【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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129.ルイズ・ティファニア救出隊

 ルイズとティファニアが、ルクシャナ達一行と共に自由都市『エウメネス』へと逃れようとしている一方。才人が乗る『イヴェット』号は、その自由都市を越えて、サハラ上空を航行していた。

 見事なすれ違い。だが、それに気付かず才人は、ルイズを助け出すために気合いを入れていた。

 

 砂漠の上を高速で飛ぶ『イヴェット』号。しかし、それをみすみす見逃すエルフではない。

 当然のように、エルフの空軍の哨戒(しょうかい)艦が、彼らを捕捉した。

『イヴェット』号はハルケギニア最速の軍艦だ。だが、エルフ達は空に無数の風竜を飛ばして、その道を塞ぐように展開していた。

 

 艦で体当たりを狙えば、突破は可能だろう。

 だがしかし、『イヴェット』号は航空母艦だ。上に、『フェニックス』号が複数乗っている。何かと衝突してしまえば、上に乗る『フェニックス』号は無事では済まないかもしれない。

 

「やれやれ、辿り付く前にひとあてせねばならんか」

 

 艦長であるコルベールが、困ったように言った。

 そして、すでに『フェニックス』号に乗り込んでいる不死鳥(フェニックス)飛行隊に、出撃指示を出そうと決めた。

 

 上司であるラ・ヴァリエール公爵ピエールも、反対する意志はないようだった。

 そして、エルフとの戦いが始まらんとした、その瞬間。

 突然、エルフの哨戒艦が光に包まれ、ゆっくりと地面に向けて落下し始めた。

 

「は?」

 

 まさかの出来事に、コルベールは呆けた。

 艦橋にいたピエールも予想外だったのか、モノクルを嵌めた目を大きく見開いている。

 

 そんな彼らをさらに驚かせるかのように、観測班から連絡が入った。

 

「南方から、軍艦が一隻近づいてきます! 特徴から、ハルケギニアの所属艦かと思われます!」

 

「なんだって……? 援軍……?」

 

 確かに、ピエールはここまで来る道中で、ガリアの首都に寄ってルイズの救出作戦を各国の首脳陣に知らせてはいた。援軍が後から来る可能性自体はあった。

 だが、後から彼らを追ったところで、ハルケギニア最速の『イヴェット』号に追いつけるはずがないのだ。

 では、艦橋から目視できるようになったあの軍艦、小さなフリゲート艦は、それらの援軍とは関係ないということで……。

 

「艦籍は、ガリアのようです。艦にガリアの国旗を掲げています」

 

 ガリア籍の軍艦。まさか本当に自分達に追いついたのか?

 そう思ったが、さらに予想外の事態が観測班から告げられる。

 

「ガリアの艦は、ガリア王家の旗も掲げているようです!」

 

「なんだと!?」

 

 ピエールは、思わず艦橋にいたタバサの方を振り向く。

 だが、タバサは何も知らないのか、首を横に振った。

 

 現在のガリア王家の者と言えば、彼女の双子の姉妹である女王ジョゼットだ。もしくは、アルビオンの総督となっているイザベラか、東方に冒険へ行ったという前王ジョゼフ。

 と、そこまで考えて、ピエールは閃いた。

 

「ジョゼフ王か!」

 

 ピエールがそこまで言ったところで、再び観測班が言う。

 

「飛行型のガーゴイルが一匹、近づいてきます! ……こちらもガリア王家の旗を掲げています!」

 

 まさかの連続。どうやら、ガーゴイルには、ガリア王家の何者かが乗りこんでいるようであった。

 そして。『イヴェット』号の甲板に、ガーゴイルが降り立った。

 そこには、一人の女性を(ともな)ったガリアの前王、ジョゼフが乗っていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「我が友、ルイズの危機に馳せ参じた! この『虚無』の力、存分に活用するとよい!」

 

 フリゲート艦と併走するように墜落したエルフの哨戒艦を振り切った『イヴェット』号。その艦橋に、ジョゼフが自らの使い魔の女性を伴ってやってきた。

 思わぬ援軍に、ピエールは笑顔で彼を迎え入れた。

 

「助かります。私がルイズとティファニア殿下の救出隊を指揮しております」

 

「うむ。我が友の父君であるな。久しぶりだ」

 

 いつかのラグドリアン湖での『大隆起』対策会合以来となる数年ぶりの邂逅(かいこう)に、ピエールとジョゼフはガッチリと握手を交わした。

 

「して、先ほどの光は、陛下が放った『虚無』の魔法ですかな?」

 

「ああ、そうだ。『エクスプロージョン』の魔法だな。最小限の精神力で、『風石』のみを狙って爆発させた。さすがのヤツらも、『風石』なくして船は飛ばせまい。そして、落ちた船の乗組員を助けるために、竜騎士どもも地上に降りざるを得ないというわけだ」

 

「なるほど、合理的ですな。さすが一ヶ月でロマリアに勝利した『名君』であります」

 

「ははは、このようなもの、ただの『虚無』によるゴリ押しでしかないわ!」

 

 そうして、二人の話はルイズの救出作戦へと移る。

 

