【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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123.六千年前の記憶

 若き青年ブリミルがルーンを唱えると、再び目の前にゲートが開き、そこを通ってブリミル、サーシャ、才人、そしてルイズは移動した。

 その行き先こそ、このときのブリミルの名の一部となっているニダベリール。小さな村であった。

 なだらかな丘の中腹に、木と布で作られた大きな円形のテントが複数並んでいた。

 そのテントは、いつでも撤去できて持ち運びができそうな構造をしていると、ルイズは見抜いた。

 

 遊牧民族。東方ロバ・アル・カリイエにいると話に聞く、住処を転々とする人々の生活様式をルイズは連想した。

 このニダベリールでは山羊が家畜として飼われているようであった。山羊はハルケギニアでは、六千年前から存在していた家畜とされている。それが事実であると知り、それに合わせて見慣れぬ生活様式に、ルイズの興味と好奇心は爆発した。

 

 ふわふわと漂いながら、村の様子を観察するルイズ。その間にも、ブリミル達は丘で最も高い場所にある一番立派なテントに移動し始めていた。

 それに気付いたルイズは、慌ててブリミルの後を追う。

 立派なテントの中には、作りの粗いテーブルと椅子、藁のベッドが並んでいた。床にはこれまた粗い作りの絨毯が敷かれている。

 なるほど、始祖といえど、六千年前の文明レベルではこの程度の生活が限界か、とルイズは納得した。考古学や歴史学はルイズの専門ではないが、非常に興味深い光景だと彼女は思った。

 

 そんなルイズの視界の中で、ブリミルが才人に笑顔で話しかける。

 

「いやあ、キミの主人にぜひ会ってみたいな! ぼくのような『変わった系統』が他にもいるだなんて! しかも、サハラにいるときた!」

 

「ああ、いや、サハラはサハラなんですけど、時代が違うというか……」

 

「うん? 時代?」

 

「あっ、なんでもないっす……」

 

 ブリミルと才人が、そんな言葉を交わしている。どうやら才人も、現在、自分がいるのは六千年前の世界だと気付いたようだ。ルイズはそう察した。

 そして、ブリミルがさらに言う。

 

「しかし、そうか。サハラまで行けば、『ヴァリヤーグ』もいないんだろうな」

 

「『ヴァリヤーグ』ってなんですか?」

 

「ああ、知らないのか。そうだな、サハラの出身なら知らなくてもおかしくないのか。『ヴァリヤーグ』は、恐ろしい技術を持った、悪魔みたいな連中だよ」

 

「それって、エルフのこと?」

 

 そんな才人の言葉に、黙って話を聞いていたサーシャが才人の頭を叩いた。

 

「痛えッ!」

 

「あんな蛮族とエルフを一緒にするなッ!」

 

「叩くことねえだろ!?」

 

 そんなサーシャと才人のやりとりに、ルイズは宙に浮きながら笑った。

 現代のエルフは始祖ブリミルを悪魔と言い、そのブリミルは『ヴァリヤーグ』を悪魔と呼ぶ。始祖ブリミルが悪魔と呼ぶくらいなのだから、よっぽどの存在なのだろうと、ルイズは『ヴァリヤーグ』なる何かに興味を持った。

 

 だが、ルイズの眼下で繰り広げられる会話の内容は、『ヴァリヤーグ』ではなくエルフについてとなった。

 エルフは自分達と根本的に違う種族だと、ブリミルは言う。まるで、『ヴァリヤーグ』は根本的に違う種族ではないとでも言うかのようだった。

 

「だからわたしは、サーシャに『ガンダールヴ』とルーンを刻んだ。旧い我々の言葉で『魔法を操る小人』という意味だ」

 

「刻んだ……あなたがルーンを直接刻んだんですか?」

 

 ブリミルの説明に、才人が問いかける。

 

「そうとも。キミの主人は違ったのかい?」

 

「ええ。俺の場合は、使い魔と契約する魔法を使ったら、自動で刻まれたんです」

 

「ふむ……? そんな魔法が……」

 

「でも、『魔法を操る小人』って……『ガンダールヴ』になっても、武器を扱えるようになって強くなるだけで、魔法なんて使えないですよね?」

 

「キミはただの人間だからね。しかし、普通の人間も使い魔になるんだな……。獣か異種族がなるものだとばかり思っていたよ。ちなみに、サーシャは我々と違う魔法を使うんだ。だから『魔法を操る小人』なんだ」

 

「ああ、先住魔法ですか」

 

 才人がそう言うと、サーシャは眉をひそめて言った。

 

「なによその変な呼び方は。精霊の力よ、精霊」

 

「ああ、ルイズがそんな言い方もしていたな……ちなみに、さっきの狼にはなんでその精霊の力を使わなかったんだ?」

 

「エルフは争い事を嫌うの。だから、精霊の力を狩りになんて使いたくなかったのよ」

 

「俺達がエルフに狙われたときは、思いっきり『風石』から引き出した風の魔法をぶつけられたけどなぁ……」

 

