【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

「ん……」

 

 

 頭が痛い。

 体が重い。

 熟睡感を通り越して寝すぎてしまったようだ。

 今は何時だろうか。

 寝返れば室内にオレンジ色の日が入っている。

 もう夕暮れだろう。

 温かくて柔らかい布団を避ける。

 

 

「んんっ」

 

 

 ああ、よく寝た。

 体を動かすと寝やすいな。

 夢も見ない程ぐっすり寝てしまった。

 すごく寝心地が良かった。

 ……ん? なぜ?

 

 

「……え?」

 

 

 レンガで囲まれた円形の部屋。

 白で統一されてとても清潔感がある。

 私がいる天蓋ベッドも白一色。

 室内には机と椅子。

 数人掛けのソファーとローテーブル。

 二人掛けの食卓。

 カーテンで仕切られた先には……なんだろう、シャワーやトイレだろうか。

 全く見覚えのない場所に、焦る他ない。

 私はさっきまで……そうだ。

 ビー・フォーさんと試合をして、結界系魔法で閉じ込めたんだ。

 観客たちも寝ている間に控室に戻ってきて、私も寝てしまって……。

 

 

「……っ、スグサさんっ」

 

 ―― おお。弟子。おはよう。

 

「え、スグサさん、この状況知ってたんですか? 何がどうなってるんですか?」

 

 ―― 落ち着け、弟子よ。私様もさっき目が覚めたところだ。弟子以上の情報は持っていない。

 

 

 私が寝ている時は活動出来ないのだと以前聞いた気がする。

 私は今まで寝ていたのだから、知らなくて当然か。

 そうなると何も情報がない。

 日が入っている辺りを見ると、見上げて風が全て集まったところ辺りに空間が開いている様に見える。

 ホント、ビルで言ったら何階ぐらいの高さになるのだろうか。

 とりあえず壁が集束してしまっているほど遠い。

 こんなところに突然連れて来られたのだとしたら、逃げた方が良い気もする。

 だけどここがどこなのかを確認した方が良い気もする。

 一先ず、ベッドから出る。

 服は私のものだ。

 

 

「……扉っ」

 

 

 壁沿いにある扉を確認。

 銅色の重そうな扉だ。

 鍵穴はなく、ドアノブもない。

 押すタイプか。

 

 

 ―― ……おい、やめろ。

 

「いっ」

 

 ―― それに触れるな。

 

 

 言うのが遅いですよ……。

 押してみようと手をかけたその時、体中を電撃が走ったような感覚を覚えた。

 扉に触れた部分に変化はないが、痛みは、本物だ。

 

 

「なんですか、今の」

 

 ―― 魔力に反応した防魔扉だ。この世界の人間は強弱はあれど、魔力を持っている。弱い奴はかゆみ程度で扉を開けられる代物だが、私様みたいに果てしない量の魔力持ちは開けるのに苦労するだろう。

 

「そんな……壊せないんですか?」

 

 ―― 物騒な性格になってきたな。まあもう少し様子を探れ。こんなところに閉じ込めようとする奴らだ。逃げられたとしても、なるべく事を荒立てない方が良いだろ。

 

 

 この扉の構造から、もう私たちは閉じ込められたのだと断定してしまった。

 逃げることは置いておいて、この部屋を探索する。

 といっても、真っ白な部屋であること以外、特におかしなところはなさそう。

 シミ一つないシーツやテーブルたち。

 なんならティーセットでさえ真っ白だった。

 洗面所もトイレもシャワールームも。

 これは疑う余地もなく、閉じ込めた人の趣味なのだろうと思う。

 

 

「あとは、天井ですかね」

 

 

 魔法さえ使えるのならば、高さがどれほどあろうと難しいことはない。

 なんたってスグサ・ロッドなのだから。

 様子見だけしようということで、魔力を練った。

 その時。

 

 

「んぃっ」

 

 ―― どうした!?

 

「く、びが、いた、く、て」

 

 

 髪をかき分け、痛みのする個所に触れる。

 ……何かある。

 洗面所に駆け込んで、鏡を使って確認する。

 そこには、ボタンのような何かが貼りついていた。

 

 

「なにこれ……?」

 

 ―― ……魔道具だ。主に、囚人なんかに使われる。

 

「なんで、そんなもの」

 

 ―― 閉じ込めた奴の考えなんて察したくはないが、おそらくは私様たちを逃がさないためだろう。魔法を使わない限りは痛みはなさそうだな。

 

「魔法を使おうとした一瞬だけでした」

 

 ―― 私様たちから魔法という手段を奪おうとしたんだろうな。首の裏っていう一見わからないところに貼ってくるとは、ずいぶん性格の悪い奴のようだ。

 

 

 確かに、魔法を使って痛みを感じなければわからなかった。

 髪でほとんど隠れているし、そもそも後ろだし、痛みでないと気付かなかったかもしれない。

 うん。性格悪そうだ。

 しかし首というのはとても有効だ。

 神経が近いから衝撃で体が痺れるし、急所とは言わずとも頭を支える重要な部分だ。

 実際、もう一度あの痛みを感じたくなくて、魔法は使う気になれない。

 

 

「上への確認は出来そうにないです」

 

 ―― だろうな。仕方ない。

 

 

 これからどうしようか、考え始めた時。

 扉の方から音がした。

 

 

「おはようございます。よく眠れましたかな?」

 

 

 小太りの、いかにも人の良さそうなおじさんが入ってきた。

 仰々しい服装と帽子をかぶって、私の知る知識ではこれは、宗教服。

 

 

「……あなたは、誰ですか?」

「申し遅れました。私はユーカントリリー教の教祖代理を務めております、イレンと申します。どうぞよろしくお願いいたします。ロッド様」

 

