【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第7話

 開いてる。

 ……え、開いてる。

 仕切られているはずの奥の景色が見える。

 扉の向こう側。

 

 え、なんで?

 イレンさんは閉めて行ったよね?

 ドジった?

 やっぱ鍵かけ忘れただけ?

 ……それとも、わざと?

 

 目の前の状況が理解できない。

 信じられない。

 疑念を持ちながら、奥行きのある景色をまじまじと見つめる。

 間違っても近づかない。

 近づいてはいけない。

 

 

「……あ」

 

 

 扉の枠組みの外側から、金色の鱗粉を巻き散らす、儚げなそれが入ってきた。

 この部屋のどこかにいたら見つけにくそうな、真っ白な胴体。

 ある意味、この部屋の主なんじゃないかと思ってしまう。

 掌程度のバラファイは、私の目の前で飛び続ける。

 

 

 ―― 弟子。交代だ。

 

「え?」

 

 ―― こいつに用がある。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 首の違和感がほとんどない。

 ついつい忘れて魔法を使ってしまいそうだ。

 魔法ありきの生活しかしていなかった私様にとっては随分と窮屈にされたものだ。

 

 

「……で? ここまで追ってきたのか?」

 

 

 舞い続けるバラファイが、上から下へ急降下。

 そしてまた、左右へ揺れながら宙へ浮く。

 頷いて、笑っているかのように。

 随分上機嫌だ。

 

 

「外に見張りは?」

 

 

 斜め横移動。

 

 

「この建物の構造は知っているか?」

 

 

 自由落下。

 

 

「家に行く。ついてくるか?」

 

 

 自由落下。

 

 

 ふむ。

 じゃあ、やることは決まったな。

 まずは首の奴をどうにかするか。

 装着対象の魔力に反応するタイプの拘束具。

 チョーカー、まあ、首輪型。

 見た目は華奢というか貧弱なのに、引っ張って外せるほどヤワなものではない。

 これを外す方法は一つ。

 他人からの魔力を一定量流すこと。

 ちなみに囚人たちはみんなこの魔道具を付けているから、囚人同士で魔力を流そうとすると片方が激痛を受ける。

 それも一定量必要だから、一瞬だけ我慢すればいいものではない。

 

 

「頼んだ」

 

 

 頭を上げて、首を晒す。

 一直線に首に向かってきて、止まる。

 数秒の後、意識してやっとだった首の違和感がすっと消えた。

 取れた。

 

 

「さんきゅ」

 

 

 頭の周りをまわる。

 うっとうしっ。

 

 

「よーし、じゃあ出る……の前に。ちょっと見張ってろよ」

 

 

 髪の毛を一本抜く。

 思う存分、何の遠慮もなしに魔力を練る。

 

 

   ≪身削がれ≫

 

 

 はらりと落ちる髪の毛を媒体に光が集結する。

 形を作り、見下していたものが目線の高さまで持ち上がってくる。

 光が消え、姿を現す。

 爽やかな青い髪。

 薄い金色の目。

 やる気のなさそうな顔。

 

 

「上出来」

 

 

 生前の姿の、スグサ・ロッド様。

 

 

「ソファーに座れ。背を向けて寝てろ」

 

 

 命じればさすが私様。

 不機嫌そうな顔を向け、言われたとおりに行動する。

 その一部始終を確認した。本

 物の本人も動くとしよう。

 さて。

 ここから私様はこの建物の中を物色するわけだが。

 さすがにこの姿で出歩くわけにはいかない。

 見つかったら厄介なことになるのは当然。

 

 

   ≪目移らせ≫

 

 

 他者からの視線を私様から逸らさせるオリジナル魔法。

 見た目は特に変化はないが、一瞬ぼんやりと光る。

 すぐに消えて、何ごともなかったようになる。

 準備は完了。

 部屋と通路の境を跨ぐ。

 うん。問題なし。

 首の魔道具への信頼は絶大だな。

 

 

「扉の閉め方は?」

 

 

 続けて出てきたバラファイが乗る。

 開け方を知っていたなら閉め方も知っているだろうと思って聞いてみたら、扉の横に留まる。

 自動的に閉じられていく扉。

 もう一人の自分の背を視界に入れながら、部屋を見納めた。

 

