【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
小さなクレーターのど真ん中に立つビー・フォーさん。
少し体が汚れているようだけど、四肢の様子は変わりなさそう。
小休止。
向こうもこちらの様子を窺っている様。
「スグサ様ー! 頑張ってー!」
「スグサ・ロッド様ー!」
「スグサ殿ー! すごい魔法見せてくれー!」
向こうからの声は聞こえるみたいだ。
制服を着たクラスメイト達が固まって見学している。
まさかまさか、私を『寄生虫』と呼んでいたロアさんも声をあげている。
でも、うん。
魔法か。
組手でなんとか向こうの力をそごうと思っていたけど、なかなかうまくいかない。
向こうに利のあるやり方だし、ダメそうならすぐに引くべきか。
自分の得意な方をやろう。
「
左手を天に掲げる。
唱えて、掌に現れた火の玉。
手のひら大から、頭。
頭から、ひと一人。
ひと一人から……どれくらいだろう。
とりあえず、会場から見える天を覆いつくすほどの大きな火の玉を形成する。
火そのものであるそれは、周囲の温度を上げる。
今は夏なので、もともとの外気温も合わさって何とも熱いし暑い。
狙うのは熱中症ギリギリ。
少しでも隙ができれば拘束する。
普通に動けない程度になってくれればそれでいい。
完全に熱中症になってしまっても、水の魔法ですぐ対処できる。
私自身は風の魔法も同時使用で多少は楽。
観客席は、物理的な衝撃には強いようだが、空気までは調整していなかったよう。
職員たちが慌ただしく動いている。
さて、目的の人はというと。
「ああああああ」
「うわ」
「いいサウナだ。代謝を上げ、体を絞るにはちょうど良い」
汗だくで仁王立ちしてた。
暑そうだけど……それほどと言った程度か。
にたぁと笑った顔が怖い。
―― 余裕そうだな。
そうですね……。筋肉が多いから、体内にため込んでる水分も多いのかな。
―― やせ我慢には見えなさそうだしな。それか、もう一つ可能性はある。
ビー・フォーさんの身体が、燃える。
「この程度の暑さ!! 儂の発する炎熱に比べれば造作もないわぁ!!!」
暑いはずなのに、むしろ体を燃やしてより暑さを増す。
下からの熱気が私を直撃して、風の魔法をもってしても熱を感じる。
「火属性も持ってるのか」
持っている属性の攻撃は、ある程度の耐性ができてしまう。
火属性が火傷、水属性が溺れるなんて状況はほとんどの場合ありえない。
スグサさんほどの力があれば同じ属性だとしても圧倒したのかもしれないが、生憎、私だ。
そんな程よい力加減は、いくらコントロールの練習をしたとしても自信はない。
なら。別だ。
「≪
火を使うならば水系。安直。
本人を囲うように氷でドームを作る。
恒温動物である人間だから冬眠はしないだろうけど、活動はしにくくなるはず。
花を纏った氷のドームが出来上がった。
のも束の間。
念には念を入れてぶ厚い氷の層を形成したのに、中から音がする。
「カアアアァァァアアッッ!!」
「うっわ」
「フン!!」
両手に風を纏った手を天高く突き上げ、氷を破壊して出てきた。
なるほど。
氷で囲われても動けるのならその方法もあるか。
火で溶かされるかもしれないと考えていたけど、まさか破壊してくるとは。
「どうした? どんどん来い!! 全て受けて立ってやるぞ!!」
「では、次」
≪草木と星々の狂恋≫
地面を割って、ビー・フォーさんよりも太い木の根がいくつも生えてくる。
まるで生きている様にうねうねと動き、巨躯を捕らえた。
これは土属性の一種。
弱ってからやるつもりだった。
木の根では風魔法で切られてしまうかもしれないから。
上から見下ろす私は、木の根に捕らえられたままのビー・フォーさんを見ている。
不敵な笑みは、そのままで。
「≪大地の嘆き≫」
両手を横に広げ、その先から土砂が真下のビー・フォーさん目掛けて流れていく。
直撃はせず、足元にどんどんたまるように。
上半身まで覆えればいい。
そうすれば簡単には風で切られない。
そうすれば、首元でも頭でも狙いを付けられる。
「甘いのぉ」
山なりに胸元まで泥が溜まったところだった。
その呟きと同時に、ぶわっと熱気が顔を撫でる。
熱はビー・フォーさんから発せられ、体の周りからどんどん、どんどん、泥が白く乾いて行く。
「やることが温すぎる。生温すぎるぞ。魔術師スグサ・ロッド。もっと本気で来い! 殺す気で来い!!」
乾いた土を筋肉の膨隆で弾き飛ばしながら、雄叫びを上げる。
空の咆哮を食らい、フードが外れ、髪が飛ばされる。
会場から声が湧く。
顔が露見してしまった。
目の色も、髪色も、バレてしまった。
一部の人間よりも、もっと広くに。
世界に。
私は。
私が。
スグサ・ロッドだと、思われてしまった。
風が涼しい。
いや、蒸し暑い。
頭が真っ白になる。
「スグサ・ロッドー!! これが今の、スグサ・ロッドだーーー!!!」
「緑色の髪! 赤い目! 残された絵と様子は違いますが、お顔は絵そのもののようです!!!」
