【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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130.エウメネスの航空戦

『イヴェット』号が砂漠(サハラ)の外れ、海岸沿いに存在する自由都市『エウメネス』に到着すると、そこは既に戦場となっていた。

 東に、エルフ空軍の艦隊。西に、ハルケギニア所属の艦隊。それがエウメネスを挟んで向かい合い、日が暮れかかった夕闇の下、砲撃戦を行なっていた。

 どうやら、ガリア本国から出発した追加の救出艦隊が、クーデターを起こしたエルフの『鉄血団結党』と争っているようだ。

 

「むう、間に合わなんだか」

 

 ラ・ヴァリエール公爵ピエールからその報告を受けたエルフの長老、テュリュークが眉間のシワを深くしてそう言った。

 そんなテュリュークに、ピエールが言う。

 

「こうなっては、我々もハルケギニアの艦隊に加勢せざるを得ません。どうやら、エルフ艦隊はエウメネスの街にも砲撃を加えているようで、民間人を助けるためにもエルフ艦隊を撃退する必要があります」

 

「致し方ないか……分かった。だが、捕虜を取った場合は人道的な扱いを求める」

 

「分かりました。お約束しましょう」

 

 そうして、ピエールは艦橋まで移動する。

 そこでは、艦長のコルベールが乗組員に指示を出して、戦闘準備を整えているところであった。

 

「コルベール艦長。出撃だ」

 

「了解しましたぞ。しかし、なかなか難しい戦いになりそうです」

 

「そうなのか? 見たところ、数はハルケギニアの圧倒的優位に見えるのだが」

 

「いや、どうやらあのハルケギニア艦隊の多くが、ただの幻影のようなのです。おそらくは、ルイズくんの『虚無』の魔法による支援ですな」

 

「おお、アルビオンでも見た、ルイズの魔法か。なるほど、上手く使わんとな」

 

 そうして、東から大きく回り込んで西側のハルケギニア勢力方面へと移動する『イヴェット』号。単独の艦では背後からの挟み撃ちもたいした効力がないため、艦隊との合流を優先したのだ。

 当然、エルフ艦隊はそれを阻止しようと動く。だが、そこで『イヴェット』号から不死鳥(フェニックス)飛行隊が飛び立ち、さらにタイガー戦車の戦車砲を参考に作られた鉄の大砲が敵艦隊に向けて火を吹く。

 その大砲は、ライフリングが彫られた後装式であるエルフ側の大砲よりも、長射程・大火力であり……。さらには、『風石』で浮いて竜の群れに牽引(けんいん)させる仕組みで動くエルフの軍艦よりも、『イヴェット』号は速度に優れており、易々とその障害を突破した。

 

 エルフとハルケギニア人の間に存在した技術格差。それは、本来なら大きくエルフ側の優位にかたむいているはずであった。

 その理由の多くは、ハルケギニアの貴族が平民の台頭を恐れて、技術、特に魔法によらない兵器の発展にフタをしていたというものであった。

 しかし、ルイズという『賢者』の登場と、『大隆起』という世界の危機の前に、トリステインでは何年も前からそのフタが外されていた。そして、『異国の賢人』平賀才人の召喚により、トリステインの技術の発展速度はさらに増した。

 その発展の成果の最先端が、この『イヴェット』号であり、不死鳥飛行隊の『フェニックス』号である。

 

 そうして、『イヴェット』号は西側のハルケギニア勢力であるガリア艦隊と合流に成功した。

 と、その時だ。

 エウメネスの街を観察していた『イヴェット』号の観測班が、あるものを見つけた。

 

「目標発見! 西側の塔の上で旗をこちらに振っています!」

 

「なにっ!?」

 

 そう、彼らは救出対象であるルイズとティファニアがいないか、『遠見』の魔法で地上を探っていたのだ。

 

「助けに向かうぞ!」

 

 すぐさま、ピエールが号令をかける。

 

「私が直接向かいます!」

 

 と、そこで真っ先に動く者がいた。

 ピエールの妻であり、ルイズの母でもあるカリーヌ。

 

「……わたしが助ける」

 

 そして、もう一人、ルイズの親友タバサだ。

 

 二人は争うように甲板に向かい、それぞれマンティコアと風韻竜に乗って、塔まで空を駆けた。

 だが、さすがに幻獣二体の姿は目立ったのか、そこに風竜を操ったエルフの竜騎兵が襲いかかる。

 とっさに構えて魔法で迎撃をしようとする、カリーヌとタバサ。

 

