【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第十一章 遥か砂塵の大地より
117.砂漠に住むエルフ


 ハルケギニア大陸西部より東に行くと、広大な砂漠地帯が広がっている。

 その地を支配する者達は、人間ではない。ハルケギニアの人々から亜人と呼ばれている、人間の近縁種。そのうちのエルフと呼ばれる種族が、その砂漠の支配者であった。

 エルフは砂漠のことをサハラと呼び、この生命が住むのに向かない大地を精霊の力を用いて改造して、高度な文明を築いていた。

 

 そのサハラにあるエルフの国を彼らはネフテスと呼んでいた。

 ネフテスの各所には、エルフが建てた都市がいくつか存在している。そのうち、最も巨大な都市が首都アディールだ。

 アディールは海岸線から半島のように突き出た人工島である。同心円が幾重にも重なったような整然とした形をした都市が人工島の上に築かれており、その中心には全高二百メイル近い巨大なビルが建っていた。

 

 そのビルの屋上は、さながら地球のヘリポートのように風竜が降り立ち、飛び立っている。

 この建物こそが、エルフ社会の中心地。カスバと呼ばれるネフテスの評議会本部である。

 

 エルフはサハラの各地で部族毎に分かれて暮らしている。その部族の代表者がここアディールに集まり、評議会(カウンシル)と呼ばれるエルフ全体を運営する組織を作っていた。

 さらに、評議会を代表する者が、『統領』と呼ばれる。『統領』は各部族の代表者達の投票で、数年に一度選出される決まりとなっている。王政のハルケギニアとは、趣がだいぶ異なる文化をエルフ達は持っていた。

 

 アディールの中心地カスバは、その評議会の者達が集まり、組織を運営していくための建物である。その四十二階。精霊の力で動く昇降機にて辿り着ける上層の階に、とある評議会議員の執務室があった。

 

 その議員の名は、ビダーシャルといった。

 

「叔父さま! 蛮人の世界はどうでしたか?」

 

 ビダーシャルの執務室。そこに、エルフが三人集まっていた。

 一人は、先ほど言葉を放った活発そうなエルフの少女。名をルクシャナという。

 もう一人は、そんなルクシャナの興奮を収めようとしているエルフの青年。名をアリィーという。

 そして最後の一人は、威厳のある大人のエルフの男性。この部屋の主であるビダーシャルであった。

 

「落ち着け。順番に話そう。わたしは、悪魔の降臨を防ぐため、ガリアという国の代表者にコンタクトを取った。契約を結び、彼のためにいくつかの仕事をした」

 

 ビダーシャルが、ルクシャナに温和な声で説明をした。すると、ルクシャナは興奮した様子で叫ぶ。

 

「王! 蛮人の代表者ね! 特定の一族から選ばれる代表者が、死ぬまで国を支配する! まさに蛮人の発想ね!」

 

「そう短絡的にいうものではないよ、ルクシャナ。彼らは寿命が我らの半分ほどしかないのだ。飛び抜けた暴君が生まれない限り、その寿命に応じた短い治世となる。だから、案外上手く社会は回るようなのだ」

 

「まあ! 確かに、ちょっと待つ間に世代交代がされるのなら、治世の知識を溜め込んだ一族が代わる代わる代表者を送り出すのも理に適っているかもしれないわね!」

 

「そういうわけだ。わたしが契約をしたガリアという国の代表者は、王に就任した直後は『無能王』と呼ばれていたようだが、やがて『名君』と呼ばれる存在までになっていたな」

 

「短期間で成長したわけね!」

 

「おそらく、そうなのであろうな」

 

 ルクシャナとビダーシャルが、和気あいあいとハルケギニアの王政について話す。

 二人とも学者肌の者であり、話が合うようだった。

 一方、残された青年アリィーは、エルフの戦士だ。話についていけず、黙って二人の会話を見守っていた。

 

「それで、叔父さまは蛮人の王のところで何をしていたの? 蛮人の王の家来になっちゃったんでしょ?」

 

「家来ではなく、契約を結んで、必要に応じて働きを返していたのだが……」

 

