【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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12.ガリレオ・ガリレイによろしく

「ごめんなさい、取り乱したわ」

 

 一人、唐突に笑い出したルイズは、三人に見られていることを自覚して笑うのを止めた。

 そして、両の手のひらを左右の頬に当てながら、彼女はたかぶった気持ちを落ち着かせた。

 

「でも、大事なことだから、一つずつ確認させてちょうだい」

 

 頬から手を離したルイズは、再び四色ボールペンをにぎってメモ用の紙の上に先端を載せる。

 

「本当に世界は丸いの?」

 

「だから丸いって言ってるだろーが。月だって丸いだろ?」

 

「月が丸いと世界も丸い?」

 

「月というか空にある星は基本的に丸い。地球もその星の一つだよ。海と空気と生命に満たされた星が、地球になるって思えばいい」

 

 才人が言いたかったのは、世界を特別なものだと思うな。そういうことだった。

 世界は夜空にある無数の星の一つ。才人はルイズ達に説明する。

 

 才人は説明しながら、宗教的に問題あったりしないよな? そう思い至った。地球は太陽の周りを回っているという地動説を唱えたガリレオ・ガリレイが、宗教の壁にぶつかった逸話は有名だ。今回の話は地動説ではなく、地球が丸いという話だが、似たような状況に発展するかもしれない。

 しかし、それでは話は進まない。世界は丸い。そう仮定して、才人は説明を終えた。

 

「じゃあ、球の下にいる人達が落ちないというのは何故? 物は上から下に落ちるものでしょう?」

 

「その上から下に落ちる、というのがそもそも勘違いなんだよなー」

 

 才人は、さてどう説明したものだろうと考えを巡らせる。

 そして、とりあえず思いついたことを片っ端から話すことにした。

 

「上から下に。じゃあ、なんで太陽は空から落ちてこない? 星も月もそうだ」

 

「え、あ、なんで? キュルケ?」

 

「わたしに振られて分かるわけがないでしょう」

 

 思わぬ質問を受けて思考が一瞬止まってしまったルイズは、とっさに隣のキュルケへと頼ってしまう。トリステインの『賢者』も異世界の真理の前には脆かった。

 

「まず、物が下に落ちる、という現象を『科学』では『重力』とか『引力』とかいう力で説明していて……ルイズ、ちょっとペン貸してくれ」

 

「……このペン、他にないの? 木炭みたいにインクがいらないのに、すごく綺麗な線が引けるわ」

 

「あー、確かまだあったはず。そっち使うか」

 

 才人は床に置かれた自分の背負い鞄を膝の上に持ち上げると、中をあさり新しく一つボールペンを取り出した。

 いつの間にかリュックの中に紛れていたボールペン。100円ショップで四本百円で売っているような、安物の黒ボールペンだ。

 そのボールペンを使い、才人は新しい紙の上に円を描いた。

 

「これが地球」

 

 そして円の外側から円の縁の線に向かって、いくつもの矢印を描いた。

 

「物質というものは、自分自身に向かって他の物質を引っ張る力を持っている。質量が大きければ大きいほど、その力は強くなる。地球みたいな巨大な星は、膨大な力で物質を引っ張る。だから物が上から下へ落ちるのは、大地が強い力で引っ張っているからなんだ。『万有引力の法則』って呼ばれてる」

 

 才人の説明を無言で聞き続けるルイズ達。

 さて、自分の説明は通じているだろうか。こういうとき、理科や物理、化学の教師達はどうしていたか。才人は学校の授業風景を思い出すようにして言った。

 

「月も星の一つだから、当然、とても強い引っ張る力を持っている。ハルケギニアの月は二つだよな。なあ、ハルケギニアの海にも、満潮や干潮ってあるか?」

 

 とりあえず才人は、自分が好きだった授業を真似して、教え子達に質問を投げかけることにした。

 

「あるわね」

 

「何でそれが起きてるかは分かっているか?」

 

「水の精霊が、先住魔法で……」

 

 ルイズが文献で読んだ理論を披露しようとする。

 だが、才人はそれを否定した。

 

「違う、少なくとも地球では違う。潮の満ち引きは、月が『引力』で海の水を引っ張っている影響だ。魔法のある世界でも、多分それは一緒だ」

 

「……月と地球でお互い引っ張り合って、ぶつからないの? さっき尋ねてきた、空から落ちてこないのかって話に戻るわね」

 

「引っ張り合っているよ。月は地球の地平線の向こうへ無限に落ち続けてるって、森本レオが言ってた」

 

「誰よ、それ。有名な学者?」

 

 才人は曖昧な知識で、放物線運動について説明する。学校の授業でも習っていない、夜空が地上へ落ちてこない理由についての説明だ。以前、ふと気になってインターネットで調べた知識だ。

 

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』という古いアニメ映画で、人工衛星が地球に落ちてこない理由を主人公が説明するシーンがある。そのシーンの解説が、インターネットのページに掲載されていたのを才人が見たのだ。なお、主人公の担当声優は、森本レオである。才人は脳内で感謝した。ありがとう、森本レオ!

