【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
ルイズ達が『ヨルムンガント』を撃退したのち、ロマリアから各国の要人は一斉に自国へと帰還した。
厄介な戦争に巻き込まれたくないという気持ちの表れだ。それはつまり、戦争へ積極的に介入してロマリアへ協力する姿勢の国が存在しないことを意味していた。
トリステインのウェールズ夫妻も、特に教皇へ協力を申し出ることなく『イヴェット』号に乗ってトリステインに帰還した。
アルビオンとの戦争でトリステインはロマリアと連合軍を組んだが、あくまでそれはアルビオンに対する臨時の同盟。ゲルマニアとは正式に軍事同盟を結んでいるが、ロマリアの戦争に介入する理由はトリステインにはなかった。
なお、トリステイン艦隊は帰国のための移動中に、再びガリア領の上空を通ったが、ガリア艦隊が彼らに手を出してくることもなかった。ガリア側も、トリステインがロマリアに味方しないということを理解していたのだろう。
そして、帰国したウェールズ国王は、さっそく国内に触れを出した。
「
その宣言は、国内の貴族には驚くべきこととして受け取られた。
ブリミル教は全ての国民にとって心の支えである。そしてロマリアはブリミル教の総本山。そこへ攻め入ろうとしているガリアと戦わないのはどういうことかと、不満の声が上がった。
貴族の多くは『ラグドリアン・テクスト』を未だに知らない。ゆえに、『聖地奪回』を掲げるロマリアと、人的資源と時間を浪費するだけだとしてそれに反発したガリアという構図の中で、ロマリアを支持する者が多かったのだ。『虚無』の担い手の出現で、『聖地』に座するエルフに今度こそ勝てると思っている者もいたのであろう。
しかし、それをウェールズは押さえ込んだ。『聖地奪回』の愚かさを説き、今はアルビオンとの戦争で疲弊したトリステインの国力を高めるベきだと主張して、貴族達の不満をなんとか解消していった。
それでもロマリアはブリミル教徒を
しかし、その義勇兵の大半は平民。肝心の貴族は、祖国に止められ参戦することはなかった。
そう、トリステイン、ゲルマニアの二大国が中立を表明したことにより、他の小国も戦争への介入を行なわなかったのだ。
そのため、ロマリアは戦力の中核を担うメイジを大きく欠いたまま、大国ガリアとの戦いに挑むこととなった。
宗教庁は、此度の戦いを『聖戦』と称して信徒の士気を上げようとした。だが、圧倒的国力の差に、ロマリア軍の兵士達はどこか腰が引けている様子が隠せていなかった。
一方、ガリア。
こちらも、ブリミル教の総本山と戦うこととなり、兵達の士気は低かった。
かつてガリアとロマリアは領土を奪い合った戦いの歴史があるが、今のロマリアは領土欲を持たない穏健派が上層部を占めている。そんなロマリアを攻めるのは、神や始祖にツバ吐く行為なのではないかとガリアの人々は恐れた。
だが、ここで『名君』ジョゼフ王は思わぬ策を投じた。それにより、貴族の士気は一気に上がった。
ジョゼフ王の打った一手。それは、ガリアの貴族全員に対して『ラグドリアン・テクスト』を公開するという暴挙であった。これにより、ジョゼフ王は『聖地奪回』の愚かさを国内の貴族達に知らしめたのだ。
自身の足元に途方もない爆弾が仕掛けられていると知って、ガリア貴族は恐怖し、そして次なるジョゼフ王の一手にて奮起した。
ジョゼフ王が、功を立てた者にはアルビオンのガリア領にて役職を与える、そう宣言したのだ。いつ崩壊するかも分からないハルケギニアの大地から、アルビオンに逃げられると知った貴族達。彼らは我先にと兵を率いて、戦争へと志願した。
『ラグドリアン・テクスト』の公開は劇薬であった。そして、社会の混乱をもたらす毒薬でもある。これには、トリステインとゲルマニアの二国の首脳陣は頭を抱えるはめになった。
