【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
「筋肉とは自身に宿る財産である!! 自身の力で増やし!! 溜め込み!! 利用することができる!!! 自身を律せよ!!! それこそが自身を成長させるのだ!!!」
ちょっと待ってって。
え、あなたが対戦相手なんですか?
「魔法や魔力というのは!! 自身を鍛えることを怠っている!! 生まれ持ったもので強くなるのは良し!! だがなぁ!! それに現を抜かすような奴は人間失格だ!!」
……うん?
「魔法で強くなることは認めよう!! しかぁし!! 肉体も鍛えてこその強者だ!!! スグサ・ロッドという魔法の強者は我が肉体に勝てるか!! しかと見届けるがよい!!!」
……うーん。
熱せられる会場とは逆に、私の頭は冷え切っていく。
とりあえず、相手はおそらくビー・フォーさん。
そしてそのビー・フォーさんは、魔法のプロであるスグサさんを……敵視しているというか、対抗心を燃やしているというか。
国で『力こそ全て』と掲げているだけあって、自身の筋肉に対する自信はすごいものだった。
自分で鍛えたものが、一見唱えただけで発せられる魔法を超えられるだろうと。
しかし魔法も『力』。
完全否定はしないというか。
「まあ、確かに鍛えることはいいけれどなあ」
鍛えただけじゃあなあ。
―― おいおい。面白そうな相手じゃないか。
「知ってる人ですか?」
―― 『ビー・フォー』というのはこの国の代表に与えられる名前。何代前かのビー・フォーと戯れに
「ということは、勝敗は」
―― 私様の勝ち。
「だと思った」
―― どうする? 私様が出てやろうか?
悪魔の囁きにも聞こえる提案。
一考。
「……いえ」
―― ほう。
「少し、やってみようかな」
―― 嫌がってたのに、どこでそんなやる気が出た?
「んー。これっていう決め手はないですけど」
私は魔法が好き。
楽しい。
スグサさんのことも、好きな方。
それを否定されたような物言いに、少しカチンと来てしまった。言わないけど。
対人というのにまだ抵抗はあるけど、あの人は……あんまり死ななそうだ。
「……気分?」
―― ……はっ、はははっ!
「笑いますか」
―― 意外でな。弟子。お前、そんな好戦的な性格だったのか?
「いうほど好戦的ですかね」
―― ビー・フォーという岩のような相手を見て、戦意の火を灯す奴はそういないだろう。
「はあ……」
頭の中で笑い転げているスグサさんは置いておこう。
水晶の中では第一戦の約三十名の勝ち抜き戦の説明がされている。
私が呼ばれるのは第一戦が全て終わってから。
はてさてどれくらいかかるのやら。
―――――……
決着がついた。
「今回も、勝ち抜いたお二人は別室へお願いします!!」
「これより、会場整備を行います!」
「その後は皆さまお待ちかね!! ビー・フォーの登場でーーーす!!!」
自分のことは言われていないけれど、とうとう私の番のようだ。
準備体操で備える。
体を動かしながら、魔力を練る。
練りながら、戦いのイメージをする。
あの人のことだから、おそらく近接戦になるだろう。
あの体に私のようなひ弱な力はほとんど効果がないと思う。
なので他の手段を考えた。
コンコンコン。
「はい」
「お待たせいたしました」
ローブを被った。
上裸の男の人に導かれる。
行く先は言わずもがな、試合会場。
何時間ぶりかの日の光を浴びる。
眩しくて目が霞む。横に逸れた案内人が、無言で「さあ行け」と言う。
土だか石だかの階段を上がる。
日に照らされた体を輝かせ、筋肉の厚みで影が多めな、コントラストの強い強者が待ち構える。
「来たか。魔術師」
「始めまして、強い人」
歓声が沸く。
ブーイングらしき声はなさそうで、少し安心。
距離を開けて、私とビー・フォーさんは向かい合う。
余裕に満ちた表情。反面、私の顔はどうだろうか。
笑ってはないけれど。むしろ私の表情は見えているだろうか。
見えていない方が良いな。
「エキシビジョン・マッチを始めます!」
「ビー・フォー! 対! スグサ・ロッド!」
「勝敗はどちらが戦闘不能になるまで!」
「カウントします!」
「ごお!」
「よん!」
「さん!」
「にぃ!」
「いち!」
「うらああああああああああああ!!!!!」
ドゴン、と、拳が地面を打ったにしてはらしからぬ音がした。
カウントダウンの最後も聞こえなかった。
スタートダッシュ良すぎて審議案件。
「ほうっ!?」
「魔法あり、ですもんね?」
空を見上げるビー・フォーさん。
映っているのは空を背景にした私だが。
手を伸ばしてもギリギリ届かない高さに、地面と水平に体を浮かせている。
そして役割を横から奪われた鐘が、体の芯にまで響かせるほどの音を鳴らす。
……学校で聞いた鐘の音と同じかな。
「初撃を完全に交わされたのはいつぶりか!」
「瞬発力も脚力も、鍛えていそうですからね。先手を取られるかと思ってました」
「カーッカ!! わかっておるではないか!!」
足に風を纏っていた。
拳の前に向かってくる風圧で飛ばされたのは予想外だったが、躱せはしたのだから問題なし。
「降りんのか?」
「降りた先で狙われそうで怖くて震えています」
「カーッ」
片手で頭を抱え、大口で笑いを放つ。
両手を振りながら、屈伸。屈伸。屈伸……。
「主が! 来んのなら! 儂が! 行ってやろう!!」
「あ、いや、遠慮します」
「カーッカッカ、ッカ!!!」
ズンッっと地面を抉り、笑い声とともに飛んで来た。
屈伸の時点で、あ、飛ぶな、って直感が働いた。
直線で飛んでくると思ったので、斜め上に移動する。
風での移動はそこまで早くない目で追える程度のものだが……。
「ドォラァ!!!」
「え。っもー……」
やっぱり追ってきた。
斜めに一直線にロケットのように飛んでくる。
風圧でバランスを崩しかけるが、なんとか保った。
「って、あなたも飛ぶんですか」
「環境を選んでいる様では半人前よ!! すべてに対応するべし!!」
「よーーーく聞こえてるので、そんなに叫ばないでください……」
「叫ぶのも筋トレじゃ!! 貴様もローブをとって!! 組手でも躱そうぞ!!」
「ローブをとる時間もくれなかったじゃないですか……」
巨体が宙に浮いて、腹筋を全力で使って語りかけてくる。
浮いているということは、この人は風の属性を持っているのかな?
