【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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113.挑戦者たち

 ルイズがインターネットを通じて才人の両親に製鉄・製鋼の資料の作成を依頼すると、一週間もしないうちに詳細な資料が返ってきた。

 そこには、地球の様々な炉の情報が書かれていた。

 高炉から始まり、転炉、電気炉、反射炉、パドル炉、平炉……。

 その資料をコルベール研究室に集まったいつものメンバーが、一つずつ検討していく。

 

「電気炉、作ってみたい……『火』の魔法でタービンを回して発電させた電気を使いたい……!」

 

 才人が頑張って複写した分厚い資料を読みながら、ルイズが興奮して言った。

 だが、それを聞いていたコルベールは呆れた声で言った。

 

「ルイズくん、まずは鉄鉱石の利用だ。しかし、地球でも鉄鉱石から鉄を作り出すためには、高炉を利用することに変わりはないようだね」

 

「洗練具合は、ハルケギニアの高炉の比にならないけれど」

 

 エレオノールも資料をめくりながら、そんなことを言った。

 そうして、彼女らは地球における高炉についての精査を始める。地球の高炉。その最大の特徴は、巨大さであろう。

 なるほど、確かに大量の鉄鉱石を処理するならば、高炉そのものを大きくしてしまえばいいというのは理に適っている。

 

 ハルケギニアにおける高炉は、最新の物で二十メイルほど。

 一方、地球の高炉は高さ百メートル……約百メイルの大型高炉が使われていると資料にはあった。

 もちろん、そんな高さの高炉は、ハルケギニアの現状の技術では造り出せない。

 

 そもそも、高炉どころか、百メイルに到達するような高い建物の建造が難しいのだ。

 あらためて、二つの世界の間に立ちはだかる技術格差を思い知った三人であった。

 

「まあ、いきなり百メイル級の高炉建設は難しいだろうね。段階を踏んでトリステインでも技術を蓄積すべきだ」

 

 コルベールがそう言い、ヴァリエール家の才女二人もそれに同意する。

 とは言っても、今ある高炉からさほど変わらないサイズの物を作っても、問題解決とはならない。よって、彼女らはまず現状の高炉の約一・五倍、三十メイル級の高炉の設計に入った。一・五倍となるとさほど大きな拡張には見えないが、日産の製鉄量は従来の十倍近くなる見込みである。

 

「電気炉は無理にしても、転炉は有効じゃありません?」

 

 ルイズが資料を見ながらそんなことを言い出すが、これもコルベールが否定した。

 

「新型高炉とセットにするのは止めておいた方がいいな。そちらはそちらで、実験用の設備として企画書を挙げておこう」

 

 転炉とは、高炉で作り出した銑鉄(せんてつ)を鋼材へと転換するための炉である。

 つまり、より上質な鉄鋼を作り出せる技術だ。魅力的な技術ではあるのだが、ハルケギニアには存在しない技術でもあるので、小規模な実験から始める必要があった。

 さらに、トリステインでの技術の蓄積という名目から、コルベール研究室で一足飛びに高度な転炉を作り出すわけにもいかない。そちらは、エレオノールが室長を務めるアカデミーの実践魔法研究室に任せることとなった。

 

「さて、新型高炉を作り出すことは決まったが……メイジの扱いはどうするかね」

 

 人員が余っている『火』のメイジの活用。それはいいが、メイジがいないときにこの高炉を動かせないのでは話にならない。

 よって、メイジなしで稼働するようにしたうえで、メイジを投入することでさらに生産性を上げるという、なかなか高度な設計をしてやる必要があった。

 

「ま、そこは頑張って良い案が出るまで考えましょう」

 

 そうして、三人は案出しのために、才人の父から聞いた地球の企業で使われているという手法、ブレーンストーミングを行なうこととなった。

 

「『風石』が余っているなら、高炉へ風を送り込む用途に使いましょう。こうすれば、人力のふいごも水車式のふいごも要らなくなりますよ。場所を選ばず建てられるのは、大きな利点です」

 

「それなら、高炉への鉄鉱石とコークスの投入作業も『風石』動力で完全自動化したいわね。高炉の高さが上がるということは、それだけ高所作業の危険性も上がるということだから」

 

「メイジに火力面を任せるにしても、一定の品質を保つには、使う『火』の魔法に個人差はないほうがいい。コレは確か、実践魔法研究室が発表した焼却施設の論文に記述があったね」

 

 次から次へと飛び出す案。それをキュルケはニコニコと笑顔を浮かべながら見守った。

 ここまで来ると才人は専門外の分野となるので、コルベール研究室に寄りつかなくなる。代わりに彼は、タバサと一緒に剣の訓練をしたり、ド・オルニエール領に鉄道馬車で向かって飛行訓練の教導を行なったりするようになった。

