【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第十三章 未来を探して
138.水の精霊の誓い


 エルフに(さら)われた『虚無』の担い手の救出と、サハラのエルフとの外交、そして『大隆起』の阻止という華々しい成果を持って、臨時の連合艦隊はガリアに凱旋した。

 時は既に九月(ラドの月)に入っており、ルイズとティファニアがトリステインに帰還する頃には、学院の夏期休暇は終了していた。だが、ルイズは学院の授業に出席することなく、またすぐに出かけることになる。

 ラグドリアン湖に、『アンドバリ』の指輪を返却する必要があったためだ。

 

 トリステイン王政府が用意した竜籠に乗って、ルイズと才人はラグドリアン湖へと向かう。

 竜籠から降り立った丘。そこから見えるラグドリアン湖は、スッカリ水位をもとの位置まで戻してあり、以前飲みこまれていた村々は復興が進んでいた。

 太陽に照らされる湖面は美しく、あらためてここが貴族にも好まれる観光地として優れていることを才人に感じさせた。

 そんなラグドリアン湖の岸に、ルイズと才人は近づいていく。

 

 そして、岸辺に到着したところで、ルイズは胸元から銀の鎖のペンダントを取り出した。水の精霊が宿る、青い宝石が輝くペンダントである。そのペンダントトップの宝石を顔の前に掲げたルイズは、そこへと語りかける。

 

「水の精霊よ。約束を果たしに来たわ」

 

 すると、ペンダントトップの宝石がキラリと光り、それに呼応するかのように湖面が輝き始めた。

 そして、しばらくしてから湖面から巨大なアメーバのような水の精霊が現れて、グネグネとうごめく。

 そこへ、ペンダントトップの青い宝石から水が飛び出し、巨大なアメーバ状の塊と融合する。それから水の精霊は巨大なルイズの姿を取って、二人を見下ろした。

 

「星をもたらす者よ。よくぞ来た」

 

「ええ。分かっているでしょうけど、『アンドバリ』の指輪を持ってきたわ」

 

「ああ、分かたれた我が全て見ていた。ここに約束は果たされた」

 

「ええ、約束通りね」

 

 ルイズは腰のポーチから台座だけとなった『アンドバリ』の指輪を取り出す。

 そして、その指輪を高々と頭上に掲げた。

 すると、二人を裸の姿で見下ろす水の精霊から水の触手が伸び、ルイズの手から指輪を絡め取った。

 

「おお、確かに、これこそ我と共に、時を過ごした秘宝」

 

「じゃあ、約束通り、『水の精霊の涙』をいただくわ」

 

 そう言って、ルイズは次に大きめのガラス瓶を頭上に掲げた。

 すると、そこに水の精霊が身体の一部を注ぎ出す。才人はそれを見て、以前、屋敷が建つとルイズが言っていたときに用意した瓶よりも、瓶のサイズがデカいな、などと思った。

 だが、彼がそれを口にすることはない。ルイズはこの指輪を取り戻してからここまで帰還する過程で、文字通り命を懸けることになったのだ。これくらいの役得はあってしかるべきだった。

 

 そうして、ガラス瓶は『水の精霊の涙』で満たされ、ルイズは瓶のフタを閉めて腰のポーチにしまった。

 これで、ラグドリアン湖での用事は終わり。だが、水の精霊はまだ去らなかった。

 

「星をもたらす者よ。誓約の石を再び前に」

 

 水の精霊が突然そんなことを言い出したため、対峙するルイズは困惑した。

 指輪が返還された以上、もはや、水の精霊は自分に用は無いはず。だというのに、ペンダントトップについた宝石を出せと言っているのだ。

 ルイズは精霊の意図がつかめぬまま、首から下げたままのペンダントを顔の前に掲げた。

 

 すると、水の精霊から再び触手が伸び、ルイズの掲げる涙滴型の宝石にそっと触れた。

 宝石が強く光り輝く。

 それを見守るルイズだが、水の精霊が触手を離したところで彼女は精霊に問いかけた。

 