「おおよそ家来じゃない! で、何をしたの?」

 

「兵器の開発だな」

 

「兵器! 野蛮ね! どんな兵器を作ったの!」

 

「『風石』で動く鉄人形だな。鉄の装甲をまとった動く巨人兵器に『反射(カウンター)』をまとわせたものだ」

 

「『反射』って、叔父さま、それはいくらなんでもやりすぎよ。蛮人の誰も敵わない殺戮兵器になるわよ」

 

「それが、意外とそうでもなかった。ガリアの王が攻めた場所には、シャイターンの門から持ち出された兵器が隠されていた。大砲を積んだ自走兵器で、その大砲で鉄人形は軽々と撃ち破られたようだ」

 

「悪魔の兵器! 蛮人に動かせる者がいたの!?」

 

「ああ、『悪魔の力』の使い手が呼んだ、使い魔の蛮人だな」

 

「使い魔! えっ、使い魔って、幻獣を呼び出すのではないの?」

 

「『悪魔の力』の使い手の使い魔は、同じ蛮人が呼び出されるようだ。その使い魔は『ガンダールヴ』と呼ばれており、光る左手をもって、あらゆる武器を操るのだとか」

 

「光る左手!? えっ、それって、聖者アヌビスと同じ特徴……!」

 

 次々と衝撃の事実が飛び出すビダーシャルの言葉に、ルクシャナは興奮を隠せないようだった。

 

 ビダーシャル。彼は、ガリアに潜入していたエルフである。

 そう、彼こそが、ガリアにてヨルムンガントの開発に協力して『反射』の先住魔法を施した、エルフの技術者であった。

 

 エルフの中でも高位の術者しか使えない『反射』の術。

 それをガーゴイルに付与するという離れ業を成し遂げたのは、彼がエルフの中でも有数の知恵者であるからだ。

 だからこそ、彼は評議会議員というエルフの中でも最高峰の地位を得ているのだ。

 

 そんなビダーシャルが、逸れかけた話を修正して、己の仕事の成果についてルクシャナに語る。

 

「悪魔の信仰者から『シャイターンの門』、彼らの言う『聖地』を攻めようという提言があったようだ。だが、わたしの契約者であるガリアの王がそれを(くじ)いた。例の鉄人形は、悪魔の信仰者との戦争に投入され、ガリアが戦争に勝つこととなった」

 

「野蛮な手段だけど……仕事は見事に完遂したってことね。さすが叔父さま!」

 

「そうだとよかったのだが……しかし、契約者は突然、その地位を放棄して出奔(しゅっぽん)してしまってな」

 

「ええーッ!? 契約者って、王でしょ? 国の首長でしょ? 一番の地位にいたのに、放棄しちゃったの?」

 

「ああ、どうやら、その地位に居続けることが嫌になったらしい」

 

 呆れた様子で、ビダーシャルが言う。そう、ジョゼフの突然の退位は、ガリアと関係ないような遠いサハラの地まで影響を及ぼしていた。

 そんなまさかの事態に、ルクシャナはケラケラと笑って言った。

 

「笑えるー。まあ、わたしもそんな偉い立場になりたくないけれど! 研究している方が楽しいものね!」

 

「その本人は、政治をしているよりも東方への冒険を選んだようだな。最近、この近くを蛮人の空飛ぶフネが通ったか?」

 

「そういう話は聞いていないかなー」

 

「ふむ。では、サハラを横断せずに海を通ったか……」

 

 考え込むビダーシャルだが、ルクシャナはそれを無視してビダーシャルに問うた。

 

「で、叔父さまの仕事は成功なの? 失敗なの?」

 

「失敗だな。だが、悪魔の力を得た者達が四人集まったことは判明した。ゆえに、評議会はある決定を下した。それが本日、アリィー、キミを呼んだ理由だ」

 

 そのビダーシャルの言葉に、黙って話を見守っていたアリィーが嫌そうな顔をした。

 

「ビダーシャル様、まさか……」

 

「ふむ、察したか? それなら話は早い」

 

