【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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110.ラーメン食いてえ

 あるとき、少年から青年へと変わりかけている年頃の男が、思った。

 

「あっ、ラーメン食いてえ」

 

 そう思ってしまったのが運の尽き。それから彼の舌は、ラーメンを食べるためのものへと変わってしまった。

 しかし、ここは故郷から遠いハルケギニアの大地。ラーメンなる料理は存在しない。

 だから彼は、作ることにした。

 ハルケギニアの地にて、人を肥え太らせる罪の味、ニンニク増し増しの背脂タップリ豚骨ラーメンを。

 そんな罪深いことを考えた罪人の名は、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガと言った。

 

「というわけで、今日は俺の故郷の料理を久しぶりに作るぞー」

 

 夏期休暇真っただ中のトリステイン魔法学院。その食堂にある厨房にて、実家に帰っていなかった暇人が集まっていた。

 ルイズ、キュルケ、タバサ。いつもの三人である。その三人を見て、才人は物足りなさを感じる。

 

「一年前はモンモンもいた気がするが、いないのなら仕方ないな。ティファニアとマチルダさんは、アルビオンに里帰りしているし……」

 

 ハンバーグやお好み焼きを作ったときのことを思い出しながら、才人はそんなことを言った。

 モンモランシーはいかにも貴族らしい貴族なのだが、ノリはよく、才人が料理をすると言い出しても付き合ってくれる人物だ。だが、実家に帰っている以上、今回のメンバーに加えることはできない。

 

 また、ハンバーグやお好み焼き、コロッケを最初に作ったときは秘書のロングビルことマチルダもいた。だが、彼女はティファニアを連れて、アルビオンの貴族に挨拶回りに行っていた。ティファニアはテューダー王家の王族という立場だが、存在をずっと秘されて育ったため、アルビオン貴族とのコネがないのだ。今回のアルビオン行きは、そのコネを作るための外遊であった。

 

 そんなこんなで人員が欠けており、いつもの学生メンバーは三魔女が残るのみだ。

 だが、それ以外にもゲストがいた。学院に滞在していたエレオノールと、新料理を作ると聞いてどこからかやってきた代用肉のメイジ、リュリュである。

 

「……いや、なんでリュリュさんいるの?」

 

 才人は、ちゃっかりメンバーに加わっていた、学院の部外者である貴族の少女に向けて突っ込みを入れた。

 

「マルトーおじさまに誘っていただきました。室長に仕事の報告書を渡しに来ただけなのですが、なんとも役得ですね」

 

 そう、ガリアの貴族であるはずの彼女だが、今はなぜかエレオノールが室長を務めるアカデミーの部署で、魔法を用いて安価な糧食を考案する仕事に就いていた。

『風石』採掘のために増えてきた『土』のメイジに『錬金』の魔法を使わせ、一定の品質を保った豆製の代用肉を作らせる理論の作成などを現在行なっているようだった。

 そんな彼女を見て、才人は手伝いの人員が増えたと思っておこうと、あっさり彼女の参加を認めた。

 

 そして、もう一人のゲストの方を才人は見た。

 

「エレオノールさん、料理できるんですか?」

 

「できると思って?」

 

「まあ……できないでしょうね」

 

「できるけどね」

 

「できるのかよ!?」

 

 才人の突っ込みに、エレオノールは「フフン」と笑って言う。

 

「レシピ通りに、余計なことをしない。魔法の実験と同じ感覚で作れるわよ。創作料理は苦手だけれど」

 

「うわ、漫画の化学実験が得意なインテリキャラみたいなこと言ってるよ……」

 

 才人はエレオノールの意外な面を見たなと、驚きを隠さず言った。

 さて、そんな豪華なメンバーが集まった厨房。現在、夕食を終えたところだが、場は独特の臭いが立ちこめていた。

 一年前からこの食堂ではときどき発生する臭い。豚の骨を長時間コツコツと煮込んだときの臭いである。

 

 そう、才人は朝からマルトーに、豚骨スープを仕込むよう要請していたのだ。

 

