【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第十章 科学と魔法が交差する
107.『風石』採掘


 ジョゼフがガリア貴族を焚きつけるために、おおやけとしてしまった『ラグドリアン・テクスト』。

 ガリアでの公開を契機にして、トリステインでも『ラグドリアン・テクスト』の公開範囲を貴族全体に広げた。

 そして、貴族の多くが『風石』採掘事業へと本格的に投入されることとなった。

 

 そんな貴族達だが、彼らは『土』のメイジだけが苦労することになるとばかり思っていた。しかし、そんなことはなく、四大系統すべてのメイジが駆り出され、等しく苦労することになった。

 

 まず、『土』のメイジが地面を掘り進める。

 途中、水脈に当たったり、鉄砲水が吹き出たりする危険があるため、『水』のメイジが探知を続ける。

 酸欠になったり、毒ガスを掘り当てたりする危険もあるため、『風』のメイジは地下と地上で絶えず空気のやりとりを繰り返す。

 唯一、属性が役に立たないはずの『火』のメイジは、精神力を温存して非常事態に備える。

 

 非常事態。それは、落盤といったものではない。そちらは土のメイジが気を付けるべき項目だ。

 ハルケギニアという世界の地下には、幻獣の巣が存在している可能性がある。それが不死鳥飛行隊の隊長ギーシュの使い魔であるジャイアントモールなどの温厚な生物であれば問題ない。しかし、肉食だったり、巨大すぎたりする幻獣だった場合、退治する必要が出てくるのだ。文字通り火力が高い『火』のメイジは、そういった危険生物の駆除に向いていると言えた。

 

 そんな風石採掘事情だが、ここに来てアカデミーの実践魔法研究室で新開発されたマジックアイテムが猛威を振るうことになる。

 錬金の魔法を継続発動して地面に穴を空けることができるという、採掘のための専用マジックアイテムである。

 

 発動には精神力を使うため、魔法を習得していない平民でも使えるとはならないが、それでも魔法を覚えたての平民メイジでも採掘事業に関わることができるようになる。

 そのことから、このマジックアイテムは大量生産され、さらに国外へも輸出されてトリステインの国庫を潤した。

 

 そして、そんな開発されたばかりのマジックアイテムを使い、採掘事業に精を出す者が、ド・オルニエール領にいた。

 不死鳥飛行隊の面々である。

 

「うわあ、本当にあったよ。『風石』の塊」

 

 マジックアイテムを活用して、地下深くに辿り付いた不死鳥飛行隊の隊員達。それを指揮するのは、技術主任のルイズだ。

 地下七百メイルほどの深さまで掘り進めて見つけた、『風石』の鉱脈。

 魔法の光に照らされる、あまりにも巨大な『風石』を見て、地上との風の入れ替えをしていたマリコルヌが、あんぐりと口を開けた。

 

 彼らは、今日この瞬間まで、『大隆起』のことを心の底では信じ切れていなかった。世界の終わりなど、あまりにも現実離れしすぎていたからだ。

 しかし、世界の終わりは確かにこうして地の底で眠っていた。

 

「さ、見物はほどほどにして、『風石』を掘り出すわよ。事前に説明した手順を絶対に守ること!」

 

 ルイズが手を叩いて驚き固まっている少年達を促す。

 すると、地中にいた少年達が、それぞれ割り振られた作業に取りかかり始める。

 と、そのとき、先ほど『風石』を前に呆けていたマリコルヌが、ルイズに尋ねた。

 

「ルイズ、もし手順を間違えるとどうなるんだい?」

 

「そりゃあ、『風石』が壊れて暴風が吹き荒れたり、暴風の影響で落盤が起きたり、『風石』が活性化してド・オルニエール領で『大隆起』が発生したりするわね」

 

大事(おおごと)じゃないか!」

 

「大事だから、手順は守ることね」

 

 そうしてルイズは、才人のノートパソコンを通じて彼の父から聞いた、日本の鉄鋼業で使われているという合い言葉を口にした。

 

「さあ、気を付けながら頑張りましょう。『ご安全に!』」

 

 そうして、一定の手順で分割されて掘り出されていく『風石』。

 地上まで敷いたトロッコで、次々と運ばれていく。アカデミー製の専用カッターを手にしながら地上へと向かうトロッコを見送ったギーシュは、顔に笑顔を浮かべながら言う。

 

「こりゃあ、大儲けじゃないか? 掘った『風石』の売却益の一部は、ぼくら全員に手当としてもらえるんだろう?」

 

 そう、彼らはただ働きでこんなことをしているわけではない。

 この日は、ガリアとロマリアが未だ戦争を続けていた六月(ニューイの月)の中旬。トリステイン魔法学院は夏期休暇に入ったばかりの頃であり、本来ならば不死鳥飛行隊としての訓練をしているはずだった。

