【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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109.女王ジョゼット

 時間は前後し、一ヶ月戦争が終結した後に起きた、衝撃的なジョゼフ王退位の直後のこと。

 

 ガリア王国の重鎮達は、頭を悩ませていた。

 ガリア王国の王位を空位のままにするわけにはいかないのだ。現在、ガリア王国は戦争直後のため国力を落としている。しかし、そのような状況で『大隆起』対策を早急に行なう必要があった。

 なにせ、ロマリアから戦争で奪い取った火竜山脈の南部は、未だ『風石』の採掘が手つかずだったのだ。

 大規模な採掘事業を行なうには、国王という旗印がいないことには始まらない。国王がいないと、指揮系統がハッキリせずに貴族達がまとまらないのだ。

 

 さて、次の王をどうしたものか。重鎮達は、派閥の枠を越えて激論を交わすことになった。

 候補は、二人。

 

 ジョゼフ王の娘、イザベラ。

 亡きオルレアン公シャルルの娘、シャルロット。

 

 どちらも女性だが、ガリアでは女王が即位した前例が、一つだけあった。ゆえに、二人のどちらかを王に据える案は反対意見がほぼ出なかった。

 では、どちらが王に相応しいか。

 その答えは、すぐに出た。イザベラが、アルビオン大陸のガリア領にて見事な統治の腕を見せていたのだ。

 

 前王ジョゼフは『名君』と名高い王であった。その娘であるイザベラも、政治の才能があった。

 よって、貴族達は連名で女王にならないかとイザベラに打診を送った。

 しかし。

 

『アルビオンから出る気はない』

 

 そう答えが返ってきて、重鎮達は肩を落とした。

 よほど『大隆起』が恐ろしくて、アルビオンから出る気がないのだろうか。そう思った一同だが、返信を詳しく読んでいくと事情は異なっていた。

 

『わたしは王の器ではない。この狭いアルビオンのガリア領の総督で、自分の器は限界だと知った。というか、部下をもっとよこせ。戦争で手柄を立てた武官じゃなくて、文官をもっとよこせ!』

 

 どうやら、イザベラはアルビオンでの統治を経験して成長し、その結果、自分の限界というものを自覚したようだった。

 こうなると、仕方がない。次の候補であるシャルロットに打診をしよう。重鎮達はそう考えて、トリステイン魔法学院まで大使を送った。

 しかし、こちらの返答も彼らの希望に添うものではなかった。

 

『少なくとも学院の卒業までは、ガリアに戻るつもりはない。卒業後も、トリステインでの活動を考えている』

 

 重鎮達は思わず天を仰いだ。

 姫の二人が、どちらも王位に興味を持っていない。まさかの事態に彼らは困ってしまった。

 王というものは、無理やりにつかせても上手くはいかないものだ。誰かが王を傀儡にして裏から操るといった手段を取るならば、それもありなのであろう。しかし、他の派閥が見守る中で、そんな暴挙ができるはずもない。

 そもそも、『大隆起』という大問題を抱える中で、王を背後から操るという重たい責任を負いたい貴族など、誰もいなかった。

 

 そう、この新王の選定は、『大隆起』という問題に立ち向かう勇者を用意するための、貴族達による生け贄の儀式であったのだ。

 

 どうしたものかと、連日の会議を開く重鎮達。

 だが、あるとき、そんな彼らのもとに書が届いた。軍艦に乗ってどこかに飛び去ってしまった前王ジョゼフから届いた、一通の手紙であった。

 

 そこには、彼らの助けになるこんな文が書かれていた。

 

 愚鈍なお前達は、未だに王を選出できておらぬかもしれぬ。

 そこで、お前達の王だった者から最後の助言だ。

 セント・マルガリタ修道院を調べろ。

 調べてもなお王を決められぬというなら、かつて『無能王』と呼ばれていたおれよりも無能であると、お前達を遠き東方の地から笑ってやるとしよう。

 

 セント・マルガリタ修道院。その存在を知る者は少なかったが、それを知る数少ない者は顔を青くした。

 その修道院は、ガリアの貴族が厄介者を押し付けるために存在する幽閉先であったのだ。

 人里離れた辺境の修道院に何があるのか。重鎮達は、恐る恐るその実態を調べ始めた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 セント・マルガリタ修道院には、王に相応しい血筋の者が確かに存在していた。