「我が友は、エルフの首都アディールにあるカスバと呼ばれる要塞塔に囚われたようだ」

 

「ほう、そこまで調べておいでですか」

 

「うむ。我が愛しの使い魔は、あらゆるマジックアイテムを自在に操る。その程度を調べるのは、わけないことだ」

 

 ジョゼフは、隣に立っていた女性、シェフィールドの肩を抱き寄せながらそう言った。

 すると、シェフィールドは恥ずかしそうに頬を紅く染める。

 なにやら二人は深い仲にありそうだとピエールは察しながらも、そこには言及せずに会話を進める。

 

「では、そのアディールに向かう。よろしいですな?」

 

「うむ。我が艦が、エルフの哨戒網の隙間を通るので、その後を追うといい。今頃、エルフの首都は混乱しているだろうから、その隙にカスバに攻め込むぞ」

 

「混乱、ですか?」

 

「うむ。『アンドバリ』の指輪を知っているかね?」

 

「確か、アルビオンの皇帝を名乗っていたクロムウェルが所持していたという、死者を操る秘宝だとか……」

 

「そうだ。我がガリアは、それを秘かに回収していたのだ。その水の力で、エルフの一部を操っておる。ああ、殺してはおらんぞ? 生きたままでもあの指輪は、人を操る手段があるのだ」

 

 そのジョゼフの言葉に、ピエールはアルビオン戦役での混乱を思い出して、苦い顔をした。

 だが、あのときの悪夢がエルフに訪れているというのなら、またとないチャンスである。

 

 そうして、『イヴェット』号は、ガリアのフリゲート艦に先導され、海の上に浮かぶ人工島まで辿り付くことに成功した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 砂漠を越え、首都アディールまで乗りこんだ一同。

 当然のように、風竜に乗ったエルフが『イヴェット』号を攻めようと飛び立ってくるが、これに『フェニックス』号に乗った不死鳥飛行隊の一部が迎撃に向かった。

 激しい空中戦の最中、『イヴェット』号はカスバに砲撃を何度も加え、その巨大な施設に大きな穴を空けた。そして、『イヴェット』号はその穴に接舷(せつげん)し、突入隊に選ばれた面々がカスバに侵入する。腕自慢のメイジ達が、列をなすようにして穴へと次々と入っていく。

 その中には、メイジではない才人の姿もあった。

 

 デルフリンガーを抜き、全身から覇気を放ちながらカスバを進む。

 途中、エルフの抵抗にあうが、しかし、『アンドバリ』の指輪で操られたであろう他のエルフがそれを妨害しにかかる。

 

「うぬ! おのれ、みすみすと精神を操られるとは、修行の足りないやつめ!」

 

 そうエルフ語でまくし立てて抵抗する衛兵らしき者もいたが、見事にエルフ数人に抑え込まれて道を空けることとなった。

 

「いやー、精神系の魔法って訓練されたエルフに効きにくいはずなのに、『アンドバリ』の指輪ってすごいのな」

 

 エルフ達が仲間割れする横を通り過ぎたところで、才人の持つ剣、デルフリンガーが陽気に笑った。

 

「精神系の魔法に対抗する訓練なんて、積めるのか?」

 

 才人が、デルフリンガーにそう尋ねると、デルフリンガーは金具を鳴らしながら答える。

 

「おうよ。ハーフエルフの嬢ちゃんの『忘却』の魔法とか、エルフの戦士には効かねーぞ? だから、簡単に逃げ出せてはいねーはずさ」

 

「そうか。なんとか助け出さないとな」

 

 そうして一同はカスバの内部を進む。『アンドバリ』の指輪で操ったエルフの役人達は、ルイズとティファニアの居場所を知らなかった。そのため、上役のエルフを捕らえて居場所を聞き出そうと、上の階へと進む方針をラ・ヴァリエール公爵のピエールが立てた。

 カスバを進む最中、意外と抵抗は受けなかった。

 エルフの全員を『アンドバリ』の指輪が操ったわけではない。ただし、数少ない正気の衛兵は指輪で操ったエルフに押さえられ、無事だった役人は蛮人の襲撃に逃げ出してしまっているようであった。

 

 やがて、突入隊は階段を見つけ出し、そこを一気に駆け上がって上層にある階まで辿り付いた。

 下の階よりも立派な扉が付いた個室が、いくつも並んだ廊下。才人達は知るよしもないが、評議会議員の執務室が並ぶ階層であった。

 

 いかにも、役人の上役がいそうな階。そこには、二人のエルフが待ち受けていた。

 エルフの青年と、老人の二人組である。

『アンドバリ』の指輪で操られた様子はない。

 突入隊は、一斉に杖を抜く。しかし。

 

「待つのじゃ。降参する。だから、その物騒なものを仕舞ってくれ」

 

 老エルフが、その場で両手を挙げてハルケギニアの公用語でそのように言った。

 だが、ピエールは油断なく軍杖を構えたまま、老エルフへと告げる。

 

「貴様らが(さら)った娘達はどこだ?」

 

「ふむ、やはり取り返しに来たか……ここにはおらんよ」

 

「なんだと?」

 