 よし。じゃあ行くか。

 声は隠れないから、ここから先は無言。

 バラファイは天井付近を優雅に舞う。

 案内をしているのか、私様よりも前に飛ぶ。

 さすがというかなんというか。

 私様の移動速度に合わせて、わざわざ頭をあげなくても視界に入る位置を寸分の狂いなく飛んでいる。

 いや怖いわ。

 数人とすれ違うも触れなければ、声を出さなければバレない。

 あえて通路が広い所を選んでいるのかもしれないが、そんなギリギリの位置を移動することなく、とある扉の前に来る。

 部屋の立て札は『教祖』。

 いない人間、百億歩引いても死んでいる人間の部屋を作っているとは、なんというか、痛いな。

 ≪透視≫で中に誰もいないことを確認。

 周囲にも人の気配はない。

 さっと入る。

 中は暗い。

 日も入っていないのか。

 というか窓らしきものもないのか。

 暗いだけでは≪透視≫の魔法は効果がないので、目が慣れるのを待つ。

 唯一の発光体であるバラファイは、部屋の中を縦横無尽、自由に飛び回る。

 

 

「お前、ずっとそのままでいるの?」

 

 

 おもむろに話しかける。

 相手はそいつしかいないが、気にせずに飛び回る。

 無視かよ。

 まあいいけど。

 ……よし。慣れてきた。

 弟子の通う学校の教室ぐらい……いや、もう少し広そうな部屋。

 扉を背にして正面に机。

 両サイドの壁全面に本棚。

 一体だれが読んでんだ。

 適当に全体を眺める。

 片方はスグサ・ロッドについての本ばかり。

 え、こんなに出てんの。

 こわ。

 ……ちょっとこっちはいいや。

 反対側の本棚は……。

 

 

「……研究ね」

 

 

 こちらも私様の関連。

 しかし比較的真面目な内容だ。

 なんたって著者は私様だからな。

 ざっと目を通した感じ、全て私様が書いた研究資料だ。

 よく書いたなと思うが、よくここまで集めたもんだ。

 私様に関する本よりも多い。

 内容はすべて把握しているのでわざわざ手に取って確認するまでもない。

 となると、この棚にも用はなさそう。

 机の方に向き直る。

 と。

 バラファイは机とセットの椅子の背もたれに留まっている。

 そしてその明るい体に照らされて、背後の重厚そうな扉が浮き出ていた。

 なんだこれ、と問うても答えてくれるような親切な奴はいない。

 気になってしまったら見て見ぬふりでいることも性分的に無理。

 となれば、やることは一つ。

 

 行くか。

 扉の前に立つ。

 鍵らしい鍵は……ない。

 触ってみたいが、触っても何があるかわからん。

 となると。

 ここでやるのは触れずに調べること。

 目を閉じて、魔力を練る。

 

 

   ≪星々は夜の(とばり)を貫いて≫

 

 

 瞼の裏に浮き出る、魔力の流れ。

 目を閉じている間だけ発動する、魔力を宿すものを探すことにたけた魔法。

 魔力の通っていない者に関しては全く見えず、ただただ魔力があるものが星のように輝いて位置を知らせてくれる。

 壁沿いの本棚と机・椅子のセットを除けばほとんど何もない部屋だ。

 この魔法を発動していても移動は容易い。

 まず一番輝くの強いのは目の前の扉。

 その周囲には星はない。

 半回転して、部屋の全体を見る。

 手前にいるバラファイは目を開けても閉じていても光ってる。

 まあこいつはいいだろう。

 この部屋であと光っているのは、二か所。

 左右の本棚の一番下と一番上だ。

 上の方に行くよう指さし、手前の光が移動するのを確認。

 私様はおおよその位置を確認し、眼を開けて移動。

 そしてまた発動し、光を確認。繰り返すこと数回。

 もうすでに魔力を宿すものに掴まっていたバラファイを見て、私様も魔力を流す。

 