だが、その一報を魔法学院のコルベール研究室で聞いたルイズはと言うと。
「アハハハハ! さすがジョゼフ陛下ね! ここぞの一手が見事だわ!」
友の差した一手に、大笑いしていた。
それを隣で聞いていた才人は、思わずルイズに突っ込みを入れた。
「オイオイ、笑い事かよ。『テクスト』のことが世間に知れ渡ったら大問題なんじゃないか?」
「今さらその程度、問題ではないわよ」
笑いをこらえながら、ルイズは答える。
「だって、もう『テクスト』はトリステイン・ガリア・ゲルマニアの三国だけの秘密じゃなくなったのだもの。ハルケギニアのあらゆる国の首脳陣に知らせたから、そのうちどこからか漏れていたわ」
「うえー、アルビオンではあれだけ苦労して『テクスト』を破棄しに行ったのになぁ」
「反乱軍がアルビオン大陸を占領しかけていた一年前とは、状況が全く違うわよ。あのときは、アルビオンへの避難を理由に反乱軍が大きくなってしまう危険があったの。今はむしろ、アルビオンへの避難を餌に、臆病な貴族を自由に操れる状況ね」
「そんなもんか」
そう言って、才人はルイズとの会話を中断して手もとのノートパソコンの操作を再開した。
今、彼はコルベール研究室にて、『世界扉の手鏡』を使ってインターネットに接続していた。
ネット経由で、有益な技術情報をかき集めているのだ。ルイズも日本語を読めるようになったが、専門用語に関しては未だに覚えきれていないところがある。『リードランゲージ』の魔法も、ハルケギニアに存在しない言葉は訳しきれないのだ。
ちなみに、コルベールとエレオノールは、以前、学院の外に建てた格納庫に置いた、タイガー戦車の解析を続けている。『イヴェット』号で、ロマリアからここまで持ち運んできたのだ。
タイガー戦車は、ガリアの新兵器『ヨルムンガント』を撃退できる強力な兵器である。当然、ロマリアからの持ち出しは渋られた。
しかし、『ガンダールヴ』以外にこの兵器を動かせる者がいるのかとルイズに言われ、ロマリア側は困り果てた。
ロマリアにとって『場違いな工芸品』のほとんどが、解析することすらできなかった謎の物体だ。だからこそ、地下のカタコンベ跡の倉庫にずっと放置されていたのだ。
そして、次にロマリアはルイズと才人に協力を要請した。しかし、これはウェールズ王が間に入って拒否した。
トリステインは中立を維持するので、二人を従軍させられないと断ったのだ。
そして、『場違いな工芸品』を全て貰う代わりに、多額の金貨を供出するとも言ったため、ロマリアは渋々これらの品を手放した。ロマリアとしては、ガリアとの戦争を前に、軍資金はいくらあっても足りない状況だったからだ。
そうして、ルイズ達コルベール研究室とエレオノール率いるアカデミーの実践魔法研究室は、多数の地球産の兵器を得ることができた。彼らはすでに、ハルケギニアの『科学』の最先端を行く頭脳集団となっている。数々の兵器は、解析され、再現され、昇華されることは確実であった。
「さてさて、お馬鹿さん達が戦争をやっている間に、本格的に『鉄道』を開発しちゃうわよ。
本格化する『大隆起』対策で、これから『風石』は山のように掘られることになる。
世間が戦争に注目するその裏で、ここトリステインは産業革命の前夜を迎えようとしていた。
◆◇◆◇◆
ガリア・ロマリア戦争が本格的に始まった。
二国間の国境には、火竜山脈がまたがっている。よって、まずは陸軍の衝突ではなく艦隊による空中戦が繰り広げられることになった。
ガリア王国は強国であり、軍艦の数も多い。整備中の軍艦を爆破するテロが一部で巻き起こったが、すぐに下手人は捕らえられた。
ブリミル教のシスターが『水』の魔法で他者を操って実行犯に仕立て上げるという、巧妙な手口だった。だが、宗教関係者はロマリアの内通者である可能性が高いと見られていたため、すぐに犯行が露見し、シスターは処刑された。