 だが、相応しいのは血筋だけ。他は大問題であった。

 

 まず、教養。その者は産まれた直後に修道院へと預けられたシスターであり、王に必要な教育は一切受けていない。

 これはまだ、なんとかなる範囲だ。王に据えた後に、重鎮達で教育を施してやればいいのだ。今ガリアに必要なのはジョゼフのような『名君』ではなく、とりあえずの『旗印』なのだ。

 

 次に問題なのが、魔法の腕。その修道院のシスターに魔法の杖の契約をさせ、魔法を試させたところ、魔法の発動はしなかったという。

 ただし、トリステインのアカデミーがガリアにもたらした、魔法の素養がその者にあるかどうかを調べる新しいマジックアイテムを使ったところ、そのシスターはしっかりと魔法の素養を持っていることが分かった。

 このことから、重鎮達はそのシスターにある可能性を見いだして、魔法が使えないことはすぐさま問題としなくなった。魔法が使えない、魔法の素養を持つ者。彼女は、『虚無』の魔法を発現する可能性を秘めていた。

 ただし、『土のルビー』と『始祖の香炉』は、ジョゼフが所持したまま国外に持ち出してしまっている。そのため、彼女の『虚無』の素質を確認することはできなかった。

 

 最後の問題。彼女はオルレアン公シャルルの娘であり、タバサことシャルロットとは姉妹であるが、実はシャルロットとは双子の関係であった。

 ガリアにおいて、双子とは不吉な存在とされる。特に、貴族の間では禁忌と言ってもいい。

 もし貴族家に双子が産まれた場合、片方の子はその場で殺されるか、今回のように修道院送りにされる。

 

 そのシャルロットの双子の姉妹を女王にしてもよいものか。

 貴族達は会議を開き、大激論を展開した。双子は禁忌だ。では、なぜ禁忌なのかという話まで発展し、歴史学者や民俗学者まで巻き込んで、散々話し合いが行なわれた。

 そして、最終的に会議の場は、「大地が滅ぶという瀬戸際で、今さら風習がどうとか言っている場合じゃねえ!」ということで決着した。

 今のガリアには、『旗印』となる象徴がどうしても必要だったのだ。

 

 そして、彼らは念のため、トリステインにいるシャルロットと、ゲルマニアに亡命しているオルレアン公夫人に伺いを立てた。

 すると、シャルロットからは「王の座に興味はないから自由にして」と短い文が返ってきた。

 オルレアン公夫人からは、娘を修道院に入れた懺悔(ざんげ)の言葉が返ってきて、さらにその娘が表舞台に戻れるならば歓迎するとも書かれていた。

 

 こうして、ガリアに新王が誕生することになった。女王ジョゼットの施政の始まりである。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「うわあああ、王さまとか、何をすればいいの……」

 

 辺境の修道院から出され、戴冠式の準備が進められるガリアの首都にやってきた、青髪の少女ジョゼット。

 彼女は世界の危機が迫っていると聞かされて、使命感に駆られて女王となることを了承した。生まれた時からずっといた修道院の外の世界に憧れていたということもある。

 しかし、いざ立派な宮廷にやってきてからというもの、彼女は不安にさいなまれていた。

 

 その彼女の護衛を務める東薔薇騎士団の騎士団長である、若き貴族バッソ・カステルモールは、執務室で頭を抱えるジョゼットに向けて言う。

 

「なに、心配は要りません。王としての教育は、しっかりとされることになっております。五年も経てば、立派に王の仕事を務められるようになっているでしょう」

 

 そんな護衛騎士の言葉に、ジョゼットはハッとなって言った。

 

「トリステインの何代前かの王さまが、摂政を任せていた大公に王の座を狙われたって、修道院にあった歴史書で読んだわ! わたしもきっと、傀儡(かいらい)にされて最後には命を狙われるんだわ!」

 

 そんな妄想を展開するジョゼットに、カステルモールは苦笑する。

 確かに、トリステインの先々代王の時代では、王の座を狙った摂政のエスターシュ大公が王族の暗殺未遂事件を引き起こしたことが明らかになっている。約四十年前の事件だ。

 だが、今回のジョゼットの即位に関しては、その心配はない。

 

