【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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121.怒れる男たち

 『賢者』ルイズ、(さら)われる。その報は、すぐさまトリステイン国内を駆け巡った。

 彼女はもはや、国内では英雄的存在である。『虚無』を有する彼女は、一部では『聖女』とまで呼ばれていた。

 それが、エルフによる卑劣な人質作戦で奪われた。それにより、エルフ討つべしという声が、国内に点在しているルイズの信奉者から次々と上がった。その信奉者は、平民だけでなく上位の貴族にも存在していた。

 その声を善政で知られるモット伯爵がすぐさままとめあげ、王宮へと伝えた。

 

 しかし、現在王宮には国王夫妻がいない。ガリアにて新女王の戴冠式に出席しているためだ。

 王宮に残っていたマザリーニは、高まる征伐の声になんとか事態を収めようと必死で動き回った。

 だが、世の中は上手く行かないものである。

 突然、『イヴェット』号でトリスタニアにやってきて登城したラ・ヴァリエール公爵が、エルフの地に攻めて娘を救い出すと宣言してしまったのだ。

 

 そして、城に残っていた魔法衛士隊の一部や城門に詰めかけていたルイズの信奉者を引き連れて、東に向けて出発してしまった。

 無断での国境破りは重罪だ。しかし、行政のトップである国王夫妻がおらず、役人にもルイズの信奉者が交ざっていたために、『イヴェット』号の国境越えの許可証が発行されてしまった。

 

 一方、ド・オルニエール領。目の前でルイズを攫われた才人と、エルフの先住魔法によって眠らせられてしまった不死鳥(フェニックス)飛行隊のメンバーは、怒りのまま東に向けて出撃しようとしていた。

 だが、そこに、グリフォンにまたがったワルド子爵がやってきて、彼らを止めた。

 

「ワルドさん! 止めないでください! 俺達を行かせてください!」

 

 怒りを心のうちに抱えたまま、才人がワルドに叫ぶ。

 だが、ワルドは冷静に言葉を返した。

 

「その不死鳥に、どれだけ『風石』を積めるというんだ? 途中で『風石』の力が尽きて、墜落するのがオチだ」

 

「では、黙ってここで待っていろというんですか!」

 

「ああ、待つんだ。『風石』を積むためのフネがここに来るまで、少しだけ待て」

 

「そんなこと! ……って、うん?」

 

 才人は思った。話の流れが何かおかしいな、と。

 そして、ワルドはニヤリと笑って才人に言った。

 

「もう少し待てば、ここにラ・ヴァリエール公爵が『イヴェット』号でやってくる。『風石』もたんまり積んでいるはずだ。そこに不死鳥を載せたまえ」

 

 そんなワルドの言葉に、才人は破顔して言う。

 

「さすがワルドさん、話が分かる!」

 

「礼は公爵に言うんだな。発案は公爵で、俺は公爵の話に乗っただけだ」

 

 そうして、しばらくした後、ド・オルニエール領に空中空母『イヴェット』号が降り立った。

 才人が以前見たときよりも、一回り大きくなっているように思えるそれ。

 実は、この半年で『イヴェット』号は改修を受けていたのだ。搭載可能な『フェニックス』号の数が、以前よりも増えている。さらに、タイガー戦車の戦車砲を参考に作られた鉄の大砲が追加装備として付けられている。

 もはや、航空母艦なのか戦艦なのか分からない有り様だ。

 

 そんな『イヴェット』号から、幾人かのメイジがド・オルニエールの村に降りてきた。

 ラ・ヴァリエール公爵ピエール、公爵夫人カリーヌ、公爵令嬢エレオノール。

 さらに、艦長であるコルベールに、マチルダ。さらにはキュルケとタバサの姿もあった。

 

「サイトくん!」

 

 そのメンバーのうちの、公爵のピエールが代表して才人に声をかけた。

 そのピエールの顔を見て、才人はその場で腰を折り、深い謝罪のポーズを取った。

 

「公爵、すみません! 目の前でルイズを奪われてしまいました!」

 

「サイトくん、頭を上げたまえ。人質を取られたのだろう? しかも、それがアルビオンのお姫さまときた。それが事実ならば、わしはキミを責めない。ゆえに……」

 

