【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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128.森の妖精と水の軍勢の戦い

『竜の巣』の正体は、エルフにとっての忌むべき地、『シャイターンの門』。

 そんなルイズの言葉に、エルフの戦士アリィーは眉をひそめながらルイズに言った。

 

「ここが門だとして、どうするつもりだ、悪魔よ」

 

 気迫を全身から発してすごんでみせる彼に、ルイズは笑みを返して言う。

 

「何も」

 

「……は?」

 

「何もしないわよ?」

 

「なんだと?」

 

 ルイズの言葉が意外だったのか、アリィーはわずかに気迫を緩め、眉間にシワを寄せながら問い返した。

 すると、ルイズはおかしそうに軽く笑ってから答える。

 

「わたし達の『聖地』がここだからって、別にわたし自身は宗教家でもないし、興味はあれども執着心は特にないわよ? そもそも、ハルケギニアでは『大隆起』の対策で大わらわで、今さら『聖地』がどうこう言っている場合じゃないのよ」

 

「何を言っている。お前達の言う『聖地』を奪うために、何千年もの間、蛮人どもは我々の土地を攻めてきたんだろうが」

 

「そんなことをわたしに言われてもね。ちなみに、つい数ヶ月前、『聖地奪回』を言い出したロマリアって国は、大国ガリアに戦争で大敗北したわよ。推測だけど、ガリアにはエルフが滞在していて、ロマリアと戦うための兵器開発をしていたと思うわ」

 

「……そうか」

 

「そういう意味では、あなた達エルフの努力は功をなしていると言えるわね。だから、少なくとも『大隆起』の問題が解決するまでは、ハルケギニアの民は『聖地』には手を出さないわよ」

 

 そんなルイズの言葉に、アリィーはようやく顔の険を取った。そして、その隣に立つルクシャナも、ニコニコと笑っていた。

 だが、そんなエルフの二人に、ルイズは笑みを止めて表情を少し険しくして言う。

 

「でも、ここが『聖地』、『シャイターンの門』だと言うなら、厄介なことになりそうね」

 

 そんな突然のルイズの言葉に、ルクシャナが「どういうこと?」と尋ねる。

 すると、ルイズはルクシャナの方を向いて答えた。

 

「ここがエルフにとって重要拠点だということは、当然、監視の目もあるということ」

 

「まさか! こんな辺境の地で監視だなんて……」

 

 ルクシャナがそんなことを言うと、隣のアリィーはハッとして焦ったように言った。

 

「そうか、水軍、ヤツラか! ルクシャナ、お前、水軍どもに泳がされていた可能性があるぞ!」

 

「水軍って……『鉄血団結党』!」

 

『鉄血団結党』。初めて聞く固有名詞に、ルイズはそれは何かと問い返そうとする。

 だが、その次の瞬間。

 遠くから爆発音が響き……わずかに遅れて洞窟内が激しく震動した。その謎の音の正体に、ルイズはすぐに思い至る。

 

「大砲の音ね。その水軍のお出ましのようよ。ねえ、『鉄血団結党』って、どんなヤツら?」

 

 ルイズの問いに、アリィーが苦虫を噛みつぶしたような顔で答える。

 

「エルフの名に恥じる、野蛮な連中……。蛮人どもの土地に打って出て滅ぼすべきだと主張している、極右の交戦派だ。要は、過激派だな」

 

 そのアリィーの言葉の最中にも、爆発音は響き……大岩の中の震動はより激しくなった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ルイズ達四人が水竜に乗って洞窟から出ると、数リーグの距離が離れた先に、低い喫水の軍艦が四隻並んで『竜の巣』へ向けて砲撃を放っていた。それを精霊の力でもって望遠で見たルクシャナが、叫ぶように言う。

 

「水軍の鯨竜艦(げいりゅうかん)よ!」

 

 それは、鯨に似た生き物の上に、砲塔や艦橋が乗った、ハルケギニアでは見られない独特の姿をしていた。

 当然、ルイズはその生き物も、それを改造して造られた軍艦も、初めて見る。

 

「うーん、文化のギャップを感じるわ」

 

 ルイズが水竜の上でそんなことを言うと、ルクシャナが焦ったように言葉を返してくる。

 

