【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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102.ヨルムンガント

 突然のガリアの宣戦布告を受け、『大隆起』対策の会合は打ち切りとなった。

 ロマリアの聖騎士からの報告によると、ガリアの艦隊は即位三周年記念式典のパレードにて披露していた巨大なゴーレム四体を置き土産に、国もとへと颯爽と飛び立っていったという。

 つい数時間前に会議の場を去ったジョゼフがガリア艦隊と合流するには、あまりにも時間が早すぎる。だが、すでにロマリア市内にガリア首脳陣の姿はないという。もとより宣戦布告と同時に、ロマリア国内を脱するつもりであったと察せられた。

 

 そうしてロマリアは戦争の体制を整えるために、各国の首脳陣の対応をしている場合ではなくなった。

 よって、各国からやってきていた賓客(ひんきゃく)達は、戦争に巻き込まれる前に帰国しようと、ロマリア市内から出ようとした。しかし、そこを聖騎士団が止める。

 

「チッタディラに投下されたガリアのゴーレムが、街道を北上しております。危険ですので、我々が排除を完了するまで大聖堂に避難をお願いします」

 

 チッタディラは、ロマリア市街の南方にある空飛ぶフネの港だ。各国のフネはここに係留されており、そこへ向かうには危険が伴うというのだ。

 よって、賓客達はしばらくロマリア市内に留まることを余儀なくされた。

 

 そして、一夜明け。

 戦闘の続報を聞いた賓客達は驚きの声を上げることになる。

 

「ゴーレムの迎撃に失敗! 依然、ゴーレム四体はロマリア市内に迫っております!」

 

 たったのゴーレム四体。それがスクウェアメイジの作り出した戦術級のゴーレムだとしても、一晩かけて破壊しきれないことなどあるものなのか。皆が誤報を疑ったが、いつまで経っても報告は(くつがえ)らない。

 

「そのゴーレムは、鋼鉄の鎧を着こんだ全高約二十五メイルの巨人の姿をしておりました。記念式典でロマリアの大通りを行進していた物です。通常のゴーレムではありえないほど機敏であり、さらにどのような魔法も跳ね返してしまうのです。軍艦による大砲も通じず……」

 

 そんな報告を人づてに聞いたルイズは、思考を深める。

 

「『ゴーレム生成』の魔法による即席のゴーレムではないわね。おそらく、ガーゴイルの一種でしょう。つまり、ガリアの新兵器ね」

 

 トリステインが『フェニックス』号を新開発したのと同じように。

 ガリアも、新兵器である巨大ガーゴイルを作り出していたのだと、ルイズは予想した。

 

 やがて、大聖堂内で騎士や神官が慌ただしく動くうちに時間は過ぎ、正午となる。

 ゴーレム四体は未だに倒されず、ロマリア市内へとまさに迫らんとしていた。ロマリアの南の外壁には急いで招集された兵士が展開し、外壁の上にバリスタや大砲が集められる。

 

 戦争は始まったばかりだというのに、まるで戦争末期に首都まで攻めこまれたような状況へとロマリアは陥っていた。

 ガリアのゴーレムと、ロマリア軍の衝突。ルイズは大聖堂でその終わりを待つのではなく、ロマリア市内にある高い塔に登って、屋上にて双眼鏡を用いて観戦していた。

 ガリアの新兵器が気になったのだ。

 

 ルイズに付き合って、才人も『遠見』の魔法が付与されたマジックアイテムの双眼鏡を持って、戦いを見守った。

 

 遠くに見えるゴーレムは、一般的なゴーレムとは大きく違う、スリムな形状をしていた。

 通常、『ゴーレム生成』の魔法で作り出すゴーレムはズングリとした見た目をしている。しかし、眼下でロマリア軍とにらみあうゴーレムは、スタイリッシュな巨人の騎士とでもいうべき様相だ。

 表面が磨かれて光輝く鋼の巨人が、これまた鋼の鎧を着こんでいる。

 

 そして、その鋼の巨人が、素早い動きでロマリア軍に向けて走り出した。

 