「摂政も、国王も、陛下の代わりなどやりたがる貴族などおりませんよ。以前、お話ししたとおり、『大隆起』が迫っておりますので。誰も、その責任など負いたいとは思っておりませぬ」

 

 そんなカステルモールの言葉に、ジョゼットはそれはそれで嫌だなと思った。

 

「ううっ、いっそのこと傀儡にしてもらった方が楽だったかもしれないわ。いったい、王さまって何をすればいいの」

 

 再び頭を抱えるジョゼットに、カステルモールはすました顔で彼女に言う。

 

「差し当たって、『火竜山脈』へと向かうメイジ達に向けて、笑顔で手を振ることでしょうか。なにせ、彼らはいつ活性化するとも分からぬ『風石』を取り除くため、命懸けで地下を掘り進めることになのです」

 

「……それだけ?」

 

「ええ、差し当たっては、それだけです」

 

「政治の仕事とかは?」

 

「重要書類にサインを書くか王印を押していただくだけでよいかと。むしろ、今の政治に関する知識がない状態で、あれこれ口を出される方が、役人の方々も迷惑でしょう」

 

「そっかあ。よかったわ。わたしでもできそう」

 

「ただし、教育は厳しいものになるでしょうね」

 

「ううっ……カステルモール卿、わたしが勉強に困ったら助けてくれる?」

 

「さて、わたくしは騎士ですので、政治にはとんと(うと)く」

 

「ええっ、助けてよ。卿は、偉い貴族さんなのでしょう?」

 

「わたくしは貧乏貴族の家に生まれ、陛下のお父上に見いだされて、幼きころから騎士一筋でやってまいりました。よって、内政も外交も専門外です」

 

「そんなぁ……」

 

 ガックリと肩を落とし頭を下げるジョゼット。

 それを見て、明らかにやる気が下がってしまっていると、カステルモールは判断した。

 ここにきて、彼女も王にならないと言ったら大事だ。なので、彼は麗しの主君に対し、一つの助言をした。

 

「修道院のシスターから女王になることで、陛下には自由にできるようになったことが一つあります」

 

「自由にできる……? 何かしら?」

 

 自由。それは、修道院にいた頃には得られなかったものだ。彼女は生まれてから、今日こうやってガリアの首都へとやってくるまで、修道院の外に出たことすらなかった。

 修道院の戒律は、それほど厳しくはなかった。だが、修道院は辺境の海岸線にあり、近くに人里がなく自給自足の生活を送っていたのだ。まるで囚人のような暮らしであったが、それ以外の生活を彼女は知らなかった。唯一、本を読んで垣間見られる文化が、彼女にとっての『外』であった。

 

 だから、彼女にとって自由とは、初めて手にした宝物であった。

 そんな彼女に、カステルモールは女王が手にした宝物の正体を話す。

 

「結婚できますよ」

 

「えっ」

 

 結婚? それは、あの結婚であろうか。ジョゼットは目をしばたたかせた。

 

「陛下のいらっしゃった修道院は、男子禁制だったのでしょう? 当然、結婚などには縁がなく一生を終えることとなっていたでしょう。しかし、この国の女王となれば結婚が叶います。むしろ、王族として結婚していただかねば、困ります」

 

「結婚……結婚って、相手はどなた?」

 

「さあ……貴族の重鎮達は各派から推薦をするでしょうが、最終的に決められるのは陛下です。なにせ、この国で一番上の決定権を持つ者は陛下ですので」

 

「自由に、結婚相手を選べる?」

 

「そうです。さすがにどこの誰とも知れぬ相手は、周囲から反対されるでしょう。ですが、相応しい立場の者が相手であれば、自由に選ぶことができるでしょう」

 

 そう言われて、ジョゼットはうわごとのように「結婚、結婚」とニヤニヤと笑いながらつぶやき始める。

 そんな彼女の様子を見て、カステルモールはなんとか女王となることにやる気を出してもらえたかと、ホッと息を吐いた。

 そして、この可愛らしい新しき主君の心を射止めるのは、一体誰になるのだろうと、カステルモールは将来に思いを馳せるのであった。

 

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