【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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114.計算機を開発せよ~トリステインに輝く光~

「ようやく部下に作らせていた物ができたわ。タイプライターよ」

 

 七月(アンスールの月)の末。今日もコルベール研究室にやってきたエレオノールが、一抱えの荷物を持ち込んだ。

 それは、タイプライター。文字が表面に書かれた複数の押しボタン(キー)が並んだ機械だ。ボタンを指で押し込むと内部のカラクリが作動し、セットした紙へ対応する文字が印字されるという、文章製作用の機械である。

 

 この機械は、『世界扉の手鏡』が完成する以前から、エレオノールが部下に研究させていた物である。

 その発想のもとは才人が地球から持ち込んだノートパソコンだ。

 ノートパソコンにはキーボードという機構が組み込まれている。その文字の配列はどういう理由で決められているのかということをエレオノールが才人に尋ねたところ、話が飛んでタイプライターの存在まで辿り付いたのだ。

 

 それから、エレオノールはタイプライターの概要を紙に書き出し、それを実現するための機械の作成を部下に任せたというわけである。

 ちなみに、完成までにはエレオノールの指示から半年近くかかった。コルベール研究室で作られる新発明の頻度を考えると遅いように感じる者も出るかもしれないが、十分早い開発速度である。

 

 エレオノールから見ると、まだまだ粗い部分はあるタイプライターの第一号量産型。しかし、これの登場を待ち望んでいた者がいた。

 才人である。

 

「これで資料の書き写しに時間をかけなくて済む……!」

 

 頼んでもいないのに父からどんどん送られてくる技術資料。それを才人は毎日のように翻訳してペンで書き写していたのだ。

 才人が地球から持ち込んだ四色ボールペンはルイズの私物になっており、他の黒のボールペンはインクが切れる前にエレオノールに提出した。

 なので、才人はハルケギニアで一般的な羽ペンとインク壺を使っての筆記を強いられた。

 

 ハルケギニアでは一般的な羽ペンは、とにかく書きづらい。

 そこで才人は、日本で読んだ漫画の中で漫画家が使っていた金属製のペン先をルイズに教えた。

 すぐさまコルベール研究室で金属製の付けペンとペン軸が開発され、これもエレオノールの実践魔法研究室に持ち込まれて量産された。結果、大ヒット商品となった。

 

 そして、さらに金属ペンだけでなくガラスペンも開発された。こちらは美しいガラス細工による工芸品とも呼べる物が登場し、トリステイン貴族の間で流行が起きた。

 トリステイン魔法学院の貴族にも、ガラスペンを所持している者が徐々に増えていた。

 発案者の才人には、莫大なロイヤルティが舞い込んだ。

 

 そして、才人自身も羽ペンから金属ペン、そしてガラスペンに筆記用具を変更した。

 アルファベットに似た、そして明確に違うハルケギニアの表音文字をその新しいペンで書いていくと、羽ペンよりもインクを浸す頻度が減り、才人は驚いた。

 ルイズ曰く、ペンに彫られた溝が毛細管現象を起こして、羽ペンよりも多くのインクを吸い取ることで、インクの持ちをよくしているのだとか。なるほど、風呂のフチにかけたタオルに湯が吸い上がっていくあれか。と、才人は子供の頃に理科の授業か教育番組かで見た、毛細管現象の説明を思い出した。

 

 そうしてガラスペンのおかげでだいぶ才人の筆記は楽になった。しかし、ここに来て、調子に乗った父からの大量の資料送信で、才人がその筆記用具を使う機会も増えてしまった。

 才人は父の性格を思い出す。言葉数少ないサラリーマンの父。しかし、思えば子供の頃に夏休みの宿題で、朝顔の観察記録を大作にして周囲をドン引きさせたのは、そもそも父による発案が原因ではなかったか。

 どうやら、自身の父は悪ノリしやすい性質のようだと、才人は今更ながらに気付いた。ちなみに、才人本人は調子に乗りやすい性質である。

 

 そういうわけで、今回エレオノールが持ち込んだタイプライターは、才人にとって大歓迎の新発明であった。

 しかし、このタイプライター、コルベールがすっかり気に入ってしまい、先ほどから自身の前に置いて操作を試し続けていた。

 

「うーむ、これはよいものだ。エレオノール嬢、研究室の備品にしてよいかね?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 あ、これ、自分の物にならないな。才人はエレオノールの誇らしげな表情を見て悟った。

 仕方ないので、才人はエレオノールに発注をかけることにした。

 