「あなた、『風石』を知っているの? ……嫌だわ、あなたの話に信憑性が出てきちゃったじゃない」

 

 サーシャと才人がそんな言葉を交わしていると、ふとテントの入り口に十歳くらいの女の子が顔を覗かせた。

 それを見て、ブリミルは女の子をテントに招きいれる。

 女の子は手に土釜(つちがま)を携えており、テントの奥にあるかまどにその土釜を置いた。

 そして、女の子は杖を取り出して、ルーンを唱え始めた。ルイズも聞き覚えのある、『火』の魔法のルーンだ。

 その様子に、才人は感心したように言った。

 

「へえ、こんな小さな子供も魔法を使えるんだ」

 

 すると、ブリミルはなんということもないように言った。

 

「ぼくたちは『マギ族』だからね。全員が魔法を使えるよ」

 

『マギ族』、なる初めて聞くワードに、ルイズは興味をそそられた。

 なるほど、魔法を使える彼らの民族の名は『マギ族』というらしい。ブリミルは、その『マギ族』の中で一番立派なテントを与えられている。そのブリミルは魔法の始祖として、現代のハルケギニアで崇められている。それはすなわち、現代のハルケギニアの魔法を使える人々は『マギ族』の末裔であると、ルイズは仮定することができた。

 まさかの自分達のルーツの判明に、考古学や歴史学にさほど詳しくないルイズも、ワクワクが止まらなかった。

 

 ルイズが考察を深める間にも、女の子の料理は進み、テントの中に美味しそうな匂いが立ちこめていく。

 と、そのときだ。テントの中に突然、若い男が飛びこんできた。

 

「族長! 大変です!」

 

 男のその叫びに、ブリミルは立ち上がる。

 

「『ヴァリヤーグ』か。早いな。もうこの場所が分かったのか」

 

『ヴァリヤーグ』。件の悪魔が、この村の近くにやってきたというのだ。

 すると、サーシャも立ち上がり、テントに立てかけてあった槍を手に持つ。

 

「ねえ、あなた。槍は使えるかしら? まあ、『ガンダールヴ』なら使えるのでしょうけど」

 

「あー、普段使っているのは剣だから、槍はそんなに……でも、まあ大丈夫だろ。戦うのか? 悪魔とやらと」

 

「ええ、協力してもらうわ。はい、これ」

 

 そう言って、サーシャは才人に槍を手渡した。

 それから、サーシャと才人はテントを出て、村の真ん中にある広場に移動した。

 広場には杖を持った若い男達がブリミルを中心に集まっており、ブリミルは男達に指示を飛ばしていた。なるほど、族長と呼ばれていただけあって、彼らのリーダーは始祖ブリミルなのだな、とルイズは宙を漂いながら納得した。

 

 そして、ブリミル達一行は、悪魔と会敵する。

 その悪魔は、二足歩行の生物の軍勢であった。オーク鬼やオーガ鬼のような亜人種であろうか。それも、陣形を組んだ大軍。先頭には鎧を着こんだ騎馬隊。その後ろには四メイルはある長槍を構えた歩兵隊。ルイズが高度を上げて見下ろすと、弓兵隊までいた。それが、万の単位で存在していた。

 

 それに対し、ブリミル達『マギ族』は数十人しかいない。

 始祖ブリミルがいたとしても、いくらなんでも勝てやしない。ルイズにもそう思わせるほどの戦力差であった。

 

 ――ァラララララララララララレレレレレィ!

 

 そんな恐ろしい雄叫びを軍勢が一斉にあげる。大気が震えるかのような、そんな雄叫びであった。

 しかし、その恐ろしい軍勢に才人とサーシャは槍を手に突っ込んでいき……さらに、ブリミルが聞き覚えのあるルーンを唱え始めた。

 

 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

 

 そのルーンを聞いたとき、ルイズは悟った。ああ、この戦い、『マギ族』の勝ちだと。

 

 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

 

 ルイズにとって、馴染みの深いルーン。聞き覚えがあるどころか、自分で何度か唱えたことのある呪文。

 

 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ

 

『始祖の祈祷書』に曰く、初歩の初歩の初歩。ルイズが最初に覚えた『虚無』の魔法。そのオリジナル。

 

 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……

 

 そして、呪文が完成する。

 その魔法こそ、『エクスプロージョン』。軍勢のど真ん中で炸裂したその爆発魔法は、万を超える軍勢を一瞬で吹き飛ばした。

 真っ白で巨大な光球が音もなく発生し、何もかもを破壊していく。

 陣形の端の方にいた兵ですら、爆発に巻き込まれて、兜を吹き飛ばしながら倒れていった。

 そこで、ルイズは見た。兜の下の顔。それは、亜人でもなんでもない、人間の顔であった。

 

 そう、悪魔『ヴァリヤーグ』とは、武装した人間の軍勢のことだったのだ。

 ルイズは察する。『マギ族』と『ヴァリヤーグ』は同じ人間だが異民族同士であり、互いに争い合っているのだと。

 

