【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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124.蛮人の賢者とエルフの賢者、そして野蛮なエルフ達

 逃亡のための魔法を覚えたルイズだが、その翌朝になっても、ルイズは逃げ出していなかった。

 それにはしっかりとした理由がある。彼女は、事前にルクシャナからこう言われていた。

 

「逃げ出そうなんて思わないでね。この周りは砂漠よ。半日で、日干しになっちゃうわ。あと、わたしを襲おうなんてことも考えない方がいい。この家は、わたしが『契約』してる場所。わたしに危害をくわえようとしたら、一瞬で灰になっちゃうからね。貴重な研究対象を失いたくないから、以上二点、よろしくね」

 

 ルクシャナに危害を加えるつもりはないルイズだが、逃げ出すつもりはあった。

 しかし、砂漠だ。ルイズは、東方から来る商人にその環境の厳しさをよく聞かされていた。昼は暑く、夜は寒い。十分な装備を整えて挑まないと、死が待っている過酷な世界なのだと。

 ゆえにルイズは、衝動のまま魔法を使って逃げ出すことはしなかった。

 

 ルクシャナの家は、そんな砂漠にあるオアシスのそばにあった。

 近くに他の家々は見えない。エルフは部族毎にまとまり、砂漠の各所に集落を作っているとも商人から聞いていたが、ここは集落ですらなかった。

 

「半日で日干しになるような暑さには感じないけれど……」

 

 ルイズと共にルクシャナの家、いや、小さな屋敷から外に出てみたティファニアが、そんなことを言った。

 だが、ルイズはそんなティファニアの言葉を否定した。

 

「ルクシャナが言っていたでしょう? この土地は、ルクシャナが精霊と『契約』した土地なの。つまり、常時、精霊の力、先住魔法が発動し続けている。効果は、日光をさえぎって、快適に過ごせるようにといった感じかしら?」

 

 ルイズはその場で空を見上げた。

 何か霞のようなもので太陽が覆われている。なるほど、エルフが砂漠などという過酷な土地に住んでいられるわけだ。ルイズはそう心の中でつぶやいた。

 

「わたし達のどちらかが、四大魔法を使えていたらよかったのだけれどね。そうすれば、水でも魔法で生成しながら逃げ出せたのだけれど」

 

 ルイズがそう言うと、ティファニアは悲しそうな顔で言った。

 

「わたし、そもそも杖を持っていないわ。取り上げられちゃったみたい」

 

「まあ、そうなるわよね。『虚無』の担い手に杖を持たせたままにするほど、エルフも馬鹿じゃないってことね」

 

 ルイズは自分の右腕をチラリと見ながら、そう言った。

 そうして、ルイズ達がオアシスの周囲を観察していると、不意に空から一匹の風竜が降りてきた。

 オアシスの水に着水した風竜は、ルクシャナの屋敷の横にある桟橋に向けてスイスイと泳いでくる。

 風竜の背には、一人のエルフが乗っているのをルイズは見た。

 

 そのエルフと、ルイズは目が合った。見覚えのある顔だ。ド・オルニエール領で、ルイズと戦闘を行なった青年エルフである。

 青年エルフは、桟橋に辿り付いた風竜の背から降りると、嫌そうな顔をしてルイズに向けて言った。

 

「こんなところで何をしている」

 

 それに対し、ルイズは正直に答えた。

 

「逃げ出す算段を立てていたわ」

 

「はあ? 止めてくれよ。お前達に野垂れ死にされたら、こっちが困るんだ」

 

「そうね。わたしも、無計画で逃げるつもりはないわ」

 

「計画を立てても逃げるんじゃない。蛮人が、砂漠で生きられるものか」

 

「そうね」

 

 ルイズの素っ気ない返答に、エルフの青年アリィーは半目になってルイズ達の横を通り過ぎ、ルクシャナのいる屋敷へと入っていった。

 そして、しばらくしてからルクシャナを(ともな)って外に出てきた。

 

「二人とも、出かけるわよ!」

 

 外に出ると共に、ルクシャナがそうルイズ達に言葉を放つ。

 

「出かけるって、どこに? わたし達、ここに監禁されているんじゃないの?」

 

 ルイズがそう問いかけると、ルクシャナは相変わらずの屈託のない笑みで答えた。

 

「わたしの叔父さまが呼んでいるの。あなた達の話を聞いてみたいのですって!」

 

 そうして、ルイズとティファニアの二人は、着の身着のままでエルフの首都アディールまで風竜の背に乗せられ、連行された。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 エルフの国ネフテスの首都アディールは、ルクシャナの屋敷から数十分飛んだ位置にあった。