「あのー、エレオノールさん、俺もタイプライター欲しいので、買えますか?」

 

「今、王宮から大量発注が来ているから、順番待ちになるわよ」

 

「父の資料を写すのに、必要なんですけど?」

 

「……明日、持ってくるわね」

 

 エレオノールはすぐさま前言を撤回して、才人にタイプライターを渡すことに決めた。これには、才人も思わずガッツポーズ。

 その最中にも、コルベールはタイプライターをいじって、慣れぬキー操作に四苦八苦していた。

 

「ううむ、これはハルケギニア中に広まる大発明となるだろうな……私も負けてはいられない」

 

 そんなコルベールの言葉に、エレオノールは目を輝かせて尋ねた。

 

「ジャンは今、何の研究をしているの? わたしは戦車の砲と同等の大砲を『イヴェット』号に付けられないか、父から依頼を受けてそちらに取りかかっているけれど」

 

「ああ、今はルイズくんと共同で、計算機の研究をしているよ」

 

「計算機? 計算尺の仲間か何か?」

 

「それをはるかに先鋭化させた機械だよ。たとえば、十足す十と数値を入力してやると、自動で二十の答えが返ってくる機械だ」

 

「それって、ノートパソコンに入っていた、あの『デンタク』……!?」

 

「うむ。サイトくん曰く、『デンタク』はノートパソコン専用の機能ではなく、もともとは独立した機械らしい。正式名称は、電子式卓上計算機。電子、つまり電気で動く機械だ」

 

「電気……! とうとう本格的に、電気の研究に入るわけね」

 

「電気に関する基礎研究は、ルイズくんにメインを任せている。私は電気で動く機械を作ることがメインだね」

 

「完成を楽しみにしているわ。何しろ、アカデミーのうちの部署は、とにかく計算することが多いから」

 

 ハルケギニアでも数学は発展している。特に建築の分野で数学は重宝されており、そしてハルケギニアにおける建築と言えば、『土』のメイジが活躍する機会が多い。よって、数学は貴族には必須の学問でもあった。

 その数学の計算が、機械によって簡単にできるようになる。多くの貴族はそれを歓迎するであろう。

 さらに、タイプライターを大量発注した王宮や、領地経営をする貴族にとっても計算機は待ち望んだ大発明であろう。

 

「近いうちに成果を出してみせるよ。……さて、真空管の開発には『風』のメイジが必要だが、ミスタ・ギトーは気難しいからな……。ミス・タバサに頼んでみるかね……?」

 

 今日もコルベール研究室は、ハルケギニアの技術の最先端を独走していた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 一週間後の八月(ニイドの月)第一週(フレイヤ)

 コルベール研究室は新技術の発表会を学院の外にある格納庫にて行なっていた。

 

 集まったのは、アカデミーの実践魔法研究室のメンバーと、アカデミーで計算を多く行なう他の部署の研究員。

 それらを前に、まずはコルベールが電気を用いない『機械式計算器』を発表していた。

 その計算器は、以前エレオノールがコルベール研究室に持ち込んだタイプライターほどのサイズをした、複雑な金属のカラクリであった。

 

「ここの目盛りを合わせてをこう動かすとですな、ほら、桁の多い足し算が一瞬でできるわけです」

 

 コルベールが計算を実践してみせると、研究員達が目を見張ってそれに注目する。

 

「さらに、このハンドルをこう回すと……掛け算もできてしまうわけです!」

 

「おおー!」

 

 大盛り上がりとなる、研究員一同。

 

「精巧な歯車を組み合わせて作ってあるため、少々値段は張りそうですが……時計職人なら加工は可能でしょうな。ほれ、このカバーを外してみると、内部はこのようになっているわけです。懐中時計よりは細かくはありませぬ。部品点数は多いですが」

 

 内部機構の複雑さに、研究員はうなった。

 なるほど、これは個人所有するには少し値段が高くつくかもしれない。しかし、欲しい。とても欲しい。少なくとも、仕事場には一台は欲しい。

 実践魔法研究室の者達は、室長のエレオノールを一斉に見る。

 すると、エレオノールは苦笑して言う。

 

「うちの部署には最低でも五台は入れるわ。他の部署は、上司を説得しなさい」

 

 そうして、喜ぶ研究員と、落胆する研究員に分かれた。それぞれ、実践魔法研究室のメンバーと、それ以外の部署のメンバーだった。

 

「う、うちの部署への貸し出しは……?」

 

「これほどの便利な機械が、貸し出しできるほど空くと思うかしら? みんな使い倒すわよ」

 