「この宝石にまだ何かあるの?」

 

「星をもたらす者よ。我は星をもたらす者との陸での冒険を愉快と感じた。ゆえに、今後も星をもたらす者と共にある」

 

「あら、そういうこと。そうね、あなたって、基本、湖からでないものね。なら、今後ともよろしくね」

 

 ルイズは笑顔で精霊にそう答え、指でペンダントの先を軽く弾いた。

 それを見て、才人は精霊も愉快という感情を持つのだな、なんていう感想を持った。

 そういえば、『大いなる意思』に宿っていたであろう精霊も、なんらかの意図をもってエルフの統領の『反射(カウンター)』を無効化したなんてこともあった。精霊も人と精神構造が違うように見えて、存外、感情豊かなのかもしれないな。才人はそう思った。

 実際のところ、目の前の水の精霊とエルフ達のような亜人種が先住魔法を行使するときに力を借りる精霊が、同じ存在かどうかは不明である。だが、才人はそこまで精霊というものに詳しくなかった。

 

 それから、水の精霊はもとのアメーバ状の形へと戻り、湖面に引き返していった。

 その余韻を味わうように、二人は陽光に輝く水面を眺めた。

 そして、しばらくして後。才人は隣に立つルイズに向けて言った。

 

「なあ、ルイズ。この湖で交わした約束は、永遠に守られるんだよな?」

 

「そうね。そういういわれがあるわね。別に、水の精霊は、その約束に直接関わるわけじゃないんだけど。まあ、永遠の存在である水の精霊に(ちな)んだ、ただの願掛けね」

 

「そうか……なあ、ルイズ。俺、もう地球に帰る手段を失っちまったし、本格的にトリステインで腰をすえようと思ってる」

 

「そうなるわよね。大丈夫よ。ヴァリエール家が身分を保障するわ」

 

「ああ、でも、そうだな。でも、ルイズの実家におんぶに抱っこというわけにもな。ちゃんと働くよ。使い魔じゃなくなっちまったし、不死鳥飛行隊で鍛え直しになるのかね」

 

「そうねー。『ガンダールヴ』じゃなくなったあなたが、どれだけ空を飛べるかもまだ分からないしね」

 

 笑顔で才人の言葉に答えるルイズ。

 そんなルイズの笑顔をまぶしく感じながら、才人は大きく息を吸って、そして覚悟を決めた。

 

「それでな、ルイズ」

 

「うん? 何?」

 

「俺は、この世界でお前に相応しい男になる。だから……俺と付き合ってくれ!」

 

「えっ!? いきなり何!?」

 

 突然の才人の告白に、ルイズは驚いて目を見開いた。

 だが、才人はここが正念場だと、勢いを緩めずにさらに言った。

 

「好きだ、ルイズ。愛してる!」

 

「え、ええーッ! いきなりそんなこと言われても、わたし……」

 

「迷惑だったか!? でも、好きなんだよ!」

 

「め、迷惑じゃない!」

 

「本当か? ごめんなさいとか言ってフらないか?」

 

「う、うん……だって、わたしもサイトのことが好きだし」

 

 まさかの返事に、才人はその場でガッツポーズを取った。

 それを見て、ルイズはちょっと雰囲気を大事にしなさいよと思ってしまった。

 

 そして、二人は初々しく手を握り合い。

 そのまま竜籠が止めてある場所へと一緒に歩いていくのだった。

 

「いや、そこはブチューってキスするところだろ!」

 

 才人に背負われたデルフリンガーのそんな突っ込みに、二人は顔を真っ赤にした。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 それから。学院に戻った二人は、忙しい日々を送った。

 まずは、本当に『風石』の活性化の危険性がないかの調査をアカデミーの実践魔法研究室とコルベール研究室の共同で行なうことになった。

 トリステインの各所で、いくつもサンプルを取り、『風石』を採取する。

 そして、その結果、少なくともトリステインでは完全に『大隆起』の兆候が消え去ったことが確認された。

 

