【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
『ヴェストリの広場』に展開された決闘の場。
その中心にいるのは、土のメイジ『青銅』のギーシュ・ド・グラモン。
そしてもう一人、薪割り用の鉈を片手に持った平賀才人であった。
「って、なんでサイトがあそこにいるのよ!」
思ってもいなかった状況に、ルイズは絶叫した。
「それは、あなたの忠実な愛の奴隷である、ぼくがご説明しましょう、ミス・フランソワーズ!」
人だかりの後方で足を止めていたルイズ達の前に、一人の少年が進み出てきた。
「あら、『
「ああっ! とうとう犬とすら言われなくなったっ!」
ルイズのストレートすぎる罵倒に、恍惚とした表情で小太りの少年、マリコルヌがその身をくねらせる。
気持ち悪くうごめくそれを見たルイズは、反射的に彼を蹴りつけた。
「あふん! おお、痛い痛い。ともかくだね、昼食の場に居なかったフランちゃんは、状況が掴めないだろうから説明するよ」
「誰がフランちゃんよ、誰が」
ルイズの鋭い視線を受けても動ずることなく、マリコルヌは言葉を続ける。ちなみに、ルイズのセカンドネームはフランソワーズである。
「そう、あれは食堂で食事を始める直前のことだった……。フランソワーズちゃんを連れずに一人で食堂に現れた、ミスタ・ヒラガ。彼は慣れぬ動きで、二年生のテーブルに座った。その隣には、先日の『魔女の
『魔女の抱擁』とはなんだ、とはルイズは突っ込まなかった。
彼の言動が、自分に対してだけどこかおかしいのは、いつものことだからだ。
「で、何? 折り合いでも悪かったの?」
「いいや、悪くはなかったよ。むしろ良かったさ。女なんてと愚痴るギーシュに、親身になって話を聞くミスタ・ヒラガ。ルイルイにも見せてあげたかったね、ワインを酌み交わした彼らの、まるで産まれる以前からの盟友のごとき様相を!」
「それがどうして、こんなことになってるのよ」
そこまで話を聞いたところで、タバサがルイズの袖を引く。
「始まった。止める?」
「ギーシュは土の『ドット』でしょ。それも青銅ゴーレムの生成ばっかりやっている。サイトなら、しばらく放っておいても大丈夫よ」
これが他の系統のメイジならばすぐにでも止めたのだが、土系統ならば才人も無事でいられるとルイズは見ている。
ドットクラスの土のメイジ兵は、戦の場では土や岩からゴーレムを生成して戦うのが一般的だ。
そして、才人の武器は鉈。さすがに鉈で火や水、風を斬ることはできないだろうが、土を斬ることはできる。才人が本当に『ガンダールヴ』ならば、ギーシュが生成を得意とする青銅のゴーレムなど、鉄の鉈で打倒してみせるだろう。
ルイズはそう考え、マリコルヌから事情を聞くことを優先した。
「で、その後どうしたって?」
ルイズは歓声の上がる広場の中心を見ずに、マリコルヌの方を見た。
「うむ、彼らは大いに盛り上がったよ。話題は失恋の話からやがて女性の話へと変わった。特に意気投合したのは、女体の神秘についてだ。女体の神秘、実に良い言葉だね」
そう言いながらルイズの下半身を眺めようとしたマリコルヌだが、目に入ったオーバーニーソックスの脚が急に跳ね上がってきた。
ルイズのスネが、真っ直ぐにマリコルヌの股の間へと吸いまれる。ルイズの健脚による蹴りがもたらす強い衝撃が、マリコルヌの股から脳天までを突き抜けていった。
「ぶりみるッ!?」
偉大なる始祖の名前を叫びながら、苦悶の表情を浮かべるマリコルヌ。
そんな彼に、ルイズは淡々とした声で言った。
「で、その後どうしたって?」
「そそそそそそそのだね……」
内股になり、中腰の体勢で震えながら、マリコルヌは必死で言葉を続けようとする。
「ず、ずっと意気投合していた彼らだったけど、さ、最後、ある話題で仲違いをしてしまったんだ……ああありがとうタバサ」
タバサは脂汗を流し苦悶の表情を浮かべるマリコルヌをさすがに気の毒に思い、ポンポンと腰に軽く杖を当てて介抱をしてあげた。
「仲違いの原因は……キミさ、フランソワーズ」
「わたし?」
急に挙がった自分の名前に、ルイズは首をかしげた。
ルイズは頭の中で考えを深めていく。もしや、昨日の仕打ちにギーシュが自分に恨みを抱き、使い魔のサイトに当たり散らしでもしたのだろうか。そうなると、主である自分の名誉を守るために、才人がギーシュに決闘を挑んだという可能性が十分に考えられる。
――も、もしそうだとしたら、わたしはサイトに何て言ってあげたらいいのかしら? ありがとう? 流石わたしの使い魔ね? いつものことだから、こんなことしなくて良い?
