【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
『世界扉の手鏡』の完成から時間は過ぎ。いよいよ、教皇の即位三周年記念式典が開催されることとなった。
開催場所は、ロマリア市内だ。最初はガリアとの国境付近の街であるアクイレイアで行なうことも検討されていた。しかし、トリステイン、ガリア、ゲルマニアの三国が各国の首脳陣を集めての会議を
そして、先にロマリア入りしていたトリステインの国王一行に遅れるようにして、ガリアのジョゼフ王、ゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世も直接ここロマリアへとやってきた。
他の小国の首脳陣も続々とロマリア入りして、各国の重鎮は誰も欠けることなく式典の日を迎えた。
ロマリア市内では教皇のパレードが行なわれ、市内に詰めかけていたハルケギニアの各地から訪れた信者が列をなして、それを眺める。聖獣ペガサスが空を舞い、ブリミル教の威光を信者達に盛大に示した。
そして、不死鳥飛行隊の出番がとうとうやってくる。
ロマリア市街地の近くに寄せた『イヴェット』号から十機の『フェニックス』号が飛び立ち、綺麗なアクロバット飛行をして観客を沸かせた。幻獣では不可能なその高速飛行と奇妙な曲芸に、人々は魅了された。
飛行が終わると、空に残ったスモークが白い線を描いていた。それを為したのは人の手で作り出されたマジックアイテムの乗り物だと聞き、観客達は新時代の訪れを予感した。新しい教皇は、ハルケギニアの未来を拓いてくれる。そう確信した人々から大歓声が沸き上がった。
そんなパレードが行なわれた日の数日後。来賓である各国の首脳陣は、未だに国もとへと帰還していなかった。
彼らは大聖堂にある大会議室に集まり、事前の予定通りに極秘の会合を行なっていた。
「以上が、『ラグドリアン・テクスト』の全容となります」
各国の重鎮がズラリと並ぶ会議室で、トリステインからの参加者の一人であるルイズがそう言葉を放つ。
各国の首脳陣をわざわざここロマリアに集めた理由。それは、トリステイン、ガリア、ゲルマニアの三国が、これまで秘していた『ラグドリアン・テクスト』をとうとう周辺諸国へ公開することとなったからであった。
『風石』採掘の先行者利益を十分に確保したとして、本格的に『大隆起』対策に乗り出そうと三国間で話し合った結果であった。
そして会議の場にて、『ラグドリアン・テクスト』の提唱者であるルイズから『大隆起』なる大災害の話を聞き、各国の首脳陣は動揺を隠せない様子であった。
だがしかし、上座に座る教皇は動揺を
「なるほど、『大隆起』は、わたくしが把握していた通りの規模であるようですね」
そんな教皇の言葉を聞いて、ルイズも驚かずに教皇へと言う。
「『大隆起』のこと、ご存じでしたか」
「ええ、ロマリアでも独自の調査を進めておりました。差し当たって、緊急に対応が必要な場所は……火竜山脈ですね?」
「はい。ガリアとロマリアの国境線上にある山脈です。こちらは、今年中に『風石』の活発化を迎えると分かっています。ガリア側はすでに採掘を終えたようですので、ロマリアも早急な対処をお願いいたします」
「ふむ、対処ですか……」
そう言って、言葉を濁す教皇。
そんな彼に、ルイズは「何か懸念が?」と問うた。すると、教皇は意外な言葉を彼女に向けて発した。
「火竜山脈の『風石』採掘は行ないましょう。しかし、ロマリアとしては『ラグドリアン・テクスト』の方針に全面賛成とはいきません」
教皇のその言い様に、ざわりと会合の参加者達から声が漏れた。
急に何を言い出すのかと、ルイズも表情を険しくする。
そんなルイズに向けて、教皇は穏やかな声で言った。
「我々ロマリアの独自の調査で、『大隆起』で持ち上がる土地はハルケギニアの五割を占めると分かっています。真っ当に掘り進めても、いったいどれだけ『風石』を掘り出せるというのでしょうか」
五割。その莫大な範囲を聞いて、トリステイン、ガリア、ゲルマニアの三国以外からまたもやざわめき声が上がる。
すると、ルイズはそんな会議の場を切り裂くような鋭い声で、ハッキリと己の主張を告げた。
「トリステインの独自の調査で、従来の想定よりも多くの平民が魔法を覚えることができると分かっています。取りこぼしは出るでしょうが、万人にもたらされる魔法の力で、多くの民を救うことができるでしょう」
だが、このルイズの言葉にも、教皇は同意を返さない。
「そこが問題なのです。ハルケギニアはメイジである王と貴族が、魔法を使えぬ平民をまとめているからこそ秩序が保たれているのですよ。そのような状況で、平民に魔法という力をいたずらに与えると、間違いなく王や貴族に牙を剥く未来が訪れるでしょう」
確かに、と首脳陣は納得したようにうめく。
平民が魔法という力を持つと、自身の立場が脅かされる。危険だ。王侯貴族であるそんな彼らの懸念を煽るように、教皇はさらに言う。
