【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
才人が地球から持ち込んだノートパソコンには、残念なことにカメラは内蔵されていなかった。そのためか、地球とのやりとりを行なえるコミュニケーションツールをインストールしたものの、音声通話のみしかできず、映像通話ができない状況であった。
才人はその状況をそこまで深刻に捉えてはいなかったが、彼の母は違った。
ゆえに、彼の母はこんなことを言い出した。
『才人とルイズちゃんのツーショット写真、欲しいわね』
なにかと才人とルイズの仲を疑ってくる才人の母。
それがまた暴走したのかと才人は思ってスルーしようとしたが、母は意見を譲らなかった。
『うちに、才人の成長記録を収めたアルバムがあるのだけれど……どうせならそこに、彼女とのツーショット写真を収めたいの』
彼女ではない、と才人は主張するが、彼の母はそれを笑ってやりすごし、さらに写真をしつこくねだった。
しかし、確かに親に今の自分の姿を伝えることは大事かもしれない。才人はそうあらためて思った。
そうして、才人は母との通話を終えると、コルベール研究室にルイズとコルベール、エレオノールの三人がいるタイミングで写真のことを切り出した。
「ふうむ、『写真』か……アカデミーは映像を記録し、再生するマジックアイテムを発表していたが、それでは駄目なのかい?」
コルベールがそう言うが、才人は「それもいいんですけど……」と言葉を濁しながら答える。
「アルバムっていう、写真を複数収める本があって、そこに新しく俺やルイズの写真を収めたいそうなんです」
「それなら、肖像画は?」
ルイズがそう尋ねるが、才人はそれも否定する。
「そのままの姿を送りたいんだ。絵は、ちょっと違うかな」
写実的な絵とありのままを写し取った写真は、見た目が似ていても違うものだ。才人はそう主張する。
絵はいくらでも誤魔化しが利くが、写真は特殊な加工をしないかぎり真実をそのままの姿を再現する。ゆえに、自分が異世界にいることを家族に知らせる格好の材料になると才人は言った。
すると、それを聞いていたエレオノールが面白そうに横から口を出す。
「面白いじゃない。『写真機』、作ってみたいわね。でも、さすがに概要だけじゃ作成は無理。『ノートパソコン』で詳しい仕組みを調べてもらっていいかしら」
「詳しい仕組み……調べられるのは多分、大雑把な仕組みになるとは思いますよ? 調べ物には時間がかかりますけど、『世界扉の手鏡』はそこまで長時間稼働するわけでもないですから」
マジックアイテム全般が抱える問題点。それは、長時間の連続稼働が困難であるという点であった。長時間マジックアイテムを動かすと、暴走の危険性がある。
特に、強力で複雑な魔法が込められているほどそれは顕著だ。魔法のランプや、弱い扇風機程度ならば、長時間の使用も可能であるのだが。
そして、『世界扉』の魔法が暴走してしまえば、どんな被害をもたらすかも分からない。
そのため、ルイズは『世界扉の手鏡』を作成した際に、連続使用の時間制限を盛り込んでいた。
「あら、それなら、言い出しっぺに働いてもらいましょう」
才人の説明を聞いたエレオノールが、そんなことを言い出した。
言い出しっぺとは自分のことか? そう不思議がる才人だが、エレオノールはそれを否定し、さらに言う。
「あなたの両親に、カメラの資料をまとめてもらって、こちらに送ってもらうのよ。紙の資料でないならば、やりとりは可能なのでしょう?」
「……なるほど!」
そうして才人は、母に電子メールで、カメラを一から開発できる資料をまとめてくれるよう要請した。
すると、母からはこんな返信がすぐにきた。
『母さん、そういうの詳しくないから、父さんと協力して頑張ってまとめてみるね』
その返信を見て、才人は寡黙なサラリーマンの父のことを思い出す。
家族写真を撮っていたのは、いつもあの父だ。そういえば、カメラも立派な一眼レフを持っていた。もしかしたら、カメラに詳しいのかもしれない。