 

 そうしてなんとか説明を終えた才人は、矢印付きの円い地球の描かれた紙にさらに円を付け足す。

 地球の隣に二つの小さな円、ハルケギニアの月。そして紙の端に巨大な円、太陽を描いた。太陽にはおまけとして炎をあらわすギザギザを円周につけておいた。

 

「星のない場所には、上も下も空気すらもない宇宙が広がっている。そしてその宇宙のずっと遠くには太陽だ。鉄なんて一瞬で溶けてしまうような温度で燃えているけど、すごく遠いから地球を少し暖めるくらいの熱しかとどかない。これが『科学』から見た本当の『世界』だ」

 

 才人は誇らしげにそう言葉を締めた。

 さて、自分の説明は伝わっただろうか。そう思いながらルイズの様子を見ようと覗きこむ。

 すると、ルイズはペンを握ったまま震えていた。

 そして次の瞬間、ルイズはペンを机の上に放り出し、両手を大きく動かして胸の前で拍手をし始めた。

 

「すごいわサイトッ!」

 

 それにつられて、キュルケとタバサも軽く拍手を行なう。

 

 ルイズは確信する。『カガク』とは世界の真理を探究する学問だと。

 彼女は才人の教えを真実だと信じ、そして己の中の価値観の数割を捨てさり、頭の中でさまざまな理論の再構築を始めていた。

 

 しかしそれは、かつて『賢者』とまで呼ばれたルイズだからできたこと。

 キュルケとタバサは、まだ才人の話を信じ切れていなかった。

 

「サイト、本当に大地は丸いのかしら。ルイズが以前から主張していた理論なんだけど……全部机上の空論で、勘違いだったってことはありえない?」

 

 キュルケは才人に、そんな問いをした。面白い話だが話が飛躍しすぎて、彼女にはそうそう納得できるものではない。

 

「いや、それはねーよ。だって、地球じゃ、空飛ぶ鉄の船に乗って月まで行って、丸い地球の姿を見た人が何人もいるんだから」

 

「うっそお!」

 

「……!」

 

 月まで飛ぶ船と聞いて、キュルケ、そして横で無言で話を聞いていたタバサは驚いた。

 ハルケギニアにも、風石という風の精霊力が詰まった石の力で空を飛ぶフネが存在する。だが、月まで飛んだなど、おとぎ話の中だけの話だ。

 もしや、彼は遠い夜空の星の国からやってきた王子様なのでは。タバサの妄想が爆発したが、さすがにそれを口に出すことはなかった。

 

「しかしまあ、この世界じゃ誰も知らないだろって思っていたけど、ルイズが世界は丸いって証明したのか。すげえな」

 

 足りない脳みそから必死に説明をひねり出していた才人は、力を抜いて椅子に身を投げ出した。目の前のグラスにつがれた赤ワインには、一度も口を付けていない。

 

「証明、ね。天文学の知識と、測量技術を用いて導き出した結論だったのだけれど……完全に証明したとは言い切れないところね……」

 

 ルイズは、ため息をついてそんなことを主張した。

 天文学に測量技術と聞いて、才人は自分のご主人様が思ったよりも多才な人物なのではと、ぼんやりと思った。

 

「実はね、ハルケギニアでも二千年以上前に、計算されているのよ。丸い世界の直径が……」

 

 そのルイズの言葉に、才人だけでなくキュルケとタバサも「えっ」と驚いた。

 

「当時は割と主流の学派が唱えて、ちゃんと信じられた数値だったようなのだけれど……長い歴史の中で忘れられたようなの」

 

「はー、こっちの昔の人もすっげえな」

 

 才人は、古代ギリシアや古代ローマの時代に多くの賢人達が存在し、彼らの学問が歴史の彼方に忘れ去られたという、インターネットで見聞きした与太話を思い出した。

 

 それから、地球の『カガク』に魅せられたルイズ達は、才人からさらなる話を聞き出そうとした。

 

 いつのまにかルイズのメモには、才人が高校の物理の授業で覚えたばかりの知識、重力加速度を用いた位置の計算式『h=v0t-(1/2)gt^2』や、力を表す計算式『F=ma』などが記載されていた。

 物理の計算式の話はキュルケとタバサには不評だったため、昨夜の発電機の話のような抽象的な知識についても説明していく。

 昨夜から美少女が一人追加され、酒の力も加わり才人は上機嫌になっていく。

 そして才人は、地球における『科学』の集大成を彼女達に披露することを決めた。

 

 伝家の宝刀、遅れてやってきた英雄、異世界(であいけい)への扉。ノートパソコンだ。

 

 才人は机の上に置いたパソコンの電源を入れる。

 内部からディスクドライブの稼働する音が聞こえ、液晶画面が夜の部屋に光を灯す。

 

「これが地球の魔法のランプかしら? でも『ディテクトマジック』には何も反応しなかったわよね」

 

「そもそも、地球に魔法は無いわよ、キュルケ」

 

「色が付いてる」

 

