【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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112.プロジェクト・トリステイン

 トリステインでは、今年の夏に入ってから『風石』の採掘事業が拡大している。

 ガリアが『ラグドリアン・テクスト』を貴族全員に公表したことで、トリステインも秘密を守りながら細々と『風石』の採掘をしている必要がなくなったからだ。多数の貴族や平民のメイジが、事業に投入された。

 

 その結果として、『風石』が大量に掘り出されているのだが、それ以外にもこの事業には副産物が存在した。

 それは、鉄鉱石。ハルケギニアには地球と同じく、鉄が豊富に埋没している。『風石』採掘事業で掘り出された大量の鉄鉱石は、現在、保管場所も無く野ざらしにされているのだが……これをトリステインの国王ウェールズは(うれ)えた。

 

 鉄は有用な資源だ。それを放置するなど、もってのほか。

 さらには、アカデミーの実践魔法研究室とトリステイン魔法学院のコルベール研究室からは、王政府に鉄道事業の企画書が上がってきている。

 鉄道の実証実験としてトリスタニア周辺に敷いた鉄道馬車は好評であり、周辺地域の経済は活性化していた。

 企画書では、その鉄道馬車を『風石』で動く機関を備えた新型の車両に変えて、より高速で長距離の移動を可能とする案が書かれていた。画期的だ。これが実現すれば、トリステインの未来は明るいだろう。

 

 そこでウェールズ王は、決断する。車両やレールの材料となる鉄材を作り出す鉄鋼業に、国費を投入しようと。

 だが、今の溶鉱炉の性能やメイジの魔法による加工技術では、企画書にて必要とされている量の鉄材は、とても作り出せない。鉄鉱石はあまっているのに、『製鉄』が間に合わないのだ。

 

 ゆえに、彼はある者に頼ることにした。『異国の賢人』、才人にだ。

 彼の故郷の技術ならば、この大量の鉄鉱石を全て鉄材に変えられるのでは。そう期待して、ウェールズはトリステイン魔法学院のコルベール研究室に連絡を取った。

 

「――というわけで、溶鉱炉を新しく設計するわよ!」

 

 夏期休暇真っただ中の、トリステイン魔法学院。そのコルベール研究室で、ルイズが高らかに宣言した。

 先日、カメラを完成させて地球の両親に写真を送ったばかりだというのに、今度は何を言い出すのかと、才人は呆れた目でルイズを見た。

 すると、ルイズはそんな才人に胸を張って告げた。

 

「今回は、趣味の研究じゃないわよ。なんと、王政府からの依頼なの。予算もタップリよ」

 

「へー」

 

「……興味なさそうね?」

 

「いや、予算って言われてもな。俺個人としては現状、生活には困っていないから……」

 

 才人は正直にそんな言葉を漏らした。彼はシュヴァリエとしての年金だけでなく、不死鳥飛行隊の教導官としての給金も貰っている。先日は、ド・オルニエール領の『風石』採掘事業の手伝いで、報奨金も受け取っていた。温泉を掘り当てたので、ド・オルニエール領の代官から不死鳥飛行隊の全員に、それなりの額が渡されたのだ。

 

 そんな才人の懐事情から来る態度であったが、ルイズはそれを鼻で笑うようにして言葉を返す。

 

「ちなみに、技術情報を流してくれるサイトのご両親にも、報酬が出るわ。したくない? 親孝行」

 

「むっ……。報酬って、具体的には?」

 

「そうねー、こっちの金貨を渡しても向こうで換金は難しいでしょうから、貴金属や装飾品、宝石といった換金しやすそうで『世界扉の手鏡』を通るサイズの物品を進呈することになるのかしら」

 

「なるほど、仕送りができるってことだな。カメラの件は向こうから言い出したとはいえ、資料まとめでただ働きさせちまったもんな。金になるものを合法的に送れるなら、ありがてえ」

 

 トリステインから異世界の地球へ貴金属を渡すのは、国をまたぐことになるため、トリステイン政府から密輸扱いをされるのが少々怖かった才人。

 だから、国のお墨付きがもらえるのはとてもありがたかった。

 

 もっとも、地球側からトリステインに情報を送るのは大丈夫かという問題や、送った貴金属類を両親は換金できるのかという問題もある。だが、そこは才人としてはノータッチで行く方針であった。彼は、すでに地球へ帰る気を完全に失っていたからだ。

 

 一方、ルイズは、才人がちゃんと納得してくれたと思い、話を冒頭に戻す。

 彼らコルベール研究室、及び才人が王政府から受けた依頼は、溶鉱炉の新設計だ。それもただの溶鉱炉ではなく、難易度が高いとされている鉄溶鉱炉である。

 

 そこでルイズは、冶金(やきん)技術に詳しくない才人に、鉄の加工手順について説明を始めた。

 

「鉄材を作るには、まずは鉄鉱石を熱して、素材から鉄の成分だけを融解させて分離させる『製鉄』をしてやる必要があるわ」

 

 才人が想像したのは、レンガでできた人型サイズの炉に鉄鉱石を入れて、取り出した鉄をハンマーで叩いて加工するという光景だった。

 それを才人はルイズに説明してみる。すると……。

 

「ああ、それは、塊鉄炉(かいてつろ)という旧式の炉を使った『製鉄』ね。今時、塊鉄炉なんて古い技術、国の公共事業で使うことはないけれどね」

 

 ルイズ曰く、今はもっと高度で巨大な炉が発明されて、それで大規模な『製鉄』を行なっているという。

 

「その『製鉄』で取り出した鉄を銑鉄(せんてつ)というわ。その溶けた銑鉄を型に入れて固める『鋳造(ちゅうぞう)』をしたり、成分を調整して鋼に『製鋼(せいこう)』したり、出来上がった鋼を熱して叩いていく『鍛造(たんぞう)』をしたりと、用途に応じてそれぞれの加工を施していくことになるわね」