「今日は、豚骨ラーメンを作ります!」

 

 その臭いを背景に、才人はそう宣言した。

 ラーメン。その単語に、ルイズやキュルケは聞き覚えがあった。

 実は才人は今まで何度か、マルトーにラーメンの話をして再現に挑戦してきた経緯があった。

 

 しかし、それで完成したのはラーメンではなく、スープパスタとうどんであった。

 それはそれで食堂のメニュー入りして皆が美味しい物を食べられるようになったのだが、ここにきて、インターネットという頼もしい力を才人は手に入れた。

 

 そして今朝、ラーメンのレシピを調べてマルトーに伝えた才人。これまでラーメンが完成しなかった理由は、中華麺を作り出すことができなかったからだ。

 レシピを調べた今度こそは正しいラーメンを食べられると、才人はウキウキしながら夕食が終わった後に今回のメンバーを集めたのだ。

 

 才人とマルトーが何度も挑戦して辿り着けなかったレシピ。インターネットで調べたら、あっさりと判明したその秘密。中華麺を作り出すために肝心なのは……『かん水』であった。

 かん水とは、アルカリ塩水溶液のこと。より簡単に言うと、重曹を溶かした水だ。

 

「というわけで、スープの煮込みはマルトーさんに任せて、俺達は麺を打っていくぞー」

 

 そうして、才人の挑戦が始まる。

 

 最初は、かん水作りだ。

 とは言っても、水に重曹と塩を入れて混ぜるだけ。簡単な工程で、あっさりとかん水は完成した。

 

「できた、魔法の水、かん水だ」

 

「ただのふくらし粉を入れた水じゃないの」

 

 かん水が入ったボウルを掲げるサイトに、キュルケが呆れたように突っ込みを入れた。

 そう、ハルケギニアでも重曹は、パンやケーキのふくらし粉として利用されている。さらに、こちらのパンにはイースト菌はないが天然酵母が使われているので、ふっくらとした美味しいパンを才人は毎日食べることができている。才人は故郷の料理を懐かしむことはあっても、普段食べる料理に不満を持ってはいなかった。

 

 ちなみに才人本人は、ふくらし粉の正体が重曹だという事実をキュルケの今の言葉で初めて知った。彼にとって重曹とは、キッチン周りを綺麗にするための便利な粉という認識で、食品というイメージがあまりなかった。

 

 そんなやりとりがありつつも、ラーメンの麺作りは進む。才人はキュルケを皆の代表者として選び、他の皆に手本になるよう指示した。

 

「かん水ができたら、そこに卵黄を加えて混ぜる」

 

「卵を入れた麺なわけね。そこはパスタと同じね」

 

 才人の指示で、手早くかん水に卵黄を入れて混ぜるキュルケ。それをエレオノールが隣で興味深げに見守っていた。

 ヴァリエール家とツェルプストー家って、代々仲が悪いと聞いていたが、ルイズだけでなくこの二人も相性は悪くないんだよな。そう、才人は二人を見ながら思った。

 

「次に、別のボウルに強力粉と薄力粉を入れて混ぜ合わせる。強力粉が多めだな」

 

「強力粉がパン作りに向いた小麦粉で、薄力粉が菓子作りに向いた小麦粉よ」

 

 キュルケが、この場で唯一、料理に縁がなさそうなタバサに顔を向けて言った。

 タバサはその言葉を素直に受け取り、無言でうなずく。そして、キュルケに問いかけた。

 

「粉の挽き方が違う?」

 

「いえ、小麦の品種そのものが違うのよ。当然、毎日食べるパン用の小麦、強力粉になる品種の方が多く生産されているわね」

 

 そのキュルケの答えに、今度こそタバサは納得した。

 

 そして、二つの粉を混ぜ合わせたら、次に粉の中央に窪みを作り、そこにキュルケは卵黄を混ぜたかん水を注いだ。

 それから、かん水と粉を丁寧に混ぜ、粉が水分を吸って粉っぽさがなくなったところで、キュルケは手を止めた。それを確認した才人が、皆に向けて説明をする。

 

