【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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111.ヘイお待ち!

 トリステイン魔法学院で行われるラーメン作り。

 具材の準備を進めていたが、麺を寝かせてから一時間経過したので、麺の準備へと戻る。

 

「じゃあ、いよいよ麺を切るぞ! 打ち粉をして、パスタ用の包丁で細く切っていこう」

 

 まずはキュルケが皆の前で手本を見せる。

 正方形に伸ばして置いた生地を折りたたんで、包丁で均等に切っていく。すると、見事なストレート麺ができあがった。

 キュルケはパスタを手造りした経験はないとのことだが、見事な包丁使いであった。

 

 それを真似して、皆が包丁片手に生地を切っていく。

 手早く切る者、恐る恐る切る者、手慣れた様子でスイスイと切っていく者と様々だ。

 その中で、才人とタバサの二人だけが、明らかに不揃いな麺を作り上げることとなった。

 

「……難しい」

 

 タバサがそう言うと、才人も同意して「なんでみんなあんなに上手いんだ?」と不思議そうに、完成した麺を持ち上げた。

 すると、スープから目を離して麺切りを見守っていたマルトーが「ガハハ」と笑って言う。

 

「料理は慣れだ、慣れ!」

 

 経験の違いか……と才人は現実を受け止め、タバサは残念そうな目で自分の切った麺を眺めた。

 

 そうして麺が完成したため、いよいよそれを茹でていくこととなる。

 大きな寸胴にたっぷりと沸いた湯。それを通常サイズの鍋に分けて、同時に一人前ずつ茹でていく。今日は自分で打った麺を自分で食べるルールのため、同時に茹でることにしたのだ。

 

 六人の貴族が自分の麺を真面目な顔をして茹でるその横で、マルトーが塩だれと豚骨スープを深皿に注ぐ。

 そして、茹で上がりを見極めたキュルケから、麺をザルに空けて湯切りをした。

 

 湯切りを終えると、手早くマルトーが用意したスープに満たされた深皿に入れて、トッピングをしていくキュルケ。

 それを追うようにして、ルイズ、エレオノール、リュリュも湯切りを開始した。

 才人とタバサも、真似して麺をザルに空けようとしたが……。

 

「おっと、そこのお二人さんはまだだな。麺が太いから、同じ時間じゃいけねえ」

 

 マルトーにそう言って止められ、才人とタバサはもう少々麺を見守ることになった。

 そんな待ち時間で、才人が隣に立つタバサに向けて言う。

 

「麺を茹でる固さも、人によって好みが様々でな。店によっては、茹で具合の指定をできたんだ」

 

 すると、タバサは鍋に入った麺をジッと見つめながら、ボソリとした声で応える。

 

「……スパゲッティは柔らかめが好き」

 

「俺はアルデンテだなー」

 

 と、そんなやり取りをしてから、二人は今度こそ湯切りに移行した。

 

 そうして、六人前のラーメンが無事に完成した。

 

 ベースのタレは塩。スープは、豚骨と多種多様な香味野菜を煮込んでいる。

 具はもやし、ゆで卵、豚バラベーコン、ショウガの酢漬け。

 麺は細めのストレート麺……人によってはちょっと太め。

 

 さらに、好みのトッピングとして豚の背脂と、すりおろしたニンニクが用意されている。

 才人は、背脂とニンニクをたっぷりと深皿に入れて、懐かしいラーメンの香りを堪能した。

 そして、いよいよ実食だ。

 

 六人が、一斉にフォークや箸を手に取って、ラーメンを食べ始めた。

 

「こ、これが異世界の麺料理……!」

 

 才人の経歴をエレオノール経由で知っていたリュリュが、感動しながら麺を口にする。

 

「ふおお、今までにない美食ですわ……!」

 

 リュリュはフォークでツルツルと麺を食べていく。

 

 一方、キュルケはスープが気になったのか、レンゲのような形をしたスプーンでスープをすくって飲んだ。

 

「これは……塩辛いけど、今までここの食堂で飲んだどの豚骨スープよりも美味しいわね」

 

 塩を入れすぎなのではないかと思うくらい、塩辛いスープ。しかし、それが癖になり、また一口、また一口と飲みたくなる味となっていた。背脂の濃厚な脂分と、ニンニクの臭みがまた絶妙な味をかもし出していた。

 

 ルイズはというと、以前、才人に作ってもらった箸でもって、勢いよく麺をすすった。

 才人から、事前にラーメンは麺をすすって食べるものだと聞いていたのだ。なるほど、確かにこうして食べるととても美味しい。ルイズはそう感じた。

 

 ちなみに、ハルケギニアの食事のマナーは、地球ほど洗練されていない。

 貴族でも、音を立てて食べることはしょっちゅうであるし、汚く食べこぼすことだってよくあることであった。むしろ、平民出身である才人が妙に綺麗に食事を取ることをルイズは、普段から不思議に思っていたくらいだ。

 

「ねえ、これ夕食後に食べて大丈夫なやつ? 大丈夫じゃないわよね?」

 

 そう言いながら遠慮がちに食べているのは、エレオノールだ。彼女は今年で二十八歳。周囲の少年少女達のように、若さに任せて暴飲暴食が許される年齢ではなかった。

 だが、目の前のラーメンはとても美味しく、とてもフォークを止める気にはなれなかった。

 

 そして、才人。

 久しぶりに食べるラーメンの味に、感動していた。

 玉子は煮玉子ではないし、肉はベーコン。海苔もメンマもなく、ショウガは紅くない。それでも、その味はとても懐かしい。

 彼は一口一口噛みしめながら、一年半ぶりのラーメンを楽しんだ。

 