 海岸から突き出すようにして作られた人工島。島の周囲には、海運を行なっているのだろうか、無数の船が行き交っている。

 そして、島の内部。そこには、ハルケギニアでは見られない高層建築物がいくつも建っていた。

 巨大な都市である。それをルイズはまじまじと風竜の背から観察した。

 

「どう? こんな都市、見たことないでしょう?」

 

 ルクシャナが、誇らしげにルイズに問うた。

 そんな問いに、ルイズは正直に答える。

 

「うーん、これよりすごい都市は、見たことだけはあるのよね」

 

「えっ、嘘っ!?」

 

「遠くの世界を見る『虚無』の魔法で覗き見ただけよ。わたしの使い魔の故郷なんだけどね」

 

「へえー、あなたの使い魔って、あの黒い髪の男の子よね? 光る左手の」

 

「そうよ。彼は、わたしが遠い遠い世界から召喚したの」

 

「わあ、あとでその話も聞かせてね!」

 

「ええ、構わないわ」

 

 そんな会話をしているうちに、風竜は人工都市の中央にある巨大な塔の屋上に降り立った。

 そここそが、エルフの文明の中心。評議会の本部が置かれた『カスバ』であった。

 

 そして、風竜からルイズが降りると、彼女達はエルフの戦士達に囲まれた。

 戦士達はルイズの理解できないエルフの言葉で何かをわめき、ティファニアを指さしてシャイターンと叫んで罵るように怒声を発した。そして、戦士の一人が腰に下げた短剣を抜こうとする。

 とっさに、ルイズはティファニアを自身の背後にかばう。

 

 するとエルフの戦士にルクシャナがエルフ語で食ってかかり、しばらく言い合いをしていたかと思うと、アリィーが間に入って両者を落ち着かせた。

 そして、戦士達は不満そうな顔をしながらルイズ達から距離を取る。

 それを見送ったティファニアは、怯えた様子で言った。

 

「怖い……」

 

「まったくだわ。いきなり剣を抜こうとするなんて、一体なんなのかしら」

 

 エルフも短剣を使うのだななんて思いながら、ルイズもティファニアに追従して言う。

 すると、ルクシャナは呆れたような様子で答える。

 

「蛮人との『混じりもの』はエルフの恥だから、殺せって騒いでいたのよ」

 

 そんなルクシャナに、ルイズも呆れ返って彼女に言葉を返した。

 

「勝手な都合で他国の者を(さら)ってきた上に殺すだなんて、エルフって文明人だと思ったらずいぶんと野蛮なのね。よくもまあ、人のことを蛮人呼ばわりできるものだわ」

 

 そんな言葉に、ルクシャナは苦い顔をした。

 ルイズの言葉を否定しきれなかったのか、ルクシャナもアリィーも何も言わず、ルイズ達を建物の内部に誘導していった。

 

 カスバは綺麗な塗り壁でできていた。

 ハルケギニアでは見られない建築様式で、途中にはトリステインのアカデミーにも存在する昇降機が設置されていた。

 アカデミーの本部は塔であり、このカスバも塔のごとき巨大建築物。なので、こういった移動用の装置は必須なのであろう。

 

 そんな見慣れない建物内を進み、ルイズ達は一室に通された。警邏の戦士達はそこで去っていき、部屋にはルイズとティファニア、ルクシャナとアリィーの四人だけとなる。

 そこでルイズは部屋の内部を見回して観察に努めた。エルフの文化を少しでも吸収するためだ。

 そうしているうちに、部屋の扉が開き、一人のエルフの男性が姿を現した。

 

 長身で痩せた男だ。ブロンドの髪を腰まで伸ばし、薄い茶色のローブを着ている。

 

「ネフテス老評議会議員のビダーシャルだ。そちらは、シャイターン……『虚無』の使い手である、ルイズとティファニアでよかったな?」

 

 簡素な自己紹介をしたエルフの男性、ビダーシャルは、二人にそう問いかけてきた。

 ルイズとティファニアも、素直に肯定を返す。

 

「お前達にはいくつか尋ねたいことがある。まず、エルフの血を引く者、ティファニアよ。お前は使い魔を召喚していない。そうだな?」

 

「ええ、していないわ」

 

「よろしい。今後も召喚しないように」

 

「したくても、杖を取り上げたじゃない」

 

「そうだな。その通りだ」

 

 納得するように、ビダーシャルはそう言った。

 そして、今度はルイズにビダーシャルは問いかける。

 

「さて、蛮人の魔法使い、ルイズ。お前の使い魔、『ガンダールヴ』のことを聞きたい」

 