「なんてなめらかな動き!」

 

 ルイズは、その巨人の走りに驚き声を上げた。

 巨人は、まるで人が中に入っているかのような足運びで、ゴーレムではあり得ない速度で走る。

 

 射かけられる矢の雨をものともせず、ロマリア軍に四体の巨人が迫る。

 魔法の射程内に入るも、その魔法はすべて巨人のまとう鎧に当たり、まるで反射するかのように弾かれていく。

 それを見て、ルイズは眉をひそめた。

 

「防ぐでも、耐えるでもなく、弾く……?」

 

 その異様な光景に、ルイズの思考が加速する。あの新兵器は、どのような存在なのか、仮説をいくつも立てていく。

 その最中にも、巨人四体は陣を組むロマリア軍に辿り着き、手に持ったこれまた巨大な槍や剣を地面に立つ兵士に振るった。

 すると、まるで麦を刈るかのように兵士達が一瞬でなぎ倒された。

 

 一方的すぎる攻撃に、双眼鏡を覗くルイズは顔を歪ませる。

 そして、そこから巨人による虐殺(ぎゃくさつ)が始まった。

 矢は通じず、魔法も通じず、外壁からのバリスタや大砲は発射の兆候を察したのか軽やかに回避する。そして、まれに大砲が命中したとしても、鎧はへこむことすらせず砲弾を跳ね返した。

 

 その光景を見て、ルイズはポツリとつぶやいた。

 

「あれは、もしかしてエルフの『反射(カウンター)』……?」

 

 その言葉を聞いていた才人は、ルイズに問い返す。

 

「知っているのか、ルイズ」

 

「ええ。熟練のエルフが使うという先住魔法よ。あらゆる魔法を相手に向けて跳ね返すという強力無比な精霊の力。対処するには、力が尽きるまで飽和攻撃を浴びせるか、精霊の力を上回るほどの強烈な一撃を与えるしかないのだけれど……」

 

「軍の攻撃、効いてないな」

 

「そうね。ゴーレムは機敏で、一点集中で魔法を当てるなんて不可能。強烈な攻撃を放てるメイジもいないようね」

 

 双眼鏡を覗きながら、そんな会話をする才人とルイズ。

 そんな二人の会話に、ふと横から声がかかった。

 

『どうかね、ルイズ。これがおれの作り出した傑作、『ヨルムンガント』だ』

 

 その言葉に、二人はハッとなって双眼鏡から目を離した。

 そして、声の方向へと顔を向ける。すると、ルイズ達がいる塔の屋上、その(へり)に一羽の鳥が止まっていた。

 いや、鳥ではない。よく見ると、黒光りする金属でできている。鳥の姿をしたガーゴイルであった。

 

『ハハハ、観戦に熱心なのは感心するが、いずれここも戦場となる。そんなに油断していていいのか、ルイズ』

 

「その声は、ジョゼフ王……?」

 

 ルイズは、ガーゴイルが発した声に聞き覚えがあった。

 それは、昨日までロマリアに居て、大会議室で共に話し合いをしていたはずのガリア王、ジョゼフの声であった。

 

『そうだ。遠くの者との会話を可能とする、稀少なマジックアイテムだ。おれもこの戦いを見たいと思ってな。隣を失礼したぞ』

 

「そう。勝手にすれば? わたしも勝手に観戦させてもらうわ」

 

『つれないな、我が友よ』

 

「陛下がさっき言ったとおり、ここはもう戦場よ。陛下に構っている暇はないわ」

 

『そう言うな。我が傑作『ヨルムンガント』の説明をしてやろうと思ってな』

 

 そのガーゴイルの言葉に、ルイズはピクリと眉を動かした。

 

『『ヨルムンガント』は、先住と伝説、二つの魔法が出会ったことでもたらされた、奇跡の産物だよ』

 

「先住はエルフの魔法のことなのでしょうけど……伝説?」

 

『そう! ルイズ、そなたも覚えはあるのではないかね?』

 

