【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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118.サハラ発、トリステイン行き

 悪魔を捕らえるために組まれたエルフの戦士団は、ブリミル教の修道僧に扮し、砂漠を進みガリアとの国境を越えた。

 道中で食い詰めた山賊に襲われたが、なんなくそれを撃退し、ガリアの街道へと入る。

 蛮人の文化を見たがったエルフの学者ルクシャナの提案で、馬に乗り景色を見ながらの移動だ。

 

 ガリアの景色を見ていくと、蛮人の名に相応しい遅れた文明にエルフ達は笑いを隠せなかった。

 だが、ルクシャナはその遅れた文明からエルフとの根本的に異なる文化の違いを見いだして、興奮気味に周囲を観察し続けていた。

 

 そして、街道を進んでいくと、彼らはある集団に行き当たった。武装をした者達が、ある箇所を囲むように展開していたのだ。

 山賊ではないかと一瞬警戒するエルフ達だが、すぐにそれは違うと思い立った。

 武装が統一されているのだ。おそらくは、どこかに所属している兵士だと判断した。何かの理由で通行止めをしているのだろう。迂回すべきだ。集団のリーダーである戦士アリィーがそう提案したが、ルクシャナはそれを無視して兵士らしき者へと近づいていった。

 

「止まれ! この先は通行止めだ!」

 

 予想通り、制止の声を上げられるルクシャナ。だが、ルクシャナは気にもせず兵士に話しかけた。

 

「ねえ、この先に何があるの? 街道整備中?」

 

 ルクシャナが使った言葉は、ハルケギニアの共通語であるガリア語だ。だが、そこに訛りを感じた兵士は、外国の出身だと察した。

 

「ふむ、ロマリアあたりから修行に来たのかね? この先では、『風石』の採掘中だ。危険なので迂回すると良い」

 

「『風石』! あっ、空飛ぶフネの動力を集めているのかな?」

 

「うん? 何を言っている。『大隆起』対策に決まっているではないか」

 

「『大隆起』? 何それ?」

 

「なんだ、おぬしら、『大隆起』を知らんのか!」

 

 心底驚いたという様子で、兵士が言った。

 そして、兵士はルクシャナに追いついてきた一団の砂塵で汚れた修道僧のフードを見て、納得するように言葉を続ける。

 

「世俗から離れて、修行の日々を送っているのだな。だが、『大隆起』は知っておくべきだな。簡単に説明しよう」

 

 そんな兵士の言葉に、ルクシャナは目を輝かせた。

 

「大雑把に言うとだな、ハルケギニアの地下には『風石』が埋まっておるのだ」

 

「うん? 地下に『風石』って、当たり前のことじゃない?」

 

「そう急くな。その『風石』だがな、ハルケギニアの五割を占める地域に埋まっておってな……しかも、近いうちに活性化を迎えるというのだ」

 

「まあ! 大変じゃない!」

 

「察したか。その通りだ。活性化を迎えれば、大地は空に打ち上がるか、まくれ上がるかするだろう。しかし、そうならないよう、こうして『風石』を採掘して大規模災害である『大隆起』を防いでやろうとしているわけだ」

 

「なるほど、原因を取り除く訳ね。合理的ね」

 

「うむ。各所で採掘を行なっているので、迂回を指示されたら従うように」

 

「はあーい」

 

「よろしい。しかし、地下の『風石』の活性化を見抜くとか、すごいこととは思わんか?」

 

「そうかな? そうかも……」

 

「トリステインの『賢者』殿が見抜いて、この解決策を提案したらしいが……足下の危機ならば、ガリアの学者にも自力で見抜いてほしかったところであるな」

 

 トリステインの『賢者』。まさかのワードに、エルフ達は顔を見合わせた。

 そして、ルクシャナが兵士に再び尋ねる。

 

「ねえ、その『賢者』って、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールって名前?」

 

「おお、確か、そのような名前だな。なんだ、ロマリアでも『賢者』殿は有名なのか。彼女は、我が国の前王陛下とも親しい仲だったらしいぞ。いやあ、そのような傑物が、ガリア出身でないことが本当に悔やまれるな」

 

 どうやら、自分達のターゲットはずいぶんと大物のようだと、エルフ達は顔を引き締まらせた。

 一方、ルクシャナはそんな『賢者』とどのような会話を交わせるのかと、ワクワクした顔で再び目を輝かせた。

 

「ありがとう! これからわたし達もその『賢者』のいるトリステインに向かうんだけど、迂回するならどの道を通ればいいのかな?」

 

「はるばるトリステインまで行脚するのか。ふむ、この道から外れるならば……」

 

 そうして、親切な兵士に道を教えられ、エルフの戦士団の旅は順調に進んでいった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 八月(ニイドの月)第四週(ティワズ)。ガリアでちょうど戴冠式が行なわれているころ。

 エルフの戦士団は、トリステインまで辿り着いた。そこで、彼女達は不思議な光景を目にする。

 

「何これ何これ、鉄の道が遠くまで続いているよ!」

 