 

 そうして丸二日掛けて、研究室の三人は新型高炉に必要となる要件を出し終えた。

 その項目は多岐にわたった。そのひとつひとつを彼女らは現在のトリステインの技術で実現可能かどうか、検討を始める。

 

「これ、建設にどれだけかかるんです……?」

 

「平民メイジに土建屋を作らせて……」

 

「それは有効だろうね。鉄道事業の方にも役立つだろうし……」

 

「しかし、新型の耐熱レンガ用の炉の作成も……」

 

「この際だから、必要となる物は全部挙げていきましょう」

 

「サイトくんの父君と以前『チャット』をしたときに言われたが、高度な製品を作るには高度な加工器具が必要で、高度な加工器具を作るには別の高度な加工器具が必要となると……」

 

 と、話が脱線することもあったが、彼女らは毎日のように朝から晩まで話し合いを続けて、新型高炉の要件は洗練されていく。学院が夏期休暇中だから可能なハードワークであった。

 そして、問題点を洗い出し、解決策を考え出して、より洗練された概要がまとまっていく。

 それも終わると、いよいよ新型高炉の設計に入る。

 

 ルイズはまず、各要件を満たした概略図から書き始めた。

 

「ああっ、ちびルイズ! そこは違うでしょう? ここはこう!」

 

「ええっ、こっちの方が絶対にいいですって!」

 

「ふむ、『火』のメイジが使いやすい設備となると、ここはこのように……」

 

「ミスタ・コルベール。そうすると建設費がさらに高くなりますよ?」

 

「なに、国家事業なのだ。盛り込めるものは盛り込んでおこう」

 

「それで苦労するの、絶対わたしの研究室になるわね。建設の現場監督は部下に丸投げしようかしら……」

 

 書いているものはまだ概略図だというのに、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が飛び交うこととなった。

 そうして完成した概略図。ここからあらためて設計に問題はないかの議論を重ね、必要となる炉のスペックを算出していく。

 そして、いよいよ完成品となる設計図にルイズ達は取りかかった。

 

 値万金となる新型高炉の設計図。それは、ボロボロのあばら屋にて書き上げられた。完成する頃には、すでに七月(アンスールの月)も終盤に入り、夏真っ盛りとなっていた。

 アカデミーの実践魔法研究室で新開発された、『風石』を使った送風機が導入されたコルベール研究室。そこで、天才達三人は書き上がった設計図を前に、歓声を上げた。

 

 だが、これで終わりではない。設計図の設計意図を説明するための技術資料。それを大量に添付してやる必要があるのだ。

 しかし、そちらはすぐに書き上がった。必要な技術の情報は全て頭の中にある三人。それをエレオノールが中心になって、専門家でなくても分かりやすい資料としてまとめるだけだった。才人の父が寄越した資料に頼れるところも大きかった。

 

 そうして、一連の設計図と資料は、王政府に提出され……ウェールズは今までの十倍の製鉄量を(ほこ)る新型高炉を建てろと言われて、度肝を抜かれることになる。

 だが、すでに建設に必要な予算は確保していたウェールズ。今、トリステインは好景気に沸いており、税収も十分。この新事業に全力を尽くすと決めたこともあって、ウェールズはすぐさま建設地の選定に入った。

 

 そして、見事に結果を出してくれたコルベール研究室のメンバーには、特別に報奨金が出ることになった。

 その中には、遠い異世界に住む才人の両親へと渡す報酬の予算も含まれていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 高炉の設計図を提出し、コルベール研究室に自由な時間が戻ってくる。

 国はこれから建設で忙しくなるだろうが、そこは研究室には今のところ関わりのないことだ。ちなみに、新型高炉の建設は初めての試みということもあり、魔法をフル稼働しても完成までに十ヶ月は見る必要があるとの試算であった。

 まさに国家事業である。新型高炉の完成までは、従来の高炉で鉄鉱石の処理をしていく必要はあるが、それは仕方のないことだ。

 

 さて、そんなところで次なる研究テーマを見つけるターンとなったコルベール研究室だが、その前にルイズは才人の両親と連絡を取り合い、報酬の話し合いをしていた。

 音声通話が可能となっているが、日本語の文字の読み書きはできても発音と聞き取りはまだ怪しいため、文字でのやり取りだ。

 

