【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第11話

 今あるこの体と全く同じ個体。

 コポコポと水の中で空気が発生する音がする中に眠るそれは、生きているのかどうなのかはわからない。

 ただ目に見えるそれは、レルギオで私様が≪身削がれ≫で作ったそれと全く同じ。

 青い髪。

 閉じられた瞼の中の瞳は金色だ。

 つまり、生前の私様。

 違和感を感じるだろうが、私様はそっちが正しい。

 今の緑の髪と赤い目の方が本当ならおかしいんだ。

 まあ、これはいいように実験に使われた結果なのだろうけど。

 

 

「今から私様と弟子を二人に分ける。本当の双子のようなものになる。髪色とかは違うままでいこう。見分けがつくようにな」

 

 ―― ……あの。目の前のスグサさんの体は、本物、なんですか?

 

「……そうだなあ。人間という定義による」

 

 

 少し面倒くさい話になるが、不信なまま実行するよりかは説明すべきだろう。

 となると、私様の研究やこの体(・・・)についての話をするか。

 

 ……え、面倒だな。

 

 

「長い話になるが、説明してやろう。シク」

「はぁい」

「お前、この鍵を王子サマに届けてくれ」

「えぇ!? なんで()が!?」

「説明している間、お前暇だろ。お前にしか頼めねぇし」

「あ……いや……う、ううぅぅぅぅ……!!」

 

 

 家に来る時に使った鍵の複製を差し出す。

 私様の頼みは断れない。

 それがシクの性。

 思い出してからは有効に使って行こうと思う。

 といっても、こういう時ぐらいしか頼まないだろうが。

 

 

「私様は弟子に話をするし、『ルタ』が目覚め次第様子を見たい。ウーとロロに任せるわけにもいかない。お前ならこっそり王子サマに近づけるだろ」

 

 

 文句というか、何か言いたいのだろう。

 口をパクパクと動かし、しかし音はない。

 言っていることは理解できるが、という葛藤が伝わってくる。

 おずおずと鍵の下に手が差し出された。

 微かに震える手に乗せ、少しの間だけ、重ねる。

 

 

「っ!」

「ありがとな」

「……っぅ」

 

 

 私様を射抜く目は、涙で濡れていた。

 いっぱいに貯めた水分を零さないように、見せないように勢いよく背中を向ける。

 そして黙ったまま、鱗粉を巻き散らすバラファイとなって、飛んで行った。

 

 

 ―― ……なんで、泣いてたんでしょうか。

 

「……生きてる頃、私様はほとんどこういう頼みをしてこなかったからなあ。あいつは「なんでも言って」と言っていたが」

 

 ―― 何でもできてしまうスグサさんらしいとは思いますが……。

 

 

 こちらも納得は言っていないようだが、言葉を詰まらせる。

 まあ、アイツにも思うところはあるんだろう。

 すべてを言わなくても、長年一緒にいた相手だし、私様の考えは察しが付くところがあるのだろう、と思う。

 私様はもうすでに死んでいる。

 ただそれだけの事。

 しかし、それが全て。

 

 

「あいつが返ってくる頃には話し終えたいな」

 

 

 目の前の自分の体を肴に、というのは経験がないが、今回ばかりはしょうがない。

 あった方が話をしやすいということでもないが、移動したところで何があるわけでもないので。

 そこら辺にある、手頃な高さの台に腰掛ける。

 さて、どう話だそうか。

 

 

「まずはそうだな。私様がしていた研究についてか」

 

 ―― そういえば、聞いてもはぐらかされていましたね。

 

「そうだな。結果の出ていない研究については口外しない主義なんだ」

 

 

 それはつまり、なしえなかった研究ということ。

 天才と自称し豪語する私様でもできなかった研究だ。

 今までの私様は、魔法に関わることなら何でもできていた。

 しかし、治癒魔法についてだけは、できなかった。

 

 