 これまでの旅路では見なかった、二本の鉄のレール。それが、街道沿いにずっと続いているのを見つけたのだ。

 

「ふーむ、なんだこれは。地上でトロッコを動かすとでも言うのか?」

 

 アリィーも、鉄のレールを見ながらそんなことを言った。すると、ルクシャナは目を輝かせてアリィーの方へと振り向いた。

 

「それだ! 地上でトロッコを動かすのよ!」

 

「そんなことをして何になるんだ? 例の『風石』採掘で出た『風石』でも遠くに運ぶのか?」

 

「『風石』も運べるし、蛮人だって運べるわよ。道中で、街道が荒れているところがいくつもあったじゃない? でも、こうやって鉄の道を敷いて、その上を走ってやれば悪路を気にせず高速輸送が行なえるのよ」

 

「なるほど……」

 

「蛮人ながら、賢いやり口ねー。地下を採掘しているなら鉄は余っているでしょうからね。これも『賢者』が考えたのかしら」

 

 そうして、彼女達はその鉄のレール沿いに街道を進んでいった。

 鉄のレールの行き先が、ちょうど彼女達の目的地であるド・オルニエール領なのだ。

 やがて、彼女達は道中で鉄道馬車に遭遇する。レールの上に載った巨大な箱を四頭の馬がひいている。行き先は彼女達と同じく、ド・オルニエール領であるらしい。

 そこで、ルクシャナは鉄道馬車を観察するために、馬で馬車と併走し始めた。

 

 それをやれやれといった様子で見守る戦士団。

 だが、その最中、ルクシャナはギョッとした顔をして馬車から離れ、戦士団の方へと近づいてくる。

 ただごとではない様子に、アリィーが心配そうな顔をしてルクシャナに尋ねる。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「馬車の中に、エルフがいる……!」

 

「なにっ!?」

 

 ルクシャナの言葉に、戦士団の一同がギョッとした顔を浮かべた。

 一方で、アリィーは表情を真面目なものに変えて、ルクシャナに向けて言う。

 

「おそらくは、ビダーシャル様の話にあった、エルフの裏切り者とアルビオン王国との王族の間に生まれたという、『混じりもの』だ。悪魔の一人だぞ」

 

「あっ、そうね。確かに、ハルケギニアにエルフがいるとしたら、そうなるわよね」

 

「ふむ……標的の一人だが、どうするか……」

 

「評議会の命令は、あくまでルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの捕獲でしょ? 田舎の村で育ったっていうし、わたしは興味ないわよ」

 

「別に、興味で標的を選ぶわけではないのだが……ふむ、捕らえて、『賢者』なる悪魔の人質にして二者とも捕まえるか……」

 

 アリィーのその言葉に、戦士団のエルフ達は身構えた。

 そして、小声で少し遠くを走る馬車をどう襲うか計画を立て始める。

 だが、そんな彼らをルクシャナが止めに入った。

 

「ちょっと、待ちなさいよ。まったく、これだから脳みそまで筋肉でできているような戦士達は駄目ね」

 

「なんだ? 相手は悪魔だぞ? ここにきて止める選択肢はない」

 

 アリィーがそう言うが、ルクシャナは呆れた様子で彼に言葉を返した。

 

「こんな白昼堂々襲ったら、大騒ぎになって逃げるのが難しくなるわよ。夜まで待ちなさい」

 

「確かにその通りだな……しかし、標的を見失ったらどうなる?」

 

「見失わないように、(そば)で監視し続ければ良いじゃない」

 

「俺達は戦士だぞ? 隠密ではない」

 

「大丈夫。こういうときは、旅の者を装って接触して、知り合いになっちゃえばいいのよ」

 

「できるのか……?」

 

「大丈夫大丈夫。この道を真っ直ぐ行くなら、きっと彼女の行き先はド・オルニエールでしょう? 目的は多分、温泉だと思うのよね! ああ、入ってみたかったのよね、温泉!」

 

 ルクシャナは、その飛び抜けた社交性で、道中の旅人からド・オルニエール領がどんな場所か聞きだしていた。そして、最近『賢者』の手で温泉が湧いたという情報まで辿り付いていたのだ。

 温泉温泉とつぶやきながら、上機嫌で馬を走らせるルクシャナ。

 こいつに任せて本当に大丈夫か? 戦士団の面々は、一斉にそんな疑問を頭の中に思い浮かべたのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ド・オルニエール領に到着したエルフの戦士団。それを実質的な代表として仕切っていたルクシャナは、鉄道馬車から降りたティファニアに接触し、旅の修道僧を装って仲良くなることに成功した。

 温泉へ贅沢しに来る修道僧とはなんぞや、という疑問はティファニアには思い浮かばなかった。彼女は世情に疎いのだ。

 そして、ルクシャナはエルフの女戦士と一緒に、ティファニアの向かう貴族用の温泉施設へと入っていった。

 

 本来なら貴族以外には入れないこの施設だが、アルビオンの王族であるティファニアが友人として招きいれたため、エルフの戦士団は全員この施設に入ることができた。

 そして、脱衣所に入ったルクシャナを始めとしたエルフ女子達。ブリミル教の修道僧のフードを取り去ると……その下からは、エルフのものではない丸い耳をした頭部がさらけ出された。

