の生徒が戦って、力比べをしようという。

 

 

「正直な話、試合になるのか?」

「と言いますと?」

「相手が『スグサ・ロッド』だと言われていて、魔法勝負を仕掛ける奴がいるのかって話だ。実際はヒスイだとしても、そう言われていては魔法で挑むのは無謀だと考えそうだけどな」

 

 

 確かに。

 スグサさんのことを知っている人ならば、相手の土壌で戦うようなことはしなさそう。

 いかに自分が魔法が得意だとしても、スグサさんは英雄とまで言われた人だ。

 全属性なり魔法の開発なり、早々他人もできることじゃない。

 

 

「どうするんだろうねー。今まではいい勝負だったんだけど」

 

 

 対戦相手は直前まで発表されない。

 なので考えるだけ無駄なのだが。

 一抹の不安が、胸に居座り続けていた。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 翌日。

 修学旅行自体は二泊三日なので、今日が中日。

 宿で集合した私たちは、朝食を食べながらヒイラギ先生の号令に耳を傾ける。

 

 

「午前中は各自自由行動。午後から武術大会を見学するから、時間になったら会場に集合するように。ヒスイは集合時間が午前中だから、行くとき声かけろよ」

 

 

 一斉に返事をして、食事に向かい合う。

 とろっとした温かいスープが美味しい。

 

 

「ヒスイ、あたしたち行ってくるね!」

「はい。気を付けて」

「またあとでねー!」

 

 

 グループの私以外の五人があ立ち上がり、食器を下げる。

 背中を見送った。

 食堂委は他グループの人たち。

 私は黙々と食べ終え、食器を下げて、部屋に戻った。

 

 

 ―― どこにも行かねーの。

 

「落ち着いてみて回れる心境じゃないです」

 

 ―― ふーん。

 

 

 戦いとは無縁の生活だったんだ。

 これまで、魔物の討伐は何度かやった。

 だが対人戦闘については、先生との力比べみたいなものぐらいしかない。

 その程度の経験しかないのに、いきなり大会で戦う。

 しかも大衆の面前で。

 緊張しないわけ、ない。

 部屋のベッドに飛び込んだ。

 うつ伏せで、呼吸した。息苦しい。

 でも、いまはこの息苦しさで丁度いい。

 少しして、天井を向く。

 呼吸しやすい。

 鼓動は早い。

 

 

「……スグサさんは」

 

 ―― ん?

 

「人と戦ったこと、ありますか?」

 

 ―― あるぞ。

 

「どんな時に?」

 

 ―― 大体は妨害されて。任務の手柄を横取りしようとした奴らだな。私様は研究費用が稼げればよかったが、なにせ時間は惜しい。速攻で蹴りがついて報酬がいいものを選んでた。そういう任務を選ぶ奴は多かったから、狡賢いことを考える輩も多かった。

 

「攻撃、したんですか?」

 

 ―― 基本は拘束。もしくは眠らせる。戦えなくしてた。それを攻撃と取るならそうだな。

 

「拘束……」

 

 

 戦わずして勝つ、と言ったところだろうか。

 それで済むのならそうしたい。

 スグサさんほどの腕前があるわけではないけれど、人に攻撃するよりよっぽどやりやすい。

 大会観戦者からブーイングがあるかもしれないけど、それよりも、断然いい。

 ……少し寝たら、行こう。

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