 そんなエレオノールの言葉に、ガックリと肩を下げる質問者。

 そして、各部署のメンバーが集まって、いかに上司へ要求を通すかの話し合いを始めた。

 

 そんなコルベールの発表は終わり、次はルイズの研究発表が始まる。

 彼女が作り出した物は、『風石発電機』だ。『風石』でタービンを回し、フレミングの左手の法則を用いて電流を発生させる装置である。しかし、電気や電流と聞いても、アカデミーの研究員達はそれが何に使えるのかと首をかしげた。

 装置は大きく、兵器には見えない。そんな研究員達の反応を見て、ルイズはニヤリと笑った。

 

「電気というものは、空から降る雷のように無軌道に動くものではありません。流れやすい場所に流れます。特に、金属、銅に流れやすいものなのです。よって、銅で線を作ってやると、そこだけを通って電気は流れます」

 

 それを聞いて、そんな性質があるのだなぁ、とだけ感想を思い浮かべる一同。

 そこに、ルイズが説明を続けた。

 

「そして、電気というものは様々な働きをしてくれるのです。というわけで、こちらに用意した発電機と、電球があります」

 

 ルイズが示した先には、人間ほどのサイズの箱と、そこからケーブルで繋がった複数のガラス玉があった。

 ガラス玉の中には、なにやら細い線のような物が入っていた。

 電球、という言葉を初めて聞いた研究員達は、それがどのような道具なのか予想を立てていった。

 そして、ある主席研究員が閃いた。

 

「ミス。それは、もしやランプかね?」

 

「正解です! これは、魔法を使わず、電気の力で光を灯すランプです」

 

「ほう……」

 

「では、実際に動かしてみましょう!」

 

 ルイズはそう言って、発電機に備え付けられたレバーを動かした。

 すると、発電機からなにやら物音がし始めた。『風石』がタービンを回す音である。

 そして、正常に作動した『風石発電機』は、電気を発生させて接続された導線に電流を流す。そして、その先にある複数の電球に電流が流れ、ガラス玉の中のフィラメントが輝きを発し始めた。

 

「おおっ!」

 

 純粋な驚きを示す研究員達。そんな彼らの反応に気をよくして、ルイズが言う。

 

「電気のいいところは、銅線を繋げてやれば遠くまで届くところです。つまり、街の郊外に大きな『風石発電機』を一つ造り、そこから銅線を街中に張り巡らせ、各所に電球を備え付けてやれば……今のランタンによる街灯よりも、低コストで大規模に夜の街を照らせるようになるわけです」

 

 そのルイズの説明に、研究員達は感嘆しながらその実現性を考え始めた。

 すると、研究員の一人がルイズへと尋ねる。

 

「銅線を使うとなれば、盗難にあわないかね?」

 

「『風石』採掘で銅の価格は下がっていますが、それでも盗難の可能性は排除できないでしょうね。なので、届かないほど高所に銅線を設置するか、地下に銅線を埋めてしまうかの二択となるでしょう」

 

「ふむ、確かにトリスタニアのランタンも、高所に設置するようになっているな……」

 

「あとは、鉄道の線路のように、盗難に厳しい罰を設けてもらう施策も必要でしょうね」

 

「それは必要であろうな」

 

 そうして、ルイズの発表も大盛況のまま終わった。

 しかし、発表はこれだけでは終わらない。コルベールが、再び前に出て壁際に設置された大きな装置の準備を始めた。そして、その装置とルイズの『風石発電機』をケーブルで接続した。

 今度は何が飛び出すのかと、研究員達はそれを見守った。

 やがて、コルベールの準備は終わり、発表が始まる。

 

「皆様。本日、最後の発明品ですぞ。これは、『電気式計算機』です」

 

 そのコルベールの言葉に、研究員達からざわめきが起きる。

 電気で計算をする? どういうことだ? そんな声が上がった。

 電球はまだ彼らの理解の範疇だった。雷とはエネルギーだ。電気エネルギーを光エネルギーに変換するという手法は、直感的に分かりやすかった。

 しかし、エネルギーに計算をさせる? 一瞬で彼らの理解を超えてしまった。

 

「ミスタ。電気のエネルギーを運動エネルギーに換えて、先ほどの『機械式計算器』の歯車を動かすということかね?」

 

 研究員の一人がそんな質問をする。

 だが、他の研究員はまさかとその質問を頭の中で否定した。『機械式計算器』は確かに操作が面倒だが、わざわざこんな大型の装置にしてまでやることではない。そして、コルベールの答えも否であった。

