【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
第1話
混ざりモノ一人と、死んだ人間と、召喚された魂を宿した人型がいる部屋で、話をするならば部屋を移そうと扉を開ける。
眠ったままの一人を残し、私たちは食堂にきた。
家の主であるスグサさんは誕生日席に。
私は直角に位置する椅子を選んだ。
「体の違和感はないか?」
「ありません」
「ならよし。魔法使った時に違和感があれば言えよ」
スグサさんがいない状況であれば、魔法が使えなくなったりもしてしまうのだろうか。
それは嫌だなあ。
そういえばスグサさん。髪を結んでいる。
髪の合間にビー玉のような透けている球を絡ませている。
気になって見ていれば、魔力を感じるし、中の模様に見えていたそれはゆらゆらと動いている。
水面が揺れているような、風で揺らいでいるような。
スグサさんは私の視線に気づいているのかそうでないのか。
懐から巾着を取り出し、中身をテーブルにぶちまけた。
テーブルに乗り切らない量の石が、片手サイズの巾着から出てくる。
何個か落ちたし。
容量がバグってる。
「雑ですね」
「ほっとけ」
なんてことはない会話だけど、なんとなく嬉しい。
こうして正面で話せるなんて、予想していなかった。
「シクが帰ってくるまで手伝え」
「これ、魔石ですか?」
「家中のやつを集めてきた。魔法入れたことあんだろ」
「ありますけど、何入れるんですか?」
「≪玩具箱≫」
なぜ、と問う前に、石を投げられた。
口ではなくて手を動かせと顔に書いてある。
そこまで反論する気もないので、両手で石を包んで、魔法を込める。
込めて込めて、早、百個。
石はまだまだたくさんある。
「疲れは?」
「平気ですか」
「問題ないならいいか」
まだやるの。と思ったのも束の間。
食堂の外に、魔力と、人の気配を感じる。
「……戻ったか」
呟いたスグサさんの言葉の通り、たぶんシクさん。
と、そのほかの人、たち。
バンッ!
勢いよく開かれた扉から、白い人が長いテーブルを文字通り飛び越えてきた。
適度に目で追える速さだったので、反射的に目が動く。
「スグサー!!!」
「ぐっ」
流れ星のようにキラキラとしていた。
たどり着いた先は、まるで年に一回しか会えない織姫と彦星のよう。
彦星の方の顔は疲れているようにも見えるけど。
熱い抱擁を交わす
「殿下?」
「……ヒスイか!」
「ヒスイちゃん!?」
「わあ、アオイさんも」
いつぶりだろうか。
殿下に会ったのは……仮面舞踏会が最後。
アオイさんはもうだいぶ前だ。
ギルドの依頼を受けていた時が最後かも。
思わず立ち上がってしまった瞬間、他にもいたようで。
「ヒスイーっ」
「お、おい! ライラちょっと待て!」
「あらあら、まあ」
「ええ……? なんで?」
泣きはらした目でどこかの白い人のように駆けてくるライラさん。
その後ろからシオンとクザ先生もいる。
さすがに他にはいないようだったが、それでも、どういう繋がりだろう。
いや、つながりは兄弟とか学校なんだけど、なんで?
「おいシク。タイミングとか考えろよ」
「だぁーって辛気臭い顔でずっと話してて、終わりそうもなかったんだもの。こっちは早くスグサの所に帰りたいっていうのに」
座っているスグサさんの上で横抱きされているようなシクさん。
ある意味二人の世界が出来上がっているが、気になる言葉ができてしまっては、世界に入り込むしかない。
「辛気臭い顔って、みんなでですか?」
「はいスグサ。これ」
「無視すんなよ」
ちょっと辛い。
まったく気にしていないシクさんはスグサさんに、石を渡す。
「……お前、これ」
「スグサが持ってた方が安心でしょ?」
やっぱり二人の世界になって、口を挟めなくなってしまった。
スグサさんが持っているものが何かはわからないけれど、たぶん、とても大事なモノなんだろう。
驚く私たちを他所に、髪の毛と石を片手に持ち、唱えた。
「≪世界終末日≫」
何の魔法かはわからないけど、とりあえず何かすごそう。
髪の毛一本とか二本とかでなく、もう束だった。
人生何回分の魔力だったんだろうか。
それを全部使って使われた魔法。
周りを見るに、みんなキョトンとしている。
髪の毛のことも知らないかもしれないから、なぜか髪の毛を切って魔法を使った、としか思ってないかもしれない。
魔法について何も言わないということは、知らない魔法。
つまりはスグサさんのオリジナルの魔法ということかもしれない。
「さんきゅーな」
「どういたしまして」
今見ていた中で一番仲の良さそうな二人を見せつけられてから、スグサさんは思い出したように、来客に対して声をかける。
「皆さんようこそお越しくださいました。茶も何もありませんが、どうぞ座ってください。今そちらがどうなっているかお聞かせ願いますかね」
「お茶持って来たわよ」
「お城から」
「でかした」
窃盗じゃないですか?