 頭を下げ続ける才人にピエールは近づき、彼の肩を叩いて頭を上げさせた。

 そして、告げる。

 

「ルイズを救いに行きたいと思う、不死鳥飛行隊の有志がいたら連れていくので、キミが飛行隊の指揮を執りなさい。載せられるだけ『イヴェット』号の甲板に載せて、急いで出発するぞ!」

 

「……ッ! はい! 不死鳥(フェニックス)飛行隊、全員出撃できます!」

 

「よろしい。飛行隊の全機を乗せられるよう改修したので、全員連れていく。さあ、急ぐぞ!」

 

 そうして、ギーシュを隊長とする不死鳥飛行隊は、順番に『イヴェット』号へと『フェニックス』号を載せた。もとより出撃するつもりだったため、飛行隊の全員が荷物もしっかりまとめてある。すぐさま出発の準備は整った。

 

「さあ、出撃だ! 向かうは砂漠、エルフの地! まずはガリアの国境を越えるぞ!」

 

 ピエールの号令で、『イヴェット』号は東へと向けて飛び立った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 空を行く『イヴェット』号の内部で、才人は今回の救出作戦に参加してくれた者達一人ひとりに礼を言って回った。

 そこには才人の知った顔もあれば、見たことのない顔もあった。

 だが、その皆が『賢者』の使い魔である才人のことを知っており、共に『賢者』を救おうと、力強く告げてくれた。誰もルイズを守り切れなかった才人を責める者はいなかった。

 

 才人は、皆のその心意気に心を打たれた。嬉しさと、自身のふがいなさに涙が浮かんでくる。

 そんな才人のもとへ、同乗していたキュルケとタバサがやってきた。

 そして、キュルケが涙を目に浮かべる才人に向けて言う。

 

「みんな、ずいぶんとやる気満々ね。頼もしいわ」

 

 才人の涙は見て見ぬ振りをしてくれたのだろう。そんな彼女に、才人は頭を下げた。

 

「二人とも、来てくれてありがとう。少しでも戦力が増えるのはありがたい。ルイズを救うために犠牲者を出したらなんの意味もないからな」

 

「ふふっ、ルイズとは、あたし達の方が長いのよ? むしろ、ここに居るメンバーの中じゃ、サイトは新参者ね」

 

「おう。ルイズは、みんなに慕われているんだなぁ……」

 

「あの子、普段はあんなのだけれど、困っている人が居ると放っておけない性質(たち)なのよね」

 

 キュルケは、隣に立つタバサの方をチラリと見ながら言った。

 すると、タバサは眼鏡の奥の目に、闘気をたぎらせながら小さな声でつぶやくように言う。

 

「絶対に助ける」

 

 すると、才人もうなずいてタバサの言葉に応える。

 

「おう。『大隆起』から世界を救うとかよりは、ずっとシンプルで分かりやすいな。エルフをぶっ飛ばしてルイズを助ける。やるべきことはこれだけだ」

 

 そんな才人の言い様に、キュルケは笑みを浮かべる。

 そして、言った。

 

「そうね。ご主人様一人助けられないんじゃ、世界を救うなんて到底できないわ。気張りなさい、『ガンダールヴ』」

 

 才人はニッと口に笑みを浮かべ、グッと拳を握ってみせた。その様子に、キュルケは満足そうにうなずいた。

 

 それから、キュルケ達と別れ、才人は自分に与えられた個室へと移動する。

 ドアを閉め、部屋に固定されたベッドに腰掛ける。そして、才人はその場で顔を手で覆い、大きなため息をついた。

 

「はああああ、ヤベえよ。フネ一つで特攻か……」

 

 彼が勇ましいことを言えていたのは、人の前にいたから。言わば、虚勢。実際のところは、ハルケギニアで恐れられるエルフのいる敵地に乗りこむことが、不安でならなかった。

 だが、行かないという選択肢はなかった。何しろ、攫われたルイズは大切なご主人様で、惚れた相手なのだ。そう、才人はルイズへの恋心を完全に自覚していた。

 だから、助ける。それでも、ハルケギニアが何百年、何千年と敗北を続けたエルフを相手にするとなって、彼には不安しかなかった。

 

