【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第5話

 ―――――……

 

 

 

 

「オツカレサマ」

「おー」

 

 

 あの小柄なばーさんが、まさか召喚術師だったとは。

 私様もあまり手合わせ経験はなく、柄にもなく焦ってしまった。

 覚えている術師でも、契約している魔獣はそこまで強くないやつばかり。

 戦闘というよりも、索敵や斥候のために契約しているような奴だった。

 人が乗れるほど大きく、かつ協力して戦闘している奴に会ったのは初めてだ。

 こういう経験ができるのなら、あいつらの研究にはちょっとばかし感謝してしまう。

 しねーけど。

 

 

「喚べばよかったのに」

 

 

 言葉に棘があるような気がする。

 シクの顔を見れば、私様ではなく向こう陣営を見ている。

 そちらを見れば、わいわいきゃっきゃしているガキども。

 まるで勝ったような喜びよう。

 それが気に食わないのか、眉間に皺を寄せ、目を細くする。

 

 

「手合わせじゃない。確認だ。私様が負けたわけでも、向こうが勝ったわけでもない」

「でも嫌なの。()のスグサがこんな扱いされるの」

こんな(・・)も何もそもそも扱われてねぇよ。それに、魔法に関わることで私様が負けると思ってんのか」

「カケラも思ってないわよ」

「それが答えだ。一歩も動かずに受け切るって縛りがなきゃ速攻だ」

「勝手に決めた縛りだけどね」

「それな」

 

 

 戦い方によっちゃあ私様も動き回ってやってもよかった。

 なんだったら飛んで空中戦をやってもよかった。

 でもまあ、医術師が相手をするだろう騎士団長サマは空中戦をとるとは思えない。

 なら私様が飛ぶ意味はそこまでない。

 だからこれでいいんだ。

 

 

「はーあっ!?」

 

 アアアアアァァァァァァァァッッ!!!!!!

 

 

 思わず、大きな息が漏れる。

 漏れている途中、人間のものではない叫び声が屋敷中に響き渡った。

 

 

「この声!?」

 

 

 ウーとロロ!?

 

 

「あいつらどこにいやがんだ!?」

「外に遊びにいくって言ってたのよ! だからに庭か玄関!」

 

 

 庭でこんな叫びを上げる可能性は低い。

 なら玄関か!?

 何か来たのか?

 警備のウロロスは何をやっている!?

 

 

「行くぞ」

 

 

 焦りは見せず、声をかけて足早に玄関へ向かう。

 後ろについてくるのはシクだけでなく、叫び声を聞いた奴ら。

 つまり全員。

 

 

「来客組と弟子は中にいて出てこないように」

 

 

 少し魔力を漂わせた。

 魔法を使う奴らだ。

 察知は息をするようにできるだろう。

 叫び声が響いた時点で只事ではなさそうな雰囲気は十二分に漂っている。

 文句を言う奴はいなかった。

 あっという間に玄関前。気配はやはり扉の向こう側。

 こっそり≪透視≫で見れば、本来の姿になったウーとロロ。

 そして塀の向こう側に、大量の人間。先頭には、二人ほど見覚えのある人間。

 

 

「あんたらは大人しく待っててくださいよ」

 

 

 再度忠告して、ぱちんとひと弾き。

 髪と目の色を弟子と同じ色にして、扉を開けた。

 

 

「被ったものを破かないようにね」

 

 

 バラファイの姿になる直前、忠告された。

 肩に止まったそいつもついてくるらしい。

 まあ、こいつならいいか。

 それよりも言われた通り、弟子のふりがバレないようにしなければいけないのがネック。

 体を分離して、早々に後悔するとは思わなかった。

 外に出れば、子供のはずがデカすぎるウロロス。

 唸り声で威嚇している。

 私様にも気づかないのか、背中しか見えない。

 ウロロスの横までくればようやく気づいたらしい。

 唸り声をぴたりと止めて、私様をガン見する。

 チラリと目を合わせて、体を軽く叩く。

 正面の招かれざる来客に目を向ければ、こいつらが威嚇していた理由がよくわかった。

 

