【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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134.シャイターンの門

 教皇の使い魔ジュリオが、『ヴィンダールヴ』の力で風竜を操り、『虚無』の担い手達とその使い魔、そして二人のエルフを運ぶ。

 行き先は、空に浮かぶ巨大な山、『聖地』である。

 そこに降り立った一行。そこで教皇は、ルイズの方を振り向いて言った。

 

「では、ルイズ殿。『聖地』までの道をよろしくお願いします」

 

「分かったわ」

 

 そんな二人の会話に、才人は不思議そうにルイズを見た。

 

「ここが『聖地』じゃないのか?」

 

「そうね。『聖地』は始祖ブリミルが降臨した土地のことなんだけど、その『聖地』の中でも最初の一歩を踏みしめたであろう場所があるの」

 

「なるほど……」

 

 どうやら、この山も『聖地』ではあるようだが、その中にピンポイントで神聖な場所が存在するらしい。才人はルイズの言葉をそう解釈した。

 そして、ルイズはその場で手をかざすと、『エクスプロージョン』の詠唱を開始した。

 

「ええっ、道って、物理的に開くのかよ」

 

「『聖地』は地下にあるのよ、サイト」

 

 詠唱を続けるルイズへ突っ込みを入れた才人に、ティファニアが横からそう告げた。

 山の地下。どうやら、そこまでルイズは『エクスプロージョン』で穴を空ける心算であるらしい。

 

 やがて、ルイズの詠唱が完成し、山に大きな穴が空いた。すると、穴の向こうに、ぼんやりと光を放つ洞窟が見えた。

 

「海母はいないようね」

 

 ルイズがそう言うと、エルフの統領テュリュークが応える。

 

「事前に退去してもらっておるよ。何しろ、彼女は水韻竜だ。空に浮かべるのは酷というもの」

 

「なるほどね」

 

 そうして、一同はルイズの先導で大きく空いた穴の中へと入る。

 すると、そこに広がっていた光景に、才人は度肝を抜かれた。

 大きなダンスホールほどもある空間に、大量の地球の兵器が並んでいたのだ。

 銃、大砲、戦車、戦闘機……。錆び付いた『武器』が山のように積まれていた。

 

 それを見て、才人は理解した。

 この場所こそが、『ガンダールヴ』の槍が異世界から流れ着く場所。ブリミル教が言う『聖地』であり、エルフが言う『シャイターンの門』なのだと。

 

 その武器の山を前に、ヴィットーリオはひざまずいて祈りを捧げ始めた。

『聖地』を前にして、感極まるものがあったのだろう。

 そして、しばらく祈りを捧げていた教皇だが、唐突に祈りを止め、立ち上がって皆へと振り向いた。

 

「さて、『大隆起』を止めるための『魔法装置』の話ですが……」

 

 才人は、教皇が何を言い出すのかジッと黙って見守った。

 

「あれは、虚言です。そのようなものは、存在しておりません」

 

 だろうな。才人は心の中でそう思った。

 ここを眺めてみても、そのような代物は見つけられなかったのだ。あるのは、地球の兵器だけ。

 可能性として、この山の地下に眠るであろう、ブリミルが破壊し損ねた『大いなる意思』。その一部を制御するマジックアイテムが存在しているかもしれないとは、一応考えていた。だが、やはりそんな物は無かったのだ。

 何しろ、ブリミルは『大いなる意思』を吹き飛ばした直後に、サーシャに殺されている。『魔法装置』を建造している時間など、彼にはなかったのだ。

 

「して、我らを(たばか)って、何をしようというのだ?」

 

 ガリアの前王ジョゼフが、教皇に鋭い目を向けて問いかけた。

 すると、教皇は微笑みを浮かべて答える。

 

「では、これより我々ロマリアが『聖地』を求めた、真の理由を見せましょう」

 

 そう言って、教皇は聖具の形をした杖を抜き、積み上がった武器の山の向こうをジッと見つめた。

 