 ……。

 あ、開いてた。

 音がしないと思ったが、見れば開いてた。

 音が出ないのは有難いことだ。

 魔力を流すのをやめても消えないようだ。

 今のうちに行って、さっさと調べてしまおう。

 肩に乗ってきたバラファイとともに、開けられた扉の奥に進む。

 下り階段は石でできていて、なんとなく涼しいというか、寒い。

 幸いにしてろうそくが灯されていたから、足元への心配はない。

 下って、歩いて、下って、着いた。

 扉もなく突然ついた広間は、ただ広いだけの広間に見えた。

 私様とこの部屋の関係者でなければ。

 

 

「随分とまあ。大掛かりな魔法陣だ」

 

 

 石畳の中央。

 それも床のほぼ一面を使った魔法陣。

 壁のそこかしこにも多数の魔法陣が書かれていて、まあ並大抵の魔法ではないことが一目でわかる。

 さて、なんだろうな。

 まずは大きい魔法陣。

 

 『召喚』『生贄』『依り代』『世界』『支配』『魂』『探索』『特定』

 

 

「はーーーーー?」

 

 

 はいはいはい。

 あ、もういいや。

 うん。

 次。小さい魔法陣。

 あ、これはただの結界やら魔法の威力を増幅させるものか。

 んじゃあこれもいいや。

 こんなもの消してしまいたい。

 だが、ここに誰かが入った痕跡は残すべきではない。

 こんなところに入ってこれる奴、ほぼ一握りの人間だろう。

 そもそもここは宗教国家だ。

 大事そうに隠された場所の大事そうな魔法陣を消すなんてこと、する奴なんていないだろう。

 もし消すとしたら、宗教に入っていない奴。客人。それこそ私様とか。

 犯人候補として列挙されたくない。

 ならば消すべきではない。

 私様がこの建物に連れて来られた以上、近々この魔法陣を使われる可能性がある。

 人が来る可能性がある。

 うん。

 やっぱ消すのはなしだな。

 悔しいが。

 

 階段を上がって、歩いて、上って、扉。

 入ってきたはずの扉は閉められている。

 部屋の中を探ったように扉の周りの魔力を探ると、扉の両サイドに装置らしきものがある。

 ≪透視≫で扉の向こう側に誰もいないことを確認して、両手で装置に触れて、部屋に戻ってきた。

 中は変わらず誰もいない。

 この部屋に変わったものはもうなさそう。

 案内役もそう考えたのか、扉の方にひらひらと飛んで行く。

 部屋の外を≪透視≫して、人通りがなくなった時に外に出る。

 出た瞬間に一直線に飛んで行く案内役を追って着いた場所は、何度か階段を下りた先。

 地上なのか地下なのかもわからない程深く来た気もする。

 通路に窓もなければ覗き見た部屋の中にも窓らしきもの、または外の光らしきものは見えなかった。

 だからここはもう地下なのかもしれない。

 コイツこんなところまで来てたのか。

 内心感心しながら着いた先は、突き当りの部屋。

 薄い灰色がかったような色の壁。

 ツンとした薬品らしき匂い。

 世話しなく出入りする、宗教服の上に白衣を着た人間たち。

 

 

 ―― ここは……。

 

 

 研究室だろう。

 弟子にとっては少しトラウマもんかもな。

 苦も無く部屋の中へ進んでいった案内役に置いて行かれぬよう、人の流れに合わせて中に入る。

 この中に入る意味が分からないんだがな。

 何か見せたいもんでもあるのか?

 中は似たような奴らがそれぞれの役割を持って活動している。

 詳細はよくわからない。

 近くまで行って見れないのと、薬品の匂いで鼻がひん曲がりそう。

 顔が歪んでいると気付いても直せないくらいにはくせえ。

 さっきから研究員たちの会話の中で聞こえる単語の中には、魔物の名前が入っていることがわかる。

 もしかしたら、王子サマが言っていた異常繁殖と過成長に関係があるのか?

 

 

「おい。あれは処分したのか」

「はい。依頼は済んでおります」

「そうか。この後業者が来たら確認するように」

「はいっ」

 

 

 業者に処分か。

 どこかに出入り口があるのか?

 自由気ままな案内役を追い、研究員で溢れそうなその白い空間から離れた。

 

 

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