 やがて、壊滅した軍勢から離れるように、爆発に巻き込まれたのかボロボロになった才人とサーシャが、ブリミルのもとへと向かった。

 すると、才人はなぜ同じ人間同士で争っているのかを尋ねた。

 それに対するブリミルの答えは、簡潔だった。

 

「分かり合えないからだ」

 

「……そうですか」

 

 ハルケギニアで戦争を経験した才人は、それで十分理解したのだろう。

 そして、ブリミルは独りごちる。

 

「人は、自らの拠り所のために戦う。だが、拠り所たる我が氏族は小さく、やつらに比する力を持たない。でも……、神は我々をお見捨てにならなかった。ぼくにこの不思議で強力な力を授けてくださった」

 

 不思議で強力な力。『虚無』の魔法のことだと、ルイズは察する。

 そして、それを授けた神こそ、ブリミル教で崇められる神なのだと、ルイズは見当を付けた。

 

「ぼくたちは勝つよ。いつかきっと勝つ」

 

 そう言い放ち、村へと歩き出すブリミルに、才人は黙って付いていった。

 

 村へと戻ると、すでにテントは全て片付けられ、いつでも出発できる体勢が整っていた。

 ヴァリヤーグとの戦いは、十分間程度で終わった。それだけの時間でこうも手早く撤退の準備が完了するとは、日常的にこんなことを繰り返しているのだと、ルイズは理解した。

 そして、ブリミルは新たにルーンを唱え始めた。

 ルーンを唱え終わると、巨大な鏡のようなゲートが開き、そこに次々と『マギ族』の人々が突入していく。

 

 そこに才人が入ったところで、周囲の光景が薄らと消え始めた。

 ああ、どうやら今回の記憶の旅はここまでのようだ。今頃、才人は遠いハルケギニアの地で目覚めているのだろう。ルイズは察した。

 いや、才人の言葉を信じるのなら、サハラへと助けに向かってきてくれているのだったか。

 

 ルイズは、今度こそ才人に正面から会えることを願って、ゆっくりとその場で目を閉じた。

 その瞬間だ。

 

「いやー、懐かしい顔だったな!」

 

 不意に、薄れゆく世界にそんな声が響いた。

 それは、聞き覚えのある特徴的な声。ルイズはその声に応じるようにして、閉じていた目を開く。

 

「デルフ?」

 

「おうよ!」

 

 ルイズが問うと、そんな返事がきた。どうやら、才人と違って彼女の声が届くらしかった。

 

「デルフ、これってあんたの記憶なの?」

 

 ルイズは、遠い才人のもとにいるであろう魔剣デルフリンガーに、そんな問いを投げかけた。

 だが、彼から返ってきた言葉は否であった。

 

「いーや、ちげーよ。これって、あの二人が向こうの世界で逃げ回っていたころの記憶だろ? このころ、まだ俺は生まれてねーな。おおかた、相棒のルーンに刻まれていた記憶が、『聖地』に近づいて反応でもしたんだろーさ」

 

「なるほど……『聖地』に始祖ブリミルが降臨する以前の記憶ってことね」

 

「そういうわけだ」

 

「了解。この記憶も、もう終わりみたいだから、サイトによろしく言っておいてね」

 

「おう! 相棒と助けに行くから、自棄(やけ)になるんじゃねーぞ! それと、『始祖の祈祷書』は小まめに確認しておくんだな!」

 

「はいはい、それじゃあね」

 

 そうするうちに、記憶の世界は崩壊し、ルイズはサハラのルクシャナの家で目が覚めた。

 彼女はベッドで眠っていたようで、隣ではティファニアが可愛らしい寝息を立てている。ルクシャナも、どうやら今は眠っているようだった。

 それを確認したルイズは、部屋に置いてあった『始祖の祈祷書』と『水のルビー』を手にして、毛布を頭から被った。

 そして、毛布の下で『始祖の祈祷書』のページを開く。

 

 ――始祖ブリミルが使っていた、空間転移のゲートを開く魔法を習得できればよかったのだけれど……。

 

 そう頭の中で独りごちたルイズ。だが、おそらく、あの『虚無』の魔法は、自分には習得できないのだろう。ルイズはそう予測を立てていた。

 もしその魔法を習得できる可能性があるとしたら、『世界扉(ワールド・ドア)』の魔法を習得できた教皇だ。彼は『移動』の魔法を得意としており、ルイズは『破壊』の魔法を得意としている。

 しかし、『始祖の祈祷書』は毛布の下で確かに光り輝いていた。この書が反応を示した以上、この状況を打開できる魔法が発現したことは確かであり……。

 

『始祖の祈祷書』には、『瞬間移動(テレポート)』の魔法が新たに記されていた。障害物を越えて、短距離を瞬時に移動する魔法らしい。

 こうして、無事に逃げる手段は得た。西からは才人が助けに向かってきてくれている。では、後は適切なタイミングを見て、脱出するだけだ。

 ルイズは、己の心に希望が満ちてきたのを実感した。

 

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