【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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140.失われたもの、与えられたもの

 十月(ケンの月)。ロマリアの宗教庁が、ハルケギニアから『大隆起』の脅威が去ったことを正式に発表した。

 これにより、一ヶ月戦争での敗戦で人気を落としていた教皇は、ここで再び復権の兆しを見せる。世界が救われたのだ。敗戦など吹き飛ぶほどの朗報であり、吉事であった。

 

 しかし、教皇はその発表の直後、退位を宣言した。

 まさかの事態に、世間は大騒ぎになった。

 

 退位の理由。それは、『大隆起』の脅威排除と引き換えに『虚無』の力を失ったことだ。

 今回の一件は、一部の重要事項が伏せてありながらも、教皇の方針により『大隆起』が防がれるまでの経緯をしっかりと公表している。

 

 始祖ブリミルはかつて『大隆起』を防ぐため、エルフの都市ごと『聖地』を吹き飛ばしたこと。

 その再来を恐れたエルフが、二人の『虚無』の担い手を(さら)ったこと。

 それを助けるため、臨時の連合軍がサハラに向かったこと。

 ルイズとティファニアは、トリステインのラ・ヴァリエール公爵が率いる有志一同によって助け出されたこと。

 エルフとの和平と外交が成り立とうとしていること。

 そして、『大隆起』の原因となっていた『聖地』を再び吹き飛ばし、その過程で世界から『虚無』が失われたこと。

 

 おおよそ、そのようなストーリーが宗教庁から語られたのだ。

 それをブリミル教の信者達は素直に信じ込んだ。どれも事実ではあるのだから、疑う方が間違っているのだが。

 

 そして、信者達は教皇の献身に心を打たれた。自らの魔法の力を失ってまで人類を救ったという、教皇の献身だ。

 当然のように、民衆は教皇の退位を撤回させようと大聖堂に詰めかける。

 しかし、教皇の退位は(くつがえ)らなかった。

 

 実のところ。教皇は『虚無』の力を失ったが、魔法の力までは失ってはいなかった。

 彼は、『虚無』の代わりに、新しく『水』の魔法系統に目覚めていたのだ。

 退位の本当の理由も、しばらくは『水』の魔法の研鑽に努めて、将来的には魔法の力で人々を癒やしたいという慈悲の心からくるものだった。彼はまだ若い。退位した後、魔法の研鑽に努めたとして、その後二十年三十年先になって再び教皇をやれる、そんな年齢なのだ。

 

 それ以外にも、教皇には一つの思いがあった。それは、世界を救うため虚言を重ねたことへの贖罪(しょくざい)の念である。

 虚言は、ブリミル教において罪深い行為とされる。それを教皇の立場でいくつも重ねてきた。世界を救うためとはいえ、罪は罪。彼は、自身を教皇には相応しくない人物だと思い、退位を決めたのだ。

 

 さらにもう一つ。彼は、解放されたかったのだ。教皇という重たい荷物を若い身空で抱えることに、負担を覚えていた。

 ゆえに。

 世界を救い、人類を救い終わった彼は、教皇という身分を捨てて、一介の神官に戻ることを望んだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 虚無の魔法を失って、四大系統の魔法に目覚めていた者は教皇だけではなかった。

 他の『虚無』の担い手も、己の系統に目覚めていた。

 そのことにいち早く気付いた者が、ルイズだ。

 

 彼女は、『風』の系統に覚醒していた。

 

『虚無』の魔法が消えても、コモン・マジックは変わらず使えることに気付いたルイズが、系統魔法を使うとどうなるかを試した結果、分かったことだった。

 最初は『ドット』相当の魔法しか使えなかったルイズ。しかし、彼女は魔法の才能があったのか、それともこれまでの研鑽が実を結んだのか。すぐに彼女は『トライアングル』の領域まで到達していた。

 

 そのことをルイズはエレオノールに知らせた。すると、すぐさま実家まで連絡が行った。

 そして、自身と同じ系統を得たことに、母カリーヌは跳び上がるほど喜んだ。

 

 だが、そんなカリーヌよりも喜ぶ者がいた。ルイズ本人である。

 

「フフフ、まさか『風』に目覚めるなんて。最高じゃない」

 

 魔法学院の外、草原でルイズは様々な魔法を試しながら、そう言って笑った。

 そのルイズに付き合っていたキュルケが、目をパチパチとしばたたかせて、尋ねる。

 

「あら、あなたなら、『錬金』の魔法が得意な『土』をありがたがると思っていたのだけど」

 

「まあ、『土』でも悪くなかったわね。でも、『風』が一番よ」

 

「その心は?」

 

「『風』は雷を放てるからね!」

 

 そのルイズの言葉を聞いて、キュルケは納得した。

 キュルケは知っていた。幼い頃のルイズが、落雷を目にしてその破壊の力に魅せられたことを。

 その出来事がなければ、今のルイズはいなかったと言ってもいい。きっと、『魔女』とも『賢者』とも呼ばれていなかったことだろう。

 

