最強の魔法少女になりましたがみんなの脳を焼いた後退場するそうです 作:ああああああ
「あれから3週間経つけど、お金振り込まれないね」
「仕方ないさ、映像が残っていないんだ。あの生き残った指揮官の少年の証言じゃ涼に辿り着かない」
私は新しくシンギュラリティと呼ばれる魔法少女になった。精霊の力で見た目を変えて。何故見た目を変えたのかと言えば、再契約と力の譲渡はデリケートで知られると面倒だからだそうだ。
つまり精霊側の都合だ。名乗り出ない理由は、魔法少女教会にこき使われるのは飽きたから。つまり、私側の都合である。
姿を変えて名乗り出ないのだから、報奨金が貰えないのは当然ではあるのだが名乗り出るリスクがしんどい。魔法少女教会は、一枚岩ではなく金儲けしか考えていない奴もいる。そういう奴がこいつかね稼げるって思うと面倒いのだ。
今の私の髪色は黒で瞳は桜色だ。気が付かないだろう。
「次があれば先に魔法少女教会の金庫を襲おう。報酬を貰って魔物を討伐して逃げればいい」
「それやるなら魔物なんて討伐しない」
「じゃあやっぱり認知されようか。僕がいい感じの魔物を見つけてくるからそいつを倒そう、配信しながら」
「機材が壊れそう」
「定点カメラとかは?僕としてはおすすめだよ」
「いや、余波で壊れるでしょ。距離があればいけるかな?」
精霊に菓子パンを与え、私もコンビニのパンを頬張る。一体どうしたものかと頭を悩ませる。
「精霊界隈の繋がりでなんとかしてくれない?」
「いいけど、対価を払って欲しいな。同族に頭を下げるのは契約にないからね」
「………精力的に最強の魔法少女を演じてあげるよ。鮮烈に、ね」
私は端末に届いた隣町に魔物が襲撃してきたことを知らせるアラートを聞いて笑った。
市街地に現れた巨大な鳥型の魔物。翼を広げた姿は10mほどだろうか。戦闘機並みの側で飛びながら、その羽を弾丸のように飛ばす怪鳥に魔法少女たちは苦戦を強いられていた。避難が完了していない市街地に魔物の侵入を許してしまったことも問題ではある。しかし、本質はそこではなく感知しても対応できないその速度だ。
避難する住民を守りながら戦うことは何とかできていた。しかし攻撃を当てられない。住民に張り付きシールドで攻撃を防ぐのが限界。建物への被害は尋常ではなく、また避難所に施された結界も破られかねないと危惧していた。
周防浬もまた、その現場にいた。今回はランキング上位の魔法少女が数人いるというのに、後手後手だ。
「ダメ!攻撃が全く当たらない!」
「下手に近接で近づいたらたぶん体当たりされるし仮にやれるとしても、避難誘導が完了しないと無理でしょうね。普通の魔法少女じゃ、あの羽の攻撃を防げないわ」
「はあ?じゃあこのまま街が壊れるのを見てろって?」
彼が指揮する魔法少女が諍いを始める。この場の守りを担当している魔法少女センターとライトニングも臍を噛んでいたのだ。
「もういいわ!一か八かあたしが近づいて広範囲魔法で吹っ飛ばしてやる」
「やめなさい。仮にあれに体当たりでもされたら貴方でも無傷じゃすまない」
「すまない。センターの言う通り、避難誘導が終わるまでは耐えてくれ」
パーカー姿の魔法少女ライトニングが苛立ちを吐き出すように特攻しようとするがそれを眼鏡をかけた妙齢の魔法少女、センターが止める。
「ヘイヘイ!苛立ってると可愛い顔が台無しだよ?大丈夫、私が3分でケリをつけてくるから」
二人の魔法少女はその場から距離を取った。センターは反射でシールドを解いてしまい、ライトニングがそのカバーを行う。
「誰よ?あんた」
ライトニングはシンギュラリティを見て犬歯を露にするが、彼女はどこ吹く風でラッパを構える。
「私はシンギュラリティ。最強無敵の魔法少女だよ」
シンギュラリティは跳躍した。そして空を文字通り駆け抜ける。
「はぁ!?」
その挙動に目を丸くする魔法少女。
シンギュラリティは、稲妻のように直線で走って直角に曲がる。亜音速の速度で。飛んでくる羽の弾丸を全てラッパで破壊しながら、徐々に怪鳥に迫って──叩き落とす。
(ラッパ壊れないのかな………ていうか吹けよ!)