 

「いいどきょ……腕ですね。マリーさん」

「こんにちは。ヒスイさん。いえ、我らがロッド様。お迎えにあがりました」

 

 

 弟子のクラスメイト。

 同時期の編入生。

 『同行者』・『見張り』候補。

 第三王子やそのツレを除いて、一番最初に弟子に近づいてきた要注意人物。

 その懸念は当たっていたわけだ。

 学校とは違い、女性ものの甲冑を身に纏い、髪をポニーテールにしている。

 身なりが変わるだけで大分印象が変わった。

 お淑やかな令嬢がおてんば娘になったようだ。

 

 

「行きません」

「なぜ?」

「行く理由がないからです」

「ありますわ。ロッド様のお体に、ロッド様の魂を宿さなければなりません」

 

 

 はあ。

 

 

「そうすることで、ヒスイさんに存在意義が生まれるのですよ」

 

 

 はあ……?

 

 

「私さ……の存在意義は自分で見つける」

「お手伝いをしますと言っているのですよ」

「結構、です」

「あらあら。困りましたわ」

 

 

 全く持って理解ができない。

 手を当てた顔にそう書いてある。

 こちらも同意見だが。

 

 

「しょうがありませんわね。ロタエさん」

「はい」

 

 

 女魔術師が、血の滴る鎌を手に持ちながら、後方から詰めてくる。

 最後に会った時より少し痩せたかもしれない。

 しかし顔色が悪いわけではない。

 というより、むしろいつも通りの仏頂面だ。

 そう、いつも通り。

 鎌の血は、アイツらのと塀の間で倒れ、微弱に呼吸を繰り返すウロロスのものだろう。

 なぜ、お前がそっちにいる?

 思わず睨みつけるように女魔術師を見る。

 しかし、それでもいつもと同じ、何も変わらない表情。無表情だ。

 マリーと並んで、いや、少し、前に来た。

 

 

「では、自害なさってください」

 

 

 思わず、眼を見開いた。

 同時に、女魔術師が手に持った鎌を、自身の首に目掛けて手首を捻――

 

 

「させるかよ」

 

 

 足元の砂を操作して、服に忍ばせて腕の動きを封じた。

 その力のやり取りで分かる。

 女魔術師は、本気で首を斬ろうとした。

 完全に動きを止めていてもまだ動こうとする。

 諦めや油断を誘うような脱力は感じず、ただただすぐに、言われたとおりに『自害』しようとしている。

 

 

「あら……どうしました?」

「妨害されています」

「そうですか。あなたですか? ロッド様」

「そうだ……です。その人を殺されては困るんで」

 

 

 しどろもどろな口調に自分で笑いそうになる。

 しかしこいつを殺されるのは面白くない。

 折角成長の楽しみな魔術師だ。

 見殺しは夢見が悪い。

 なんだったら後ろの扉から今にも出てきそうな奴を押さえるのも余計な労力だから、さっさと諦めてほしいんだが。

 そんな私様の儚い願いは全く受け付けてくれないようで、鎌を持っていない方の手で魔法を使おうとする。

 

 

「……はあ」

 

 

 溜息一つ。

 それを合図に繰り出される≪怠惰を嫌う傲慢の溜息≫。

 膝から崩れ、地面に這い蹲る女魔術師を視界の端に入れる。

 あくまで目線は、何をしだすかわからないマリーの方へ。

 

 

「あら。びっくり。……マリーには当てないのですか?」

 

 

 こいつ、自分のことは名前で呼ぶ派か。

 まるで当ててくださいとでも言っているようなやっすい挑発だ。

 もちろん当ててもよかった。

 反撃されたところで私様に向かってくるものなんてどうとでもなる。

 しかし、女魔術師や怪我をしたウロロスに対しては別だ。

 すでに何か魔法が使われているとしたら、私様でも対応しようがない可能性がある。

 この世界には治癒魔法はないんだ。

 何かされた後では、助からない。

 

 