満足げなシクさんはお茶を入れに行き、その間に何か言いたげな来客五人が席に着く。
私の横には殿下とアオイさん。正面にはシオンとライラさんとクザ先生。
身が軽くなったからか、誕生日席で前髪ぱっつんになった主催者は、身を乗り出して殿下……コウ殿下に問う。
「それで? 国はどうなっていますか」
「……ヒスイが誘拐されたという連絡が来て、ヒスイがつけていた腕輪のおかげで目的地がレルギオだとわかった。現最高権力者の兄上は、レルギオを敵と認定し、戦争を申し込もうとしていたところです」
「えぇ!?」
これに驚いたのは私。
……ではなく、向かいの席に座るライラさん。
持ち前の機敏な反応で、その場で勢いよく立ち上がった。
そして焦りを隠さないまま、コウ殿下に向かって問いかける。
「戦争!? 戦争って、戦争ですか!?」
「そうだ。学生には声はかからんだろうが、シオンとクザ先生は……心の準備を」
流れで声をかけられた二人は、もうすでに分かっていたように、表情を変えずに頷いた。
覚悟を決めているような、そんな顔。
まさか私が誘拐されたことがきっかけで、同級生と先生にそんな顔をさせることになってしまうなんて……思ってもみなかった。
「随分急な判断ですね」
「誘拐されてからもう三日です。フローレンタムの絶大な力を持つ英雄……一般的に認知されているスグサ殿が誘拐されたのですから。それに、スグサ殿はまあ、兄上に求婚されてましたからね。おのずと行動は早くなります」
「あ。あーーーーー、そっか」
「ちょっとスグサ!! どういうことなの!?
……顔面を掴まれて制止されてる。
たぶん台詞を付けるなら「黙ってろ」。
「なので、国民的英雄かつ王妃候補を誘拐、ということです」
「……その似合わねー二つ、どうにかなんねぇかなあ」
「なりませんよ。我慢してください。俺も耐えてるんですから」
「……ふーん。あっそ」
「それで……ヒスイ」
「っは、い」
隣のコウ殿下が、向きを変える。
優しく声をかけてくれていたころが懐かしいと思ってしまうほど、今の声は、固く、どこか冷たい。
今まで以上に一番苦しい顔をしている殿下は、意を決したように結ばれた口を開く。
「……お前、も」
「え……」
「……申し訳ない。本当に……」
一時、思考が止まった。
何が、とか、何を、とか。
そんなの問わずとも、何なのかなんて、わかる。
『お前も、心の準備をしてくれ』
それぐらい、わかります。
言いたくないことを言わせるつもりもない。
だから、そんなに苦しい顔をしないでください。
唇、切れてますよ。
持ち上げた頭を、無言で下ろす。
出したと思っていた声は、どうしてか音にはならなかった。
伏せまいとなんとか顔を上げるが、テーブルの縁を見るので精いっぱいのようだ。
「……一応、でしょ」
シン、と静まった部屋に、力強い声が響く。
声のする方へ重い頭を持ち上げれば、私と同じ顔をしたその人が、私の上の方を見つめている。
「ヒスイはまだ誘拐されていると思われてんですか」
「いいえ。ブレスレッドの反応が途切れた時点で脱出したと考えられています。こちらは研究員の声もあり、「スグサ・ロッドが死ぬわけがない」と」
「研究員のプライドか。今初めて役に立ったな」
「なので、まずは救出という名の捕獲作戦を練っています。ちなみに今回の不祥事が起きたアーマタスも協力体制です。不貞行為に対する粛清と、あとは戦いが好きな文化なので」
「便乗は置いといて。殺されていない安心感と、逃げられたかもしれないという焦りも含めての行動の速さってことですか」
当人が当人を置いて話をしてくれている。
何とか聞こえる音を拾って、無理やり理解する。
つまりは、戦いたくはない私はフローレンタムからも逃げなければいけない状況、ということだろうか。
けれど戦いたくないからと言って、巻き込まれている殿下たちや先生を見なかったふり、というのは……できない。
「現状はそんなところです。今度はこちらからいいですか?」
「なんですか、王子サマ」
「あなたはスグサ・ロッド、で、間違いないですか?」
ニヤニヤと何度か見たことのある意地悪な顔をしている。
コウ殿下たちからしたら私は二人いるんだな。
よく今まで普通に話してたなあ。
両足をテーブルにかけ、この国の王子様に対して無礼ともとれる態度をとり続ける。
その姿を見ても「ああ、スグサさんだなあ」としか思わなくなってしまった私はもう毒されているのだろうか。
「正解だよ。驚かなかったか?」
「驚きましたよ。髪の色が違ってたのと、ここに連れてきてくれた人のおかげで、驚きこそすれ表に出なかっただけです」
「つまらんなー」
椅子を傾けてゆらゆら。ゆらゆらと。
まるで子どものような様子に、正面三人は呆気にとられていた。
「スグサーっ! お茶入れたわよー!」
漫画にするならばあああああんって感じで、勢い任せに開いた先から、白い人が弧を描いて飛んできた。
さっきも見たよ。
飛び掛かられたスグサさんは意にも介さず受け取っている。
「おーさんきゅー」
「美味しく入れられたわ。うふっ」
「……他には?」
「え? いる?」
「さすがに王子様がいるんだから出さないとだろ……」
「えー……めんどくさー」
しぶしぶ、ふよふよと浮いて、扉の方に戻って行った。
ホントにスグサさんのだけ入れてきたんだ……。
「……それで、どうしてそうなったんですか?」
「一人で二人は不便だったし、丁度いい機会だった。ただそれだけですよ」
ズズズとお茶を啜る効果音とともに、最低限の言葉のみ。
詳しくは語らないスグサさんのスタイル。
「スグサ・ロッド……て」
「あたし知ってる。すごい人だよ」
「俺だって知っとるわ! いやだから、もう死んだはずで……」
「ヒスイってホントにスグサ・ロッド様だったんだー!」
「いや違うだろ! ……違う、のか?」
「え?」
「え?」
ああ、混乱してる。
その話もしないといけないけど、本人はしようとしないし……。
口を開けたその時、再び扉が開いた。