「フフッ、これからは『電気』の時代よ。つまり、『風』が『土』を超える時代がやってくる!」

 

 そう、『風』の系統は、雷の力を自在に操れる。

 幼き頃見た落雷の力を得られる喜びが、ルイズを満たしていた。

 そして、これからのハルケギニアで役立つであろう、『電力』の研究に役立つことも、彼女を喜ばせた。

 

 ルイズは、右の手を顔の前に掲げて、『ライトニング』のルーンを唱える。

 すると、彼女の指先から紫電がほとばしった。

 だが、その効果は微小。雷と言うよりも、電気と言い表した方がいい規模。

 

 しかし、それでいいのだ。彼女が利用したい雷の力は、別に落雷ほど強力でなくていい。

 電気の力は、火力よりも正確さが求められる。

 

 それを己の手でなせることに、ルイズは心から喜んだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 新たに魔法の系統に目覚めた者は、元教皇のヴィットーリオとルイズだけではない。ティファニアと、ジョゼフも同じである。

 ティファニアは『水』、ジョゼフは『土』にそれぞれ目覚めていた。

 

 ティファニアは、これにより教皇と同じように、人を癒やす魔法を極めることを決めた。

 彼女の指にあった母の形見の指輪は、ルイズを蘇生した際に宝石が消滅し、台座だけが残されている。よってもう、指輪の力で他人を癒やすことはできない。ゆえに、ティファニアは自身に目覚めた『水』の力で他者を癒やせるよう、勉学に(はげ)み始めた。

 

 授業を真面目に聞き、放課後には図書館に通って魔法を学ぶ。

 親友となった同級生のベアトリスもそれに付き添い、二人は共に魔法の腕を上げていった。

 二人は、容姿も性格も対照的である。だが、それがまた男子の人気を呼び、二人はモテにモテた。

 

 だが、二人は魔法の勉強が楽しいようで、恋にうつつを抜かすことはなかった。

 乙女が恋を知る日は、まだまだ遠いようだった。

 

 一方、ジョゼフ。彼は前王として女王ジョゼットの教育に関わりつつ、自身の魔法の訓練も欠かさなかった。

 もともと、魔法が使えないことに強いコンプレックスを抱えて、何十年も過ごしていた彼だ。まともな系統に目覚めて、それを練習しない理由はなかった。

 しかし、彼はファンであるルイズと違う系統に目覚めたことを残念がっていた。

 

 ジョゼフはルイズのファンだ。心が満たされたことにより、厄介ファンとしての性質はほぼ消えたが、それでもファンおじさんは続けている。

 元使い魔のシェフィールドを後妻として娶った後も、ファン活動は続く。

 それをシェフィールドは苦い思いで見守っていたが、そもそもジョゼフはルイズに対して恋慕の感情は一切抱いていない。

 ゆえに、シェフィールドを愛しつつ、ルイズの動向を見守っていた。

 

 そして、ルイズの巻き起こす様々な事件の報告を今日も彼は、笑って聞いていた。

 

 なんでも、今度は水力発電所なる施設を川に建てようとして、川に住む凶暴な幻獣と大立ち回りを演じたようだ。

 

「ワハハ、腕から『ブレイド』を生やして殴りかかるか。面白い使い方をするものだな!」

 

 密偵から告げられた言葉に、ジョゼフは大笑いする。

 渡された報告書には、ルイズが開発したという『カメラ』で撮った、ルイズの戦闘風景の写真が添えられていた。

 腕から変幻自在な魔力の刃を生やして、幻獣を切り刻んでいるシーンが、そこには写っていた。

 

 どうやら、ルイズはすでに新しい己の系統を使いこなしているらしい。

 それを知ったジョゼフは、自分も魔法を極めてみせると、一念発起した。

 

 ちなみに、それまで魔法を使えないと思われていた女王ジョゼットも、魔法が使えるようになっていた。

 ロマリア曰く、『虚無』の担い手には予備がいて、担い手が死亡した場合、あらたにその予備の人物が『虚無』に目覚める仕組みとなっていたのだとか。

 そこで、女王ジョゼットには、厳しい魔法教育も課されるようになった。

 そのせいで、ジョゼットはただでさえ忙しい王としての教育が、さらに忙しいものになった。だが、ジョゼフはそれを気にせず前王としてジョゼットを王として鍛え続けた。

 

 あまりもの厳しさに、ジョゼットはトリステインで自由にしているであろう姉に恨み節を吐いた。そして、将来的に姉が学院を卒業したら、ガリアに呼び戻して自分の補佐をさせてやると決めた。

 一方、その姉であるタバサは、ルイズが自分と同じ『風』の系統に目覚めたことを喜んでいた。

 

 これから、魔法という存在は大きくその意味を変えるであろう。

 科学は発展し、平民が魔法の力を手にする。

 その先に待っているのは、恒久的な発展か、破滅的な戦争かは分からない。

 しかし、トリステインの『賢者』が新たな魔法の系統を手にしたことは、後の歴史書においてターニングポイントとして語られるであろう。ファンおじさんであるジョゼフは、確かにそう思うのであった。

 

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