 しかし、こうして訓練とはまた違う重労働に駆り出されて、喜んで従事するとはいかないものだ。ゆえに、この仕事には不死鳥飛行隊の給金とはまた別に手当が出ることになっていた。

 

 だが、浮かれるギーシュの希望を砕くように、ルイズが言う。

 

「何を言ってるのよ。今の『風石』の市場価格を知っているの? ハルケギニアの地中を深く掘れば、どこでも簡単に見つかるんだからとっくの前に暴落済みよ」

 

「ええっ!」

 

「大隆起の話が漏れる前から、大きな鉱脈が見つかったという建前で大量に出回っていたわよ。だからこそ、『フェニックス』号だって普段から『風石』の消耗を気にせず気軽に飛ばせているんじゃない」

 

 ちなみにトリステイン、ガリア、ゲルマニアの三カ国は、『ラグドリアン・テクスト』の公開前に大量の『風石』を掘り出して、外国に売り払って利益を確保していた。これを知った周辺諸国から文句が出たが、その代わり三カ国は『大隆起』対策の支援を行なうとして他の国をなんとかなだめすかしていた。

 

「ま、道中で掘り出した鉱物類は別途売れるから、そちらに期待しておくことね」

 

 ルイズがそう言うと、ギーシュは「(きん)でも見つからないかね」とぼやく。

 さすがにそれは、と周囲から笑いが漏れるが、ふとそのとき、ギーシュが採掘の手伝いとして呼んでいた使い魔のジャイアントモールがギーシュの横でバタバタと腕を振り始めた。

 

「おや、どうしたんだい、ヴェルダンデ」

 

 ギーシュが使い魔に尋ねると、ジャイアントモールのヴェルダンデはその腕で地面を叩いた。

 その様子に、ギーシュはハッとした。

 

「みんな! この下に、宝石が埋まっているよ!」

 

「なんだってぇ!?」

 

「『風石』なんて掘っている場合じゃない!」

 

 専用カッターで『風石』を切り出していた少年達が、仕事を放り出してギーシュのもとへと集まってくる。

 そして、採掘作業を放棄して宝石掘りを始めてしまった。

 

 これにはルイズも呆れ返った。

 しかし、仕方がない。不死鳥飛行隊のメンバーには、大領地を持つ家の長男などといった金満な立場の者などいないのだ。皆、(かね)に飢えていた。

 そして、慎重に掘り出されていく宝石の原石。それを見て、少年達は歓声を挙げた。

 

「ルイズ、ルイズ! この宝石の価値はどんなものだね!?」

 

 高価な宝石に縁のない少年の一人が、公爵家の娘であるルイズに尋ねた。

 すると、ルイズはため息を吐いてから言った。

 

「トパーズね。その大きさならまあまあ価値があるわよ」

 

「おお、公爵家のまあまあなら、きっとすごいぞ!」

 

 少年達から再び歓声が上がる。

 それを微笑ましく見ていたルイズだが、そこで一つ閃いた。

 

「ねえ、みんな。それ、わたしに預けてみない?」

 

 すると、ギーシュが不思議そうにルイズに問い返した。

 

「うん? ルイズならネコババはしないだろうが、どういうことだい?」

 

「サイトの故郷と連絡が付くようになったって言ったじゃない? 実はサイトの故郷って、宝石のカット技術も優れているらしいのよね。ハルケギニアには存在しなかった新しいカット、それを施したら普通に売るよりも何倍も高く売れるわよ」

 

 ルイズがそう言うと、少年達が「うおー!」と叫び声を挙げた。

 そして、さらに宝石を探そうと、ギーシュを促して宝石探しを始めだしてしまった。

 それを見て、ルイズは余計なことを言ってしまったと後悔した。

 

 そんなとき、地上から『風石』を下ろしたトロッコが帰ってきた。そこに、魔法を使えない肉体労働担当の才人も同乗していた。

 すると、才人は地下の様子を見て眉をひそめた。

 

「おいおい、全然掘れてないじゃねえか」

 

 そんな才人に、少年達は宝石が見つかったことを誇らしげに語る。

 しかし、才人の反応はというと。

 

「いや、そういうのは『風石』掘り終わってからにしようぜ。近くに『風石』がある状態で余計なことをして、大事故が起きました、なんて冗談じゃ済まねえぞ」

 

 もっともな言葉に、少年達は冷静さを取り戻した。そうだ、自分達のすぐ隣には、『風石』という危険物質が存在するのだった。

『ご安全に!』という、ルイズが言っていた言葉を再度思い出し、少年達は己の作業に戻っていった。

 