「待っているのは、秩序の乱れた混沌とした世。それを我ら自らの手で作り出すことは、愚かというものでしょう」
すると、ルイズもこれに応じるように言葉を返す。
「平民一人ひとりが力を持つということは、人類全体が持つ力が増え、魔法文明がより発展していくということです。メイジの多さは国力に直結します」
それも確かにそうだ、と首脳陣は頭を悩ませる。ルイズが言ったとおり、国内のメイジ人口の増加は、すなわち国力の増加なのだ。そして、戦力の増加でもある。波に乗り遅れれば、国家間の軍事力に圧倒的な差がついてしまう。そうなってしまえば、待っているのは戦争での敗北だ。
周囲の首脳陣が自分の意見に納得してもらえたと見たルイズは、教皇に向けてさらに告げた。
「聖下。ところで、『ラグドリアン・テクスト』の方針に反対するからには、もちろん代案があるのですよね?」
「全てに反対をしているわけではありませんが……もちろん、代案はあります」
「まあ……」
ルイズは教皇の答えに目を輝かせる。
『風石』を地中から取り除く以外にどんな方法があるのか。『風石』の不活性化技術でも確立したというなら、大歓迎なのだが。
そう、ルイズが思ったところで、教皇から返ってきた言葉は思いもしない代案であった。
「『聖地奪回』」
「……えっ?」
会議の場であることも忘れ、ルイズはそんな驚き声を漏らしていまう。
「エルフが支配する『聖地』には始祖ブリミルが建設した、巨大な『虚無』の魔法装置が存在しています」
今度は何を言い出すのか。ルイズは困惑した。
そんなルイズの心の内をさらに乱すように、教皇は言う。
「始祖の力、すなわち『虚無』の魔法は、先住の力、すなわち精霊力を打ち消すことができる。四の担い手をそろえ、その『虚無』の力にてエルフを打倒し、『聖地』および魔法装置を奪回する。そして、装置の力でこの大地の底に眠る精霊力を払うのです」
教皇の主張を
だが、そこでルイズは一つの事実を思い出す。
「……ハルケギニアの地下に眠る『風石』の活性化は、東の方角から流れ込む精霊力の影響で起きています」
「そうです。魔法装置は、その供給される精霊力ごと『風石』の力を払うでしょう。ゆえに……」
教皇は、会議室に座る面々を見回すようにして告げる。
「ブリミル教の教皇、聖エイジス三十二世の名において、『大隆起』という
『聖戦』。それは、ブリミル教の全てを懸けた
突然の事に、首脳陣は困惑を隠せずざわめき声を深めた。
そして、悩む。どちらに乗るべきか。
『虚無』の担い手、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの平和で長期的な案に乗るか。
同じく『虚無』の担い手であると先日発表があった、聖エイジス三十二世の『聖戦』に乗るか。
この選択は、ハルケギニアの未来を大きく変えてしまう。
そして、首脳陣は黙った。最初にどちらに乗るかを言い出すのが、恐ろしかったのだ。おそらく、一人がどちらかの案に乗ると、他の国も追従していくことだろうと思ったからだ。
すると、不意に誰かの含み笑いが静かな大会議室に響いた。
室内の目が、一斉にそちらへと向く。
その目線の先に居たのは、ガリア王国の『名君』、ジョゼフ王であった。
「ククク、『聖戦』? 『聖戦』だと?」
可笑しそうに笑い声を上げるジョゼフ王。
そして彼は、その場で立ち上がり、教皇に向けて言った。
「『聖地奪回』などという世迷い言には、とうてい付き合いきれぬ。ここに来て、『風石』採掘に必要なメイジを損耗させるというのか」
ジョゼフ王が治めるガリアは大国だ。その影響力は強く、周囲の首脳陣も口々に「確かに」だの「無謀だ」だのといった追従の言葉を漏らし始めた。
そして、『名君』ジョゼフ王は教皇に目を向けてから、軽く鼻で笑うと立ち上がったまま会議室の入り口に向かい歩き始める。
「馬鹿馬鹿しくなった。あとはそなた達で、勝手に話を決めるといい。ガリアは『聖戦』を拒否する」
そう言い残して、ジョゼフ王は会議室を去って行った。
そして、そこから会議は大荒れとなった。『大隆起』への対策をどうするか。トリステインとゲルマニアはすでに平民へのメイジ教育を秘密裏に進めており、そのメイジによる協力を各国が求めたのだ。
学術的な話を担当していたルイズの出番はその先からはなく、ウェールズとアンリエッタがトリステインの代表として外交を務めることとなる。
話し合いは一時間以上続き、ずっと苦い顔をしていた教皇が休憩を宣言する。
だが、そのとき、不意に会議室に聖騎士の一人が駆け込んできた。
「何事ですか?」
教皇が聖騎士に問いかけると、聖騎士は息を切らしながら大声で叫んだ。
「ガリアが、ガリアがロマリアに宣戦布告をいたしました! ロマリア市内に向けて、ガリア艦隊から放たれたゴーレムが迫っております!」
大会議室の困惑からくるどよめきは、本日一番の大きさとなった。