【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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126.逃亡劇

 ルイズは、ルクシャナを信じることにした。(かくま)ってくれるという彼女の言葉に、応じることにしたのだ。

 才人はきっと、単独ではなく最低でも不死鳥(フェニックス)飛行隊を率いてサハラまでやってきてくれるはずだ。ならば、彼らがやってくるまで隠れきり、『フェニックス』号で空を飛んでハルケギニアまで帰れば、ひとまずは逃亡成功ということになる。

 ならば、それまでは無理に砂漠越えを狙わず隠れ続けるのも手である。

 

 そんなことを考え、ルイズはエルフの戦士アリィーの操る風竜にティファニアを(ともな)って乗りこんだ。

 そして、尽きかけの精神力を溜めるために、様々なことを考えて感情を高める。

 家族への愛。才人への想い。数々の発明品に関する今後の展望。地球の未知の技術への好奇心。ティファニアとハルケギニアへと帰るのだという決意。

 それらの感情が全て、ルイズの中で少しずつ精神力へと変換されていく。

 

 そうやって、ルイズが『虚無』の魔法を発動するための力を溜めている間に、ティファニアはエルフの青年アリィーへと話しかけていた。

 

「あの、助けてくれてありがとう」

 

「助けたくて助けたわけじゃない」

 

「そうなの?」

 

「ルクシャナが、手を貸さないと婚約を破棄するだなんて言い出すからだな……」

 

「あはは。それでも、お礼を言わせてね。あのままだと、ルイズと二人で干からびていたかもしれないから」

 

「エルフの血を引くくせに、精霊から力も借りられないとはな」

 

「母は、そういうことは教えてはくれなかったから……」

 

「まったく、杖がなければ力を発揮できない悪魔の力の使い手などより、精霊の力の行使手になっておけばこのようなことに巻き込まれずに済んでいただろうに」

 

「ふふっ、優しいのね」

 

「ふん! 少なくとも、評議会の連中よりは、エルフとしての正しい心を持っているつもりだ」

 

 そんな会話をルクシャナはアリィーの隣でニコニコとした顔で見守っていた。

 そして、北に進んだ風竜は、何もない海岸線へと辿り付く。

 そこで竜から降りた一同。そこでさらにアリィーは、一匹の水棲の竜を海から呼び寄せた。

 

「あら、水竜じゃない。初めて見たわ!」

 

 ルイズが、資料だけでしか見たことのない竜種を前にして、興奮気味に言った。

 ハルケギニアは海運がさほど発達していない。よって、ハルケギニアの人々は、海の生物である水竜に馴染みがないのだ。

 

「水竜シャッラールだ。どこまで逃げるかは知らんが、彼に乗ってルクシャナの言う避難先まで行くといい。ぼくは、追っ手に偽装工作をかけておく」

 

 アリィーはそう言うと、風竜の方へと一人歩いていこうとする。

 そんなアリィーに、ルクシャナは大きな声で言った。

 

「ありがとう、アリィー! 助かったわ!」

 

「まだだ。いつ見つかるかは分からないんだ。油断はするなよ、ルクシャナ」

 

「うん、全部解決したら、結婚しましょうね、アリィー!」

 

「んなっ!?」

 

 そんな言葉を交わしてからアリィーは風竜に、ルクシャナとルイズ、ティファニアは水竜の背にそれぞれ乗った。

 そして、風竜が飛び立ってから、ルクシャナは水竜の背を撫でて言った。

 

「シャッラール、海母のところまでよろしくね」

 

 そのルクシャナの声に、水竜は可愛らしい鳴き声を返すと、海をかき分けて進み始めた。

 夜は深く、双月の明かりだけが進むべき先を照らしている。

 慣れぬ潮風の匂いに、ルイズとティファニアは鼻をムズムズとさせながら、ボンヤリと前を見た。

 さすがに時間も時間だ。二人とも眠気を感じていた。

 だが、そんなルイズ達に、ルクシャナは話しかけてくる。

 

「ねえ、ルイズ。どうやってカスバから逃げ出したの?」

 

「そりゃあ、あなた達が言う悪魔の力を使ってよ」

 

「杖もないのに、どうやったの? もしかして、本当は杖なんていらないとか?」

 

「そんなわけないでしょ。単に、杖は言葉通り杖の形をしているとは限らないってこと」

 

「なにそれ! どこかに隠し持っていたってことよね? 賢いわねー」

 

「杖って分からなければ、何かと便利なのよね。メイジじゃないって油断させたりね」

 

「あはは、すごいすごい。やっぱり、あなたを助けてよかった。面白い話が一杯聞けそう!」

 