「ここ、始祖ブリミルが降臨された地には、異界と繋がる『ゲート』が残されています。それこそが、これら『ガンダールヴ』の槍が辿り付く要因であり、エルフが『シャイターンの門』と呼ぶ原因でもあります。それを今、開きましょう」

 

 そうして、教皇は洞窟の壁に杖を向け、ルーンを唱え始めた。

 

 ユル・イル・ナウシーズ・ゲーボ・シル・マリ……。

 

 その詠唱を聞いて、才人はハッとした。

 聞き覚えのあるルーン。いつだかに、ロマリアの大聖堂で聞いた、教皇の『虚無』の魔法。

 地球とハルケギニアを繋ぐ、『世界扉(ワールド・ドア)』だ。

 

 その詠唱は、しばらくの間続く。それを聞きながら、才人は思考を回す。

 ブリミルの降臨したという『聖地』。そこに流れ着く地球の兵器。地球とハルケギニアを繋げる『世界扉』の魔法。

 それはつまり、ブリミルが『聖地』に降臨する以前にいた世界とはすなわち……地球なのではないか?

 

 ハルケギニア人の始祖、ブリミルは、地球人? 才人は薄々察していた答えに辿り着く。

 トリステイン魔法学院のメイド、シエスタの曾祖父もきっとこの『聖地』からハルケギニアに迷いこんだのだろう。地球の兵器を勝手に持ち出すだけでも現地では大問題になっているだろうに、それどころか兵器を操縦している人間付きでの召喚だ。なんともはた迷惑な挙動をする『ゲート』である。そう考えて才人は渋面を作った。

 

 ハガル・エオルー・ペオース・イング・マンスール……。

 

 そんなとりとめのないことを才人が考えている間に、教皇の詠唱が終わる。

 そして、教皇は壁の一点を狙い、聖具を模した魔法の杖を振り下ろした。

 すると、壁に沿うようにして光り輝く『扉』が生まれいでる。

 

 その光景に、才人は息を飲んだ。

 そう、その扉には、『地球』が映っていたのだ。宇宙から見下ろす形になる、青い惑星。テレビやインターネットで見覚えがある、『地球』の姿であった。

 

「これこそ、始祖の悲願、『マギ族』が帰還すべき『約束の地』です」

 

 教皇は皆の方向へと振り返って、笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 青々とした惑星の姿を背景に、教皇は語る。

 

「『約束の地』……そこは、ここにある『ガンダールヴ』の槍を作り出した、恐るべき『ヴァリヤーグ』が支配する地です。始祖ブリミルが率いていた『マギ族』は、六千年前、その『ヴァリヤーグ』と呼ばれる民族に迫害を受けていました。そこで、『マギ族』は始祖ブリミルの導きにより、『ゲート』を通ってこの世界へと脱出しました。つまり、『マギ族』こそ、我々ハルケギニアの人々の祖先なのです」

 

 教皇の言うことは、おそらく正しい。才人は、以前、記憶の世界で体験した数々の出来事を頭の中で反芻(はんすう)しながら、そう思った。

 一方、ジョゼフはそんなことは心底どうでもいいという様子で、教皇に言った。

 

「で、その『約束の地』がこの先にあるからと言って、どうするのだ? ハルケギニアが滅びるかもしれないので、そこへ避難するとでもいうのか?」

 

「その通りです。ここから見えるあの世界こそ、わたくしたちの故郷にして、魂の拠り所。始祖ブリミルと『マギ族』の子孫である、我々ハルケギニアの民には、あの『聖地』に帰還すべき、正当な権利があるのです」

 

 その教皇の言い様に、才人はとっさに声を上げた。

 

「無理だ。あの世界、『地球』には、ハルケギニアの全員を移住させられるような未開の土地は、余っていない」

 

 才人のその言葉を聞き、教皇は才人に笑みを向けて応えた。

 

