最強の魔法少女になりましたがみんなの脳を焼いた後退場するそうです 作:ああああああ
転生前は魔法少女という存在が実在したとすれば大層メルヘンで、戦いや苦難があっても乗り越えられるそんな存在だと思っていた。
TS転生して魔法少女になるまでは。
12歳の時に孤児になり魔法少女になった。お金が必要だったからだ。最初は良かった。契約した精霊のレクチャー通りで勝てた。しかし、報道されない魔物や人類が捨てた地域の魔物のレベルは想像を絶する。
異界からの侵略者が作り出した魔物。そのブレスで待機していた少女の体が吹き飛んだ。ちぎれた手足が地面に刺さり、彼女と隣あった位置にいた魔法少女の体がさっと朱色に染まる。
悲鳴を飲み込み、ただただ、攻撃を続ける。魔法少女の中でも中堅クラスになればこんなものは日常茶飯事だ。腕の欠損は質のいいポーションで治る。
まったく悍ましい地獄だ。だから私は魔法少女を止めようと思っていた。止め方は簡単。契約している精霊に解除を申し出ること。ほとんどの精霊は契約を解除してくれないが、私は好きな時に解除できることを最初の契約に盛り込んだので問題なかった。
円満に契約を解除しようとした時、契約精霊がニヤリと笑った。
「同じ物ばっかり食べてると飽きるんだよね」
灰色の猫だった契約精霊がいつの間にか赤い猫に変わっていた。
「命が軽くて敵は強い。犠牲を出せば倒せるけど、消費される魔法少女は絶望しているし中堅の魔法少女も諦観で生気がない。上澄みの子たちも焦りを抱えつつ諦めてる節がある。民衆は何も知らないままだしね」
「まあ、そうだね」
「僕らの主食って君らの感情でさ、もう黒い感情は飽きた。口直しをしたい」
「………早く契約解除してもらっていいすか」
きな臭い話から逃げようとしたらシャーと鳴かれてしまった。
「希望と絶望を並べて食べるのがいいのさ。だから、僕と特別な契約をしてよ」
「結構です。早く」
「魔法少女は儲かるでしょ?政府から出る補助金の額は馬鹿にできない。惜しくない?」
「惜しいけど命の方が惜しい」
「わかるよ。殺されたくはないよね。そこで僕から提案だ。最強の魔法少女にしてあげる」
「………最強の魔法少女?」
胡乱気な私の視線を受けて精霊は真面目に答えた。
「そう、誰よりも強くて殺されるなんてありえない存在。指揮官に従う必要もなく支援などなくても勝ち残る。そういう特別な力を与えるてことさ」
「胡散臭い。何で最初からそういう契約をしないの?」
「許可されてないから」
許可というのは誰からの許可なのだろうか。精霊は誰に従っているのか、中堅レベルの私には知る由もないことだ。
「力に代償とかあるんじゃないの?」
「もちろん魔力は消費するけど今とさほど変わらないよ。ただし契約を結ぶ上で一つだけ条件がある」
「聞こう」
「戦いにおいて誰かを頼ったら契約を一時的に破棄する。最強の存在が誰かを頼るなんて許されないからね。頼る基準は僕の主観になるけど」
なるほど非常に胡散臭くなった。特に一時的という部分が怪しい。契約自体の破棄ではなく一時的な破棄ということは再度契約するということなのだろうか。
「怪しいと思うのは勝手だけで最強にはリスクがある。リターンを取るかは君の選択だよ。僕は強制しない」
「………そっちのメリットは?」
「………希望だよ」
「希望?」
「希望の感情が食べたい。絶望は飽きた。だから力を貸そう。別に最強が一人いても世界は救えないからいいのさ」
メリットのある話だった。それが本当ならだが。
「契約に盛り込んでもいいよ?僕の言っていることが嘘だと君が思えば契約を破棄できる。これでどうかな?」
「………廃棄区域の奪還をすれば報奨金数億円だったよね?」
結局のところ、私は金に釣られてしまったのだ。
少年は絶望していた。
廃棄区域、それは魔物から人々が逃げる際に捨て去った地域だ。報道の制限があるため数ヵ所にとどまっており、奪還計画が進んでいると思われがちだが、あれは嘘だ。
定期的に魔法少女を偵察に向かわせ、基本全滅する。無理だと思えば逃げて良いと言われているが、色々な事情で魔法少女は逃げない。正義感や利益や名声を求めて挑む。そして最後は泣きわめく。
「た、助けて!」
