【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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119.ミッション:悪魔の末裔を捕らえよ!

 ティファニアを見事捕らえることに成功したエルフの戦士団。なにやら護衛らしき者が陰に付いていたが、エルフの戦士からすると赤子の手を捻るかのごとく簡単に制圧できた。今、その護衛は精霊の力で深い眠りに就いている。

 

 彼らは捕らえたティファニアから、悪魔ブリミルの末裔ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの居場所を聞き出そうとした。だが、当然ティファニアは抵抗し、口をつぐむ。

 そこでエルフの一人が、サハラから持ち出してきた自白剤をティファニアに飲ませた。

 すると、ティファニアは意識が朦朧(もうろう)となり、あっさりとルイズの居場所を吐いた。

 

 目的の悪魔は、領主の館の周辺にいる可能性が高いという。

 領主の館には代官が。

 その近くに建つ大きな宿舎には、不死鳥(フェニックス)飛行隊なる軍人が。

 そして、宿舎からやや離れたところにある格納庫には、おそらくルイズが泊まり込んでいるという。

 

 格納庫に、なぜ? そう疑問に思う彼らであったが、どうやら新しい空飛ぶ乗り物の改良にここ数日ずっと泊まり込んでいるらしいと、ティファニアは語った。

 新しい乗り物と聞いて、ルクシャナは興奮し始めた。が、アリィーがそれを押さえて、捕獲作戦を練った。

 

 そして、エルフの戦士団は二手に分かれた。邪魔に入る危険性があるメイジの集団がいるであろう宿舎と、本命の格納庫に戦力を分けたのだ。

 彼らは戦士団であるが、無益な争いは好まない。エルフは平和主義を自負している種族なのだ。

 よって、アリィーは水の精霊の力を借りて、『眠り』の蒸気を流すことで相手を鎮圧することに決めた。

 

 数を減らした戦士を率いて、アリィーは巨大な格納庫へと向かう。

 

「水よ。尊き命の水よ。彼の者に、安らかなる眠りを与えよ」

 

 水の精霊の力を借りる、初歩的な力をアリィーは放つ。

 この地に満ちる温泉に宿った水の力を利用して作られた、『眠り』の力を含んだ水蒸気が格納庫内に流れる。呪文の成功を確認した彼らは、しばらく待機した後、今度は風の精霊の力を借りて空気を入れ換える。そして、彼らは格納庫内へと踏みこんだ。

 格納庫の中には、翼を広げたような姿をした奇妙な乗り物が整然と並んでいた。

 

「これが、空を飛ぶ乗り物……!」

 

 未だ朦朧としたままのティファニアを引き連れたルクシャナが興奮するが、アリィーがそれを無視し、戦士団を格納庫内に散らせてルイズを探す。

 そして、アリィーは床にうつ伏せで倒れる桃色がかったブロンド髪の少女を見つけた。

 小さな少女だ。蛮人の悪魔といえど、こんな幼い子供を(さら)わなければならないとは。そんなことを思いつつ、アリィーがルイズに手を伸ばした瞬間。

 

 ルイズが突然その場で起き上がり、アリィーに向けて蹴りを放った。

 

「くっ!」

 

 不意打ちとなった蹴りを腹にくらい、思わず後ろへとよろめくアリィー。

 強力な蹴りだ。この小さな少女から放たれたとは思えない一撃。

 

 アリィーは腹を押さえながら、悪魔の末裔の少女へと叫んだ。

 

「なぜ眠っていない!」

 

「精霊が危険を知らせてくれてね!」

 

「なんだと!?」

 

 悪魔のまさかの言葉に、アリィーは感覚を研ぎ澄ませる。

 すると、悪魔の胸元から、強い精霊力の塊をアリィーは感じとった。

 なぜ、悪魔が精霊力を行使しているのか。混乱する周囲の戦士達だが、ただ一人、アリィーはすぐさま正気を取り戻した。

 

「そちらが水の精霊力を扱うのならば、こちらは風の精霊に手を貸してもらうことにしよう」

 

 そう言いながら、アリィーは目線を横にズラして目的の物を視界に入れる。

 すると、彼の狙いを察したのか、悪魔の少女がハッとした表情になった。

 

「ッ!? まさか、『風石』の力を!」

 

「さすが、知恵が回る!」

 

