【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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105.虚無会談

 七月の九日目……すなわち、アンスールの月の第二週、虚無の曜日。

 

 トリスタニアの王宮で、ガリア・ロマリア戦争の停戦協定が調印された。

 戦争に敗れたロマリアはガリアに領土を奪われる形となり、他にもいくつかの不平等条約を結ばされることとなった。

 ガリアの完全勝利。しかし、ガリア側も得ばかりしたわけではない。得た土地には今まで国境線となっていた火竜山脈が含まれており、ここは今年中にも『風石』の活性化が起きる土地と見なされていた。よって、早急な『風石』の採掘が求められることとなった。

 

 ただし、ガリアは『ヨルムンガント』の開発を通じて、『風石』を動力に換える技術を確立している。

 火竜山脈の地下に眠る『風石』の採掘で、得をするか損をするかは、ガリアの今後次第と言える状況であった。

 

 そんな調印をトリステインのウェールズ王は仲介役として見守った。

 ガリアからの侵略戦争であるが、侵略を行なった理由はロマリアが『聖地奪回』のために『聖戦』を発動したからだ。

 よって、ウェールズ王はどちらに肩入れするでもなく、中立を維持したまま最後まで二国間のやり取りに余計な口をはさまなかった。

 

「ここに、停戦協定が締結されました。以後、新たな宣戦布告なき二国間での戦闘行為を全面的に禁じます」

 

 ウェールズ王が、そう宣言し、ロマリアだけでなくガリアの大使もホッと息を吐いた。

 戦争に大敗したロマリアだけでなく、ガリアとしても戦争が終わって一安心といったところ。なにしろ、『大隆起』の件があったといえどもブリミル教の総本山を相手に戦っていたのだ。国内の敬虔な信者達からの突き上げは強かった。

 

 貴族は戦功によってアルビオンへの移住や、領地の優先的な『風石』採掘といった利益を得ることはできる。

 しかし、豪商などの力ある平民は、そういった恩恵を受けることはできない。よって、平民の裕福層を中心に戦争反対派は国内にも多くいたのだ。

 

 さらに、戦争の影響で、順調に進められていた『風石』採掘の国内での進捗が止まっている。

『ラグドリアン・テクスト』が国内に広まった今となっては、戦争をしている場合ではないという声も上がっていたのだ。

 よって、早期に戦争を勝利で収め、こうして停戦協定を結べたことは、ガリアにとってこれ以上ない成果と言えた。

 

 さて、二国の大使が停戦協定を進めていたその裏で。同じくトリスタニアの王宮にて、『虚無』の担い手を四名集めた『虚無会談』が行なわれようとしていた。

 ジョゼフ王の要請によって実現した、『虚無』の担い手と使い魔を集めた秘密会談だ。

『虚無』の担い手はトリステインの用意した円卓に座り、その背後に使い魔が控えている。

 

 トリステインからは、ルイズとその使い魔『ガンダールヴ』の才人。

 もう一人、トリステインから、ティファニア。

 ロマリアからは、教皇ヴィットーリオとその使い魔『ヴィンダールヴ』のジュリオ。

 ガリアからは、ジョゼフ王とその使い魔。

 

 ルイズ達は、初めて見るジョゼフ王の使い魔に注目した。

 それは、ハルケギニアではあまり見られない顔立ちをした黒髪の女性だ。ルイズはその特徴から、東方ロバ・アル・カリイエの出身だと当たりを付けた。

 そんな周囲の目線に気付いたのか、円卓に座るジョゼフ王は後ろに立つ自らの使い魔の紹介を始めた。

 

「紹介しよう。余の女神(ミューズ)。『神の頭脳』、『ミョズニトニルン』のシェフィールドだ」

 

『神の頭脳』と聞いて、ルイズの目が輝く。

 確か、ウエストウッド村で聞いた唄では、どう語られていたか。ルイズは記憶を掘り起こした。

 

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 

 そう、知恵のかたまりで神の本だ。なるほど、その知恵でもって『ヨルムンガント』を開発したのだろう。ルイズはそう予想した。しかし……。

 

「別に、そこの『賢者』みたいに頭が良いわけではないわ。あらゆるマジックアイテムを自在に扱える能力があるだけ」

 

 苦笑いしながら言ったシェフィールド。本人からそう否定され、少しガッカリするルイズだが、そこで思い直した。

 マジックアイテムには、メイジしか利用できない物や、使用方法が分かっていない未知の骨董品も存在している。それらを自在に扱えるというのなら。なるほど、確かに『ガンダールヴ』に匹敵する強力な使い魔である。

 ただし、複数のマジックアイテムをそろえられる財力があるのならば、と但し書きがつくが。

 

 その点、彼女の主はガリアの王であるので、いくらでも彼女にマジックアイテムを買い与えてやることができる。恐ろしいコンビであった。

 

 そんなシェフィールドの紹介から、各人が軽く自己紹介をする流れとなった。

 そうして一通り、互いを把握し合ったところで、ジョゼフ王が話を切り出す。

 

「ここにこうして、四の指輪と四の秘宝がそろったわけだ。よって、これよりお互いの秘宝を用いて、新たな『虚無』の魔法を習得できぬか試そうではないか」

 