 そうして、ルクシャナは様々な話をルイズから聞きだそうとしてきた。

 ルイズもこの()に及んでルクシャナの裏切りを警戒することもなく、答えられる内容に関しては素直に答えることにした。もはや、ルクシャナはルイズとティファニアの二人にとって、最後の生命線となっていたのだ。ならば、彼女の心証を悪くすることは賢い選択とは言えない。

 

「どんな力を使ったの?」

 

「『瞬間移動(テレポート)』。障害物を無視して、少し先まで空間を跳躍する魔法ね」

 

「すごい! 精霊の力には、そんなものはないわ!」

 

「まあ、『虚無』の魔法は『火』『水』『風』『土』のどれにも属さない系統だからね。精霊の力とは、だいぶ効果が違うでしょうね」

 

「面白い! 他にも、物に宿った記憶を読み取れるのよね? やってみて!」

 

「じゃあ、そっちで読み取りたい物を用意して」

 

「そうね、じゃあアリィーから貰ったこの装飾品で!」

 

 そうして、水竜の上で『記録(リコード)』の魔法を披露して見せたルイズ。この魔法ならば、見せ札にしても問題はないという判断である。

 

「うわー、アリィーってば、本当にわたしのこと好きすぎなんだから!」

 

 ルイズの魔法で何を見たのか、アリィーはニヤニヤと笑って水竜の背の上ではしゃぎ始めた。

 そうしているうちに、三人はいつのまにか眠気に負けて寝入ってしまった。

 そして、夜が明け、空に太陽が昇り始めたときのこと。ルイズ達は水竜の甲高い鳴き声で目を覚ました。

 

「んっ、どうやら、到着したみたいね!」

 

 ルクシャナはグッと背筋を伸ばしながら、そんなことを言った。

 一方、ルイズは寝起きでボンヤリする頭のまま、目の前に広がる光景を見た。

 

 細長い、うねうねと動く触手のような形をした巨大な岩が、水面からいくつも伸びている不思議な場所。

 その岩は、数十メイルはあろうかという高さであり、その岩が無数に存在して、水面から四方八方に飛び出している。

 奇妙すぎる光景だが、寝起きが悪いルイズの頭はまだハッキリしていなかった。

 

 ティファニアの方はというと、こちらはしっかりと目を覚ましていた。

 そんなティファニアが、ルクシャナに問う。

 

「ここに隠れるの? 隠れ家みたいなものはなさそうだけど……」

 

「ふふっ、ここはね、『竜の巣』っていう群島よ。ここにわたしの『おともだち』が住んでいるの。彼女に匿ってもらうわ」

 

「エルフが、こんなところに住んでいるの?」

 

「エルフは住めないわね」

 

「えっ、じゃあ『おともだち』って、何者?」

 

「ついてからのお楽しみよ」

 

 そう言って、ルクシャナはティファニアに向けて得意げな笑みを向けた。

 それから、水竜は海面から飛び出す岩をかき分けるようにして、ルクシャナのいうところの群島を進んでいく。

 やがて、一際高くそびえた岩が、彼女達の前に姿を現す。

 

 そこで、ルイズがようやく目をハッキリと覚ました。

 

「『竜の巣』……『竜の巣』?」

 

 ルイズはその言葉に、聞き覚えがあった。以前、東方からやってきた商人に聞いたのだ。

 それは確か、ロマリアが『場違いな工芸品』を回収しているサハラの地域名ではなかったか。そうなると、まさかここは……。

 と、そこまでルイズが考えたところで、ルクシャナが言った。

 

「ねえ、二人は水中でしばらく息を止めていられる? 目的地はこの水面の下にあるの。辿り付くまで、しばらく海を潜ることになるのだけど」

 

 そのルクシャナの問いに、ルイズは答える。

 

「遠泳は得意ね。テファは?」

 

「えっ、わたし、アルビオン育ちだから、海にもぐるとか、そういうのはちょっと無理かな……」

 

 ルイズに問われたティファニアは、申し訳なさそうにそう答えた。

 すると、ルクシャナは「仕方ないわね」と言ってから手に海水をすくい、呪文を唱えた。

 海水が光り輝き、精霊の力が宿る。それをルクシャナはティファニアの前に差し出し、彼女に飲ませた。

 

「うええ、しょっぱい……」

 

「『水中呼吸』よ。しばらく水中でも息ができるわ。さ、シャッラール」

 

 ルクシャナが水竜に指示を出すと、水竜は可愛らしい鳴き声を返して、ゆっくりと水面に潜り始めた。

 そして、海に没しようとしたところで、不意にルイズの胸元が光り輝き始めた。

 