「あんまり公言していなかったんだが、私様は晩年まで治癒魔法について研究していてな。結果は……残っていないことから察してもらいたいが、確立には至らなかった」

 

 

 相槌はない。

 聞いていないわけではないだろう。

 弟子はきっと、私様の切りのいいところまで黙って聞いているつもりだろう。

 それならそれでいい。

 

 

「この世界では魔法に頼りすぎている。だから魔法でできないこと、それは諦めるべき、なんだったら神が定めた運命だとか抜かしている奴がいた」

 

 

 魔法に頼ることは悪ではないだろう。

 私様だって思う存分魔法を使っているし。

 それでも、魔法でダメならほかの手段を考えるべきだと思っての研究。

 治癒魔法について研究していたのは、それ自体がないならなぜダメなのかを知りたかったからだ。

 

 

「治癒魔法を確立するといっても、どういう構成で、実際に治癒しているかを確かめなければならない。そもそも何をどう治癒させるのかも知らなければならない。そうなると、研究する私様の他に、実験体となる人間が必要だった」

 

 ―― 実験体……。

 

「そこで目を付けたのが、鏡だ」

 

 

 鏡に映る、私様。

 

 

「実験体なんてもの、喜んでなる奴はほとんどいないだろう。というか、喜んでなる奴を信用しないし、信用するつもりのない奴に、私の研究に関わってほしくはなかった。となったら、私様自身の身体というのは本当に都合がよかったわけだ」

 

 

 この世界では、死者は火葬、水葬、土葬とされている。

 墓荒らしなんてマネをするつもりもなければ、灰から再現するつもりもない。

 流される場所とタイミング、流されたおおよその先を計算して体を拾うなんてこと、良識というものを持っていればしようとも思わないだろう。

 私様も、一応は良識を持っていたということだな。

 指先で、宙に円を描く。

 魔力でなぞったから縁が残り、その内側に掌を向ける。

 

 

「≪絵日記上映会≫」

 

 

 魔力を追加することで、掌サイズだった円はひと一人以上の大きさを持つ。

 そして映し出される映像。それは、『記憶(私様)』から抽出されたもの。

 体のことを含め、伝えることがある。

 ここから先は、私様視点の映像を見ながらとしよう。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「まずは魔法を作るところからか」

 

 

 私様自身を複製するとはいえ、私様の知らない部分を作るのは難しい。

 そういう設定を含んだ魔法を作らなければならない。

 犯罪的な内容ではあるから世には出せない。

 というか出すつもりはないからいいのだが、同時にばれないようにもしなければ。

 今の家からはさようならをするか。

 人目に付きすぎる。

 そもそも街中の家は外が騒がしくて集中できない。

 もっと広くて、人がいなくて静かなところがいいな。

 適当に場所を探すか。

 

 

「≪透視≫」

 

 

 自分の体を見る。

 透けた体は血液や神経、筋肉、リンパ、内臓、骨など。

 色々と見える。意識を向ければより細かく。

 ただ知識が浅いから、成分までは作ることはできない。

 だから入れ物を作って、本体(私様)から必要な成分を移植することにするのが一番速そうだ。

 となればまずは入れ物……人形を作るとしよう。

 姿見の目の前に立つ。

 表面しか映っていない私様。

 私様を作るためには、背面も側面も必要。

 つまり、足りない。

 

 

「≪贋物だと知るのは贋物のみ≫」

 

 

 鏡に向けた魔法で、一つだったものを八つに増やした。

 私様を中心に鏡を置き、服を脱いだ。

 正面も斜めも横も後ろも、全てを映す。

 そして、一つの魔法。

 今回は丁寧に。

 

 

「オリジナル ≪創造神の見様見真似≫」

 

 

 鏡の情報を集め、私様の目の前に私様の外見をしたモノを作り出す。

 多量の光の粒子が、外見を作り、色を付け、見た目は私様そっくりの、私様の人形。

 もちろんのことだが、動きはしない。

 目を開けていたから目が開いたままの姿だが、瞬きもなければ呼吸もしていない。

 