 格納庫の隅には、地中から掘り出された加工前の風石が乱雑に積まれていた。

 その『風石』から、アリィーは精霊の力を引き出した。

 

「風よ――!」

 

 格納庫の内部に、暴風が吹き荒れる。そして、風はアリィーの前でまとまり、物理的な破壊力を持つ塊と化す。

 作り出されたのは、目に見えぬ風のハンマーだ。

 蛮人達の使う『風』の魔法にもある、『エア・ハンマー』。それを強力にした一撃が、悪魔を討たんと解き放たれる。

 

 風のハンマーが悪魔の少女を打ちつけようとしたところで、そこに割って入る者がいた。

 剣を持った少年だ。黒髪黒目の、ハルケギニア大陸西部では珍しい顔立ちをした男。

 彼はその手に持つ剣を風のハンマーに力強くぶつけた。すると、剣がその刀身に風を吸い込んだではないか。

 

「魔剣だと!?」

 

 アリィーは、まさかの展開に、一瞬の隙を作り出してしまった。

 その隙に、少年は悪魔の少女の前に立ちふさがって、アリィーに対して剣を構えた。

 

「サイト!」

 

 悪魔の少女が、少年にそう声をかける。すると、少年は油断なく剣を構えながら、声を上げた。

 

「危ねえー。まったく、主人のピンチで視界共有とか、ルーンにこんな緊急時の機能があったんだな!」

 

 主人のピンチ、という言葉を聞いてアリィーは少年の正体を察した。

 悪魔である『虚無』の使い魔だ。彼の左手を見ると、ビダーシャルから聞いていた通り、その手の甲が光り輝いていた。

 その光る左手は、エルフ達の伝承に存在する聖者、アヌビスと同じ特徴であった。

 

 エルフの聖者と、悪魔の使い魔。なぜ同じ特徴を有しているか不思議でならなかったが、アリィーは歴史学者でも民俗学者でもない。騎士(ファーリス)の称号を持つ戦士だ。

 ゆえに、アリィーは今度こそ油断なく、二人の悪魔と対峙した。

 そして、どのようにこの二人を押さえ込むかを考えたところで、格納庫の内部に大きな声が響いた。

 

「動くな! 剣を捨てろ!」

 

 その声は、アリィーにとって馴染みのある声。戦士団の一員、マッダーフだ。

 その彼は、『枝矢(ブランチ)』の呪文で作り出した鋭い木の刃をティファニアの首元に突きつけていた。

 

「こいつがどうなってもいいのか? 抵抗するな!」

 

 人質だ。

 卑劣であるが、無駄な争いを生まない見事な判断であると、アリィーは感心した。

 彼らは戦士だ。時として、卑劣な手段も用いることだってある。

 

 だが、戦士ではないルクシャナが、エルフの戦士二人に押さえられながら、プリプリと怒っていた。

 彼女はこのような卑劣な行為を気に入らないのだろう。

 その様子に苦笑をしたアリィーは、あらためて目の前に立つ二人の悪魔に向けて言葉を放った。

 

「彼女はお前たちの知り合いなのだろう? 傷付けられたくなかったら、大人しく武器を置いてくれ」

 

「テメエ……」

 

 悪魔の少年から怒気が漏れるが、それを遮るように悪魔の少女が前に出た。

 

「サイト、大人しく従って。この場はわたし達の負けよ」

 

「……クソッ!」

 

 少年は、悪態をつきながらその場に魔剣を捨てると、不満そうにポケットに両手を突っ込んでアリィーにメンチを切った。

 だが、アリィーはその少年の狙いをすぐに察した。

 

「ポケットに暗器を忍ばせているな? 悪魔の使い魔は、あらゆる武器を自在に操ると聞く。油断ならないな」

 

 アリィーの指摘に、少年は顔を歪ませて、ポケットから手を出す。

 すると、そこにはブラスナックルが握られていた。それに反応して、彼の左手が光っていた。その暗器をサイトは、無言でその場に捨てた。

 

「やれやれ、本当に暗器があるとは。さて、そちらの蛮人の女、お前がルイズ・ド・ラ・ヴァリエールだな?」

 

 アリィーが、少年の横に立つ悪魔の少女にそう問いかけた。

 すると、少女はアリィーの問いに対し素直に答える。

 

「そうよ。なに? わたしが狙い? エルフが、わたしになんの用があるのかしら」

 