「何をのんきに言っているの! わたしまでいるのに撃つとか、ヤツら本気でわたし達を殺す気よ! あいつら、本気で頭のおかしい連中なんだから!」

 

「ルクシャナも、逃亡を助けた裏切り者扱いなのでしょうね。確かに野蛮と言えば野蛮ね」

 

「そんなこと言ってる場合!? 逃げなきゃ!」

 

「あの軍艦は、水竜よりも航行速度が遅いのかしら?」

 

「うっ!」

 

 ルイズの指摘に、ルクシャナはうめく。どうやら、逃げることは難しいらしい。

 そこで、ルイズは胸に下げたペンダントを触る。

 

「水の精霊。また水中に潜るから、水の膜をお願いしていい?」

 

 すると、チカチカとペンダントトップの宝石がまたたき、水竜の上に乗ったルイズ達四人は、ラグドリアン湖の精霊の御業で水の膜に覆われた。

 それを確認したルイズは、水竜の主であるアリィーに振り向いて言った。

 

「さあ、潜りましょう」

 

「ああ。シャッラール、海に潜れ」

 

 そうして、四人はひとまず海底まで逃れた。

 だが、これで一安心というわけにはいかない。

 

「どうする? 水軍は水中に機雷も投げ込めるぞ」

 

 そんなアリィーの指摘に、ルイズは真面目な顔で答える。

 

「ねえ、水軍の軍艦、沈めても大丈夫?」

 

「むっ……まあ、軍人なら訓練されているから、溺れ死ぬことはないが……沈められるのか?」

 

「わたしとティファニアは、悪魔の末裔よ。そこまで言えば、分かるわよね?」

 

「むう……。だが、そうだな。鯨竜艦は殺して構わんが……、あんな野蛮な連中だが、エルフの民は誰も殺して欲しくない。できるのか?」

 

「ええ。さすがにここからじゃ魔法が届かないから、ある程度近づいてもらうことになるけれど……」

 

「それは問題ない。ヤツらの砲撃は、水中の水竜を狙えるほどの精度はないからな。機雷が届く距離までは近づける」

 

 そうして、彼らは水中を水竜に乗って進んでいく。

 海の透明度が高いため、海面から海底を進む様子は相手に観測されている可能性は高い。だが、それも気にせずアリィーは水竜を駆って海中を進んだ。

 

 すると、相手もさすがは軍隊。イルカに乗ったエルフが数人軍艦から飛び出し、ルイズ達に向けて水中を進んできた。

 それを見て、ルイズはティファニアに言った。

 

「軍艦を狙うのは、テファに任せるわ。いいわね、新しい『虚無』よ。強く念じれば、エルフを殺す事なく、狙いの部分だけ破壊できるから」

 

「分かったわ!」

 

 そう。ティファニアは、この数日で、『風のルビー』と『始祖の祈祷書』を用いて一つの魔法を習得していた。

 それは、破壊のための魔法だった。だからこそ、ルイズとティファニアは、今回のような戦いの訪れを覚悟しており、水軍が現れても動揺が少なかったのだ。

 

 そうして、ティファニアは呪文を唱え始める。彼女の指には、ルイズがハルケギニアから持ち込んだ指輪型の杖が嵌められている。当然、杖との契約はすでに済んでいた。

 

 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

 

 初めて聞くティファニアの魔法の調べに、不謹慎ながらもルクシャナが興味を引かれて目を輝かせる。

 その一方で、ルイズは右腕を迫るイルカの方に向けて、こちらも短くルーンを唱えた。ルイズが唱えたのは、『イリュージョン』。無数の水竜の群れが、ルイズの前方に出現する。

 

「うわっ、なんだ!?」

 

 アリィーが、突然出現した水竜に動揺する。

 

「幻影の魔法よ! 気にせず軍艦に向かって!」

 

「そ、そうか。水中で使える蜃気楼とは……よし、シャッラール! 行くぞ!」

 

 ルイズの説明を聞き、動揺を抑えたアリィーは、幻影の水竜の陰に隠れるようにして自身の水竜を操った。

 

 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

 

 ティファニアの中で、魔法が組み上がっていく。

 ティファニアが得意とする『虚無』の系統は『忘却』。しかし、その基礎の魔法である『忘却』の魔法は、訓練されたエルフの戦士や軍人には通用しない。精神的な守りが彼らにはあるのだ。