これは資料にも期待できるな、と才人は資料の完成を心待ちにするのであった。
◆◇◆◇◆
まだガリアとロマリアが激しい戦争を繰り広げていた、
メールはそれなりの容量があり、しっかりと資料をまとめてくれたのだと才人は嬉しくなった。
メールに添付されていたファイルは、PDFだ。資料は画像付きの文章であり、想像以上に『ガチ』の技術資料となっていた。
それを見て、才人は自身の小学生時代を思い出す。夏休みに、お茶を使った朝顔の育成について分厚い観察記録を作ったとき。父はノリノリで記録のまとめかたを教えてくれ、写真の添付も父の発案で行なっていた。まあ、その五十ページを超える大作となった観察記録は教師や生徒達からは引かれたのだが……。
「資料が来たようね。さあ、頑張って書き写すわよ」
ノートパソコンを動かしていたのは、女子寮のルイズの部屋でだ。ルイズも同席していたため、才人が『写真機』の資料を受け取ったことに当然気付いていた。
そんなルイズの言葉を聞いて、才人はうんざりとした表情を浮かべた。
「これ、書き写すのか……」
「当然。重要な資料なのだから、複製は必要よ」
「うう、プリンターが切実にほしい……」
「それは『世界扉』を超える、世界間の物品のやりとりが楽にできる『虚無』でも発現しないと無理ね」
そうして、ルイズと才人は二人がかりで、才人の父が作った分厚い資料をトリステインの言葉に訳して複製した。
それからすぐに、ルイズは『写真機』の作成に取りかかった。
『写真機』の作成に関しては、才人の父があるアドバイスを資料の序文に載せていた。
それは、いきなり現代的なカメラを作るのではなく、地球の歴史に則って、順番に作成して技術への理解を深めるとよいという内容だった。
それにはルイズも賛成だった。一足飛びで完成品をコピーしても、それはただの猿まねであり、応用するための技術は身につかないとこれまでの経験で分かっていたのだ。
たとえば、『戦闘機』や『戦車』は地球の完成品がすでに存在しているが、完成度があまりにも高すぎて、ハルケギニアの技術では再現しきれないところが多くあった。
ゆえに、『写真機』に関しては才人の父のアドバイスに従い、原始的なものから順番に歴史を追って作ることをルイズは決めた。
そのようなことがあり、資料を複製したルイズは、コルベール研究室の皆でまずはピンホールカメラから作成に入った。
ピンホールカメラ、すなわち
ゆえに、『遠見』の魔法が存在し、その魔法をマジックアイテムに付与できるハルケギニアにおいては、ただの遊び道具といった存在でしかなかった。なので、コルベール研究室の誰もピンホールカメラの実物を見たことがなかった。
「ほうほう、なるほどなるほど、魔法を用いることなくこのような現象が起きるとは……」
コルベールは、完成したピンホールカメラを覗き込みながら、映し出されたモデルのキュルケの姿を感心したようになめ回すように見た。だが、そこに卑猥な目線は一切無く、純粋な学術的意図でもってキュルケの全身を眺めた。
「このピンホール部分を凸レンズに変えれば、よりくっきりと像が映し出されるようですね」
コルベールに順番を譲ってもらい、ピンホールカメラを覗き込んでルイズがそう言った。
すると、エレオノールが困ったような表情で口を出す。
「さすがのわたしも、レンズの加工技術はないわよ。カメラにはレンズが必須のようだけれど、どうしようかしら?」
それを聞いたルイズは、カメラから目を離してエレオノールの方を見て、言葉を返す。
「大丈夫、平民メイジの『名もなき学院』にレンズを加工している部署があります。そこに必要なレンズを発注しておきましょう」
「あら、眼鏡でも生産させていたの?」
「アルビオンとの戦争の時に、双眼鏡を大量発注したんですよ。『遠見』の魔法を付与した双眼鏡は、売れ行きがすごかったみたいですよ。顕微鏡の作成実績もありますから、任せても問題ないですね」