 何事かと思った三人だが、完全に海の中に水竜が沈んだところで、彼女達の周囲に水の幕ができて海水から三人を守った。

 

「なにそれ!? これ、精霊力よね!?」

 

 ルクシャナが、驚愕しながらルイズを凝視する。

 対するルイズは、なにがなにやらといった様子で、輝く胸元から一つの品を取り出した。

 それは、昔、ラグドリアン湖の水の精霊からもらったペンダントであった。どうやら、このペンダントに宿った水の精霊がルイズを水難から守ろうとしてくれているらしい。

 

「すごい『水』の力を感じるわ……」

 

 ルクシャナが、興味深そうにルイズの取り出したペンダントを眺める。

 それに対し、ルイズは苦笑しながら答えた。

 

「トリステインにあるラグドリアン湖っていう湖に住んでいる、水の精霊からもらったものよ」

 

「ええっ、水の精霊から直接、こんな秘宝を!? 物を渡せるほどハッキリした意思と形を持っている水の精霊……? それって、本当に精霊なの?」

 

「さあ? エルフの精霊の定義と、人間の精霊の定義が同じとは限らないから、どうだかね」

 

「むむむ……」

 

 ルイズの言葉に、ルクシャナはうなって、何かを考え込み始めた。

 そして、つぶやくように言った。

 

「うーん、そのラグドリアン湖っていう場所、行ってみたいわね」

 

 人間の支配地域なので、なかなか難しいだろうとはルイズは思ったが、水を差すのも悪いので彼女は黙っていることにした。

 

 それから水竜は、海面から見えていた一番大きな岩に沿って海の下へと潜っていく。

 やがて、海面と海底の中間辺りに、水竜ですら通れそうな大きな穴が空いているのがルイズの目に見えてきた。

 そこへ水竜は迷うこともなく飛びこむ。穴の中は暗闇であり、そこへ突入する際にティファニアは慣れぬ水の中で不安だったのかルイズにギュッと掴まってきた。

 巨大すぎる胸が、ルイズの二の腕に当たる。それをルイズは、ここにいるのが才人だったらテファにイチコロだったでしょうね、などと考えながら、暗闇の向こうを凝視するように見た。

 

 やがて、暗闇の先に光が見えた。水竜はその光に誘導されるかのごとく、一直線にそこへと向かう。

 そして、光が周囲に満ちたところで、水竜は海面から空気のある空間へと飛び出した。

 

「着いたわよ」

 

 ルクシャナが、ルイズの胸元から目線を外して、到着した空間に目を向ける。

 ルイズも、ルクシャナの目線を追うようにして、空間を観察した。

 そこは、数十メイルはあろうかという広い場所であった。どうやらここは、先ほどの巨大な岩の内部であるようだった。岩は、中身が空洞になっていたというわけだ。

 さらにルイズが観察すると、壁面には淡い光を発する苔が生えているようだった。

 神秘的な光景に、ルイズにしがみつくティファニアは、感動でうっとりとしていた。ルイズはというと、未知の空間に好奇心を爆発させていた。

 

 だが、そんな二人の思いを邪魔するかのように、空間の奥で何かがうごめいた。

 とっさに、ルイズは動いた何かに注目した。右手をそちらへ向け、警戒心を露わにする。

 

 だが、そんなルイズを安心させるように、ルクシャナは言った。

 

「大丈夫よ。わたし達を匿ってくれる相手よ」

 

 その言葉に、ルイズは腕を下ろした。

 そして、空間の奥、苔が生えていない闇の中から、低い大きな声が響いてきた。

 

「精霊の偉大なる息吹を感じる……何者かね?」

 

 そんな声に、ルクシャナが返答する。

 

「わたしよ、海母(うみはは)

 

「おや、長耳のはねっかえり。おとぎ話の水の妖精でも連れてきたのかい?」

 

「当たらずといえども遠からずといったところね」

 

「そうかい。よく来たね、わらわの娘」

 

 巨大な声は、そう言ってからゆっくりとルイズ達の方へと近づいてきた。地面を踏みしめる重たい音と共に、闇の向こうから巨大な存在が姿を見せた。

 光る苔に照らされた、銀色に輝く巨体。それは……シャッラールよりも大きな、水竜の姿であった。

 それを見て、ルイズはポツリとつぶやいた。

 

韻竜(いんりゅう)?」

 

 すると、そんなルイズに巨大な水竜、いや、水韻竜は言った。

 

「おやおや、水の妖精は、ずいぶんと可愛らしい子をお連れのようだ」

 

 体高だけで十五メイルはある、巨大な水韻竜。それが、ここ『竜の巣』の主であった。

 

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