 さほど驚くそぶりを見せる様子のない彼女達。才人はそわそわしながら、その会話をこっそりと聞く。

 まあまだ電源を入れただけだ。驚くのはこれからだ。

 

 Windows XPの画面が立ち上がり、ノートパソコンデフォルトの色鮮やかな壁紙が表示される。

 

「綺麗な絵」

 

「絵じゃないわね。風景を転写するマジックアイテムと同じ効果があるのでしょう」

 

「あ、ファンファーレが聞こえたわよ」

 

「オルゴールみたいな道具が、中に仕込まれているのかしら」

 

 ――あれ、おかしいぞ。

 

 才人は困った。本来ならここで皆が凄い驚いて、科学万歳、才人万歳とちやほやされているはずのところだ。

 

「ええと、これはノートパソコンっていって、これだけで色々なことがやれるんだ」

 

「色々なことって何?」

 

 才人の言葉に、ルイズが期待の目を向ける。

 

「ええと、例えば……」

 

 才人はノートパソコンのタッチパッドを操作する。

 画面内のマウスポインタが才人の手の動きに合わせて移動する。

 

 そして、スタートメニューでボタンをタップする。

 

「あら、これは……」

 

「どうしたの? ルイズ」

 

 パソコンを操作する才人を見て、ルイズがつぶやき、それを聞いたキュルケが尋ねる。

 すると、ルイズは才人に向けて質問をした。

 

「サイト、もしかしてこれは操作者の動きでやりたいことを選べる、受付窓口のようなものかしら?」

 

「そ、そうだけど良く分かったな」

 

「直感だけどね。でも面白いわ。マジックアイテムへの応用案として論文でも書こうかしら」

 

 淡々と答えるルイズの言葉を聞きながら、才人はメニューの中から電卓を選択した。

 

「ええと、これは電卓って言って、四則演算を自動で行ってくれる計算器だ」

 

「4578掛ける9742は?」

 

 四則演算と聞き、タバサが問いを投げかけた。

 

「ええと、4578……」

 

「44598876ね」

 

「……44598876だ」

 

 才人が入力を終える前に、ルイズが暗算で先に答えた。

 

「あはははは、指での指示が必要なら、ルイズの暗算に追いつけるはずがないわねー」

 

 酔いの回ったキュルケが、その滑稽な状況に笑い声をあげた。

 先を越された才人は焦った。

 まずい、まずいぞ。このままでは格好が悪すぎる。そうだ、あれなら……。

 

 才人はショートカットキーでエクスプローラを開くと、メディアファイルフォルダを開き、その中から一つのファイルをダブルタップする。

 

 メディアプレイヤーが立ち上がり、動画が開始される。

 

「!」

 

 画面に映し出された光景に、タバサは一人背筋を伸ばして強く反応した。

 才人秘蔵の動画。毛布の上に座った子猫がふらふらと頭を左右させて、今にも眠りにつきそうな顔で身体を揺する猫動画だ。

 

「あら、映像転写ね」

 

「あの庭付きの家が一つ買えるっていう、トリステインのアカデミーが発表したマジックアイテム?」

 

「かわいい……」

 

「タバサは猫が好きなの? わたしは犬の方が好きなんだけれど。いつか自分の屋敷を持ったら、大型犬を飼いたいわ」

 

「ルイズは大型犬をわざわざ飼わなくても、犬を自称する下僕がいるじゃない」

 

 映し出される子猫の姿に、少女三人がワイワイと談笑を交わす。

 だがそれは、才人の想定外。注目すべきは猫じゃない、精巧な絵が動いていることに驚いてくれ!

 

 しかし、ルイズ達は驚かない。映像転写という言葉がハルケギニアの公用語に存在したことからも分かるとおり、ハルケギニアにも映像の概念がある。ルイズ達に身近な例で言うと、学院長室に置かれた生徒監視用の道具『遠見の鏡』。その鏡は、学院内の風景をリアルタイム映像で映すことが可能だ。

 

 その後、才人はいくつかソフトウェアを立ち上げてルイズ達に披露するが、彼女達を心から驚かせることはできなかった。

 才人は知らなかった。ハルケギニアには魔法を中に込めた道具、マジックアイテムが存在することを。ほぼインターネット専用機としてノートパソコンを使用していた才人では、マジックアイテムの常識を根本から(くつがえ)す機能を引き出すことができなかったのだ。

 

 そうして才人は、ノートパソコンのバッテリーが六割まで減っていることに気付き、心の中で涙を流しながらパソコンの電源を落とした。彼は、ノートパソコン内のハードディスクに残っているwikipediaのキャッシュが何よりも価値があると言うことに、最後まで気が付かなかった。

 

 そうして、夜はまた更ける。

 

 ちなみに、ルイズはまた一つのことを忘れていた。寝床の用意だ。

 才人は今夜も、床の上で眠る羽目になった。

 




現在の改稿作業の進行状況:アルビオン編の大規模改修中。新規プロットはガリア編の最後まで出来上がりました。エルフ編はどう話を転がしますかねぇ……。
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