【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
131.生命の輝き
ルイズは夢を見ていた。
いつだかに見た夢の続き。才人から流れ来る、『ガンダールヴ』の記憶が見せる過去の世界を再現した夢であった。
それを自覚した瞬間、ぼんやりとしていたルイズの意識が急速に覚醒する。
そして、ルイズは己の状況を確認する。どうやら、以前迷いこんだ過去の世界と同じように、彼女は空に漂っているようだ。
さらに、眼下には以前と同じく才人の姿がある。
前のように、才人が主体となる記憶の世界のようだ。その才人は、広大に広がる砂漠の上に寝転んでいた。
その才人も、自身が置かれている状況に気付いたのか、勢いよく身体を起こす。そして、周囲を注意深く観察し始めた。
砂漠ということは、エルフの住む地であるサハラが夢の舞台なのであろうか。才人と同じように眼下の光景を目を凝らして見たルイズは、そうあたりを付けた。
そして、眼下の才人が何かを見つけたようで、ある一点を見つめ出した。
ルイズも才人に倣って上空からそちらを向くと、そこには広大な山脈があった。さらに、その
砂漠に、白い都市。六千年前のエルフの都市なのではないかと、ルイズは予想を立てた。
現代のエルフの首都のような、長大な高層建築はない。だが、しっかりとした作りの建物が並んでおり、その確かな建築技術の高さをルイズは垣間見た。
どうやら、エルフは六千年前からずいぶんと文明的な生活を送っていたようだ。
と、そんな己の置かれている状況を察したルイズだが、彼女の眼下にたたずむ才人も同じように、これが夢であり記憶の世界だと気付いたようだ。
砂漠に放置されているというのに、焦った様子も見せずにその場に座りこみ始めた。夢の進行を待っているのだろう。
すると、才人の狙い通りなのか、大きな砂丘の向こうから、ゆっくりと人影が近づいてきた。
その人物の歩みをルイズと才人は無言で見守った。
やってきた者は、裾を引きずるような長いローブを身に着けた、小柄な男だった。金髪を撫でつけた、見覚えのある姿。以前の記憶の世界にも出てきた、始祖ブリミルである。
「ブリミルさん!」
才人もやってきた人物の正体に気付いたのか、声を上げて手を振った。
どうやら、六千年前の記憶で間違いないようだとルイズは思い、彼女は状況の観察に努めた。
才人の呼びかけに気付き、歩む速度を上げて近づいてくるブリミル。その風貌は、以前よりもいくらか老けており、頬も痩せこけていた。別人と言われても納得してしまいそうな変わりようであった。
そのブリミルは、才人をまじまじと見るが、彼が誰なのか分からなかったようだ。当然だ。ここは記憶の世界。以前の世界での出会いとは連続性がないはずなのだ。
だが、才人が『ガンダールヴ』のルーンを見せて、自分の名前を言ったところ、ブリミルは目を見開いて思わぬ言葉を放った。
「おお、キミか! いやはや、キミもこちらの世界に来ていたのか。いや、そもそもキミはこちらの世界の者であったね。何年ぶりとなるだろうか……」
「えっと、お久しぶりになるんですかね?」
「そうだね。そういえば以前会ったときに、キミの主人はエルフに囚われたとか言っていたね。その後、どうなったんだい?」
「はい。おかげさまで、救出に成功しました」
「それはよかった。これからすることに巻き込んでは事だからね」
「これからすること……? ブリミルさん、何をしようっていうんですか?」
才人のその問いに、ブリミルは答えた。
「世界を救うんだ」
だが、その勇ましい言葉とは裏腹に、彼は苦虫を噛みつぶしたような表情をしていた。
◆◇◆◇◆
それからブリミルは、才人を連れて砂丘からオアシスへと移動した。
人がかつて住んでいたのであろう。テントの骨組みや壊れた井戸、さらには家畜らしき大きな動物の骨が乱雑に散らばっている。それらは全て砂塵にまみれている。村の跡地、廃村であった。
ルイズは才人達から離れすぎないようにして廃村の観察をする。どうやら、テント跡は以前の記憶の世界で、ブリミルの一族が使っていたテントと似通っている品のようだ。動物の骨も、彼らが飼っていた山羊の骨が多く交ざっている。
なるほど、このオアシスはブリミルの一族が過去に定住していたことがある場所なのだな、とルイズは理解した。
そんな廃村で、ブリミルはエルフの都市がある大山脈とは反対方向を指さして、才人へ向けて言った。
「ここから北に行けば、人間の住む土地がある。ここはじきに海の底に沈むから、そちらに逃げた方がいい」
「海の底に……? 一体どういうことですか?」
ブリミルの唐突な言葉に、才人は
「そうだな。この世界の先住民であるキミには、まだ知らされていないことかもしれない。いいかい、この世界はいま、恐ろしい事態に直面している。世界は滅亡の危機に
「な、なんだって……?」
ブリミルによる世界滅亡の宣告に驚いたのは、才人だけではなかった。空を漂うルイズもである。