 アリィーとビダーシャルの短い会話に、ルクシャナはついていけずにキョトンとする。

 そして、アリィーの肩をつかんで揺すり始めた。

 

「ちょっと、わたしにも分かるように言ってよ」

 

「きみの叔父君は、戦士小隊を率いて蛮人の国から悪魔を(さら)ってこいと言っているんだよ! ぼくは『騎士(ファーリス)』の称号を持っているから、こういう荒事を任されるんだ!」

 

 アリィーの叫ぶような声に、ルクシャナは目を輝かせた。

 

「蛮人の国に行けるだなんて、すてきじゃない! でも、なんで悪魔を攫う必要があるの?」

 

 ルクシャナの疑問に、アリィーではなくビダーシャルが答える。

 

「今は、悪魔の復活の時代なのだ。ゆえに、四の使い手が揃った。しかし、使い魔も含めた四の四が一所(ひとところ)に揃わねば、あやつらは真価を発揮できぬ。そして、殺すわけにもいかぬ。殺しても、新たな悪魔が生まれるだけだからな」

 

「なるほど、だから攫ってこちらの手元に置くわけね!」

 

 ビダーシャルの説明を聞き、ルクシャナがようやく合点がいったという様子でそう言った。

 

「ああ。生かして隔離してしまえば、悪魔の真価は発揮されぬ」

 

「すごい! 大冒険だわ! アリィー、わたしも行くわ! 連れていってくれるわよね!?」

 

 またもや興奮し始めるルクシャナ。しかし、アリィーは苦い顔でビダーシャルに向けて言った。

 

「ビダーシャル様、わたしは絶対に蛮人世界なんかに行きませんからね! 悪魔を攫ってこいなんて無茶な命令、断固拒否します! 拒否権を発動させていただきますよ!」

 

「だ、そうだぞ。ルクシャナ」

 

 ビダーシャルの言葉に、ルクシャナはアリィーをにらんで言う。

 

「なによ。あなた、叔父さまの命令が聞けないっていうの?」

 

「聞けないよ! 悪魔を攫うだって? 命がいくつあっても足りないよ!」

 

「そう、じゃあ、アリィー。あなたとの婚約を解消させてもらうわ。恋人から最大の楽しみを奪う男となんて、添い遂げられないわ!」

 

「なんだって!?」

 

 アリィーは、突然妙なことを言い出したルクシャナを呆然と見つめた。アリィーとルクシャナは、婚約者同士であった。

 だが、蛮人世界に付いていけると思っていたルクシャナがハシゴを外されて、婚約解消を盾にゴネ始めたのだ。これにはアリィーも困ってしまった。

 そんな彼がふと、ビダーシャルの方に目を向けると、彼は自分達から目を離して執務室の窓から外を眺めていた。

 

「……ビダーシャル様。ハメましたね?」

 

「さて? ルクシャナはわたしの姪であるが、もう立派な大人だ。わたしが口を挟める問題ではないよ」

 

「まったくもう! 分かりました、分かりましたよ! 悪魔の国に行けばいいんでしょう!」

 

「うむ、よろしい」

 

「で、どの国に行けばいいのですか! 蛮人の世界は広いのでしょう?」

 

「うむ。所在はおおよそ判明している。トリステインという国の、ド・オルニエール。そこに、『賢者』と呼ばれる悪魔が頻繁に通っているそうだ」

 

 そんなビダーシャルの言葉に、ルクシャナが反応する。

 

「『賢者』! 学者か何かかしら!?」

 

「学生であるようだが……我々エルフの世界にもないような画期的な発明を次々としているようだ」

 

「まあ、まあまあ! これは、やる気が出てきたわ! 攫ってきたら、わたしの手元に置いてもいいかしら!?」

 

 興奮するルクシャナに、アリィーは呆れながらもビダーシャルに命令の詳細を聞き出していく。

 そして、攫うべき『悪魔の力』の使い手の名を尋ねた。

 

「ああ。『悪魔の力』、彼らのいうところの『虚無』の使い手の名は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。桃色がかった金髪の少女だそうだ」

 

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