心の中で、先ほどのマリコルヌのように身をくねらせるルイズ。彼と違って、ルイズの現実の身体は微動だにしていなかったが。
しかし、ルイズの乙女心全開の幻想は、続けて放たれたマリコルヌの言葉に見事に破壊された。
「彼らはね、ルイズ。キミのその可愛らしい胸の大きさについて、仲違いを起こしたんだ」
「は?」
「……!」
ルイズと、マリコルヌの後ろで話を聞いていたタバサは、凍り付くように身体を硬直させた。
「自分の主にキュルケのような大きい胸があれば、と主張するミスタ・ヒラガ。何を言う、ルイズはあの小ささだからこそ素晴らしいのだ、と主張するギーシュ。二人はお互いの意見をゆずらなかったね。特にギーシュだ。彼がモンモランシーを好きだと言うことは昨日分かったとは思うけど、彼女、胸が慎ましやかだろう? ギーシュは大きな胸も好きだが、小さな胸に対しても大きなこだわりがあるんだ」
「……そう、そうなの」
「そうさ。そこから決闘まで話が発展するのには、時間はかからなかったよ。まさに紳士二人の信念をかけた戦いだ。『小さき胸の大いなる戦い』さ!」
「ふふ、ふふふふふ、そうなの。そんな理由で決闘をしているの」
ルイズは腹の底から響いてくるような声で笑うと、身体をおもむろに動かして広場の中心へと向き直る。
「うふふ、説明感謝するわ、マリコルヌ。今度、砂糖水でもごちそうしましょう。樽一杯ね」
「ルイズ、実はデブ専!?」
ルイズの冗談を曲解し、再び身をくねらせるマリコルヌ。
そんな彼を尻目に、ルイズは身体をゆらしながら、人の波をかき分けて決闘の場へ向けて歩いていった。
◆◇◆◇◆
才人とギーシュの決闘は、一方的と言っていいものだった。
青銅のゴーレムを次々と繰り出してくるギーシュに、才人はただ右手の鉈を振るって対抗する。鉄製の鉈はまるで野菜でも切るかのように青銅の像を真っ二つに割った。
才人の見事な剣技に焦りを覚えたギーシュは、ゴーレムの数を増やして陣形を組む。
しかし、才人が鉈を横に大きく薙ぎ払うと、一度に四体のゴーレムが広場に崩れ落ちた。
それからもギーシュが兵を生成する端から、才人はそれを破壊していった。
やがて、魔法の発動に必要な精神力を切らしたギーシュは、その場で棒立ちとなる。
そんなギーシュに向かって、鉈を片手に一歩ずつ近づいていく才人。
もちろん、才人にはギーシュをどうこうするつもりはない。
高校デビューという言葉があるが、この決闘は、いわば使い魔デビューの場。
ナメられないよう、皆の見ているこの場でちょっと脅しつけてやる。才人は、そう考えていた。
だが、鉈を振るえばギーシュに届くという距離に近づいたところ。急に才人の耳が破裂音をとらえ、彼の右手に鋭い痛みが走った。
突然の事態に、才人は思わず鉈を地面に落としてしまう。
何事だとあせった才人が、自身の右手に目を落とした瞬間。横から怒声が響いた。
「この馬鹿犬どもーッ!」
そんな叫びと共に、才人の足下が大爆発を起こした。
仲良く宙を舞う、才人とその近くにいたギーシュの二人。
しばしの空中浮遊を楽しむ才人の脳裏に、森本レオの顔がよぎる。放物線運動!