ブリミルが先ほど言った、世界を救うという発言。そして、彼が語った、世界の滅亡の危機。どちらも、ルイズが知るブリミル教の経典には載っていない出来事である。いったい、六千年前に何があったのか。ルイズは、廃村の上空にただよいながらブリミルの次なる発言を待った。
「キミは『精霊石』というものの存在を聞いたことがあるか?」
そんな唐突なブリミルの質問に、才人は困惑しながら答える。
「えっと、『風石』とかのことですよね? この世界の地下に埋没している鉱石」
「さすが、詳しいね。だが、少し間違いがある。あれは、鉱石などではない。この世界にいる精霊の力が凝縮したものだ。キミが言ったとおり、地中の奥深くに眠っていて、まず掘り出すことはできない」
それを聞いて、ルイズはまだこの時代の魔法技術では、彼女が先導したような『風石』の採掘ができないのだと知って、歴史ロマンを感じた。
そんなルイズののんきな心境とは裏腹に、ブリミルは深刻な顔をして言葉を続ける。
「世界の滅亡は、その『精霊石』が原因で起こるんだ。地中の『精霊石』が今、一斉に暴発しようとしている。世界中でだ。そうなれば、大地はめくれ上がり、そこに住む生物達は人間もろとも滅亡してしまうだろう」
「この時代にも、そんなことが……」
ブリミルの言葉に、小さくつぶやくように才人が言った。
ルイズも、同じ思いだ。まさか、六千年という想定よりも短いスパンで前回の『大隆起』が発生したなどと、ルイズは予想もしていなかったからだ。アルビオン大陸が浮かび上がった原因の『大隆起』は、六千年前よりもさらに昔のことだと分かっている。
「でも、そんなことにはさせない、絶対に」
ブリミルはそう言って、山脈の麓に広がる、エルフのものらしき白い城塞都市の方を向いた。
彼の表情は険しく、まるでにらみつけるような目を白い都市に向けていた。
「あそこに、何かあるんですか?」
才人がブリミルにそう問うと、彼は才人に振り向くことなく答える。
「キミは知っているかもしれないが、あれはエルフの住む都市だ。あそこには、エルフが
ブリミルのその言葉に、空に浮くルイズは怪訝な顔をした。『大いなる意思』とは、エルフや韻竜といった、先住魔法を使う種族が信仰している相手である。ルイズが今まで調査を続けて聞き取った限りだと、それは現実には現れない概念的な存在のはずだ。しかし、ブリミルの言い様は、まるで『大いなる意思』が物理的に存在するかのようであった。
「世界の崩壊は、その『大いなる意思』が原因だ。だから、ぼくはそれを破壊する」
そう言って、ブリミルは両手を都市の方向へと向けて突き出した。
それを見て、才人は驚愕する。
「破壊って……まさか! 都市ごとやるつもりですか!?」
「止めてくれるな。キミたち先住の民と、我々一族が生き延びるために、必要なことなんだ。ぼくはそのためにここへ来た」
ブリミルのその表情は、覚悟が決まった顔というものではなかった。むしろ、その顔はこわばっていて、今から自分が行なおうとすることを恐怖しているかのようだった。
それを見て、ルイズはいろいろと察してしまった。
以前、ルクシャナがルイズに語った、六千年前の『大災厄』、その原因。始祖ブリミルがエルフに『悪魔』と呼ばれるようになった、その理由。
そして、今、ブリミルに破壊されようとしているあの都市の正体。
これからエルフの都市は、ブリミルが最初に語ったように、海の底に沈むのだろう。誰でもない、ブリミルの『虚無』の魔法によって。
「そんなことをしたら、今後、何千年も人間とエルフの間で終わらない戦争が続くことになる!」
才人が叫ぶように言うが、ブリミルは震えるような声で言葉を返す。
「そうはならないよ。今日、すべてのエルフは地上から姿を消すのだから」
「サーシャさんはどうするんだよ! 彼女だって、エルフだろうが!」
才人のその言葉に、ブリミルは沈痛そうな表情を浮かべて、しぼり出すような声で答えた。
「サーシャは、エルフ達の説得に失敗した。だから、もはや我々が生き延びるには、この道しかないんだ……分かってくれ」
「ブリミルさん……」
そう才人に告げたブリミルは、両手をエルフの都市に向けたままルーンを唱え始めた。
長い、長い詠唱。
やがて。
ブリミルの頭上に『エクスプロージョン』の光が現れた。しかし、その大きさは『エクスプロージョン』の比ではないものであり……。
その巨大すぎる光の塊が、遠くの山脈に向けて、放たれた。
そして。
光に触れた山脈が、一瞬で消失した。
あまりにも恐ろしく、あまりにも現実味のない光景だと、ルイズは空の上を漂いながら思った。
山の麓にあったエルフの都市は跡形もなく消し飛び、超巨大なクレーターへと変わっている。
そのクレーターには近くにあった海から海水が流れ込み始めていた。
未知の魔法で、山々を丸ごと消し飛ばしたブリミル。
彼は能面のような顔で、その跡地を眺めている。そこには、世界を救ったという達成感は欠片も含まれていなかった。