「『悪魔の(わざ)』で、地下牢から逃げ出しおった。今は水軍のアホどもが追っているようじゃが……。おそらくはエウメネスに逃げ込んでいるじゃろうな」

 

 エウメネス。ピエールはその地名に心当たりがあった。

 人間とエルフが密貿易を行なっている、ガリア、サハラ、東方(ロバ・アル・カリイエ)の三地域の緩衝地帯にある都市だ。

 

「それは、本当か?」

 

「信じぬのも仕方ないかもしれぬな。だから、わしがおぬし達の人質となってエウメネスまで案内しようではないか」

 

「貴殿に人質の価値があると?」

 

「うむ。申し遅れたな。わしは最高評議会の統領、テュリューク。こちらは以前ガリアに滞在しておった評議会議員のビダーシャルじゃ」

 

 ガリアに滞在と聞いて、ピエールは突入隊に交ざるガリア前王ジョゼフを見た。

 すると、ジョゼフはピエールに向けてうなずきを返す。

 

「では、付いてきていただく」

 

 ピエールはそう言って、警戒しながら幾人かの突入隊で二人のエルフに近づく。

 エルフ達は、抵抗する様子も見せずにそれを受け入れた。

 

「そうじゃ、わしが投降したのじゃから、我々に使った精霊の力は、解除してもらいたい。いったい何を使ったんじゃ? 強力過ぎて解除が効かぬ」

 

「それは、我々がアディールを離れた後なら構いませぬ」

 

 そうして、ピエール達は誰も欠けることなく、カスバから逃げ出し……統領を人質に取られたと知った数少ない竜騎兵達も矛を収めて、『イヴェット』号はアディールから脱出することに成功した。

 西へと進む『イヴェット』号。その内部では、救出隊の代表ピエールと、エルフの統領テュリュークの話し合いが行なわれた。

 

「さて、あらためて、エルフの統領として一つ話がしたい」

 

「聞きましょう」

 

 真剣なテュリュークの言葉に、ピエールはたたずまいを正してそう言う。

 そして、テュリュークは信じられないようなことを言い出した。

 

「わしを蛮人……人間の代表のところに案内してほしい。おぬしら人間と、和平を結びたい」

 

「和平、ですと?」

 

「うむ。ほれ、このまま全面戦争になったとする。サハラを戦場とすれば我々エルフの勝利となるじゃろうが、おぬしらの『悪魔の業』、『虚無』を使われれば我々もただでは済まぬ。わしはこのサハラに、無駄な血が流れるのだけは、なんとしても避けたいのじゃ」

 

「なるほど、全面戦争は我々も避けたいところです。ハルケギニアの国々は今、エルフにかまけている場合ではないのです。しかし、代表ですか……我々ハルケギニア人は、一つの国としてはまとまっておりませぬが」

 

「そこは、ほれ、いるじゃろう。悪魔……ブリミルを(あが)める宗教の総帥が」

 

「教皇聖下ですか……」

 

 テュリュークに言われ、ピエールは難しい顔をする。

 教皇は、確かにハルケギニアの代表と言える存在だ。しかし、先のガリアとの戦争で、求心力を失っている。それが和平などをまとめられるのか。

 いや、違う。ピエールは気付いた。

 逆だ。エルフとの和平を結べば、教皇の権威は復活するのだ。しかも、和平を結べば聖地奪回などという世迷い言を再び言い出すこともないだろう。

 教皇の権威失墜は、ピエールとしても望むべきことではない。今は、ハルケギニアは一丸となって『大隆起』対策に挑むべきときなのだ。

 

「分かりました。ですが、まずは(さら)われた娘達の救出からです」

 

「うむ。ところで、一つ残念な知らせをせねばならぬ」

 

 突然のテュリュークの言葉に、ピエールは眉をひそめた。今度は何を言い出すのだろう。彼は警戒しながら問い返す。

 

「なんでしょうか」

 

「首都でおぬしらに抵抗した我々じゃが、ずいぶんと大人しかったとは思わぬかね? 空軍のことじゃ。ほれ、今も追っ手はいないじゃろう?」

 

「ええ。そのようですな」

 

「実はな。首都の混乱に乗じて、『鉄血団結党』というエルフ内部にいる過激派が、クーデターを起こしよってな」

 

「……は?」

 

「そやつらは水軍なのじゃが、空軍を掌握して、首都の守りをほっぽり出してエウメネスを攻めておる」

 

「それは……!」

 

「急いだ方がよいぞ。ヤツらは、悪魔を殺す事に躊躇(ちゅうちょ)もせぬ、血に飢えた野蛮人どもじゃからの」

 

 自由都市『エウメネス』。

 そこでは、新たな戦いが待ち受けているのであった。

 




・本編で語られない『アンドバリ』の指輪に関する原作との差異
アルビオン戦役のおり、シェフィールドはマチルダによるサウスゴータ郊外での水源の案内を受けませんでした。なので、シェフィールドが水源を『アンドバリ』の指輪で汚染した際、確実に成功するとは思わなかったため指輪を全て使い切りはしませんでした。その残りが、今回エルフの首都に炸裂したという経緯です。
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