 

「ふむ。≪透視≫」

 

 

 中身は……空洞。

 表面のみの上方ではそうなるか。

 では次。

 

 

  オリジナル ≪創造神の見様見真似≫

 

 

 鏡に合わせて私様にも魔法をかける。

 ≪透視≫で見ている私様の視覚情報も併せて、私様を複製。

 そうしてできたものは私様が見ていた中身を宿していた。

 しかし私様が見えていたのは体の一部分。

 すべては把握できていない。

 

 

「これは時間がかかるな……」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「てな感じで作っていったんだが、だいたい一年はかかったか」

 

 ―― いや、一年でできるんですね。

 

「よくある、『目に映るものすべてが真実ではない』ってやつだな。私様が見えていないものも多くあった。それに気づくのに時間がかかったし、私様本体から移植する必要があるものって言うのも、全部を映すのには時間がかかったからな」

 

 ―― それなんですけど、ただ少し移しただけでは意味がないと思うのですが、それはどうしたんですか? 複製したスグサさんの体は、人間としての機能は持っていないんですよね?

 

「いい着眼点だ。続きを見るぞ」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「……ぃよし。できた!」

 

 

 丸一年はかかったなぁ。

 人間という複雑なものの複製を作るのはなかなかにしんどいな。

 サンプルが多ければまた違うのかもしれないが、何分私様のみ。

 比較や情報が少ないのをいいとするか悪いとするか。

 血液なんかは心臓のポンプがないと流れなかった。

 それは心筋に身体強化(サーズ)をかけて連続運動を学習させた。

 ホルモンや分泌物は、各臓器に光属性と闇属性の魔法をかけ、光の特性(反射)闇の特性(吸収)による永続と量産、消費を可能にした。

 魔法名は……≪外気で作る砂時計≫とかか。

 他に使う奴いないだろうけど。

 とにもかくにも。

 一つでも私様の完璧な複製ができたのだ。

 これを≪創造神≫で複製し続ければ、人間の体のサンプルに事欠くことはない。

 人形を作っている作業の合間にいい土地も見つけた。

 森の奥の開けた土地。貴族の家を見て参考に、≪創造神≫で家を作る。

 家具なんかは適当に見繕った。

 広い土地に、研究所も兼ねた広い家。

 周囲は森。

 生物も穏やかな奴しかいないようだ。

 大分深い所だから、人はここまで入ってくることはないだろう。

 家も研究も一区切りついたところだし、茶でも飲むか。

 

 

「……あいつらの研究はどうなったんだかな」

 

 

 前の家に住んでいた時、ベローズだとかいう研究者が訪ねてきた。

 そいつは『英雄の力の再現』と称し、『治癒魔法』ではなく『不老不死』や『転生魔法』を研究をしたいそうだった。

 そうすることで、人類と魔法はより進化し、繁栄する。と。

 まあその考えは一理あるとは思う。

 思うが、それだけだ。

 あいつの研究資料には、『不老』と言われるホローテや、『魂を知覚し、操作する』というバラファイ、『魂を複数宿し、補充する』というキャスト、そして『再生』の力を持つウロロスやライーバを実験に使用し、将来的には人間で試すという。

 同じ研究者としては、可能性のある手段を模索、そのために実験するということに拒否感はない。

 

 

「利己的過ぎるんだよなあ」

 

 

 これは果たして、何のための研究なのか。

 強い人種を残して何がしたいのか。目的は何なのかが正直わからなかった。

 書類には『人間の進化のため』と書いてあったが、抽象的過ぎるし、裏があるとしか思わない。

 

 

「私様のこの結果は、こいつらの野望を叶えたも同然だろうなあ」

 

 

 器は私様そのもの。

 魂さえ移動させられれば、私様は私様として生き続けるだろう。

 それも、あの研究のように。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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