 

 ルイズは、それぞれの工程を『虚無』の魔法の『イリュージョン』で映像化しながら、才人に説明していった。

 さすがに金属について詳しくない才人も、そこまでして教えられれば、おおよその概要を理解できた。もともと、『鋳造』や『鍛造』は知っている技術ということもあり、すんなりと知識を受け入れられた。

 そんな才人に満足したルイズは、さらに才人へと言った。

 

「で、今回の王政府からの依頼は、この『製鉄』をより高度かつ大規模にできないかというものね」

 

「へー、じゃあ、またカメラみたいに最新の製鉄技術を地球から仕入れてみるのか?」

 

「それもいいんだけれどね。でも、おそらく、ここまでの規模になると、地球の最新技術は再現できないでしょうね。あまりにも使われている技術が高度すぎると、他の国に技術を輸出することが難しくなるのよね……」

 

「輸出、するのか」

 

 まさかのルイズの発言に、才人は驚いて目をしばたたかせた。

 

「ええ、することになるでしょうね。なにせ、これからハルケギニアの全土から、鉄鉱石が山ほど掘り出されるわけだし。その全てを輸入して加工するなんて、トリステインには無理よ」

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「今の『製鉄』は、溶鉱炉、または高炉って呼ばれる設備で鉄を溶かしているの」

 

「ああ、溶鉱炉なら、名前だけは知っているな」

 

 溶鉱炉という名称だけは才人も知っていた。ゲーム知識によるものだ。

 そもそも、先ほど話にあった塊鉄炉が、才人の中での溶鉱炉のイメージだったのだが。

 彼の中で、日本古来の製鉄技術であるたたら製鉄と溶鉱炉の二者は、同一の存在としてイメージがつながっていなかった。才人は普通高校の出身だ。工業的な知識は、ほとんど持ち合わせていなかった。

 

「溶鉱炉は、炉の上部に原材料の鉄鉱石とコークスを投入して風を送り込むと、炉の下部から銑鉄が溶け出て流れ出てくるという仕組みの炉よ。その溶けた銑鉄を型に嵌めて冷やすことで、鉄材にするわけね。登場したときは世紀の大発明なんて言われたらしいけれど……正直今の規模では、鉄の需要に対して生産速度が追いついていないの。だから、改良が求められているわけね」

 

 そう語ったルイズが『虚無』の魔法を用いて作り出した幻影の溶鉱炉は、とても大きかった。

 塔のように高いレンガ造りの炉で、その上から鉄鉱石とコークスが投入されていく。そして、炉に備え付けられたふいごで風が内部に送られ、炉の下に備え付けられた口からドロドロに溶けて赤熱した鉄が流れ出ている。

 

 なるほど、背の高い炉だから高炉というのだな、と才人は納得した。

 

「そういうわけで、溶鉱炉にしろ新型の炉にしろ、まずは地球の技術を調べて、それをハルケギニア向けに落とし込んでやる必要があるわね」

 

 幻影の魔法を打ち切って、ルイズは才人にそう説明した。

 

「落とし込む、ねぇ。地球の猿まねをしないってことは、何か具体的な方針がすでにあるのか?」

 

 才人がそう尋ねると、ルイズは笑顔で答える。

 

「あら、鋭いじゃない。あるわよ。火のメイジを作業員に使えないかと思ってね」

 

「メイジを……?」

 

「『風石』の採掘現場では、正直なところ『火』のメイジの出番が少ないのよね。『錬金』を発動させるマジックアイテムも、『土』のメイジに使わせた方が強力なようだし。でも、平民に魔法教育を進めると、一定の割合で『火』の魔法が得意なメイジは出てくるものよ」

 

 ゆえに、鉄鋼業に『火』のメイジを回すことができれば、人材を無駄にしなくて済む。ルイズはそう主張する。

 それを聞いた才人も、納得してうなずいた。

 

「メイジを使った鉄鋼業かぁ……そりゃあ、地球にはない技術だろうなぁ」

 

 地球には、メイジもいないし魔法だってない。魔法を使った炉なんてものは、現状どこにも存在しないのだ。

 もちろん、ルイズだってそれは分かっている。だから、彼女は言った。

 

「ええ。だから、一通りの地球の技術を受け取ってから、こちらで改良を加えてやる必要があるわけね」

 

「できるのか?」

 

「できるわよ。なにせ、こちらには金属加工を得意とする『土』の天才と、魔法を技術に落とし込むことを得意とする『火』の天才がいるのだから」

 

 そこまで言って、ルイズはあらためて研究室にいるメンバーを見回した。

 室内では、黙って二人の会話を見守っていたエレオノールとコルベールが、目を輝かせていた。その二人と、ルイズを合わせた三人の天才。そして、才人の持つ地球との連絡手段。それらが合わされば、不可能などないと、ルイズは確信していた。

 

 そんな中、ゲルマニア出身のキュルケは、心の中でため息を吐いた。冶金(やきん)技術に優れていると言われているゲルマニアの天下も、今日この日までかなと考えたのだ。

 もっとも、だからといってこの研究室の研究成果を母国に横流しするつもりは、一切ないのだが。キュルケは母国の発展よりも、このままコルベール研究室の一員として過ごせることを重要視していた。

 ルイズもそれを分かって、キュルケの居る前で堂々と国家的な事業の話をしているのだが。

 

 そんなルイズが、研究室の皆に号令をかける。

 

「さあ、プロジェクトを開始しましょう!」

 

 こうして、ハルケギニアの技術が一足飛びで発展しそうな研究が、またもやこのあばら屋の研究室で始まろうとしていた。

 トリステインの未来は、明るい。

 

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