 円卓には、ジョゼフ王の言葉通り、四つの秘宝が置かれている。

 

 ルイズの前には、革張りの本。『始祖の祈祷書』。

 ティファニアの前には、小さな小箱。『始祖のオルゴール』。

 教皇ヴィットーリオの前には、古ぼけた鏡。『始祖の円鏡』。

 ジョゼフ王の前には、手の平大の焼き物。『始祖の香炉』。

 

 それらを互いに交換し、魔法の発現を試すというのが今回の会談の趣旨であった。

 それらの秘宝を興味深そうに眺めた教皇は、ジョゼフ王に向けて言った。

 

「目覚めた新たな力を使って、わたくしが戦争の結果をひっくり返そうとするとは思わないので?」

 

 その教皇の発言をジョゼフ王は鼻で笑った。

 

「今頃、停戦協定が結ばれているであろう。もしも、ここから戦争を再開するなどと言い出したら、お前はその地位を降りるどころか、坊主どもの手により首を宮殿の前に晒すことになることだろう」

 

 ロマリアは今回の戦争で、これ以上ないほど疲弊している。

 ここで逆転の手があるから戦いを再開すると言ったところで、ついてくる者はいないとジョゼフ王は告げているのだ。

 その言葉を受けて、教皇は薄く笑みを浮かべて沈黙した。

 

「さて、ではまず、余から試させてもらおう。余から言い出した話だ。文句はあるまい?」

 

 そのジョゼフ王の言葉に、反対意見は出なかった。

 そうして、ジョゼフ王は順番に始祖の秘宝を試していく。すると、『始祖のオルゴール』を開いたところで、ジョゼフ王はピクリと眉を動かした。

 

「ふむ、これは『エクスプロージョン』の魔法か。ハハハ、我が友の得意魔法をおれも覚えられるとは」

 

 そう笑ったジョゼフ王に、ルイズは苦笑して言葉を投げかける。

 

「そんな物騒な魔法が発現したってことは、今後、荒事に巻き込まれる可能性は高いわよ」

 

「確かにそうだ! 必要に応じて魔法を覚えるのであったな! 気を付けるとしよう!」

 

 そうして、ジョゼフ王は新たに『エクスプロージョン』の魔法を習得した。

 他の魔法は覚えなかった。彼に必要な魔法は、現状それだけということだろう。

 

「さて、次はどなたが?」

 

 教皇がそう三人に尋ねると、ジョゼフ王が目を輝かせて言った。

 

「では、我が友ルイズよ、そなたからだ」

 

 実のところ。ジョゼフ王にとっては、自身の魔法の習得よりもこちらが今回の主目的だった。

 すなわち、ルイズがこの状況で、どのような『虚無』の魔法に目覚めるのか。彼女のファンとして、目の前でその様子を確認したかったのだ。そのためだけに、今回のつまらない戦争を最後まで投げ出さずにやりきったと言える。

 

 そしてルイズは、まず『始祖の円鏡』を試した。だが、鏡の表面には何も浮かび上がってこない。

 ルイズはそれに肩を落とし、次はジョゼフ王から『始祖の香炉』を受け取った。ルイズが『水のルビー』の嵌められた指先を香炉に触れると、香炉からかぐわしい香りを持つ煙が吐き出された。

 

 その芳香を嗅いだルイズは、不意にルーンが頭の中に浮かび上がってきた。

 新しい『虚無』の魔法が発現したのだ。その効果は、対象物に込められた強い記憶を脳裏に映し出すというもの。

 

リコード(記録)』。それが新しい魔法の名であった。

 

 そのことをルイズは、皆に報告すると、ジョゼフが笑みを浮かべて言った。

 

「ほう、『エクスプロージョン』と違って、この場で試せそうな魔法だな。どれ、我が友よ。試しに使ってみるとよい」

 

「そうね……この魔法のことを考えると、なんとなく物体に込められた強い念とでも言うべき何かを感じ取れるのだけれど……この場にある強い念は、二つあるわ」

 

 ルイズは、そう言うとまずは教皇へと目を向けた。

 

「一つは、教皇聖下の『炎のルビー』。念の古さからして、おそらく母君のものでしょう」

 

 その言葉に、教皇はわずかに動揺して身じろぎした。

 

「そしてもう一つは、ジョゼフ陛下の『土のルビー』。数年前の、陛下の血縁らしき念を感じるわ」

 

「おれの血縁……? 父王の念であろうか。よし、ルイズよ。『土のルビー』にその魔法をかけるのだ」

 

「分かったわ。しかし、相当強烈な念ね、これ……」

 

 そんなルイズの言葉を聞いて、彼女の背後にいた才人は、サイコメトリーという地球の創作物で扱われていた超能力を連想した。いよいよもって、魔法はなんでもありだなと苦笑してしまう。

 

 そしてルイズは、『始祖の香炉』に再び触れ、芳香を嗅ぎながら頭の中に浮かぶルーンを読み上げていく。

 やがて、呪文は完成し。ルイズがジョゼフ王に指先を振るうと、彼が右手に嵌めていた茶色の宝石の指輪、『土のルビー』が光り輝き始めた。

 

 そして。この場にいる七人の心の中に、『土のルビー』に込められた記憶が流れ込んできた。

 

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