 ちなみにタバサは、ニンニクをたっぷりと麺の上に載せて勢いよくラーメンを食していた。

 それを見た才人は、ふと以前雑談の時に耳にした話を思い出して言った。

 

「そういえば、デルフのやつが、始祖ブリミルはニンニクが苦手だったって言ってたな」

 

 すると、麺を少しずつ口にしていたエレオノールが、ギョッとした顔になる。

 

「ちょっと、いきなり物凄い事実を言わないでちょうだい! 歴史に残る証言よ、それ!」

 

 ハルケギニアにおいて、山羊肉とにんにくは始祖の時代から存在する食べ物として、一部では神聖視されているくらいだ。

 そこで当時から生きる魔剣の実体験が語られるなど、歴史家や宗教家がこの学院に集まってきかねない大事であった。

 

「ハハッ、始祖って言ったって、神様じゃないんですから、食の好みくらいあるでしょ」

 

 才人がそう笑って、もやしを口へと運ぶ。

 エレオノールはその始祖の食の好みが重要な話なんだと突っ込もうとしたが、彼は宗教の違う異世界人だと考え直し、無言でラーメンを食べることに集中した。

 

 そうして食べ進めるうちに、使用人達の分の麺も茹で上がっていく。

 料理長のマルトーも、ラーメンが入った深皿を手に、才人達の近くまでやってきて座った。

 そして、フォークで麺を口にすると、満足そうに笑みを浮かべた。

 麺、スープ、具と順番に彼は食べていき、そして独りごちるように言う。

 

「美味え。しかし、こりゃまさに貴族のための料理だな」

 

「ラーメンが、貴族料理?」

 

 耳ざとくその言葉を聞いていた才人が、オウム返しにするように問い返した。

 すると、マルトーは苦笑しながら才人に説明を始める。

 

「麺はともかく、スープを作るためのコストがすげえのよ。金も時間もかかっている。こんな料理がそこらの屋台で食えていたというんだから、坊主の故郷は本当に飽食の国だなぁ……」

 

 ラーメン用のスープを作るためには、様々な食材を長時間煮込むことになる。そして、その食材は具にせず、全て捨てることになる。

 この学院では捨てずに賄いにしたり使い魔の餌に回したりできるため、無駄にはならないのだが、それでもコストは高い。

 とても、屋台や庶民用の食堂で出せるような料理ではなかった。

 

 そんな説明を受けた才人は、ふと故郷のラーメン事情を思い出してマルトーに向けて言った。

 

「ちなみに、麺を油で揚げると、お湯を注いで数分待つだけで食べられるようになりますよ。お湯を注ぐだけでスープになる粉も合わせて、安価な保存食、携帯食として故郷で売られていました。即席麺ってやつですね」

 

「保存食か。そっち方面は俺の仕事ではねえわな。むしろ、そちらの方の仕事ではねえですかね?」

 

 才人にインスタントラーメンの作り方を振られたマルトーだが、アカデミー所属のリュリュの方へと視線を向けてそう言った。

 すると、じっくりとラーメンを堪能していたリュリュは、目を輝かせて言った。

 

「油で揚げる麺! パスタの乾麺とは違うのでしょうか?」

 

「詳しくないけど、出回っていた即席麺はほとんどが油で揚げた麺だったはずだから、単純に乾燥させるより良いんでしょうね。即席麺は安いのが特徴で、大きめの白パンが二、三個買える程度の値段で出回っていましたね」

 

「安い! はああ、後で試してみないと……」

 

 そんなリュリュと才人の会話を聞いたマルトーも、目を輝かせて言う。

 

「行ってみてえなぁ。坊主の故郷」

 

「行く方法はありますけど、帰ってこられないですよ」

 

 ぼやくように言ったマルトーに、才人がそんな言葉を返す。

 すると、マルトーは額を叩いて「ここでの仕事があるから無理だな」と残念そうに言った。

 

「わたしは帰ってこられないとしても、行ってみたいですわ。飽食の国、『ニッポン』!」

 

 リュリュがそう言うが、そこにルイズが横から口を出した。

 

「ちなみに、行くには教皇聖下の魔法に頼るしかないわね」

 

「ええっ、頼むことが恐れ多いどころか、会うことすら不可能ではないですか!」

 

 そんな二人のやり取りに、周囲から笑いが漏れた。

 そして、リュリュは才人に目を向けて言う。

 

「こうなると、ミスタ・ヒラガに少しでも多くのレシピを提案してもらいませんと!」

 

「料理のレシピ以外に調べること、いくらでもあるんだけどなぁ……」

 

「料理のレシピよりも重要なことがあると言うのですか!?」

 

「たとえば、鉄道っていう移動手段だな。これをハルケギニア中に敷くと……南のロマリアで採れる魚が、新鮮なうちにトリステインに届くかもしれない」

 

「そっ、そんなことがありえるのですか……! はっ、ということは、一日でロマリアに行って、美食を堪能してすぐに帰ってくることも……!?」

 

「できるようになるでしょうねー」

 

 リュリュの質問に才人がそう返すと、彼女はその場で「ふおお……」と言って、フォークを握ったまま感動し始めてしまった。

 飽食の国の秘訣は、運輸にあり。そんな事実を知って、リュリュはアカデミーの研究員として、食の研究以外にも目を向けるようになるのだった。

 

 そんなことがありつつ、トリステイン魔法学院の新メニューに、ラーメンが新たに加わった。

 少年少女達がその味の魅力に取り憑かれることを予想して、料理長マルトーはニヤリと笑いながら夏期休暇明けを待つこととなる。

 

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