そのような国内でのゴタゴタもあったが、ガリア艦隊は無事に火竜山脈へと飛び立った。
ロマリア連合皇国からも各都市国家からかき集めた艦隊が出発したが、その規模の差は明らかであった。ガリア側の圧倒的優位だ。
そして、接触した二国の艦隊は砲撃戦を開始。
ここで、戦力の差だけでなく技術力の差も、二国の間には存在していた。
『ヨルムンガント』を開発したガリアは、その過程で
青銅製の巨大な大砲が、これまた巨大な砲弾を撃つ。ロマリア製の大砲の射程外から放たれるそれは、ロマリア艦隊を一方的に蹂躙した。
そこからは、空と陸両方での戦いが繰り広げられる。
ロマリアに各国から集まった多数の平民の義勇兵が参加しているとはいえど、ガリアは強国。そしてガリア側の貴族の士気は高い。
その様相は、多勢に無勢ともいえる戦力の差となって表れた。
その戦力の差に対し、策をもって
だが、ジョゼフ王は王道にのっとり、いずれの戦場でも数で圧倒し、ところどころでは思いもしない奇策を用いて、ロマリアの策を一つ一つ潰していった。
着実に南下していくガリア陸軍。新たな『ヨルムンガント』も投入され、ロマリア陸軍はなすすべもなく敗走していった。
もはや、一方的とも言っていい戦いだった。
そして、火竜山脈での緒戦から一ヶ月後。ロマリアは領土の四分の一を失い、ガリアに降伏した。
のちに『一ヶ月戦争』と呼ばれる事になる、ロマリア連合皇国の歴史的敗北であった。
その終戦の報をルイズは再び、コルベールの研究室で耳にした。
「ま、予想通りの結果ね」
ノートパソコンを器用に指で操作しながら、あっけらかんと言うルイズ。
一方、才人はノートパソコンから書き写した資料の添削をしながら、ルイズに向けて問うた。
「なんでまた、ロマリアはガリアを敵に回しちゃったんだろうな」
「あら、今回の戦争はガリアから喧嘩を売ったのよ?」
「でも最初に『聖地奪回』とか言い出したのはロマリアなんだろ?」
「言い出したからって、まさか戦争を吹っかけられるとは思わないでしょう。その辺、教皇聖下はジョゼフ陛下のことを侮っていたわけね。反対はされても、反発はされないだろうってね」
「へえ……」
才人は、添削を続けながらルイズと会話を続ける。ちなみに、コピー機やプリンターなどという便利な周辺機器は存在しないため、全て手書きである。
「ジョゼフ陛下はね、今では『名君』なんて言われているけれど、国王に即位した直後は『無能王』なんて呼ばれていたの。その『無能王』の印象が、教皇聖下には残っていたのかもしれないわね」
ルイズのその言葉に、才人は目をパチクリとさせた。
「『無能王』から『名君』って、変わりすぎだろ」
「最初はやる気がなかったみたいね。それに、陛下は魔法がろくに使えなかったの。だから無能扱いを受けていた。でも、今思えば、それって『虚無』の担い手だから、わたしみたいに魔法が正常に発動しなかっただけだと思うのよね」
「国王が『虚無』の魔法使いか……確かに、王家の血筋に『虚無』が発現するっていうなら、納得だな」
と、そんな二人の会話を見守っていた、第三者。ルイズに終戦を知らせにきたアンリエッタ直属の女官アニエスが、ルイズに向けて発言する。
「そのことですが、ミス・ヴァリエール。ガリア王国のジョゼフ王から、『虚無』の担い手の招集要請が来ています」
「……うん? 詳しくお願い」
「なんでも、四の指輪と四の秘宝を
「調印って、どこでやるのかしら?」
「『虚無』を二名
「そう。なら問題ないわね。日程を知らせてくれたら予定を空けておくわ」
「かしこまりました」
こうして戦争は、ルイズの関係ないところで勝手に終わり……その結果として、『虚無』の担い手があらためて一ヶ所に集まることとなった。