「そこまで不用心じゃねえよ」

「まあ。もしかしてヒスイさんって、そんなに粗暴なお話し方をする方でしたの? そんな方だとは思いませんでした」

「あ? あーそうそう。もうテメーに気を遣わなくていいやって思ってな」

「ひどい……マリーは悲しいです。そんな方がロッド様の依り代に入り込んでいるだなんて……」

 

 

 なんか笑いそう。

 私様本人だってわかったら、どう取り繕う気なんだろうか。

 興味はあるけど言ってやる気はない。

 およよ、と泣き真似をするマリー(ぶりっ子)の後ろから、頭の後ろに手を組んで歩み寄ってくる男。

 こいつも見覚えある奴だ。

 

 

「なーにしてんのー。さっさとしよーぜー」

「すみません。悲しくて……取り乱してしまいましたわ」

「教祖代理やらお偉いさんたちが待ってんだから。早くしよーぜー。なー、ヒスイっち」

 

 

 飄々と現れた、確か、センと呼ばれていた奴。

 コイツもそっち側だったのか。

 驚きはない。

 『同行者』が複数人であるとも、一人であるとも言われていないから。

 ただまあ、ノーマークではあったが。

 

 

「あんたもそっち側だったのか」

「え、何こわっ! ヒスイっち随分雰囲気違くない? え、やだこわーい」

「うわうっざ」

「……あー。これでマリっち泣いたのか。なるほどなぁ」

 

 

 掴みどころのない軽いやり取り。

 ペースを狂わせに来ているのか。

 未だに泣き真似して目元をハンカチで押さえているマリー(ぶりっ子)に、背中を撫でてやるセン(茶髪)

 魔法は発動しっぱなしなので這い蹲って大人しくしている女魔術師。

 ホント。

 こいつら何しに来たの?

 

 

「そっちに行く気はない。用が済んだら帰ってくれ」

 

 

  ≪虚空≫

 

 

 息絶え絶えなウロロスを回収したら、ウーとロロの懸念はもう大丈夫。

 女魔術師が死のうとしている件については種がまだわかっていないから、魔法は切ることはできない。

 恐らくはマリー(ぶりっ子)が関係しているんだろうが、はてさて、どうするか。

 

 

「あら……あわよくば持ちかえるつもりでしたのに。残念です」

「どーする?」

「そうですわね。でしたら、伝言だけお伝えします」

 

 

 

『スグサ・ロッド様。貴方様の復活はもう世界中が知ることとなりました。貴方様がいるだけで、私ども人間は安心して暮らせるのです。たとえ死んでも、貴方様のような「蘇った」人間がいる。魔獣に怯えることはない。病に苦しむこともない。怪我を負い目に思うこともない。全人類に貴方様が必要です。つきましては、レルギオの貴方様の部屋にお越しくださいますよう、よろしくお願い申し上げます』

 

 

 

「……以上が、我が教祖代理からでございます」

「何の用があってそこに行くと?」

「行かなければ、戦いが起こるだけです」

 

 

 ほう。

 

 

「行けば戦いが起きないと?」

「ええ。そもそも、今回の戦争の発端は、貴方様が誘拐されたことが原因です。貴方様の無事がわかれば、貴方様を引き渡すということでフローレンタムは落ち着いてくれるでしょう。もちろん、属国になることも厭わない。フローレンタムが争う姿勢をやめれば、アーマタスも便乗する乗り場を失いますから」

「フローレンタムではすでに戦争勝利の報酬を用意しているとのことだが?」

「レルギオの不戦敗ですから、報酬は与えられるでしょう」

 

 

 ほう。

 

 

「よくわかった。検討しよう」

「お待ちしています。あんまりのんびりですと、戦争が始まってしまいます。無用な死傷者を出さないためにも、早急に懸命なご判断を」

「御託は言い。さっさと失せろ」

「せっかちな方。行きましょう、ロタエさん」

 

 

 張り付けたような胸糞悪い笑顔を浮かべ、来た道を戻っていく。

 声をかけられた女魔術師も自害をやめ、土がついたまま、後を追っていった。

 私様たちの方を見ることはなった。

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