「十分に混ざったので、濡れ布巾で包んで五分置く。ここまでがワンステップだ。キュルケのやり方を手本にして、みんなでやってみようか」

 

 この場にいる貴族は、才人を含め六名。一人でちょうど一人前の麺を打つことになる。自分で打った麺を自分で食べるのだ。

 もちろん、貴族以外にも料理人や使用人もいるが、そちらはそちらで才人達を参考に麺を打つこととなっていた。

 

 キュルケ以外の五人が、それぞれ量を正確に測ったかん水と粉を混ぜ合わせていく。

 そうするうちに五分が経過し、再びキュルケが手本を見せる番となった。

 

「綺麗な台の上に生地を置いて、麺棒で伸ばして、折りたたむ。そしてまた伸ばす。これを何十回かやる。回数は、レシピによってまちまちだったから手探りでいこうか」

 

 いきなりふわっとしだした才人の指示に、キュルケは苦笑する。

 そんなキュルケの反応に、やっぱりかと才人は思いながらも、さらに言った。

 

「表面がなめらかになるまでとか書いてあったけど、なめらかってどんなのだろうなぁ……」

 

「まあ、そのあたりの研究は、そこの料理長に任せておきましょうか」

 

 キュルケがそう言うと、マルトーはスープの様子を見ながら「任せておけ!」と返事をした。

 そうして、キュルケは麺棒を使って生地を伸ばしては折りたたむ作業を繰り返し始めた。

 それを見守っていた一同だが、やがて他のメンバーの分の生地も五分の寝かしが終わったため、彼女達も麺棒を持って生地を伸ばし始めた。

 すると、作業をひたすら続けていたキュルケが言った。

 

「確かに、生地がなめらかになってきたわ」

 

 その言葉に皆が再度キュルケの周囲に集まる。キュルケの生地は、表面に粉っぽさが一切ない、つるんとしたなめらかさが本当に出ていた。

 それを参考に、他の者も麺棒で生地の伸ばしを再開する。

 やがて、全員分の生地が伸ばし終わった。

 

「完成した生地は、布巾に包んで一時間ほど置いて寝かせるそうだ。その間に、みんなでラーメンの具を用意しよう」

 

 一時間も生地を放置するとは、気が長いなとタバサは思った。

 だが、この場にいる誰もそれを気にした様子がない。どうやら、料理で一時間の放置というものはさして珍しくない手順なのだとタバサは理解した。

 

 そして、一時間を使った具の用意が始まる。

 まずはゆで玉子。これは簡単に完成した。塩味の液体調味料に一晩漬け込んだ煮玉子なるものが美味しいと才人は言うが、一時間では用意ができないので、この場はゆで玉子で皆は妥協することにした。

 

 次に、肉。チャーシューが定番であるが、これもまた一時間では用意が難しいため、ベーコンを薄く切って焼くことにした。

 

 タンパク質が続いたので、野菜。まずはもやしだ。これは、東方からの交易で入ってきたという貴重なごま油でさっと炒める。

 次にネギ。ハルケギニアで一般的なリーキを薄く輪切りにする。

 

「あとはメンマが欲しいところだけど、ハルケギニアにはタケノコがないんだよなぁ……」

 

「タケノコ?」

 

 初めて聞く食材に、タバサが才人に聞き返した。すると、才人はタバサに向けて答える。

 

「竹っていう植物の若芽だな。ほら、一年前の剣を習いたてのころに、木剣を改良しようとしただろ。あれの素材として欲しかったのが竹だ」

 

「植物の若芽……もやしみたいなもの?」

 

「いや、全然違うな。似た食材は……ちょっと思い浮かばないな」

 

 そうして、具の用意も一通り終わった。

 豚骨ラーメンなので紅ショウガが欲しいと才人は思ったが、そんなものは存在しないので厨房にあったショウガの酢漬けを細切りにした。海苔もなく、いろいろ足りていないと才人は思いつつも、代用品を頭の中で考えるのであった。

 

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