 しばらく両手で顔を覆って、ため息を吐き続けた才人。

 そして、彼は部屋に置いてあった鞄から、荷物を取りだした。

 紙とガラスペン、インク壺、そして『世界扉の手鏡』だ。

 

 才人は、これから死地へ向かう前に、両親への最後となるかもしれない手紙を書こうとしていた。

 ノートパソコンは学院に置いてきてあるため、才人からの一方通行での連絡となる。

 

 部屋に机はないため、才人は床に座りこみながら、日本語で紙に両親へのメッセージを書いていった。

 これまでの経緯は簡潔に、それ以降はとにかく両親への感謝と死地へ飛びこむ事への謝罪を書いていく。それは、さながら遺書。先立つ不孝をお許しください、と書こうとして、さすがにそこまでは言いすぎかと、思いとどまることもあった。

 

 思いつくままに文章を書き連ね、そして勢いのまま『世界扉の手鏡』に込められた『虚無』の魔法を発動する。

 すると、手鏡に映る地球の光景には……才人の母親の姿が見えた。

 以前と比べて、ずいぶんと血色がよくなった母の顔。この手紙を見せると、また前のようにやつれた顔に戻ってしまうかもしれない。

 才人は、母の顔をジッと見つめ……そして、意を決して手紙を向こう側に送った。

 

 そして、未練を断つかのように、手鏡の魔法を停止させる。

 世界を越える『虚無』の扉が閉じた。

 普通の手鏡に戻ったそれを才人はジッと見つめ……それから床に広げていた筆記用具を片付け始めた。

 

 すると、その最中にノックの音が部屋に響いた。

 才人は、急いで立ち上がり、部屋の扉を開ける。部屋を訪ねてきた人物は、コルベールであった。

 

「先生……何かご用ですか?」

 

 才人が尋ねると、コルベールはうなずいて言った。

 

「ああ。部屋に籠もっているようだから、心配になってね。その様子だと、ご両親に手紙を書いていたのかな」

 

「はい。いろいろ書いていたら、なんだか遺書みたいになっちゃったんですけど」

 

「それは仕方ないな。なにせ、我々がこれから向かうのは死地だ。全滅の可能性だってかなりのものだ」

 

 コルベールのその臆病とも取れる言い様に、才人は無言でうなずいた。

 才人が艦内に来てから言葉を交わした面々は、いずれも勇ましいことを言って才人を(はげ)ましていた。だが、この人は、そんなことを言わなかった。だが、それがまたコルベールらしいと才人は思った。

 

「サイトくん、私も教師だ。たまには、人生の先達らしいことを言わせてもらおう」

 

「はい」

 

「死を恐れたまえ。死を恐れず、自分なら大丈夫だ、などという蛮勇で敵に挑んではいけないよ。死を恐れるからこそ、人は死を回避するために必死になって行動して、結果、生き延びられるのだ」

 

「……はい」

 

「そして、勘違いしてはいけない。我々がこれから行なうのは戦争ではない。ルイズくんの救出だ。この違いを自覚することで、だいぶ話が変わってくる」

 

 コルベールの言葉に、才人は再びうなずいた。なるほど、確かにエルフと殺し合いに行く心づもりであった彼だが、目的は殺し合いではなく救出なのだ。

 そう納得する才人に、コルベールは言葉を続ける。

 

「戦いを極力回避し、逃げられるときは逃げ、そしてルイズくんを救う。だからサイトくん。死ぬ覚悟なんてしてはいけない。みんなで無事なまま、ルイズくんを助けて帰るんだ」

 

「……はい!」

 

 そうして才人は、コルベールに礼を言ってから再び筆記用具を床に広げ、両親への手紙を再度書き始めた。

 いや、それは手紙というほど長い文章ではなかった。

 彼は、紙にただ一行、日本語で力強くこう書いた。

 

『絶対に生きて帰る!』

 

 それは、両親を安心させるための言葉であり、そして今回の戦いへの彼の意気込みでもあった。

 

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