 そうして、『風石』の採掘は進んでいく。

 トロッコは何度も往復し、地上には『風石』が大量に積み上がっていった。

 そして、往復も二桁台に突入したところで、才人が言った。

 

「しかし、ここ妙に暑くねえか?」

 

 首に巻いた手ぬぐいで、才人は顔の汗を拭く。

 だが、少年達は採掘作業ですでに全身ドロドロになっていたため、汗を掻く才人の感覚が分からないでいた。

 

「重労働で身体が熱くなっているだけじゃないのかい?」

 

 副隊長のルネが、そう才人に言う。だが、才人はそれを否定するように言葉を返す。

 

「いや、地上の方は涼しいんだよ。夏なのに地下の方が暑いんだ。地熱ってやつなのか?」

 

 地下には、『風』のメイジがしっかりと魔法で空気の循環を行なっている。だから、ここだけ熱が籠もっているということはないはずであった。

 それはつまり、この地下の環境そのものが暑いということになる。

 

「下にマグマだまりとかないよな?」

 

 才人がそう言うと、少年達はギョッとした顔になる。

 すると、ルイズはその才人の言葉を否定した。

 

「いえ、このあたりに活火山はないわよ。そもそも、トリステインには山が全然なくて、平地ばかりで休火山すら少ないわ」

 

 ルイズの言葉通り、トリステインは平地が多い。

 ゆえに農業が盛んで、だからこそガリアとゲルマニアという大国にはさまれても国力を維持してこられたのだ。

 

「んー、じゃあ、この暑さはなんなんだろうな。地下に温泉でも湧いてりゃ面白いんだけど」

 

「まさかそんな……まさか……」

 

 ルイズは否定の言葉を言い切れず、やがて考え込み始めてしまった。

 その最中も採掘作業は進んでいく。そして、才人は一人黙るルイズを尻目に、トロッコへの『風石』詰め込み作業を手伝っていく。

 そして、数日にわたり『風石』の採掘は続き。最終的に、地下から温泉が噴き出した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 今年に入ってからの鉄道馬車の開通で、ここド・オルニエールは活性化していた。

 都会に出ていた若者達が戻ってきて、不死鳥飛行隊や新住民を相手にする商人も多く集まっている。

 王政府からは優秀な代官も派遣されて、何十年も前の活気が戻ってきたと老人達は喜んだ。

 

 さらに、不死鳥飛行隊が魔法の訓練と称して、ルイズの指示で住人達のために役立つ魔法を使うこともよくあった。

 そのおかげで、枯れていたはずの土地は蘇り、夏の実りはこれ以上ないほどの規模となっている。

 一方、土地が枯れたままの区画ではブドウがよく育ち、今年もよいワインが作れそうだと老人達は沸き立った。

 

 不死鳥飛行隊も、住民からのワインの差し入れにはとても喜び、上機嫌で彼らのために魔法を使った。

 まさに、ハルケギニアで本来あるべき理想的な貴族と平民の姿であった。

 

 そして、そこにきて温泉が湧いたと聞いて、老人達は驚きを通り越して笑ってしまった。

 

 人伝に聞いた『大隆起』の話は恐ろしかったが、その原因は貴族達が率先して取り除いてくれた。

 その結果、温泉が湧いたというのだから、彼らはあの騒がしい貴族の少年達に感謝してもしきれなかった。

 

 さらに、代官が温泉を整備すると言って、領の外から建設専門のメイジを呼びだして、さらに領内は賑わった。

 温泉の湯量は豊富で、平民用にも公衆浴場が整備されることとなった。

 

 平民用の風呂といえば、トリステインではサウナが一般的である。

 まさか、貴族が入るような湯船に浸かる風呂に、平民である自分達が入ることができるなんてと住人達は喜び、温泉をもたらした不死鳥飛行隊への扱いをさらによくしていった。

 

 すると、不死鳥飛行隊もその礼として、温泉設備の建設に協力を申し出るようになった。

 こうして、ド・オルニエール領は鉄道の通る温泉街として、急速に発展していくことになる。

 




・トリステインは平地が多い
ハルケギニア=地球の並行世界説を採用したことによるオリジナル設定。トリステインに対応するオランダ周辺は高い山が全然ありません。ただし、トリステインには、ラ・ロシェールという山間の港町があります。
一方、ガリア西部に対応するスペインは山だらけ。そして、火竜山脈に対応する箇所には、ピレネー山脈、アルプス山脈、ピンドス山脈といった山々が広がっています。

・サウナ
トリステイン魔法学院の使用人達は、貴族が入る浴場の使用を許されておらず、サウナで身を清めている設定が原作に存在します。
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