 

 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ……

 

 ゆえに、ティファニアは己の得意系統とは異なる『虚無』を発動する。それは、あらゆる物質を構成している小さな粒に干渉する、初歩の初歩の初歩。

 その名を……。

 

「今よ、テファ!」

 

 ルイズの叫びと共に、ティファニアは水面を単縦陣で並ぶ四隻の軍艦に向けて、ありったけの精神力を込めて魔法を放った。

 ド・オルニエール領でエルフに(さら)われて以降、不安と恐怖の感情により、彼女の精神力は溜まりに溜まっていた。それが、一気に解放される。

 

 ――『爆発(エクスプロージョン)』!

 

 心の中で魔法名を唱えたティファニア。その次の瞬間。エルフの水軍が乗る鯨竜艦は、四隻とも完膚なきまでに四散した。

 鯨竜艦に乗っていたエルフの軍人達は、全て海中に投げ出され……ルイズ達はそれを横目に、悠々とこの海域から脱出していった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 それからルイズ達は、アリィーの部下であるという一団と合流した。

 どうやら、ルクシャナの行為が評議会にバレてしまい、彼らの一族はお尋ね者となってしまったらしい。

 

 そこで彼らは、『海竜船』と呼ばれる潜水艦の一種に乗ってここまで逃れてきていた。

 円筒状の船体を、水棲の竜に引かせて水中を進むというものだ。

 ルイズは、エルフという種族はずいぶんと竜を飼い馴らすことを得意としているのだな、とのんきな感想を持った。

 

 その船内の内部をルイズは興味深げに観察している。いずれ機会があれば、『竜の巣』近くに沈んでいた『潜水艦』との違いを確かめてみたいなどと思うルイズであった。

 一方で、ティファニアはグッタリと、船内に備え付けられたベッドに身を横たえていた。

 

「何? あなた、魔法を一回使っただけで疲れたの?」

 

 ルクシャナがそうティファニアに聞くが、ティファニアはその言葉を否定する。

 

「ううん、精神力は尽きたけど、疲れたわけではないかな。そうじゃなくて、あの大きな鯨を殺してしまったのが辛いの」

 

「ああ、鯨竜艦ね。まあ、いいんじゃない? 兵器として改造されていた可哀想な鯨竜を解放してやったと思いましょう」

 

「そんなに割り切れない……」

 

「まっ、そうよね。あなたもわたしと同じように、争い事は嫌いなようね。そういうところはエルフっぽいのね」

 

 ルクシャナはそう言うが、ティファニアはというと、エルフが争い事を嫌うという話も、話半分で聞いた方がいいかなと思った。

 なにしろ、彼女はここしばらく、エルフのせいで散々な目にあってばかりだ。

 自身の母のような、命を狙われても最期まで無抵抗でいたような慈悲深いエルフという存在は、このサハラにはいないのではないかと疑うようにすらなっていた。

 

 そんな二人とは別に、アリィーが部下達と今後の予定を話し合っていた。

 海路は水軍が網を張って彼らの逃亡を防ごうとしているだろう。水軍は、過激派である『鉄血団結党』が牛耳っているのだ。ティファニアの精神力も既に尽きており、水軍に見つかれば今度こそ彼らの命はない。

 

 よって、彼らは途中で陸路に切り替えることに決めた。

 

「では、エウメネスに向かう」

 

 アリィーがそう言うと、機内を観察していたルイズが目を輝かせて振り向いた。

 

「エウメネス! 人間とエルフの交易都市ね!」

 

「そうだ。評議会は公式には認めてはいないがね」

 

「公式だろうが非公式だろうが、構わないわ。そこなら、わたしの知り合いの商人も何人かいるから、物資も補給できそうよ」

 

「ああ。ルクシャナもよく出入りしていたから、そこからガリアに亡命が可能だろう」

 

 もはや現状は、才人達の救出を隠れて待つという事態ではなくなってしまった。

 彼と入れ違いになってしまったらどうしようか、などとルイズは考えたが……とりあえずは、自身の逃亡劇に巻き込んでしまったエルフ達を無事にハルケギニアへ逃すことを優先しようと、気合いを入れるのだった。

 

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