そして才人は、短く切りそろえられた広場の草地に、その身をしたたかに打ち付けた。
武器を手に持たぬときの才人の身体能力は、一般的な現代人の若者のそれ。喧嘩の経験はあるが、喧嘩慣れしているほどではない。ゆえに見事受け身に失敗し、腹を地面に打った彼は思わず「ギャフン」と悲鳴を上げた。
痛みに身動きできずにいる才人だが、泣きっ面に蜂とでも言うべきか。急に何者かが、地面に横たわる彼の片足をつかみ、地面を引きずっていく。
うつぶせのまま引きずられ、草の香りをかがされる才人。やがて、にぎられていた足は解放され、彼を引きずる動きは止まった。
才人が横を見ると、そこには自分と同じく、草地に身を投げ出したギーシュが転がっていた。
一体なんなのだろう、この状況は。才人は混乱した。
「さて、禁止されている決闘なんてする、いけない二人に説教を行ないたいのだけれど……いつまで寝転がっているの! 起きなさい!」
「はっ、はいぃ!」
底冷えのするような声色に続いて響いた叱咤の声に、叫び声を上げながら身を起こす才人とギーシュの二人。
彼らの目の前には、怒りで顔を真っ赤にしたルイズが仁王立ちしていた。
才人はとっさにその場で膝を折り、広場の中心で正座をした。
「……何かしら、サイト。そのふざけた座り方は」
「はい、これは日本で正座と呼ばれていまして、説教を受けるときにする座り方でございます」
「そう、『正しい座り方』ね。ギーシュ! あなたも正座しなさい!」
「は、はい……」
並んで草の上に正座をする、才人とギーシュ。
ルイズは腕を組んで、そんな彼らを見下ろしている。
「ねえ、サイト……、わたし、あなたのことをもう少し賢い人だろうとばかり思い込んでいたわ。庇う人のいない遠い異国の地に来て、さすがにたった数日で、現地住民と生き死ににかかわる問題なんて、起こさないだろうって。こうなったのは、どうしてかしら? なんなの? 馬鹿なの?」
「はい、俺は大馬鹿ものでございます。ここに来てからずっと、生活が順調すぎて、調子に乗っておりました」
「ねえ、ギーシュ……、わたし、言ったわよね? サイトはヴァリエール家の客人だって。それがどうしたのかしら。貴族としての家名も名誉も領民の生活もかかっていない、ただの口論程度で、固く禁止されている決闘をするだなんて。こうなったのは、どうしてかしら? なんなの? 馬鹿なの?」
「はい、ぼくは大馬鹿ものでございます。たかが魔法の使えぬ蛮人と、彼を見下しておりました」
才人とギーシュは順番にルイズから問われ、正座したまま
そして、再度ルイズから問いがかかる。
「ねえ二人とも……、わたしの胸は決闘をするほど、そんなに小さいのかしら?」
その言葉に、才人とギーシュは同時にサッと視線を横にずらした。
「目をそらすのは、どうしてかしら? なんなの? 馬鹿にしてるの?」
ルイズの問いに、彼らは答えない。いや、答えられない。魔女を目の前にして、真実を話せるほど無謀ではないし、嘘をついて誤魔化そうという気になるほど、彼女の胸は中途半端な大きさではない。
沈黙を続ける二人に、ルイズはやがて身体を小刻みに震わせ始める。
「そ、そう、やっぱり馬鹿にしているのね。そそそ、それともあれかしら。あ、あなたたちは犬畜生だから、何も喋れないのかしら」
ルイズは声をどもらせながら、組んでいた腕を解いて二人に向けて手の平を向けた。
「に、人間様に従わない駄犬には、調教が必要よね?」
才人とギーシュは、晴天の下、再び宙に身を躍らせた。
・小さき胸の大いなる戦い
いまどき胸のサイズをいじるネタというのも時代に逆行しているようですが、ゼロの使い魔の原作一巻は2004年の作品で、こういうネタとノリが満載です。