【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
空を舞台にした激しい戦いから一夜明け。ルイズとティファニアの救出隊であるハルケギニア連合艦隊は、未だ自由都市『エウメネス』に滞在していた。
そのエウメネスにある建物の一角で、ルイズとティファニアの二名は、教皇ヴィットーリオ・セレヴァレと面会をすることになった。名目は、聖地である『竜の巣』がどのような場所であったかの聞き取りだ。
「『竜の巣』は海の中に没した空洞で、そこには
まずは、実際に目で見た簡単な内容からルイズは話した。
すると、教皇は感心したような声で応える。
「ほう、韻竜……シャルロット殿の使い魔である風韻竜以外にも、まだ生存していたのですね」
「タバサの使い魔のこと、ご存じでしたか」
「ええ。我々は国境を超えた、始祖ブリミルの僕の集まり。存外、耳目はよいものです」
ロマリアは、自分達のことをどこまで知っているのだろうか。ルイズは、目の前の人物が、どのような存在であるかを推し量る。
ルイズは教皇の人となりをそこまで知らない。
ロマリアにおける穏健派の筆頭であり、以前ルイズが異端審問を受けたときも彼女をかばう発言をしていた。
しかし、そうかと思えば、『ラグドリアン・テクスト』には反対の意見を述べ、『聖地奪回』を言い出す狂信者の面も見受けられた。
だが、彼が言った『始祖ブリミルの魔法装置』なるものなど、存在しないことをルイズは記憶の世界で知った。実際にあったのは、『大いなる意思』と呼ばれる『大隆起』の元凶だ。少なくとも、始祖ブリミルは破壊したエルフの都市跡になんらかの装置を設置する以前に、殺害されているはずだ。
ただし、残されているであろう『大いなる意思』をどうにかすれば、『大隆起』を防げることには変わりはないのだが……。
なお、ルイズが教皇に対して強く持っている印象が、一ヶ月戦争での総大将としての立場だ。
策士としての面では前王ジョゼフに大敗したが、それでもどんな奇策を練ってくるかは分からないところがある。
ルイズはそんな教皇に警戒心を抱きながら、『竜の巣』について話していった。
「そこでまず見つけたのは、異世界から流れ着いた『潜水艦』……水中を魔法の力なしで進む軍艦です。そこでわたしは、『竜の巣』が『場違いな工芸品』の流れ着く場所であると気付いたのです」
「ふふっ、ルイズ殿は以前から、『竜の巣』が『場違いな工芸品』の集積地であると、気付いておりましたよね?」
「……そこまでご存じでしたか」
「名もなき魔法学院でしたか。そこにも、ブリミル教徒はおりますので」
「はー、本当に厄介ですね、ブリミル教は」
「いえいえ。我々にできることは実際のところ、噂を集める程度のものですよ。他の国々に対抗できる力など持ち合わせてはおりません。戦争にも見事に負けましたからね」
「武力の代わりに、口の上手さで戦うわけですね」
「おや、これは耳が痛い」
つかみ所の無い態度で、教皇が微笑む。なんとも相手をしにくい人物だと、ルイズはモヤモヤとした思いを抱えながら会話を進めた。
「それで、『竜の巣』では海母が『場違いな工芸品』、異世界の兵器を多数収集していました。ほとんどが潮にさらされて錆び付いていましたが、一部は梱包されていたので無事なままでしたね。そこでわたしは、『竜の巣』が異世界と通じていることに気付きました。つまりは……」
ルイズは、ジッと教皇の目を見ながら、続けて言う。
「『聖地』。エルフの言う『シャイターンの門』。始祖ブリミルが降臨したという神聖なる地の正体は、異世界から始祖ブリミル率いる『マギ族』がやってきた場所。そういうわけですね?」
そこで初めて、教皇は表情にわずかな驚きを浮かべてみせた。
その表情の変化に、ルイズはしてやったりという気持ちになるが、こんなことをしてもなんの利点もないことに気付いた。会話で相手を驚かせる子供じみたイタズラをこんな状況でするなど、何をやっているのだろうかと自省した。
そんなルイズに、教皇は興味深げな目線を向けながら言う。
「『マギ族』のことをご存じでしたか」
「ええ。異世界から逃げてきた、わたし達メイジの祖先、そうですね?」
「そうです。この地、サハラを支配する民族をエルフ族と呼ぶのならば、ハルケギニアを支配する民族は、マギ族と呼ぶことが相応しいのでしょうね」
そんなルイズと教皇のやりとりをティファニアは困惑しながら見守っていた。
ルイズと同じように『竜の巣』に滞在していたティファニアだが、そうだというのに初めて聞く情報の嵐に、目を白黒させていた。
そのティファニアの困惑の最中にも、二人の会話は続く。
「教皇聖下。その『聖地』であなた様は、いったい何をなそうとしているのですか?」
「さて……とりあえずは、その地にてわたくしは、エルフと和平を結ぼうと考えておりますよ。『聖地』の正体をつまびらかにして、『虚無』と『シャイターンの門』を恐れるエルフに、我々には含むところがないと、そう伝えるのです」
教皇はそう言って、優しく微笑んだ。
◆◇◆◇◆
そうして、ハルケギニア連合艦隊は『竜の巣』の前までやってきた。
その艦隊には、エルフの統領テュリュークと、評議会議員のビダーシャルも同行していた。
ブリミル教の『聖地』。それが見られるとなって、連合艦隊の面々はやや落ち着きがない状態となっていた。
