【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第10話

「ウアァァァァァアアアア!!!」

 

「えっ、えっ、なに!?」

「お前、何かしたか?」

「い、言われたことしかやってないわよ!」

 

 

 突然叫びをあげた『ルタ』はより表情を歪め、苦痛に身を捩る。

 ただ事ではないなんて言わずもがな。

 

 

「とりあえず、戻すわよ!」

 

 

 一度反射的に引っ込めてしまった手を再度翳し、おそらくは抜いた魂をまた入れた。

 そして『ルタ』はさっきまでの様子と同じ程度にまで落ち着いた。

 苦しい表情なのは変わりないが、捩るほどではない程度。

 根本的な解決ではない。

 伸ばした手は私様の方に回る。

 

 

「何なの……? 多すぎて苦しいんじゃないの?」

「この様子なら逆なんだろうな」

「逆? 少なすぎるってこと?」

「そうだ。そもそもコイツは混ざりモノ。混ぜられているのはキャストだとしても、一体とは限らない」

 

 

 複数体のキャストをその体に込められたとして、三十ある魂で苦しむのなら。

 少なくとも四体のキャストは混ぜられた。

 三十六個の魂から六個ひかれただけでこんなに苦しむとは考えにくいから、おそらくは五体以上だろう。

 つまり、魂は抜かず、入れるが正解。

 

 

「じゃあ、入れてくれ」

「コイツのためにそこまでするの?」

「コイツじゃねえ。弟子のためだ」

 

 ―― 私……?

 

 

 私様にしか聞こえない声が響く。

 それに答えるように、シクに話す。

 

 

「弟子が救おうとした奴だ。気に入らない奴らにいいようにされて、みすみす見殺しにされるのは癪に障る」

 

 

 これは本心。

 個人的に『ルタ』に何か思い入れはないが、弟子に思い入れがある。

 弟子はもはや私様の半身だ。

 私様のことといっても過言ではないぐらい。

 そもそもあいつらの研究が、気に食わない。

 

 

「お前も、コイツの状況を知ったのなら、思うところはあるんじゃないのか?」

 

 

 そういって、黙って抱えられたままのシクを見つめる。

 射殺して来そうな鋭い目を向けてくる。

 こいつのこういう表情は私様に向けられることはほとんどない。

 新鮮さがありつつ、よくないことを言ったと思う。

 

 

「……同じ混ざりモノだとしても。コイツ、男でしょ」

「だろうな」

「なら同情の余地はないわ。でも、スグサがどうしてもっていうなら協力してあげる」

「頼む」

「……もうっ! 「どうしても」って言ってよ!」

 

 

 肩に乗せられていた手が、天を向く。

 くるくると回る。

 拳を握り、『ルタ』目掛けて振り下ろされた。

 まあ、なんも見えてないけど。

 なにかやったのだろう。

 シクはまた肩に手を乗せ、息を吐く。

 『ルタ』は寄せられていた眉根を解き、呼吸が深く、見るからに落ち着いた。

 

 

「入れたのか?」

「ええ」

「何個ぐらい?」

「具体的にはわからないけど、五十は入れたわよ」

 

 

 そんな数の魂をどこから持ってきたのかは、私様たちにはわからない。

 そこら辺に浮遊してるようなもんなのかね。

 そしてこの時点で、『ルタ』は少なくとも九体は混ぜられた、ということになる。

 他の生物も混ざっているのかもしれないが、それらしき特徴は今のところない。

 どんな研究をしているのか知らんが、人間一人に対して単一種族を混ぜる、とかか?

 

 

「見た目は落ち着いたし、しばらく寝かせておくか」

「お茶しましょ! スグサと話がしたいわ!」

「ぼくもー!」

「ぼくもー!」

「あんたたちは後!! ()が先!!」

「耳元で騒ぐな。落とすぞ」

「やめて!! スグサのけち!!」

 

 

 けちって。

 降りる気配を一向に見せないこいつを落としたい気持ちと、足に抱き着いてくる子ども二人に囲まれる。

 動きたいのに動けないこの状況よ。

 

 

 ―― 人気者なんですね。

 

 

 ただの保護者だ。

 ウーもロロも、シクも。

 ただ成り行きで保護しただけ。

 