「答えても問題なさそうなことなら答えるわ」

 

「お前の使い魔個人のことを尋ねようとしているわけではないぞ。『ガンダールヴ』は光る左腕を持つ。間違いはないな?」

 

「そうね。左手にルーンが刻まれていて、条件を満たすと光るわ」

 

「条件は、武器を手に持つことだな?」

 

「ええ」

 

「ふむ……」

 

 ビダーシャルは、何かを考え込むと、あらためてルイズに説明を始めた。

 

「我々エルフの伝説に残る聖者アヌビスという存在は、光る左手を持っていたという」

 

「その聖者って、エルフよね?」

 

「ああ、当然だな」

 

「だったら、話は簡単よ。その正体は『ガンダールヴ』ね。始祖ブリミルの使い魔は、エルフの『ガンダールヴ』だったの。名前はサーシャ」

 

 ルイズは、ビダーシャルの語る聖者の話に好奇心を刺激され、そんな話を漏らしていた。

 すると、ビダーシャルは驚いたような声を漏らす。

 

「なに……? 蛮人の伝説には、そのような話が残っているのか……?」

 

「わたしは神学や伝説にそこまで詳しくないけれど、多分残っていないわね」

 

「では、どこからそのような話を?」

 

「『ガンダールヴ』のルーンに残されていた記憶を見たのよ。始祖ブリミルは、故郷の地で『ヴァリヤーグ』という軍勢に脅かされていて、エルフの使い魔を召喚して『ガンダールヴ』にしたの。『ガンダールヴ』は、『魔法を使える小人』という意味らしいわ」

 

「ほう……興味深い。ちなみに、聖者アヌビスは、光る左手を持ち、大災厄をもたらした悪魔ブリミルを倒してのけたという。いや、悪魔を倒したからこそ聖者と呼ばれるようになったのだ」

 

「へえ……ちなみに、始祖ブリミルは『聖地』、あなた達の言う『シャイターンの門』に降臨する以前から、サーシャを『ガンダールヴ』として身近に置いていたようよ。でも、殺すほどの仲には見えなかった」

 

「そうか……では、ブリミルがサハラにやってきて、エルフに大災厄をもたらしたことにより、仲違いをしたと解釈もできるな」

 

「そうね。そういう仮説もありよね。いったい、六千年前に始祖ブリミルの一族と、エルフの一族で何があったのかしら」

 

「さて……。エルフの長老達なら何か知っているかもしれないな」

 

「分かったら、ぜひわたしにも教えてほしいわね」

 

「そちらこそ、記憶を見る方法があったならば、わたしにも伝えてほしい」

 

「物に宿った記憶を覗く魔法はあるけれど、杖がないからお手上げね」

 

「む……。だが、お前は、そもそも杖を所持していなかったと聞いたぞ」

 

「この子が人質に取られたときに、その場に放り投げたわ」

 

 ルイズはそう言って、その場で両手を肩の上に上げるようにして物を放り投げるジェスチャーをとった。

 すると、ビダーシャルは部屋にいたアリィーの方を見た。

 

「アリィーよ、そなた、そのような卑劣な真似をしていたのか?」

 

 すると、アリィーは苦い顔をして答えた。

 

「ぼくは戦士です。卑劣と言われようが、目的を遂行するのみです」

 

「まったく、どちらが蛮人か分からないな。『虚無』の魔法使いよ。そこの自称戦士に代わって、卑劣な行為を謝罪しよう」

 

「あなたに謝られてもね」

 

 ルイズがヤレヤレといった態度で首を横に振る。

 すると、アリィーはイラッとして額に青筋を立てた。ちなみに、ルクシャナはルイズとビダーシャルの語りを聞いて、ずっと目を輝かせていた。彼女も始祖ブリミルと『ガンダールヴ』の関わりに興味があったらしい。

 

 そして、ルクシャナが気になったことをルイズに尋ねようとした、そのときだ。

 部屋の扉が開いて、中にエルフが一人入ってきた。いかにも文官といった容姿のそのエルフは、エルフ語でビダーシャルに話しかけ、書類を手渡した。

 すると、書類に目を通したビダーシャルはかすかに眉をひそめた。

 

「叔父さま、どうしたの?」

 

 ルイズとティファニアに分かるようしたのか、ルクシャナがガリア語でビダーシャルに尋ねた。

 すると、ビダーシャルは顔から表情を消して、淡々と告げた。

 

「そこの二人に、心神喪失薬を飲ませることが決定した」

 

 まさかの言葉に、ルイズはその場で天を(あお)いだ。

 

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