 

 長い耳がエルフの特徴である。しかし、道中でその耳を晒すと要らぬトラブルを招くと理解したエルフ達。

 ゆえに彼女らは皆、自分に精霊の力、蛮人のいうところの先住魔法の『変身』で耳を蛮人のそれへと変えていた。

 

 そうして、蛮人に扮したエルフ達は、堂々と服を脱ぎ、温泉へと入っていった。

 八月(ニイドの月)は終わりかけているが、まだまだ夏は続いている。

 そんな暑い中で、熱い風呂に入り、冷たいレモン水を飲む。この快感に、ルクシャナはため息を吐くしかなかった。

 

「はふぅー、気持ちいい……」

 

「ふふっ、良いものでしょう?」

 

 仲良くなった旅人と自分の趣味を共有できて、我がことのように喜ぶティファニア。

 そんな彼女をルクシャナは、湯に浸かりながらあらためて観察した。

 

 デカい。背ではなく、胸がデカい。

 エルフと蛮人が交配したら、こうなるのか? ルクシャナは目を見張った。

 その視線に気付いたティファニアは、恥ずかしそうに胸を隠した。

 

「あっ、やっぱりおかしいかな? でも、わたしってほら、エルフだから……」

 

「いや、エルフでもそんなに大きいのはいないわよ!」

 

「えっ、そ、そうかな?」

 

「あっ、うん、そう。伝え聞く限りではそうよ。わたし、東の方から来たから、エルフにはちょっと詳しいの」

 

 思わぬ失言をしてしまったと、ルクシャナは焦った。ブリミル教の修道僧が、敵であるエルフに詳しいはずがない。だが、ティファニアはそこに疑問を感じなかったようなので、ルクシャナは出身地を東の地にすることで話を誤魔化した。

 

「ルクシャナは、エルフに詳しい?」

 

「まあ、それなりにかな」

 

 顔を僅かに喜色に染めてティファニアが尋ねてきたので、ルクシャナは言葉を濁しながらそう答えた。

 

「わたしの母は『シャジャル』っていうのだけれど、何か知らないかしら。東方からアルビオンに流れてきたらしいの」

 

「『シャジャル』……エルフの言葉で真珠って意味よ。きっと、美しい方なのね。今はどこに住んでいるのかしら」

 

「えっと、母はアルビオンに住んでいたけれど、もう亡くなっていて……」

 

「あら、失礼したわ」

 

「ううん。やっぱり、ハルケギニアはエルフにとっては生きづらい場所だったみたい。でも、どうしてそんな母が、遠いアルビオンまで流れ着いたのか、知りたいの」

 

「残念ながら、初めて聞いた名ね。しかし、アルビオンかぁ……浮遊大陸とか、不思議よねー」

 

「うん。ルクシャナは『大隆起』って知ってる?」

 

「旅の道中で聞いたわ。驚きよね」

 

「アルビオン大陸は、過去の『大隆起』で空に打ち上がった大地の名残らしいの」

 

「まあ! すごいわね! じゃあ、今回の『大隆起』が起これば、ハルケギニアに新しい浮遊大陸ができるのかしら」

 

「そうならないよう、ルイズが動いているわ」

 

 と、不意に挙がった標的の名に、温泉でくつろいでいたエルフの女戦士の眉がピクリと動く。

 だが、ルクシャナは動揺を顔に見せずにティファニアへと切り込んだ。

 

「ルイズって、噂の『賢者』の名前よね?」

 

「うん、同じ学院の生徒で、お友達なの」

 

「あら、お友達! それはなんとも……」

 

 都合がいい、そう言いそうになって、ルクシャナはとっさに口を塞いだ。

 

「ふふっ、驚くわよね、あの『賢者』がお友達だなんて」

 

「そうね。『虚無』の使い手なんでしょう?」

 

「そうよ。でも、『虚無』もすごいけど、とても頭がいいの。温泉を掘ったのもルイズだし、鉄道をここまで敷いたのもルイズ。最近も、いっぱい大発明をしていると評判よ」

 

「大発明! 詳しく詳しく!」

 

 そうして、ルクシャナは悪魔を捕らえるという目的も半ば忘れ、温泉でのぼせる寸前までティファニアから様々なことを聞きだしていった。

 そして。温泉を出て、学院まで帰ると言ったティファニアを笑顔で見送りそうになったルクシャナは、温泉から先に出ていたアリィーに頭を叩かれた。

 

「あいたっ、何をするのよ」

 

「なに逃しそうになっているんだ。暗くなってきたから、作戦を開始するぞ」

 

「あっ、そ、そうね。忘れていたわ」

 

「こいつは……」

 

 婚約者同士の夫婦漫才に、思わず笑いを漏らす戦士団。

 しかし、ふざけていたのはそこまで。彼らは、悪魔の末裔である『虚無』を捕らえるため、闇に乗じて動き始めたのだった。

 

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