「ほぉら行くぞ!!!」
「いっ」
両足が竜巻のように包まれ、宙を縦横無尽に回る。
地に足がついていないだけで自由な腕は、私に殴りかかろうと振りかぶる。
この人も飛べるんじゃあ、宙にいるメリットはあまりないかもしれない……。
なら、降りるしかない。
スグサさんに備わっていた見切りと、ロタエさんに鍛えられた風の魔法の移動のおかげで、踏ん張りがなくて最初ほどのスピードのないビー・フォーさんのパンチを躱し続ける。
腕の下から背部に回り、急降下する。
地面に降り立ったところで、魔法を使う。
まだ宙にいる。
今がチャンス。
ここでの、私が『スグサ・ロッド』だと言われて、最大のメリット。
「
「ぬぅ!?」
魔法の種類を問わず、難易度も問わなくなったこと。
学生のふりをせず、最高位魔術師としてやりたい放題。
呼び名について思うところはあるものの、開き直ってしまえば利点は大きい。
隠す必要がないのだもの。
というより、もうすでに弁解はできない。
だって国の最高位の人が言ってしまったんだもの。
正直、張り合うだけ無駄だと思う。
だから否定はしていないのだが、同時に肯定もしていない。
最後の悪足掻きと言うものだ。
だから、もしかしたら「そう言われただけで実は違います」と言い逃れできるかもしれない……と思っている。
それにフローレンタムの人たちも、アーマタスの人たちも、『スグサ・ロッドが蘇った』ということに疑問を抱かなさすぎると思う。
だから、少し言い方が悪くなってしまうが、言うだけ無駄じゃないかと思ってしまう。
「こんな!! もの!! 効かぬわあ!!!」
台風のように中心だけ空洞、周囲を風でとらえるそれは、ビー・フォーさんを捕らえたはずだった。
だが筋肉で解かれてしまった。
最上級魔法を物理で破壊とか。
「ふんっ!!」
地面に足が埋まるほどの勢いで降りてきた。
ずぼずぼと片足ずつ抜き、地響きがするほどの踏み込みで歩み寄ってくる。
「終わりか? どんどんやってみろ!! 魔法なんぞ、儂の純粋な力で打ち砕いてやろう!!」
「……来いと言われると、行きたくなくなりますね」
「なので、殴り合いで」
「おお!!! 来い!!!」
父の抱擁を求めるがごとく、体を強化して、スピードを上げて、身を屈めて、駆ける。
私のパンチなんて虫に刺された程度だろうけど、そこは、工夫次第。
右からストレート。
防御される。
出された腕を押し、体を浮かせる。
逆立ちの体勢から足を振り下ろす。
掴まれた。
「なんじゃそのひ弱な動きはああああああ!!!」
「っ」
ぶん投げられた。
風を纏って勢いを殺す。
体勢を変えて向かい合う。
「ふんっ!!!」
「う、っぐ」
追いつかれ、アッパー食らった。
風を纏ったままだったから勢いは殺せてラッキーだったけど、完全ではなかった。
むしろそのつもりもなかったし当然だが、軽く腹にめり込んだ。
また宙に投げ出される。
痛みで状況がはっきりしない。
……追ってきてる。
「もう終わりか?」
「……こ、のっ」
「ぬぅ!?」
跳躍でもしたのか、空中でまた相まみえた。
近くまで来ていた余裕の笑みが憎たらしくて、難しいことは考えずに魔力を込める。
発動したままだった風の魔法が威力を上げ、私の周りのものを弾き飛ばす。
前後左右、上下構わず発した風で、自分は止まり、ビー・フォーさんは弾かれた。
地面にたたきつけられた音が鳴り響いて、土埃が舞う。
「観客席は魔法で防御されていまーす!!」
「皆さまご安心くださーい!!」
司会の声が響いて、安心する。
巨躯すらも弾く威力を出すには無茶なほどの威力が必要なのか。
魔力切れはないかもしれないけれど、今までより思い切った使い方になるか……。
死んじゃわない、程度に……。
―― いつでも変わってやるぞ?
意地悪な声が脳内に響く。
私がやると言った以上、二言はしないつもり。
しかし人が死なない程度の力を籠めるとなると、これが難しい。
なんせ、人がどれぐらいで死んでしまうのかわからないのだから。
今までは限りなくコントロールして、皆のレベルに合わせてきた。
それならば『死なない程度なのだ』とわかりやすい見本だったから。
だけど。今は、見本はない。
今まで通りの魔法では、たぶんこの人にはほとんど効果はなさそうだ。
この人自身が例外。
例なんて意味がない。
「この程度か?」
普通、土埃が舞うほどの勢いで地面に叩きつけられれば、大小の怪我の一つや二つするもんじゃないのか。
というのは例外のこの人には通じない。
良かった。
死んじゃってなかった。