 ひとまず世界の危機は去った。

 だが、そこで問題なく平穏な日々を過ごせる、というわけにはいかなかった。

 激務が二人を待っていたのだ。

 

 それは、『世界扉の手鏡』の効力が切れるギリギリ最後で、才人が父親からメールで受け取った、膨大な技術資料の書き取りという激務だ。

 才人の父は、二度とハルケギニアとのやり取りが叶わぬと知って、順番に放出しようとしていた資料を全てメールで投げ込んでいたのだ。それは、しっかりとした資料から、まとまりのない走り書きまで、様々。

 

 才人は、その資料をひたすらトリステイン語に訳す作業に追われ、ルイズはその資料を精査する作業に追われた。

 

 内容が内容なので、外注もできない。

 翻訳作業なら、ノートパソコンの画面を写真に撮って、『リードランゲージ』の魔法で他のメイジに翻訳させるという裏技もあるのだが……。しかし、地球の技術をコルベール研究室外のメイジに公開するわけにもいかないのだ。

 

「ああもう、『フェニックス』号のシミュレーターも作り直さないといけないというのに、忙しすぎる!」

 

 そんなことを愚痴りながら、ルイズは才人と一緒に連日連夜、作業を続けた。

 そう、『虚無』が世界から失われたためか、各所に残っていた『虚無』の魔法で動いていたであろう数々のマジックアイテムが動作を停止していた。

 その中には、ド・オルニエール領と王宮を繋ぐ転移の鏡や、ルイズが作った『フェニックス』号用のフライトシミュレーターも含まれていた。

 

 特に、シミュレーターの動作停止の影響は大きい。あれは、あらたなパイロットを育成するためには必須のマジックアイテムだ。

 それを『イリュージョン』の魔法なしで作り直す必要があるのだが……そんな暇は、今のルイズには存在しなかった。

 

 ルイズにとって才人の父の送ってきた資料は宝の山だ。

 これらの編纂(へんさん)は、何よりも優先して行なう必要があると彼女は思っている。だが、それにしても量が膨大すぎる。しかも、今のルイズですら理解できない資料も多々含まれており、段階的に解読していく必要があった。

 

 それにより、ルイズにはイライラが溜まってきた。

 だから彼女は、ストレス解消のため、必死でタイプライターを打つ才人に向けて言った。

 

「ねえ、サイト」

 

「おお、なんだ。こっちはまだ終わらないぞ」

 

「そんなのはいいの。ねえ、キスして」

 

「ええっ、またか!?」

 

「なに? 嫌なの?」

 

「い、嫌じゃない……」

 

 そうして、作業を中断した才人。そしてルイズは才人に抱きつき、その場でキスを始めた。

 しかし、実のところ、この場所はルイズの寮の部屋ではなく、コルベール研究室。二人のイチャイチャは、しっかりと部屋の主であるコルベールと、その助手に収まったキュルケ、そして今日も手伝いに来ていたエレオノールに見られていた。

 

「はあ……またこの馬鹿ルイズは……」

 

 二人のキスをエレオノールは、頭を抱えながら見ていた。

 最初は、こんなところでキスなどするなと怒っていた彼女。だが、それでもルイズは所構わず才人にキスをせがむため、エレオノールはスッカリ小言を言うことすら諦めてしまった。

 

「ハハハ、まあ、今は恋人になったばかりなのだ。しばらくしたら大人しくなるさ」

 

 コルベールが、ルイズの精査した資料を眺めながら、そう言って笑った。

 一方、キュルケも悪友に初めて訪れた恋をニヤニヤと笑いながら見守っていた。そして、彼女はふと閃いた。

 

「二人の世界に突入しているから、こっそりカメラに撮っておきましょう。いずれ結婚式が訪れたときにでも、二人に見せてやるわ」

 

 そう言って、キュルケはファインダーを覗き込み、シャッターを切った。

 そのキュルケのイタズラに、コルベールとエレオノールは苦笑するだけで、止めることはなかった。

 

 今日も、コルベール研究室は騒がしくも平和である。

 

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