「ええ、そうでしょうね。わたしの初めの『虚無』は、異世界の光景を覗くもの。それで、異世界の発展の様子を何度も確認してきました。ハルケギニアに点在するような手つかずの土地は、とても少ないと言えるでしょう」

 

「だったら、避難なんて無理だろ……!」

 

 口調を取り繕うことも忘れ、才人は教皇に今にも噛みつきそうな勢いで言葉を放った。

 しかし、教皇の笑みは崩れない。

 

「あまっていないのでしたら、どけてもらいましょう。我ら『マギ族』の魔法の力をもって、土地を明け渡していただきましょうか」

 

「何を言っているんだ! ここにある兵器が見えないのか!? これが全部、ハルケギニアの人達に向けられるんだぞ!?」

 

「しかし、我々には『虚無』の魔法がある」

 

 その言葉に、才人はとっさに隣に立つルイズの方を見た。その彼女は、難しい顔をして『ゲート』の向こうに輝く青い地球を見つめている。

 可愛らしい自分のご主人様。地球人に向けて、彼女の魔法を向けるだと? そんなこと、許せるはずがない。才人は、教皇をにらみつけた。

 

 しかし、教皇はその才人の目を気にした様子も見せずに、続けていった。

 

「『場違いな工芸品』から観測できる『ヴァリヤーグ』のここ百年ばかりの武器の発展は、恐ろしいものがあります。そして、いずれ彼らは、我々の操る『虚無』をも解析し尽くして、ここにある門を大きく開いてこちらの世界に攻めてくるかもしれないのですよ」

 

「そんなこと……」

 

 あるわけがない、と言おうとして、才人は言葉に詰まった。

 異世界への侵略。そんなこと、自分の故郷の国はしないだろう。だが、他の国はどうか。あり得ないとは言い切れなかった。

 そして。才人は、地球の両親に『世界扉の手鏡』を使ってハルケギニアのマジックアイテムを受け渡していた。アレが解析されて、魔法を科学で再現する日がこないとは、言い切れない。

 

「ゆえに、我々は『大隆起』から己の身を守るため『約束の地』へと帰還し、そこで『マギ族』の故郷を取り戻すのです」

 

『狂信者』。才人は、目の前に立つ教皇を見て、そんな単語を頭の中に思い浮かべた。

 彼は、『大隆起』や『ヴァリヤーグ』の問題なんて、本当はどうでもいいのと思っているのではないか。始祖ブリミルの故郷を取り戻すという、宗教的な大義こそが、唯一なのではないか。才人は、そう思った。

 

 なんとか、彼を止めようと、投げかけるべき言葉を必死に探す才人。

 だが、それよりも早く、ジョゼフが教皇へと言った。

 

「故郷だと? 六千年前の話など、どうでもよいわ!」

 

 そう言い放ったジョゼフに、教皇が目を向ける。

 そして、ジョゼフはその教皇に向けて、さらに言った。

 

「『風石』は掘ればいい。なんなら、採掘のためにエルフから手を借りればよい。異種族の侵略が恐ろしいのならば、ここにある兵器を全て解析して、より強力な魔法兵器を作り出して、富国強兵に努めればよい」

 

 そんなジョゼフの言い様に、教皇は微笑みを返した。

 

「ええ、あなたがた施政者からしたら、当然そうなるでしょう。しかし、わたしは宗教家なのです」

 

 そう言って、教皇は両手を横に広げて言う。

 

「『マギ族』の悲願。始祖の悲願。その達成こそが、我が望み」

 

 その言葉に、才人は確かな狂気を感じ取った。

 

「愚かな」

 

 それに対し、ジョゼフはそう言い放ち、懐から杖を取り出した。

 狂気に溺れる教皇を力で排除しようという心づもりなのだろう。

 

 だが、次の瞬間。

 洞窟の奥から、人影が躍り出てきた。

 それは、エルフの集団だ。

 

 その数、二十。いずれも歴戦の戦士としての風格を持つ者達だ。その中には、一時はお尋ね者となっていた、騎士(ファーリス)の称号を持つアリィーの姿もあった。

 

