【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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103.巨人と虎

 タイガー戦車。正式にはドイツが開発し、第二次世界大戦で使用された重戦車のⅥ号戦車Ⅱ型。通称『ティーガーⅡ』。

 当時のアメリカ軍からは『キング・タイガー』とあだ名を付けられた逸話も残っている。その威容は、まさに『王の虎』と呼ぶに相応しい。

 

 その『王の虎』は、ロマリアの大聖堂の敷地内にある中庭に置かれていた。

 先日、不死鳥飛行隊の手により聖堂の地下から運び出されたのだ。

 鉄の塊であるこの重戦車は約七十トンある。二十人がかりで一斉に『レビテーション』をかけてもそう簡単には動かせず、最終的にはロマリアの聖騎士まで動員して地下倉庫から地上に引き上げるはめになった。

 

 そのタイガー戦車は雨露を防ぐためのタープが上に掲げられており、コルベールとエレオノールの二人によって整備をされていた。

 この二人は不死鳥飛行隊の面々と違って、式典でもやることがほとんどなかった。せいぜいが、『イヴェット』号を港からロマリア近辺に動かした程度。なので、ここ最近はずっと、この興味深い鉄の塊の解析を行なっていた。

 各所に故障らしき場所はないか精査し、動くかどうかを確かめる。『固定化』の魔法の効果で保存されていた各部を点検し、装甲や足回りに『硬化』の魔法をかけて耐久性を高めて、整備中の故障の可能性を削った。

 

 その最中に、燃料が不足していることが分かった。そのため、二人はロマリアで石炭を買い集め、『錬金』の魔法でタイガー戦車の燃料の『ガソリン』を作り出した。

 石炭は『ガソリン』の原料の石油と同じ、化石燃料だ。『錬金』の魔法は作り出したい物に素材が近ければ近いほど、作成成功率と生成の精度が上がるためだ。

 

 燃料を満たしたあとは、エンジンの解析も行なう。相変わらず自分達の技術力では量産が難しいことに、肩を落とす二人。だが、いつの日か再現してみようと奮起して、二人はさっそくとばかりにこのエンジンを動かしてみようとした。

 

 大聖堂の地下、カタコンベを再利用されて作られた倉庫にて眠っていた『虎』が、目覚める。王の咆哮が、大聖堂の中庭に響く。

 

「うむ、動きそうだ」

 

 タイガー戦車の車内にいたコルベールが、嬉しそうに言った。

 すると、同じく車内で各部を点検していたエレオノールも、まるで子供のようにはしゃいで応える。

 

「走らせてみたいわね!」

 

「うーむ、それは少々難しいね」

 

「あら、どうしてかしら? 不具合は見つかっていないわよ」

 

「地面がね。重たすぎて、動くだけで大聖堂の中庭を荒らしてしまうことになる。そうしたら、大目玉を食らうよ」

 

「ああ、確かに……残念ね」

 

 そんな会話を繰り広げた二人。そんな二人の空間に、突如、闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れる。

 

「コルベール先生! タイガー戦車、動かせますか!」

 

 それは、才人であった。開いていたハッチから、戦車の内部に入ってきた彼が叫ぶようにして言ったのだ。

 良い雰囲気になっていたのを邪魔されてエレオノールがムッとするが、コルベールの方は特に気にもせず答える。

 

「ああ、サイトくん。問題なく動くよ。しかし、重たすぎて大聖堂の中庭を荒らしてしまうから、動かしたくても動かせなくてね」

 

「動くんですね! じゃあ、いますぐ出撃します!」

 

「出撃!? いったい、どういうことかね?」

 

「ガリアのゴーレムが、街の中に攻め込んでくるんです! だから、それを迎撃しないと」

 

 その才人の言葉を聞いて、コルベールは眉をひそめた。

 タイガー戦車は確かに動く。しかし、それをガリアのゴーレムにぶつけるとなると、一つ問題があった。それを代弁するように、エレオノールが言う。

 