宇宙猫状態のセンターと騒いでいるライトニング。周防は思わぬ邂逅に絶句していた。
地面に叩き落されながら、再び飛翔し今度は先ほどの比にならない弾幕を張る。それを見ながらシンギュラリティは大きく息を吸ってラッパを鳴らした。
「わー!!!!!」
けたたましい紅の音が弾丸をすべて退ける。勢いが死んだ羽が宙に舞う。
「さて、ケリをつけようか?」
最強の魔法少女は再び宙を蹴り加速、必死に逃げる魔物を狩らんと口角を上げる。並走している。あの速度に。魔法少女達が苦戦していた怪鳥は地に落とされた。
あの、金色な髪のラッパを振り回すふざけた少女の手によって。
「もっかい!わー!!!!!」
紅の衝撃波が魔物を穿つ。そしてきっかり3分で止めを刺される。これが市街地襲撃事件の端的な結果だ。
──魔法少女シンギュラリティは、無傷だった。
魔法少女を管理する魔法少女協会は、その記録映像を見てドン引きしていた。
「魔法少女って確かに飛べますけどあんな速度出せるんでしたっけ?」
「何あの魔法威力?おかしくない?」
「ラッパって殴るためのものじゃないでしょ」
「明らかに規格外な魔法少女だな。戦力にできれば手が出せない廃棄区域にも」
「あの鳥類型の魔物、戦闘機のスピードだったよね?なんで並走してるの」
「はいはいそこまでにしてくださいね」
その場にいる魔法少女と指揮官が動揺を露にしていると、深く落ち着いた声とともにパンパンと手を打つ乾いた音が鳴り響いた。
「………おしゃべりは終わりです。彼女の身元は不明のままなわけですね?ライラさん」
魔法少女教会の幹部である魔法少女イアスがため息を吐いた。イアスの問いかけに眠そうな顔をした魔法少女が答える。
「わかんないねー、野良なんだろうけどー、全然痕跡が負えないやー。町中の監視カメラを見たけどまったく見当たらないから協力者がいるのかもねー」
「フム、ではやはり彼女は警戒すべきでは?」
「管理下に置けない力など放置できない」
「俺様としては可愛いあの子を何とか魔法少女教会の管理下に置きたいね」
「いやでも無理でしょ」
「あれが教会に歯向かったら勝てる?」
「ペスカトーレかアリエル辺りなら勝てるんじゃん?うち等が余波で死ぬかもだけど」
魔法少女教会幹部は基本的に現役もしくは引退した魔法少女と現場を離れた指揮官で構成されている。指揮官よりも魔法少女の方が、シンギュラリティを危険視する人数が多かった。絶対的な強さを肌で感じれるからだ。
「彼女、魔法少女教会に来ないで活動しているし、あの区域にいたってことは確実に我々のスタンスを知ってるわよね。どうやったら首輪を嵌めれるかしら」
沈黙していた一人の女性が口を開く。かつて廃棄区域の奪還を成功させた魔法少女、ヴェゼルだ。現在は引退しており、落ち着いた雰囲気と冷徹な瞳をした28の女性である。
「我々のなんて括らないでくれるかなー。引退して腑抜けた魔法少女と同じにされるなんてー屈辱だからー」
「喧嘩を売っているのかしら?」
「どー思う~?」
銀髪を掻き揚げながら付いていた頬杖を外して、ライラはヴェゼルを睨みつける。ヴェゼルとライラは仲が悪い。魔法少女を数字でしか見ていないヴェゼルはライラから嫌われていた。
ヴェゼルのように魔法少女を数字で捉え、世界を守るために冷徹に動く人間も教会には多い。ただし、どちらかと言えばそれは指揮官に多くその指揮官であっても魔法少女の精神面のケアは行おうとする。だが、ヴェゼルは違った。魔法少女を引退した彼女が立案した作戦は最も多くの犠牲者を出した。だが、一般人の被害は0であった。魔法少女を終始道具として割り切り、非道な作戦を進めたからだ。
「………話を戻しますよ。彼女の扱いです」
イアスは、主要な魔法少女が数人サボっている会議であるため、ストッパーがおらず混沌とする空間に頭を押さえる。
「しばらくは様子見とします。今回の映像はネットに流れてしまったようですし、非公式のファンクラブもできていますから目撃証言を当たりましょう。見つけても接触は禁止。協会に無理に所属させず、会長の魔法少女クロックベルの判断を仰ぎます」
イアスはため息を吐いた。
魔法少女イアス 黒髪眼鏡の魔法少女。年は15歳。
魔法少女ライラ 銀髪青目の魔法少女。年は17歳。
ヴェゼル 黒髪の元魔法少女。年は28歳。
指揮官君 16歳の高校生。スマホゲームで主人公やってそう。
魔法少女センター 金髪眼鏡の魔法少女。指揮官君の部下。22歳。
魔法少女ライトニング パーカーを愛用する魔法少女。指揮官君の部下。13歳。