 

「ほら、下行くぞ。お前も歩け」

「いーやっ。このまま連れてって」

「はあー?」

「ぼくもー!」

「ぼくもー!」

「あんたたちは歩きなさい!」

「お前が言うな」

 

 

 何なんだこれは。

 仕方なしにシクを抱えて、ウーとロロは引き摺って部屋を出る。

 宙に浮くことをやめたシクは普通に重いが、言ったら殴られるだろう。

 騒がれるのも面倒だし、心の内に秘めておく。

 今度こそ食堂で、それぞれで座る。

 お茶なんてものはさすがになかったから、テーブルの上には何もない。

 ふてくされている奴が約一名いるが、ないものはしょうがない。

 七十年来の茶でも飲んでみるかと聞いたら、「ばかっ」と言われた。

 私様をばかというのはこいつぐらいだ。

 

 

「ごはん?」

「おはなし?」

「話だ。遊んできてもいいぞ」

「んっとねー」

「ここにいるー」

 

 

 交互に喋るのは同一体だからだろうか。

 双子、とはまた違う気もするが、似たようなものか。

 ばさり、と目の前に紙が広げられた。

 

 

「これは?」

「あの研究所にあった資料よ。スグサの所に行く前に集めておいたの」

「ほう。でかした」

「じゃああとで一緒にお散歩しましょうね!」

「ぼくも!」

「ぼくも!」

「あんたたちはダメ! デートなんだから!」

 

 

 ぎゃーぎゃー言っているのを他所に、資料に目を通す。

 内容は、あの研究所で何が行われていたのか。

 シクはこの紙を読んだうえで持ってきたのだろうが。

 

 

「……胸糞悪いな」

 

 

 言い合っている時とは違う、据わった目をしたシクがこちらを見る。

 見つめ返している私様も同じような目をしているだろう。

 

 

「変わらないのね。人間って」

「そうだな」

 

 

 残念なことだ。

 紙に一際大きく書かれた、研究命題。

 

『不老不死についての研究。人間と魔獣を掛け合わせることによって得られる不老、および不死について』

 

 レルギオの奴らはフローレンタムの研究員と同じ研究をしている。

 これは偶然か?

 確かに、治癒魔法がなく治療技術が百年ほど前からほとんど変わっていない今、『老化』というものがなくなればそれに伴う『劣化』がなくなる可能性は大いにある。

 もちろんだが、『老化』しないからといって病気にならないわけではなく、怪我をしないわけでもない。

 ここでは少なくとも『死ななければいい』という考えだろうか。

 

 

「……拾ったアイツが本当に『ルタ』って奴なら、国同士が繋がっているとみていいだろう」

「協力関係……しかも国、王族が関わっているのね」

「だな。となると、弟子が私様の体に召喚されたってことは、レルギオも知っているだろう」

 

 

 そして、『不老不死』の研究に『召喚・転生魔法』も関係している。

 

 

「『不老不死』の研究に人間と魔獣の合成。療養院にベローズが来たのはこの研究の繋がりか」

「スグサのことは、たとえ死んでも生き返ればイイ、って感じかしら?」

「そうだろうな。もしくは誰かを蘇らせたいとか」

 

 

 レルギオ、フローレンタムで蘇らせたがっている人間。

 双方同一人物、もしくはそれぞれか。

 思い当たる節は……ある。

 

 

「まさか、あの時持ち掛けられた話がこんな長引いてるとはなあ」

「どれくらい?」

「………………ざっと百年ぐらいか」

「なっが! それもう提案者死んでるでしょ!」

「死んでるだろうな。もしかしたらそいつを蘇らせたいのかもしれねえなあ」

「……ばかみたい」

 

 

 そう言ってやるな。

 研究者は一生懸命なんだから。

 私様は不老不死に興味はなかった。

 だが他のことに興味があったから、結果的に『不老』であることを求めた。

 そういうところだけ見れば、私様とこいつらはいい意見交換ができたかもしれない。

 黙々と、今となってはもう遅いことを考える。

 反省は必要だが思い出に浸るのは違う。

 浸ったところで何もならん。

 