「それは、ロマリアとガリアの戦争に、トリステインが介入することになるわよ」

 

「いや、でもガリアの王様が、市民を虐殺するとか言っていて……」

 

「それでもよ。さすがのガリアも、大聖堂にいる各国の要人までは狙わないでしょう?」

 

 その言葉に、才人は答えに(きゅう)してしまった。

 戦争への介入。確かにトリステインの立場に立つと、(まず)いものがあるかもしれない。

 しかし、市民の虐殺を黙って見ているわけにもいかない。才人は困ってしまった。

 そんなとき、ハッチの向こうから、再び闖入者(ちんにゅうしゃ)がタイガー戦車の中に現れた。

 

「出撃するわよ!」

 

「ちびルイズ! あなたも、戦争に介入するとか言うつもり? わたし達はトリステインの代表として、ここロマリアに滞在しているのよ?」

 

 戦車の内部に身体を収めたルイズ。彼女はエレオノールの言葉に、口を吊り上げるようにして言った。

 

「大丈夫です、姉さま。ウェールズ陛下から裁可ももらっていますし、各国の要人からも承認を得ています」

 

「トリステインが、ロマリア側で戦争に参戦するということ?」

 

 エレオノールが顔を険しくして言うが、ルイズの答えは否だった。

 

「敵はガリアの新兵器。その脅威は大きく、大聖堂すら破壊してしまう危険性がある。よって、わたし達は己の身を守るため……自衛のために、出撃します。戦争への介入ではなく、あくまで身を守り、チッタディラへの道を確保して、国へ帰るための緊急措置です」

 

 そのルイズの答えを聞いて、エレオノールは呆れたように言う。

 

「ずいぶんとまあ、屁理屈を()ねたものね」

 

「屁理屈でもいいですよ。それで救われる命があるのなら」

 

 ルイズはそう言って、各員の役割を分担し始める。

 重戦車は、ルイズと才人の二人だけで動かすことは困難だ。なので、ちょうどここにいたコルベールとエレオノールも、戦いに巻き込まれることになった。

 

 操縦手、コルベール。戦車を動かす足回りの役割だ。

 砲手、才人。主砲を撃つ攻撃の要。

 装填手、エレオノール。主砲に砲弾を込める力のいる役割。

 車長、ルイズ。全体の指揮を執り、進行方向を決めるリーダー。

 

 そこまで決めて、ルイズは言う。

 

「さあ、出撃よ! エルフの魔法が何よ。こっちには『ガンダールヴ』の槍、地球の『科学』がついているんだから!」

 

『王の虎』が、異世界にて蘇る。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 咆哮を上げながら、ロマリアの市内を『王の虎』が走る。土の床に履帯の跡を残しながらの荒々しい走り。

 しかし、それを気にする市民はいない。ロマリア軍が敗北し、敵の巨大なゴーレムが市内に入り込んだため、皆、近場の寺院へと避難しているためだ。

 

「ハハハ、『フェニックス』号の操縦に比べたら、この『(ティグレス)』の操作はだいぶ簡単だな!」

 

 そんな言葉を発しながら、コルベールは初めてとは思えない動きで鋼鉄製の『虎』を動かした。

 無人の市内を進むタイガー戦車だが、その動きに迷いはなかった。

 なにせ、相手は全高二十五メイルもある巨大すぎるゴーレムなのだ。遠目にも今どこにいるか、ハッキリと見えていた。

 

 そのゴーレム、『ヨルムンガント』に近づきすぎないよう距離を取りながら、ルイズは射線を確保できる位置取りを指示する。

 市内の地図はルイズの頭の中にある。先ほど、高い塔の上で市内を見下ろしたときに、地形を全て頭に叩き込んだのだ。

 