「話の前に、お前も杖を捨てろ。蛮人の魔法使いは、杖を用いて魔法を使うと聞く。どうせ、隠し持っているのだろう?」

 

 そんなアリィーの言葉に、悪魔の少女ルイズはため息を吐いて、腰に下げていた短剣を鞘ごとその場に捨てた。

 なるほど、こちらの軍人が使う軍杖というやつかとアリィーは察して、無防備となったルイズへと近づいていく。

 

「蹴るなよ? あれはなかなか痛かった」

 

 アリィーがそう言ってルイズの前に立つと、彼女は呆れたように言った。

 

「人質がいるのに、そんなことをするわけがないじゃない」

 

「もっともだ。我々も、こんな卑劣な手段は用いたくはないが……目的を遂行するためだ。許せとまでは言わぬ」

 

「で、なんの目的があって、エルフがこんなハルケギニアの奥地に来ているわけ?」

 

「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。お前には、サハラまで来てもらう」

 

「なんですって?」

 

 まさかの言葉に、ルイズがギョッとした顔をする。

 そして、彼女は言う。

 

「こんな荒っぽい手段を使ったってことは、スカウトってわけではないわよね?」

 

「もちろんだ。我々はお前の頭脳ではなく、悪魔の力『虚無』に用があるのだ」

 

「エルフとの戦争で『虚無』を使われるのを恐れたのかしら。でも、エルフとの戦争は数十年は確実に起こらないわよ」

 

「だろうな。『大隆起』が起きそうなのだろう」

 

「そこまで知っていて、なんでわたしを連れていくのよ」

 

 そう問いかけられ、つい答えそうになるアリィーだが、彼の近くにいたエルフの戦士が、「アリィー!」と叫んで彼の言葉を遮った。

 

「……つい、余計なことを話してしまったようだ。さて、これよりお前を連行する。抵抗するなよ」

 

 アリィーがルイズに手を伸ばしたその瞬間。

 黙っていた使い魔の少年が、アリィーの手を蹴りつけ、さらにものすごい速度でティファニアのもとへと駆け出した。

 

「なにっ!?」

 

 戦士団にわずかな動揺が走る。

 使い魔の少年。その手には銀食器のフォークが握られていた。

 

 だが、ティファニアは多数のエルフの戦士団に囲まれている。

 いくら超人じみた身体能力があるとはいえども、フォーク一つでは多勢に無勢。ルイズによる援護が届く前に、少年はエルフから放たれた多数の攻撃で撃退されてしまった。

 蔦や枝に絡め取られ、身動きができなくなった少年。

 それを見て、本当に油断ならないなとアリィーは苦笑した。

 

「どうやら、お前たちは素直に言うことを聞く存在ではないようだ。眠っていてもらうのが一番だ」

 

 そんなアリィーの言葉を聞いて、ルイズは彼をにらみつける。

 それをアリィーは受け流して、格納庫に満ちた風の精霊力を行使した。

 

「眠りを導く風よ」

 

 今度は水ではなく風の力により、『眠り』の呪文が悪魔の少女と使い魔の少年に放たれる。

 その空気を吸い込んだ二人は、強烈な眠気に襲われて、その場で昏倒した。

 

 倒れ込む、美しい悪魔の少女をアリィーはその手で抱き留める。そして、肩に担ぐようにして持ち上げた。

 こうして、エルフの戦士団はルイズとティファニア、二人の悪魔の末裔を見事確保することに成功したのであった。使い魔の少年は眠らせたまま放置だ。彼をサハラに連れ帰って、悪魔の末裔と組んで暴れられると厄介だと判断したのだ。

 

「ねえ、この乗り物、なんとか一つ持って帰れないかしら」

 

「いいから、急いで脱出するぞ! 蛮人の軍を相手にしたいのか!」

 

 アリィーは、ルクシャナが同行する帰りもどんな苦労が待っているのやらと、頭が痛くなる思いであった。

 そして、今度は陸路ではなく海を通って、彼らはサハラに帰還した。

 




・精霊と精霊
ラグドリアン湖に存在する水の精霊は一種の生命体ですが、エルフが使用する精霊力の源である精霊はあらゆる存在に宿る力のようなものなので、おそらく両者は同じ精霊と名が付いているだけの別物かと思われます。
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