 研究資料にざっと目を通し、鼻で笑った。

 拾った奴は研究結果ということで結論付けていいだろう。

 負傷兵として働き手としては不十分だったお荷物(ルタ)を、自国(フローレンタム)ではバレてしまうかもしれないから、他国(レルギオ)へ引き渡し実験に使用した。と予想。

 一人暮らしだったようだし、城に出入りしていたからチャンスはいくらでもあっただろう。

 

 

「よし。じゃあ次」

 

 

 資料は≪虚空≫に投げ入れる。

 あとでまたじっくり読んでやることとしよう。

 

 次は中庭に来た。

 荒れ果てて、草木が生い茂ってまあ自然豊かなこと。

 ≪在りし日≫は無生物にしか聞かないから、植物は戻ったりはしない。

 まあだが今はこれでいい。

 土に手を当てて水の気配を探る。

 ……大分深いが、あった。

 おおよその距離を測る。

 指を鳴らす。

 

 

「ああ、狭いが涼しくていいな」

 

 

 療養院ほどの広さはないが、ちょろちょろと水が流れている。

 水質はよかった、はず。

 試しに一匹放してみるか。

 ず、っと手を伸ばす。

 最小限の≪虚空≫からずるりと出てきた、アホ面のホローテ。

 療養院から連れてきた奴らのうちの一匹だ。

 ずっとこの中で飼っていたのだが、ようやくお役御免となるか、ならないか。

 そろそろ水を流し続けるのも面倒くさいんだが。

 地面に下ろす。

 この顔でも今までいたところと違うというのはわかっているのか、きょろきょろと首を動かしながら辺りを見回している。

 四つ足で踏ん張って、首を伸ばしたり縮ませたり。

 流れている水を見つめ、ゆっくりと歩き出した。

 何をするかと思えば、流れる水面を見つめ、見つめて、見つめ続けて。

 ちゃぷ……っと。

 顔面付けた。

 黙って。

 静かに。

 

 

「ぶっ!!」

 

 

 ホローテの顔にホローテの顔がめり込んでいくのをスローで見ているだけだったのだが。

 いやなんか……ゆっくりすぎて面白った。

 ちなみに顔付けたまま動かない。

 余程良いのか。

 

 

「よーし、全員でてけー」

 

 

 ぞろぞろ、のろのろ。

 ホローテの行列を眺めるだけの平和な時間。

 こいつら歩くの遅い。

 けど環境が違ったのだから、自分のペースで出て行ってもらおうという粋な計らいだ。

 まさか≪虚空≫の中が気に入ったという奴はいなかった。

 

 

「こいつらが全員出たら、次はお前の番な」

 

 ―― え、私ですか?

 

「ここにはお前しかいないだろ」

 

 

 シクたちは地上で留守番中だし。

 

 

「『ルタ』が起きてたら先にそっちに行くが、そうでなければ弟子の番」

 

 ―― 私の番って何をするんですか?

 

「ん? あー……えー……」

 

 ―― 珍しく歯切れ悪いですね。

 

 

 なんて言えばいいんだ?

 実験、というには結果がわかっているし。

 そもそも弟子にその単語は言っちゃいけない気がする。

 

 

「……そうだな。そのままでいいか」

 

 ―― はい?

 

「そろそろ、それぞれの体が欲しいだろ」

 

 ―― ……え?

 

「今はこうして一つの体を使ってるけどな。私様は私様の。弟子には弟子の体をくれてやろうって話だ」

 

 ―― ……え?

 

 

 わからないか?

 まあいいが。

 混乱する弟子を横に、保護したホローテたちが全員水に顔を付けているのを確認して、また噴き出した。

 うん、いいよ。

 お前らはそれで。

 指をパチン、と一つ鳴らし、地上に帰還。

 追いかけっこでもしてたのか、はしゃいでいるように見える三人に声をかけ、家の中に戻った。

 戻った先は、一階の、表向きの研究室。の、もっと奥。

 私様の内緒の研究室。

 

 

 ―― ……これ……。

 

 

 唖然としているような声が聞こえる。

 それもそうだろう。

 言ってしまえば、自分の顔をしたヒトガタの何かが、目の前の瓶の中にいるのだから。

 

 

「これは私様の、いくつかあるうちの体の一つだ」

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