 しかし、それよりも早く、一機の戦闘機が横切り、機銃で風竜を打ち倒して空に去っていった。

 才人が操る『ゼロ・フェニックス』号だ。戦闘機は幻獣と違って滞空できないため、ルイズ救出のための露払いに専念していた。

 そこで、素早くカリーヌがマンティコアを駆り、塔の屋上にいるルイズとティファニアを救出した。

 

「ルイズ!」

 

 カリーヌが、ティファニアごとルイズを抱きしめた。

 それに対して、ルイズは目に涙を溜めながら、努めて冷静に言った。

 

「母さま、急いで上空へ。幻影を空の上から操作します」

 

「……分かったわ。さあ、あなたの父が『イヴェット』号で待っていますよ」

 

 カリーヌは、もう一度二人を強く抱きしめてから、マンティコアを『イヴェット』号へと向かわせた。

 それをタバサは悔しそうな目で見ていたが、すぐさまその感情を振り切り、マンティコアに近づく敵の風竜を警戒して護衛に努めた。

 

 エウメネスの上空、その制空権は不死鳥飛行隊が握りつつある。

 どうやら、エルフがその先住魔法で強化した風竜ですら、『フェニックス』号の速度には敵わないようであった。

『フェニックス』号は、アルビオン戦役でも猛威(もうい)を振るった機銃に、ミサイル代わりの火矢という強大な火力も搭載している。風竜は次々と撃ち落とされ、竜騎兵はエウメネスの街へと落ちていった。

 

 もちろん、ハルケギニア艦隊に被害がないとはいかない。

 幻影の中に交ざる本物のガリア籍の軍艦がいくつか被弾し、さらには風竜の群れに狙われた『フェニックス』号も、集中砲火を浴びて撃墜される機体が出た。

 ただし、『フェニックス』号には緊急脱出装置が装備されている。そのため、撃墜された機体のパイロットであったマリコルヌは、無事にエウメネスの街にパラシュートで降り立つことができた。

 

 一方、『イヴェット』号へとやってきたルイズ。彼女は、父と再会して抱き合うと、すぐに離れ、言った。

 

「敵の旗艦(きかん)は分かっています。『虚無』の魔法で撃ち落として、敵軍を撤退させましょう」

 

「うむ。しかし、幻影を操りながらでは、別の魔法を撃てないのではないか?」

 

「大丈夫です。こちらにはもう一人の『虚無』の担い手、ティファニアがいます」

 

「なるほど。我々もジョゼフ陛下を抱えているが、どうやらまだ十分な精神力が溜まりきっていないようなのだ」

 

「陛下がいるんですか?」

 

 ルイズが驚くと、艦橋にいたジョゼフが「ここにいるぞ、我が友よ!」と大声で言った。

 それを聞いて、ルイズは思わず笑顔になる。こんなに多くの人達が、自分とティファニアを助けに来てくれた。それが、彼女には嬉しくてたまらなかった。

 

 そうして、どうやってティファニアを敵の旗艦まで近づけるかという話になった。

 そこで、すぐさまルイズが答えを出す。

 

「サイトを呼び戻しましょう。彼の機体に乗せるのが、一番確実です」

 

「了解した。連絡班、光信号を送れ!」

 

 ピエールの指示で、空を飛ぶ『ゼロ・フェニックス』号へと光の瞬きで呼び出しを掛ける。すると、才人はすぐにその合図を理解し、『イヴェット』号の甲板へと降り立った。

 そして、すぐさま『ゼロ・フェニックス』号から降りようとする彼だったが、乗組員達に押さえつけられ、『ゼロ・フェニックス』号の操縦席に押し込まれる。さらに、コックピットの後部座席に、エルフのローブを着込んだティファニアが乗りこんできた。

 

「ええっ、テファ!? どうした?」

 

「ふふっ、ルイズにサイトを借りたの。わたしが『エクスプロージョン』を唱えるから、今だけわたしの『ガンダールヴ』になってね」

 

「……まったく、しょうがねえなあ」

 

 才人は苦笑してそう言い、風防を閉めてすぐさま飛び立つ準備を整えた。

 そして、乗組員達が離れたところで、才人は操縦桿を握り、『ゼロ・フェニックス』号を再出撃させた。

 空を駆ける青塗りの『不死鳥』。『虚無』を守る使い魔『ガンダールヴ』が、左手の甲を光り輝かせながら、操縦桿を握る。

 その後ろには、ルイズではなくティファニアというもう一人の『虚無』が乗りこんでいる。

 エルフと人間、両方の血を引く彼女は、二種族の愚かな争いを止めるため、詠唱を開始した。

 