「まさか……、『虚無』?」

 

『その通りだ!』

 

「ガリアでも『虚無』の担い手が見つかっていたのね」

 

『見つかっていた? いや、違う。おれこそが『虚無』だ』

 

「陛下が!? ……いや、確かに、陛下は魔法がまともに使えないという噂、確かに聞いたことがあったわね」

 

『そうだ。おれが父王から受け継いだ、『土のルビー』と『始祖の香炉』。それを用いて、おれは『虚無』に目覚めた。そなたが『虚無』に目覚めるよりも以前のことだ』

 

「ということは、あの『ヨルムンガント』とかいう兵器に、『虚無』の魔法が付与されているのね」

 

『さて、どうかな?』

 

「あの『ヨルムンガント』のなめらかな動き、ただのガーゴイルやゴーレムには不可能よ。おそらく、動きを補助するような『虚無』がかけられている」

 

『フフフ……』

 

「動力は……『風石』かしら? ガリアなら『風石』は『大隆起』対策で大量に余っているでしょうから、賢い選択ね」

 

『そなたが作り出した『不死鳥(フェニックス)』を真似(まね)たのだよ。豊富に積んであるから、まだまだ『ヨルムンガント』は動き続けるぞ』

 

「すごい兵器を作り出したものね……」

 

 そんな会話を繰り広げるうちに、塔から見える南の平野では、ロマリア軍が壊滅しようとしていた。

 勝負あり。あとは、あの四体の『ヨルムンガント』は市街地の壁を破壊してしまうだろう。しかし、ここにガリアの陸軍はいないため、都市ロマリアの占領は不可能であるとルイズは判断した。

 

 つまり、戦いはこれで終わりだ。あとは、国もとに帰ったジョゼフが軍を率いて、本格的な戦いを開始するだろう。

 そう、ルイズは思ったのだが。

 

『さあ、ルイズよ。ここからどうする?』

 

「どうするって? なんでわたしに振るのよ。戦争なら勝手にやってなさい」

 

 突き放すように、ルイズはジョゼフの声を発するガーゴイルに言う。

 

「『聖地』に手を出すロマリアも、今さら戦争を起こすガリアもどうでもいいわ。わたしは国に帰って、『風石』採掘を頑張るとするわ」

 

 ガーゴイルにそう告げ、ルイズは双眼鏡を降ろして塔を下る階段の方を見た。

 すると、ガーゴイルは背を向けようとするルイズに向けて言う。

 

『なるほど。では、こうしよう。ロマリア軍を蹂躙(じゅうりん)し終わったので、次は民を皆殺しにし、ロマリアの街を更地にしようではないか』

 

「!? 陛下、あなた何を言って……!」

 

『何をだと? ハハハ、そなたこそ何を言っているのか。戦争だぞ? これは戦争なのだ。ならば、ロマリアの民は皆殺しにせねば!』

 

「…………」

 

 ルイズは、その顔を険しくし、ガーゴイルに振り返る。

 

『さあ、ルイズよ。ここからどうする?』

 

「止めてみせる! さすがに戦争と関係のない民の犠牲(ぎせい)は見逃せないわ!」

 

『そのお得意の『虚無』でかな? 一体二体なら吹き飛ばせるであろうが、機敏に動く四体を相手にできるか、見物であるな!』

 

 そんなガーゴイルの言葉を振り切るようにして、ルイズは隣に立つ才人に目を向けて彼の手を取った。

 

「サイト、行くわよ」

 

「おう。剣が通用する相手とは思えねえが、詠唱が終わるまで守ってやるよ」

 

 そんな才人の言葉に、ルイズは塔の階段を降りながら、真剣な顔のまま答える。

 

「いえ、必要なのは、剣でも魔法でもないわ」

 

 ルイズの歩みは段々と速くなっていき、やがて走るようにして階段を駆け下り始める。

 そして、ルイズは言った。

 

「わたし達に必要なのは、『科学』の力。鉄の『巨人』は、鉄の『虎』で打ち破るわよ」

 

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