「こ、殺される!!!!!」
「そこをどけぇ!!!!!」
「い、いやああああああああ」
「うああああああああああ!!!」
逃げる者。命乞いをする者。 その全てに、魔物は容赦なく襲いかかり、凶刃を振るった。 日本の最古の廃棄区域に居座る魔物は10mの巨大な武者と人間サイズの骸骨武者達。切り裂かれ、串刺しにされ、ズタズタにされ、勇敢な少女があっさりと数多の軀と化す。 吹き上がる鮮血は加速し、命が尽きた肉塊を炎の舌が舐め取る。
武者は血の饗宴に陶酔し、ゲラゲラと笑い声を轟かせる。
魔物の進撃は止まらない。絶望が連鎖する間にも、罪業を重ねる。残酷な凶刃の前にまた1人、少女が地に崩れ落ちる。抵抗するもの無抵抗のもの全て関係なく、血の海へと沈めていく。
「な、何で魔法が効いてない」
武者には魔法が効かなかった。否、一定レベル以下の攻撃が通らない。故に、この区域は捨てられたのだ。絶望する魔法少女に対して、何も答えずに言い渡すのは斬擊だけだった。音を立てて、少女の体が瓦礫の上に転がる。
「こんなのどうやって戦えば…」
周防浬はこの戦場で絶望していた。周防浬はいわゆる指揮官という立場で、戦場を俯瞰し魔法少女を管理、支援する特殊な人間だ。指揮官になれるのは魔力を持った18から30までの男のみ。指揮官の中でも優秀だった周防はこの危険な任務に駆り出された。
自分の指揮で殺された魔法少女を見て、絶望する少年の前に武者が襲いかかる。寸での所で魔法少女がカバーに入る。
「gahdysahsjdiugyahjdijeu」
武者が聞きなれない言語を話す。瞬間、武者の腕が光り炎を放った。黒き炎が周囲を飲み込み、少女たちを殺戮していく。満身創痍だった魔法少女は槍を手にして疾駆した。その攻撃が武者たちを貫いたが、数分で再生し蹂躙を始める。
「ああ、ダメだ。ここで死ぬ」
後ろから振り下ろされる凶刃を躱せないと察した周防は目を閉じた。
「ヘイヘイ!目を瞑っちゃだめだよ。逃げるのと目を逸らすのは別だからね」
この場においてはあまりにも場違いな声が響いた。それと同時に、鎧武者の動きが止まる。
目を開けると周防の目の前には一人の少女がいた。
藍色の瞳を輝かせ、ラッパを手にした少女。金色の髪をふわりと揺らし、燃え上がる闘志を手に少女は傲慢に胸を張る。
少女の身体は細く四肢の先までスラリと伸びていた。不気味なほどに美しいまさに御伽噺の精霊のようだ。
「私は最強無敵の美少女、魔法少女、シンギュラリティ―。ああ、覚えなくていいよ。どうせ忘れられないから」
地面が爆ぜた。いつの間にか武者は消失しており、あちこちにクレーターがある。そして、残っているのは巨大な武者一体だけだった。
「さて、指揮官君。そこ動かないでね?30秒で世界を救うから」
にっと彼女は太陽のように笑った。シンギュラリティの背後から、天を衝く程の巨大な紅色のオーラが立ち上る。それは目に見えるほど揺らめいて、世界を屈折させていた。圧倒的なまでの、世界のゆらぎだ。
少女の周りだけ、魔力濃度が圧倒的に違う。絶句する周防浬を横目にラッパを構える。
「ワッ!」
放たれた紅の衝撃音が武者を吹き飛ばしその場で倒れることを強いる。轟音が響き砂煙が襲うが何故か彼女には汚れも届かず、慣性を無視したあり得ない動きで武者の頭上に躍り出る。
ここで周防浬の理解が追い付く。
「武者に傷がついてる………」
「よいしょっと」
倒れる武者をシンギュラリティは片腕で放り投げた。宙を舞う武者。
驚く暇などなく、紅が視界に広がる。少女の持つラッパが赤く輝く。そして、それは起こった。
「『
灼熱の光線が空を穿った。気が付けば、魔物は一部の肉片を残し消滅していた。画して最古の廃棄区域が解放された。それは成した魔法少女は、一撃で曇天の空を晴らし日差しを一身に浴び宣言する。
「きっかり30秒!」
精霊はその光景を哂っていた。希望があるから絶望がある。絶望があるから希望が生まれる。最強の魔法少女の出現は希望になるだろう。土地を取り返し、魔物の脅威から遠ざかり『最強がいればなんとかなる』という思考が生まれる。そして、仮にそんな最強を自分の手で壊しなくしてしまったらどんな感情が食えるのだろうか。
精霊は舌なめずりをしていた。