 

 にこやかに、人の良さそうな笑顔を浮かべる。

 片手を胸の前に置き、頭を下げる。

 その慣れた所作は、人と話すこと多いのだろうという印象を受ける。

 今までにない呼ばれ方をした。

 「ロッド様」か。

 そっちが苗字だものね、そういえば。

 スグサさんのお知り合いだったりは……。

 

 

 ―― しない。

 

 

 ですよね。

 

 

「イレン、さん。貴方が私をここに連れてきたんですか?」

「いかにも。恐れながらお連れいたしました。この部屋は貴方様のためにご用意させていただきました」

「そうですか。首のも?」

「ええ」

「なぜ?」

「行方を眩ませられては捜索が大変ですので」

「逃げるだろうと考えた?」

「はい。拘束を嫌うお方です。このような場所は不本意でしょう」

「よくご存じで」

「我らが教祖のことでございますから」

 

 

 ―― 何言ってんだ、このジジイ。

 

 

「……わ、たしは、教祖ではありません」

「いいえ、教祖様です。我らがユーカントリリー教は、スグサ・ロッド様率いる団体でございます。皆、貴方様のお帰りを待ち望んでおりました」

 

 

 ……いや、ちょっと、何を言っているのかわからなくなってきた。

 レルギオは、もともとは小さかった宗教団体が人数を増やし、一国にまでなったはず。

 その宗教自体はスグサさんが生きている時からあったかもしれないけど、国自体は死後の話だ。

 そもそも、スグサさんに自覚がない。

 そんな役職を持っていたのなら中々忘れられないだろう。

 『記憶』である今のスグサさんならなおさらだ。

 

 

「スグサさ、ロッドが教祖というのは、本当の話ですか?」

「ええ。もちろんでございます。貴方様のことでございますよ?」

「いつの話ですか?」

「五十年ほど前からです」

「……はあ」

 

 

 死後じゃん。

 少し、呆れる。

 本当にこの人は何を言っているんだろう。

 確実に死後の話なのなら、スグサさん自身の承諾もあったのか怪しい。

 あったとしても、死んでからその役職を与えられるとは。

 そういう約束だったならまだしも……。

 

 

 ―― そんな契約を結んだ覚えはない。むしろ、この宗教の奴と話したこともなければ、そんな面倒くさそうなことを引き受ける人間じゃない。

 

 

 自分で言ってるけど、まあ、そういうことだろう。

 同意する。

 

 

「このまま立ち話もなんですし、よろしければあちらのお席でいかがですか? お飲み物をお入れいたしましょう」

 

 

 扉の外側から、室内のテーブルを指さされる。

 たしかにティーセットもあった。

 室内のものは把握済みですか。

 見ず知らずのおじさんに整えられた真っ白な部屋……やだなんか怖い。

 断っていいかな……。

 

 

 ――  入れるな。飲み物になんか入れられるかもしれん。そうでなくとも、魔法が使えない私様たちは丸腰だ。

 

 

「お断りします」

「そんな、遠慮なさらずとも」

「貴方のことが信用できません。一歩でも入ってきたら、魔法を使って自滅します」

「……ふむ。教祖様に何かあっては困りますな。御身を労わっていただけるのであれば、御心のままに」

「では一人にしてください。どうせ、ここからは出られないのでしょう」

「左様でございます。どうぞ、ごゆるりと」

 

 

 触れてもいない扉が自動で動き、上体を倒したまま、イレンさんは隠されていった。

 ゴン、と重いものがぶつかった音がした。

 鍵は……ないのかな。

 そもそも開けられないのだけど。

 

 静寂。

 人の話し声がなくなり、部屋は明るいのに暗い雰囲気を漂わせる。

 人が不審だと、その人が用意したものまで信用できなくなる。

 監視されているんじゃないかと思ってしまう。

 

 

「お城の時は、大丈夫だったな」

 

 

 あの時は殿下が準備してくれたんだ。

 話を聞いてくれて。

 話をしてくれて。

 自由にさせてくれた。

 上下関係はあるけど、あからさまにひけらかす訳ではない。

 いい人に出会えたのだと、この場に来て再度思う。

 

 

「……か」

 

 

 言いかけて、やめる。

 これと言った意味はない。

 自制心が働いてしまった。

 あの人のところに、と思うのは、身勝手だ。

 

 

「…………っ。どうしようかな」

 

 

 頬を叩く。

 気を取り直せ。

 とにかく、この部屋は信用できない。

 けれどこのままでいるのも、良いことはない。

 外の状況がわからないが、おそらくこれは誘拐だ。

 『スグサ・ロッドが誘拐された』なんて。

 スグサさんを知る人が聞いたら、全くの嘘と笑うか、世界規模の大事件だと慌てるかだろうか。

 騒ぎになるぐらいなら笑って欲しいところだ。

 私の現状は全く笑えないのだが。

 魔法が使えない。

 魔力を練っただけで痛みが走るならば、発動するのも難しい。

 魔力を流す必要がある武器もだめそう。

 ウーとロロは……痛い思いはさせたくない。

 ……手詰まりかなあ。

 

 

「どうしましょう」

 

 ―― そうだなあ。『記憶(私様)』なら首の痛みも感じない可能性はあるが、意識が飛ぶともう動けないしなあ。

 

 

 意識が飛んでしまえばいつ目覚めるやら。

 その間に魔法を使ったことがバレてしまえば、さらに拘束されてしまう可能性だってある。

 体の自由がある今しか、チャンスはないと思った方がいい。

 そこまでは分かっていても、ではどうするかという案がない。

 腕を組み、ウロウロと歩く。

 部屋のものに触れないように。

 そして気付いた。

 

 

「……開いてる……」

 

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