 自由に市内を走れるとはいえ、タイガー戦車は大きい。大通りを選んで戦車は進んでいく。

 そして、一リーグ以上離れた遠くに、『ヨルムンガント』を捉えた。射線は通っている。そこで、ルイズは才人に攻撃の指示を出した。

 戦車が止まり、砲塔が回る。

 才人は初めて触れる戦車砲をまるで熟練者のごとき動きで操った。彼の左手のルーンが、煌々(こうこう)と輝く。

 

「いやはや、現代の槍は、相変わらず厳ついねえ」

 

 車中に置かれたデルフリンガーが、呆れたような声で言った。

 その言葉に才人は、これでも六十年前の骨董品なんだけどな、と思いつつも、射撃に集中する。

 照準器を覗き込み、狙いを付ける。『ヨルムンガント』のサイズは、塔の上でしっかりと観察していた。逃さない。才人は、そう心の中でつぶやき、発射レバーを握る。

 そして、才人はレバーを力強く引いた。

 

 轟音が車中に響き、震動が伝わる。砲塔から煙と共に、砲弾が吐き出される。

 それをコルベールは操縦席のキューポラから、ルイズは開けたハッチの上から、才人は照準器からしっかり見ていた。

 

 唯一、外を確認できない装填手のエレオノールが叫ぶようにして言う。

 

「どう!? 当たったの!? 効いた!?」

 

 すると、エレオノールが頭に着けていたヘッドフォン型の通信機から、同時に返事が流れる。

 

「命中! 敵沈黙!」

 

「当たったわ。たった一撃で倒せたわね」

 

「ハハッ、地球なめんなファンタジー!」

 

 タイガー戦車に搭載された砲弾。88mmの鋼鉄の弾は、『ヨルムンガント』の鎧を軽々と突破した。その威力は、あらゆる物理攻撃やメイジの魔法を反射するエルフの強力無比な先住魔法、『反射(カウンター)』をも押さえ込むほどの威力。

 たった一撃で、『ヨルムンガント』は内部構造を破壊されて沈黙した。『ゴーレム生成』の魔法で作り出した鋼鉄のゴーレムと違い、『ヨルムンガント』は精密なマジックアイテムのガーゴイルだ。装甲を突破されてしまえば、簡単に機能を停止してしまうようであった。

 

「さあ、次の目標へと行くわよ!」

 

 残り三体。それをルイズ達は順番に撃破していく。二体目、三体目と、それぞれ相手の反撃を許さぬ遠距離からの一撃で沈黙させた才人。建物が建ち並ぶ市街地という、ヨルムンガントが自由に動けない立地が彼らに味方した。

 だが、四体目は一筋縄ではいかなかった。なんと、ロマリア市内の大通りをタイガー戦車に向けて疾走してきたのだ。

 

 慌ててバック走行をしようとするコルベール。

 すると、才人が(のぞ)く照準器に『ヨルムンガント』は上手く収まってくれない。

 

「先生、止まって!」

 

「しかしだね、サイトくん!」

 

 そんなやりとりを聞いたルイズは、恐怖を押し殺し、通信機に向けて叫んだ。

 

「走行停止! サイトを信じて!」

 

 その言葉に、コルベールは覚悟を決めて走行を止めた。

 大通りを疾走する『ヨルムンガント』。それをハッチから頭を出して見たルイズは、思わず恐怖も忘れてニヤリと笑ってしまった。

『ヨルムンガント』は大きい。それはすなわち、この大通りの道を簡単に逸れることができないということであり……。

 

 車中で照準器を覗く才人が主砲の発射レバーを引くのと同時に、ルイズは言った。

 

「これがわたしが求める新しい破壊の力、『科学』よ。いかがかしら、ジョゼフ王」

 

 四体目の『ヨルムンガント』は正面から砲撃を食らい、胸部を貫かれて沈黙した。

 ここに、『巨人』と『虎』、『魔法』と『科学』の戦いは決着した。

 

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