なにしろ、始祖ブリミルが降臨したという以外には、この数千年、謎に包まれてきた場所なのだ。いったい何が見られるのかと、艦隊の人々はとりとめのない噂を交わし合った。
そんな『聖地』の前に留まること数日。エルフとの和平が結ばれると決まった日の前日に、教皇から艦隊の皆への発表があった。
これから、『聖地』にて、世界を救いに行くと。
それで人々は確信した。『聖地』には、教皇が以前主張したとおり、『始祖ブリミルの魔法装置』が存在しており、それによりハルケギニアの地下に眠る『風石』を鎮静化させるのだと。
だが、軍人達が噂話にふけるそんな様子をいぶかしげな目で見守る者がいた。才人だ。
彼は、『聖地』にそんな魔法装置があるとは思ってはいない。
代わりにあるであろう物は、始祖ブリミルが記憶の世界で破壊した『大いなる意思』の残り
おそらく、あの山々を破壊し尽くしたブリミルの魔法で、わずかに打ち抜けなかった『精霊石』の塊が残されていたのだろう。過去のブリミルが最期に残した言葉から、才人はそう確信していた。
ブリミルは言った。ぼくは愛のために、自分の氏族を裏切った、と。
そして才人はデルフリンガーから、ブリミルが撃った『虚無』の魔法は、使い魔であるサーシャの生命力を消費して放たれたものだと、あの六千年前の記憶を見た直後に聞いた。
つまりブリミルは、サーシャの生命力を使い切って殺してしまわないよう、『虚無』の魔法を手加減して撃ち、その結果として『大いなる意思』を破壊し尽くせなかったのだ。そう考えれば、ブリミルが最後に語った言葉に納得がいく。才人はそこまで考えて、あらためて今の状況へと思考を戻す。
教皇がこれから行なおうとしていることは……『大いなる意思』の破壊であろうか?
しかし、エルフ達は目の前で繰り広げられることとなる『大いなる意思』の破壊行動を許すであろうか。デルフリンガーが言うには、『大いなる意思』はエルフ達の信仰の対象なのだという。才人は、
そして、明くる日。『聖地』に向かうメンバーが発表された。
『虚無』の担い手、四人。その使い魔、三人。それと、テュリュークとビダーシャルのエルフ二人だ。
それ以外は、『聖地』に足を踏み入れることなかれと、『聖マルコー』号より各艦に通達がなされた。
いったい、何が待ち受けているのか。才人はそう考えながら、ルイズとティファニアの二人と共に、『聖マルコー』号へと移動した。
ルイズとティファニアは、どこから回収したのだろうか、馴染みのあるトリステイン魔法学院の制服へといつの間にか着替えている。
そのルイズの顔には、何かの覚悟を決めた表情が宿っている。それは、いかなる想いからくるものか……。
才人は、不安と期待がないまぜになった心で、そのルイズと共に『聖マルコー』号の甲板へと向かった。
甲板から見える外の光景は、晴れ渡った空と、その下の青い海だ。
この海の下に、『聖地』が眠っているのだろうか。才人は記憶の世界とこの風景を照らし合わせながら、思った。
そうして海を眺めるうちに、彼らのもとへと教皇の使い魔であるジュリオがやってくる。
「まもなく、教皇聖下が祈祷を終えられます、どうぞこちらへ」
そう言う彼に先導されて、三人は甲板の
この期に及んで祈祷とは、いかにも宗教家らしいなと才人は思いつつ、才人はジュリオを追った。
そして、甲板の先端で、教皇ヴィットーリオは、ひざまずきながらルーンを唱えていた。
「祈祷って、もしかして何かの魔法を唱えているのか?」
才人は、聖堂騎士に守られる教皇を見ながら、ジュリオにそう尋ねた。
すると、彼は笑みを浮かべて返事をした。
「すぐに分かるよ」
彼らが見守る中、祈祷は続いた。やがて教皇は、ルーンをつぶやきながらおもむろに立ち上がる。
両手を広げて、一際強くルーンを唱える教皇。
すると、その次の瞬間。
何かが震えるような大きな音が、海面から響いてきた。
「な、なんだ……!?」
まるで蜂の群れにでもあったかのような独特の振動音に、才人は困惑する。
そんな彼に、ジュリオは言った。
「『虚無』の力……、この世のすべてを構成する、極小の粒同士が振動する音さ」
さらに、次は大地が鳴動するような別の振動音が聞こえてきた。
その次の瞬間、甲板から見下ろす水面が、急に真っ二つに割れた。それはさながら、異世界の聖典にて描かれた、預言者が民を逃がすために海を割ったかのごとき光景。
その割れた海の下からは、巨大な黒い岩山が見えている。六千年前、ブリミルがその『虚無』で破壊した広大な山脈の跡である。さらに、その岩山は、鳴動しながら空へと持ち上がっていく。
それを見て、才人は一つの単語を連想した。
『大隆起』。
まさか、『風石』の力で、大地が持ち上がったのだろうか。
いや、違う。才人は目の前の光景から、別の印象を受け取った。
大地に眠る『精霊石』、『大いなる意思』。それが、『移動』の『虚無』を得意とする教皇ヴィットーリオ・セレヴァレの魔法で、持ち上げられたのだ。
あまりもの出来事に、才人はあんぐりと口を開けてしまった。
そんな間抜け顔の才人に、彼の隣にそばに立つジュリオは笑みを浮かべて言った。
「さあ、行こう、我が兄弟。世界を救いにさ」
世界を救う。どうやら、ジュリオや教皇は、本気で『聖地』で何かを仕出かすつもりらしい。才人は、あそこで何が待ち受けても乗り越えてみせると、覚悟を決めた。
そんな才人の隣に立つルイズは、真っ直ぐな目で空に浮く『聖地』を見つめていた。