 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

 

 自由都市の上を『ゼロ・フェニックス』号が飛ぶ。すると、彼を守るように『フェニックス』号の面々が、僚機として並び飛んだ。さらに、ルイズの『イリュージョン』の魔法が、風竜に乗る竜騎士を作り出し、『不死鳥』の群れを追いかけさせ始めた。

 

 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

 

 突然、正面から向かってきた敵に、エルフ艦隊は慌てて大砲を向ける。

 だが、エルフ空軍の砲撃の精度では、高速で飛ぶ『不死鳥』を撃ち落とすことは叶わない。

 

 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ

 

 旗艦を守るエルフの竜騎兵が、彼らの前に立ちふさがる。

 しかし、不死鳥飛行隊の機銃斉射を受けて、エルフの乗る竜が次々と撃ち落とされていく。エルフ自慢の風の精霊の力を借りた盾も易々と突破された。それを旗艦の中から見ていた『鉄血団結党』のエルフ達は、蛮人の力に恐れおののいた。

 

 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……

 

 やがて、ティファニアの詠唱が完成する。精神力は十分溜まっているとは言えないが、エルフと人間の争いを止めたいという強い感情が、新たな精神力を彼女に与えていた。

 それからティファニアはその場でシートベルトを外して立ち上がり、風防の中から見えるエルフの旗艦を真っ直ぐに見つめた。

 そして。

 ティファニアは、極力人死にが出ないことを祈りながら、敵艦の中にある『風石』だけを狙って『エクスプロージョン』を放った。

 

 音もなく、小さな太陽が旗艦を包み込む。

 争いを嫌うティファニアが、二種族の争いに心を痛めて高めた精神力。それが、『虚無』の魔法となって確かに現れた。

 

 その魔法は、旗艦に搭載された『風石』だけを綺麗に消し飛ばし……多数の竜に牽引された旗艦は、その場で墜落を始めた。

 なすすべもなく、サハラの砂漠に不時着する旗艦。

 そこへ、自由都市から打って出たエルフと人間の混成義勇軍が、墜ちた旗艦を包囲するように展開していく。

 

 それにより、エルフ空軍の軍人達は己の敗北を悟った。すると、クーデターを起こした『鉄血団結党』に嫌々従っていた各艦の内部で、今度は穏健派による反乱が巻き起こる。そして、電撃的に空軍内部の『鉄血団結党』は壊滅した。

 

 エルフは元来、同族を大切に思う種族だ。同胞のエルフが住む自由都市を砲撃するという『鉄血団結党』の方針に反対する者は、非常に多かったのだ。

 自由都市『エウメネス』は大昔、エルフの犯罪者を追いやるための流刑地(るけいち)として扱われていた地だ。ゆえに、『鉄血団結党』は犯罪者の子孫をエルフの同胞と見なしていなかった。

 しかし、空軍の軍人の多くは、エウメネスに住むエルフ達を(さげす)みはすれども同胞のエルフであるとは思っていた。だからこその、『鉄血団結党』の幹部達が乗る旗艦を失ったタイミングでの反乱であった。

 

 そうして、ようやく正気を取り戻したと言えるエルフ空軍。

 彼らは、これ以上の被害を受ける前にと、東の首都方面へと逃げ去っていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 それから、『ゼロ・フェニックス』号と不死鳥飛行隊は、『イヴェット』号へと降り立った。

 地面の下は砂地のため、この甲板にしか降りられる場所がなく、一機ずつ順番での着艦である。

 

 その一番目を譲られた才人は、『イヴェット』号の甲板で不死鳥飛行隊の全員が着艦し終わるのを待った。

 次々と『フェニックス』号が甲板に降りてくるため、うろちょろするのは危険だとまたもや乗組員に押さえつけられたのだ。

 才人は、イライラしながら『フェニックス』号が全機戻ってくるのを待った。その才人の様子を見て、ティファニアはよっぽどルイズに会いたいのだと、笑みを浮かべてそれを見守った。

 

「被害状況は?」

 

 そんな才人達の近くで、乗組員がなにやら話している。

 

「一機撃墜。他は、小破が五です」

 

 その言葉に、才人はギョッとした顔をする。

 だが、乗組員達は特に深刻な顔もせずに会話を続けた。

 

「墜とされたのは、ミスタ・グランドプレ。怪我はないようです。今、ミス・タバサが回収に向かっています」

 