「「死者は!! 蘇ったーーー!!!」」
わああああああああああ。
わあああああああ。
わあああああああああああああああああああ。
会場全体が沸き上がる。
喜びと驚きで包まれる。
悲しみ、恐れている人は、いない。
「なんで……」
異様だ。
この世界でも『死んだ』ということはつまり『蘇らない』ということと同義だと思っていた。
そんなことはありえないと。
それをすることは、禁忌だと。
魔法の有る無しで世界の倫理観がこうも違うのかと、見せつけられる。
思い知らされる。
叩きつけられる。
魔法があれば、不可能はないと。
まるで奇跡のような魔法だと。
奇跡など起こせると。
魔法があれば、何でもできると。
ああ、頭が冷えていく。
「何を呆けておる!!」
「ぐっ」
頭に鈍器……いや、拳で殴られた。
土や泥を弾き飛ばし、高さが出たところから跳躍してきた。
それらしき部分はまクレーターになっている。
その中心に真下に落とされた。
浮くために使っていた風の魔法がクッション代わりになって、うつ伏せに落ちてもダメージは少ない。
「貴様が蘇ったことなど今更なこと。むしろ何を隠す。魔法の可能性を見せしめることは、魔術師であれば本望だろう」
「……私は、スグサ・ロッドさんではありません」
「ああ。聞いている。どこぞの魂とやら。いらん人格だ」
「いらない、ですか」
「いらんな。この世は強き者が生き残る。力でも、魔法でもだ。スグサ・ロッドが残っていては面倒だと言っていたが、それこそ力でねじ伏せてしまえばいいものを!」
貴様の生死はこちらが握っているのだから。
はっきり言い放たれた、生殺与奪の権利。
どういう繋がりかはわからないが、ビー・フォーさんとフローレンタムの研究は繋がっているのがわかる。
いや、代表なのだから、アーマタスとフローレンタムという国同士の繋がりかもしれない。
ああ、いやだなあ。
見張られている。
気にされている。
なんて面倒くさい。
スグサさんも、こういう感じだったのかな。
自由奔放に生きているようで、やることなすことすべてが注目を浴びる。
有名人は自由がない。すべてが見張られている。
監視カメラの中で生きているようだ。
空を見る。
会場から見る空は丸く切り取られている。
淵の外側にはいくつものレンズ。
みんな、こちらを向いている。
何をやるのかと、どうなるのかと。
スグサ・ロッドは、どう動くのかと。
「……ああ、なんか」
「どうした。やるか。魔術師」
「……めんどくさぁ」
「ぬ?」
―― 落ち着けよ。弟子。ゆっくりやれ。
「止めないでくれて、ありがとう」
闇属性魔法 ≪回想の香≫
範囲は広場だけではなく、会場全体を包みこむ。
物理障壁があっても、空気や風の流れに乗って漂う≪香≫ならば問題ない。
風の魔法で会場外には出ないようにするけど、その分、≪香≫は濃くなる。
「……え?」
「目が、かす……む……」
司会者の言葉が小さくなる。
見渡せば観客も、みんな首を落として寝ている。
目の前の人以外。
「フンッ!!!」
「……元気ですね」
「冴えわたっておるわ!!」
自由落下。
地に足をつけた瞬間の振動が会場全体にいきわたる。
それでも目を覚ました人はいなさそう。
ただ、その衝撃は、この人の眠気を吹き飛ばした。
とっさの反応良すぎー。
アドレナリン出すぎじゃない?
「三大欲求の一つなんですけどね」
「儂の欲求は筋トレ!! 食事!! 睡眠よ!!」
「代表なんだから子孫は残さないと」
「強い人間が残ればいいのだ」
ニタリと笑う。
ああ、完全に寝る気ないな。
観客と司会が眠ってだいぶ静かになった。
だけどここからの作戦は決めてない。
ホント、思い付きの突発的行動。
精神干渉も弾き飛ばしそうだなあ。
「魔法は終いか? ならばこちらの番だな!!?」
「……せっかち」
「舌を噛むぞ!!」
走り込む。
右手を引いて、左足が中段に飛んでくる。
左手を添えて、風の魔法を纏わせて否す。
衝撃で飛ばされた。
追ってくる。
スピードを押し殺して、向かっていく。
十分に離れたところから、両足を揃えて屈む。
力強い一歩で踏み込んでくる。
飛ぶ。
肩でのタックルをジャンプで躱し、背中で向かい合っている。はず。
素早く振り返る。
「っぶ」
「よく躱す!! だが捕らえたぁ!!」
「くっ、ぅ……」
顔面掴まれた。握力いくつだよ。
大きすぎる手がほどけなくて、両手でひっかく。
持ち上げられて体が浮いて、踏ん張りがきかない。
「どうする? 自滅必死の魔法でも使うか? 鋭く儂の首でも狙うか? 殺す気で来んくせに」
「ん、ぃ、く」
「……最高位と言えど、所詮、呆気なく死んだ粗末な魔術師か」
殺す気なんて、毛頭持てない。
傷つけることだって正直したくない。
だからせめて、傷は作らないようにしていたのに。
変わりだって、させたくないのに。
それでも。
「……う……ろ、ろ……」
それでも。
スグサさんのことを馬鹿にするのは、許さない。