 

「皆様も『機械式計算器』の欠点はお分かりかと思います。歯車を用いているため、故障が起きると。そして、歯車を動かすために、計算速度に限界があると。では、歯車を用いずに計算ができたら、どうなるか。その答えが、この『電気式計算機』というわけです」

 

 そのコルベールの答えに、一応の納得を見せた研究員達。だが、それをどうやって実現するのかが分からなかった。

 

「皆様は、二進数という数の数え方をご存じですかな? 我々が普段使っている数字は、〇から九までの十個の数を用いた十進数というものです。しかし、二進数は〇と一のみを用いて数を表します」

 

 すると、研究員達の多くがうなずいた。今のハルケギニアでは十進数が一般的に使われている。だが、他の進数も数学者の間では知られているのだ。必要がないから使わないだけ、そういう代物である。

 

「電気で計算をするときは、その二進数を用います。電流が流れているときと、流れていないとき。その二つの状態で〇と一を表現するのです」

 

 まさかの発想に、研究員の幾人かの胸が高鳴った。この場に居るのは、計算を生業とする者達。

 もちろんその中には、数学が大好きな学者肌の者もいた。

 古の時代、人は石を使って数を数えていたという。電気での計算は、それと似た発想でもあった。何もないときは〇、物が置かれたときは一。それを電気の状態で行なうのだと、彼らは理解した。

 

 そんな彼らの興奮を後押しするように、コルベールは言う。

 

「しかし、それだけでは数を表すことしかできませんな? 計算をするには『計算』をしてやる必要があるわけです。そこで用いるのが、論理学です」

 

 そのコルベールの言葉に、再び研究者達が不思議がる。確かに論理学という学問は、数学の中核をなすといってもよい。だが、二進数の計算にどう関わってくるのか。

 そう彼らが思っていると、キュルケがキャスター付きの大きな黒板をコルベールの横へと運んで来た。

 

 その黒板には、すでに文字が書かれていた。

 

「『AND』『OR』『XOR』『NOT』。これら四つの論理演算を用いることで、二進数の計算を可能とする。これを『計算論理学』と呼びましょうか。そして、これらの論理演算を行なう装置が、『電気式計算機』なのです」

 

 研究者達は、目を血眼にして黒板の文字を追った。

 いずれも優秀な研究者達。そこに書かれた内容は、彼ら全員が理解することができた。

 

 そうして、説明が終わったところで、コルベールは『電気式計算機』を動かし始めた。

 高さ二メイル、横幅八メイルにもなる巨大な装置。それを用いて、コルベールは複雑な計算を次々と行なっていく。

 

 計算結果は紙に印字され、装置から吐き出されていく。タイプライターをさっそく応用した、印字技術であった。

 

 その結果に、研究者達は度肝を抜かれた。人の手で計算すれば、数時間はかかるであろう膨大な回数のかけ算が、数秒で出力された。これには、天文学を専攻していた研究員が特に興奮した。

 その反応にコルベールは満足して、さらに言った。

 

「この計算機のキモは、マジックアイテムではないことです。発電機には『風石』を用いていますが、こちらもタービンを回すために『風石』を用いることは必須ではないのです。すなわち……今後の研究で耐久性を上げることで、一年中、一時も休まずに稼働し続ける計算機が誕生することを意味しております」

 

 そのコルベールの言葉に、一同はうなった。彼らは、魔法研究所であるアカデミーの研究員であるゆえに、マジックアイテムの欠点をよく理解していた。それは、長時間の稼働が難しいということだ。

 複雑なマジックアイテムは、長時間動かすと暴走する。コルベールの計算機は、その欠点を取り除いてあるというのだ。

 

「今はこれだけ大きな装置となっております。しかし、いずれはこの『電気式計算機』も、先ほどのような『機械式計算器』のように卓上に載る小さな道具へと進化していくことでしょう。皆様方! 研究者、学者、文官の未来は明るいですぞ! 以上、発表を終わります!」

 

 コルベールがそう宣言すると、盛大な拍手が研究員全員からコルベールに向けられた。その拍手をコルベールは恥ずかしそうに受け入れ、ハゲ頭に手を置いて笑った。

 そして、拍手が収まったところで、そばに控えていたキュルケが言った。

 

「それでは、これらの発表に対して、質問を受け付けます。質問者は、挙手をお願いします」

 

 すると、研究員の多くがその場で手を挙げ始め……発表会は、こうして大成功を収めることとなった。

 

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