「なるほど、期待できそうね」
そうして、必要なレンズを大量発注したコルベール研究室。
『名もなき学院』は恩のあるラ・ヴァリエール公爵家の令嬢からの依頼と聞いて、張り切ってレンズを加工し、短時間で品を完成させた。
そうして、まずはただの小さな穴であるピンホールの代わりに凸レンズを使った『カメラ・オブスキュラ』をルイズは作り出した。
ハッキリとした像が、カメラの箱の中に映る。
そうなると、次はその像を感光させれば『写真』ができあがることになる。最初に用意した感光材料、すなわち光を感じ取って像を写し取る素材は、アスファルトだ。
アスファルトは、すでに『フェニックス』号の滑走路に使う素材としてトリステインでは一般的な扱いとなっている。コルベール研究室でも原料の蓄えは十分あり、すぐさま感光材料として加工されたアスファルトの板が用意された。
「感光に八時間……景色を写し取ることくらいにしか使えないわね」
ルイズはそう言って、完成したハルケギニア初の『写真』を眺めた。
『写真』はアスファルトの板に直接写し取られた白黒の風景だ。題材はコルベール研究室となっているあばら屋。記念すべき一枚にしてはみすぼらしい家屋だが、ここで確かに世界初の『写真機』が産まれたのかと思うと、なかなか感慨深いものがあるとルイズは感じた。
そうして、感光材料をよりよいものへと変えていく一同。
銀板を用いると、撮影時間は一気に短くなった。そのモデルとして選ばれたキュルケは、数十分動くことなく椅子に座り続け、『銀の貴婦人』と名付けられた完成写真はコルベール研究室の壁に飾られることになった。
それから、とうとう現代的な感光材料を用いた『銀塩写真』が作られる番となった。
『ネガ・ポジ法』という写真の焼き増しが可能な写真フィルムを使った『写真機』は、白黒写真をまずは作り出し、最終的にはカラー写真を実現した。
『写真機』そのもののサイズも順を追って小さくなっていき……最終的には両手で構えられるサイズの一眼レフカメラが完成した。
「これは、王室に献上すべきね」
エレオノールが、完成した一眼レフを手に、そんなことを言い出した。
才人はそれを聞いて「なんだか大事になったなぁ」と思いつつも、王室に献上するにあたっての資料作りを手伝わされた。
そうして、トリスタニアの王宮に、コルベール研究室とアカデミーの実践魔法研究室の連名で『写真機』が献上されることとなった。
この新発明には国王夫妻も喜び、コルベール研究室には特別に報奨金が与えられた。
これにはコルベールも大喜び。
「いやあ、これでサイトくんの故郷の技術をさらに再現できる資金ができたな!」
コルベールは、まだまだ才人のノートパソコンを用いて技術を引き出す気が満々であった。
その事実に才人は苦笑したものの、コルベールから渡された一眼レフは彼にとって、確かにありがたい発明品だった。
才人はその一眼レフで、様々な写真を撮った。
まずは自分一人を撮り、次にルイズとのツーショット写真を撮る。コルベール研究室のメンバーに、学院の友人達を写し。不死鳥飛行隊の集合写真も撮って、さらに行動範囲内の風景も撮っていく。
やがて完成した写真の束は、手紙を添えて『世界扉の手鏡』を使って実家のテーブルの上に投げ入れた。
すると、その翌日には母からの長文メールがノートパソコンに届いた。
そしてさらに、筆不精の父からもメールが届いていた。
才人がそれを確認すると、こんなことが書いてあった。
『ルイズさん、ずいぶんと美人さんじゃないか。くれぐれも大事にしてやるんだぞ。結婚式に出られないのは残念だが、ぜひそのときの写真も送ってくれ』
才人は、相変わらず両親はルイズのことを自分の恋人だと勘違いしているな、と苦笑した。
だが、才人はまんざらでもない気分で、ルイズとの結婚式を想像し……。
そこに至るまでに立ちはだかるであろう、ラ・ヴァリエール公爵ピエールという障害を想像して、恐怖に身を震わせた。