 まさかの事態に、ジョゼフの動きが止まる。

 その一方で、教皇は笑みを崩さない。そして、その表情のまま言った。

 

「ジョゼフ殿。あなたの持つ『虚無』の力は確かに強大です。しかし、『反射』の力に守られたエルフの守りを突破できますか」

 

「むっ……!?」

 

「あなたの魔法は『加速』、でしたか? 確かに、速度は武器だ。しかし、エルフの『反射』は速度では突破できません」

 

 どうやら、このエルフ達は、教皇側に味方しているようであった。

 それを悟ったジョゼフは、苦虫を噛みつぶしたような表情で吐き捨てる。

 

「罠に()めたな。ここでおれたちを抹殺でもするつもりか?」

 

「いえ、そのようなことはありません。ただ単に、我らの間で、意見が二つに割れてしまっただけ。ゆえに……」

 

 教皇は、ずっと手に持ち続けていた聖具に似せた魔法の杖を前に掲げた。

 そして、まさかの台詞を彼は言い出した。

 

「決闘をいたしましょう」

 

 何を言っているんだ? ジョゼフと教皇のやり取りを油断なく見守っていた才人は、そんなことを思った。

 だが、教皇は本気のようで、杖を前に向けたまま言葉を続ける。

 

「異界を攻めるか攻めないか。メイジらしく、決闘で話に決着を付けましょう。ハルケギニアの命運と『マギ族』の今後を決める決闘です」

 

 まさかの話の流れに、才人は困惑するしかなかった。

 だが、言いたいことは分かる。意見がぶつかり合ったときは、決闘をしてどちらの主張が正しいかを競い合う。古い貴族の作法だ。才人も、ここハルケギニアへ召喚されてすぐの時期に、ギーシュと下らない理由で意見をぶつけ合い、決闘未遂事件を起こしたことがあった。

 

「こちらからは、わたしとエルフの統領テュリューク殿が出ます。『虚無』の担い手らしく、二対二の決闘と参りましょう」

 

「なんだ、貴様。エルフと和平を結ぶなどと言っておったが、とっくの前に結託しておったようだな」

 

 ジョゼフが、「フン」と鼻を鳴らしながら、教皇の決闘宣言にそんな言葉を返した。

 

「いえいえ。和平交渉の成果ですよ。さて、誰が出ますか?」

 

 そんな教皇の問いに、ジョゼフは後ろに振り向き、己の使い魔であるシェフィールドに目配せをする。すると、彼女は力強くうなずいた。

 しかし。

 

「わたしが出るわ」

 

 ジョゼフが名乗り出るよりも早く。唐突に、ルイズがそんな言葉を発した。

 

「ルイズ!?」

 

 自身の主人のまさかの言葉に、才人は驚愕(きょうがく)して隣を振り向いた。

 だが、ルイズは揺るがぬ目で教皇を見つめている。

 

「『虚無』の担い手の詠唱を守るのは、『ガンダールヴ』の役目。ならば、『ガンダールヴ』を(よう)するわたしが出るべきよ」

 

 すると、ジョゼフはニヤリと笑って素直に引き下がった。

 彼は依然、ルイズのファンのままだ。目の前で彼女が決闘を繰り広げる様子を生で見られるとならば、反対する理由はなかった。

 そして、ティファニアには己の使い魔がおらず、争いも好まないため進んで決闘を行なうことはない。

 

 ゆえに、『破壊』の魔法を得意とする『虚無』の担い手、ルイズと。主人の詠唱の隙をその武器でもって守る使い魔『ガンダールヴ』、才人が。ハルケギニアの教皇とエルフの統領というまさかの組み合わせ相手に、戦うことが決まった。

 

 そうして、ここブリミル教の『聖地』にて。

 エルフの民が見守る中、ハルケギニアの未来を決める決闘が執り行なわれることとなった。

 

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