 そして、どんな報酬がいいかの話となったのだが……。

 逆に、才人の両親から報酬をよりよくするための情報が飛び出してきた。

 宝石のカット技術や、真珠の養殖法。さらにハルケギニアには未だにない、複数の合金の配合まで出てくる始末。

 その中でも、特大の技術が真珠の養殖法であった。

 

「これ、また王室に情報提供する必要、ありますよね?」

 

 ルイズが、己の姉であるエレオノールに確認を取った。

 すると、エレオノールは額にシワを作り、それを指で揉みほぐしながら答える。

 

「当たり前よ、真珠よ、真珠。これはトリステインで独占して秘匿するべき情報よ」

 

 そんなエレオノールの言葉をハッキリと聞いていた、ゲルマニア出身のキュルケ。だが、彼女はゲルマニアという国そのものへの忠誠心はなく、ツェルプストーの家は海岸線にないためスルーした。

 ゲルマニアという国はその成り立ちからして貴族間のまとまりがないため、国益というものへの意識が薄かった。

 

 ただ、養殖法が確立して大量の真珠が手に入るようになったのならば、自分にも都合してほしいと彼女は思うのであった。

 

「まあまあ、それよりも、今はサイトくんのご両親への報酬だ。装飾品はデザインの違いで換金が困難だとか、文化の違いを感じるね」

 

「そうね。それに、稼ぎすぎたら『税務署』とかいう徴税官の集まる国営組織からも目を付けられるというし……」

 

 コルベールの言葉に、エレオノールもそんな言葉を返した。

 才人の両親は、才人が向こうに送ったマジックアイテムを公的機関に持ち寄って、国の役人と話を付けている最中なのだという。だが、国の役人と話をつけたからと言って、税務署が容赦してくれるというとそうではないようだ。

 

「とりあえず、換金目的だけなら砂金で良いって言うから、王政府に用意してもらいましょう。金のインゴットは無理というのは意外よね」

 

 黄金は地球でも価値のある金属のようだが、インゴットとなるとシリアルナンバーやブランド名が刻印されているのだという。

 なので、ハルケギニア産の金インゴットを向こうに送っても、換金は困難なのだとルイズ達は伝えられた。

 その点、砂金ならば刻印などできないから、そのまま送っても容易に換金が可能だと返信が来たのだ。

 

「うーん、密輸感がすごいわね」

 

 ルイズは、このようなやり取りに、怪しいことをしているようだと感じて苦笑してしまった。

 実際、地球にいる才人の両親からすると、国の許可を得る段階には至っていないので、密輸になるのだろう。技術情報を流してもらうことも、実は後で問題になる可能性だってあった。

 

 ルイズとしてはこういう行為はバレなければいいという考え。

 だが、日本ではバレないように金を稼ぐというのはなかなか難しいようだった。

 もっとも、才人の両親は脱税する気など、皆無であるようだったが。

 

「で、サイトのお父上が、個人的に奥様へ装飾品を贈りたいという話ですね。以前にもあった宝石のカット技術に、デザイン案。地金の合金の配合に、おまけにこちらで役立ちそうな金属加工技術の数々……サイトのお父上って、何者なのかしら」

 

 才人からは寡黙なサラリーマンとしか父のことを聞いていないルイズは、行動力溢れる彼の父に、なかなかのやり手だという印象を受けた。

 

「まあ、これらの情報はそのまま王政府に流して、向こうで報酬の品を用意してもらうのが一番ね。合金や金属加工の情報は、アカデミーでも共有させてもらうけれど」

 

 エレオノールがルイズにそう言い、報酬についての方針はまとまった。

 そして、あらためて地球からもたらされた金属加工技術について、研究室のメンバーは盛り上がった。

 学院の外れに置いてあるタイガー戦車とまではいかないが、装甲車くらいなら作れるのではとコルベールは興奮する。さらに、ルイズが言う。

 

「アルミニウムをエレオノール姉さまの『錬金』に頼らずに作り出せるのは大きいですよ。あれは便利な金属です!」

 

「うーん、製錬に電気を使うというのが、難しいわよね……」

 

「いいじゃないか。そろそろ本格的に電気の研究をしたいとは、私も思っていたんだ。『風石』が便利すぎて、せっかく考えた外燃機関の活躍の場もなかったからね」

 

 そんなことを話し合う彼らは、活き活きとしていた。

 それを見守っていたキュルケは、自分の将来を思う。

 

 これまでは実家にコルベールを連れ帰るつもりであったが、むしろ彼はこのボロ屋での研究生活が一番合っているのかもしれない。だから、卒業後はこの学院の職員として雇われて、ここに居座り続けるのも悪くない。

 

 そんな未来をキュルケは想像したのであった。

 

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