 と、そこまで聞いて才人はホッと胸を撫で下ろした。不死鳥飛行隊に死者はいないようであった。

 そして、マリコルヌが墜とされたと知り、トリステインに帰ったら訓練のやり直しだなと才人は決めた。

 

「墜とされた機体も、可能な限り回収しろ。エルフに機体の解析などされたら、おおごとだぞ」

 

「了解しました!」

 

 どうやら、『フェニックス』号の機体の重要さを理解した乗組員が交ざっているようだ。

 才人は感心しながら、全機の着艦を待った。

 そして、不死鳥飛行隊がマリコルヌを含めて、全員降りてくる。

 

 その中にいた飛行隊の隊長、ギーシュが薔薇の造花を持ちながら、宣言した。

 

「我々の勝利だ!」

 

 ワッと、飛行隊の面々が沸く。

 だが、才人はそれに交じることなく、艦橋に向けて駆け出していた。

 乗組員が行き交う甲板を通り抜け、艦内に入り、廊下を走る。

 

 やがて、多数の乗組員が座る艦橋に到着したところで、才人は叫んだ。

 

「ルイズ!」

 

 すると、ラ・ヴァリエール公爵ピエールと話し込んでいたルイズが振り向き、満面の笑みを浮かべた。

 

「サイト!」

 

 そうして二人は、自然と互いに駆け寄り、抱擁(ほうよう)を交わした。

 

「よかった、無事でよかった……」

 

「ふふっ、ただいま」

 

「ああ、おかえり」

 

 そうして、しばらく二人が抱き合っていると、不意に二人を邪魔するものが現れた。

 それは、嫉妬に駆られた無粋な第三者ではない。ルイズの胸元から膨らむようにして現れた、水の精霊であった。

 

「星をもたらす者よ、『アンドバリ』の指輪がすぐ近くにあるぞ」

 

 精霊のその言葉に、ギョッとするルイズ。

 一方、サイトは、ニヤニヤとした顔でこちらを見ていたジョゼフの方を見た。

 すると、ジョゼフは隣に立つ己の使い魔であるシェフィールドに向けて言った。

 

「ミューズ、指輪を俺に」

 

「はい」

 

 シェフィールドは、懐にしまっていた『アンドバリ』の指輪を取り出すと、ジョゼフに手渡した。

 そして、ジョゼフはルイズ達の方へと近づいてくる。

 

「これがご所望か、我が友よ」

 

 そのジョゼフの言葉に、ルイズは真面目な顔をして言った。

 

「陛下。それをどこで見つけたの?」

 

「なに、アルビオンで拾ったのだ」

 

「……そういうことにしてあげる。それ、水の精霊に返さないと、世界が水の下に沈む『大隆起』以上の大災害が起こるから、渡してもらっていいかしら」

 

「構わん。なにせ、指輪に秘められていた力は全て使い切ってしまったからな」

 

 ジョゼフにそう言われて、ルイズは彼の手元の指輪を覗き込む。すると、指輪は台座だけが付いており、宝石のような装飾は存在しないようだった。だが、台座は明らかに何らかの石を保持する形をしている。どうやら、力とやらを使い切って、石の部分は消失してしまったようだった。

 

「ねえ、水の精霊。これでも構わないのかしら」

 

「問題ない。指輪の力は、我がもとに戻れば時と共に復活する。我は、指輪の返還を要求する」

 

「だ、そうよ」

 

 ルイズがそう言うと、ジョゼフはルイズに向けて指輪を放ってきた。

 それをルイズは器用にキャッチし、大事そうに腰のポーチへと入れた。

 

「ありがとう、陛下。救出に来てくれたことも含めて、礼は必ず」

 

「よいのだ。これは、おれの心を救ってくれたことへの礼なのだ」

 

「そう。では、個人的な恩として記憶しておくから、いずれ勝手に返すわね」

 

「ハハハ、律儀だな!」

 

 そうして、ルイズとティファニアの救出作戦は終わりを告げた。

 戦いは終わり、これからエルフの総督とハルケギニアの教皇の間で、和平交渉が行なわれることが決まった。

 

 そう、西からやってきたガリアの艦隊の中に、教皇の御召艦『聖マルコー』号も、さりげなく交ざっていたのだ。

 両種族の代表者による秘密会談が、エウメネスの街を舞台にして繰り広げられ……その最中に、ルイズは疲れた身体を癒やすため、『イヴェット』号の船室で深い眠りに就いた。

 




第十一章は以上で終了です。次章はエピローグを除いた最後の章、聖地編です。
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