【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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141.異世界より愛を込めて

 十月(ケンの月)のとある虚無の曜日。

 ルイズと才人は、ラ・ヴァリエール公爵の屋敷に呼び出されていた。

 ここのところ、エレオノールの目の前で存分にイチャイチャしていた二人。そのせいか、彼女経由で二人が恋仲にあることを両親に知られたのだ。

 

 挨拶に来い。そんな短い手紙が才人に送られ、ルイズには長い手紙が公爵から届いた。

 どうやら、その時が来てしまったらしい。才人は覚悟を決めて、デルフリンガーを背負ってルイズと共にラ・ヴァリエール領までやってきた。

 そして、屋敷の門前。そこには、公爵ピエールが仁王立ちしていた。

 

「サイトくん。剣を抜きたまえ」

 

 ヴァリエール印の剣杖を握ったピエールが、才人に向けて言った。

 それに対し、才人はデルフリンガーを背中から抜きながら、応える。

 

「あの、俺、もう『ガンダールヴ』ではないので、お手柔らかに……」

 

「ハハハ、『ガンダールヴ』は関係ないぞ? 娘を愛する父、そこから娘を奪わんとする曲者。ここにいるのは、その二人だけだ」

 

「ハハハ……」

 

「それに、バッカスから聞いているぞ。伝説の力を失っても、すでにその剣の腕は達人の域にあると。フフフ、腕が鳴るな」

 

「またまた、ご冗談を……」

 

 才人は内心で、剣術の師匠であるバッカスに対して舌打ちした。

 

 そして、仕方なく、才人はデルフリンガーを構えた。

 ちなみに、デルフリンガーは始祖ブリミル時代から存在するインテリジェンスソードだが、『虚無』が世界から消滅しても変わらず剣に意識を宿したままであった。

 デルフリンガー曰く、インテリジェンスソードを作る技術は本来エルフのもの。デルフリンガーも始祖ブリミルが作り上げた魔剣ではなく、『ガンダールヴ』のエルフであるサーシャが意識部分を作ったインテリジェンスソードであるとのこと。

 ゆえに、『虚無』が消えても、デルフリンガーの意識は消滅していない。

 

 その代わり、始祖ブリミルが追加した特殊能力がいくつか失われてしまったという。

 刀身で魔法を吸収する機能は健在だが、その他の才人にも披露したことのない機能が消失したことをデルフリンガーは笑って才人に語っていた。

 

 そんなデルフリンガーを必死に使いこなして、才人はピエールの徹底的なしごきに耐えた。戦いは、何時間にも及んだ。だが、それは一方的な虐待や体罰といったものではなく、むしろ指導的な意味を含んだ戦いだった。

 やがて、夕刻が近づいてきた頃、ピエールの合図で二人は魔剣と剣杖を収めた。才人はなんとか五体満足で済んでいた。

 そして、才人はピエールに対して頭を下げて言う。

 

「ご指導、ありがとうございました!」

 

「うむ、(はげ)みたまえ」

 

 そんな父と、彼の将来の義息子のやりとりをルイズは母カリーヌと共に見守っていた。

 ルイズも、さすがにここまできて父が恋人である才人を本気で害することはないだろうと、安心して母と一緒に雑談を交わしながら時を過ごしていた。

 

 そんなことがあって、才人はラ・ヴァリエール公爵から一人前の男として認められた。その結果、才人は正式にルイズと婚約する運びになった。結婚は、ルイズが学院を卒業してからあらためて話し合う。そういうことになった。

 

 それからというもの、才人はこれまで以上に剣の修練に精を出した。

 もはや、そこらのメイジならば、剣のみで一方的に斬りふせることができる。銃すら不要。そんな達人の域に、才人は到達していた。

 

 全身に筋肉も付き、ハルケギニアにやってきた当初より体格も一回り大きくなっている。

 学院の浴場では、その実用的な筋肉の付き方に軍門系の貴族からもうなり声が上がり、彼らに一目置かれるほどになっていた。

 

 そして、彼の仕事である不死鳥(フェニックス)飛行隊の教導官の役目。こちらも問題なくこなしていた。

 今まで『ガンダールヴ』のルーンに任せて直感でやっていた『ゼロ・フェニックス』号の操縦は、スッカリ才人の身体に叩き込まれていたようである。むしろ、ルーンによる感覚的な指導ができなくなった分、彼の説明は理路整然となり、前よりも分かりやすくなったと隊員達に言われる始末である。

 

 そうして、才人は相変わらずの学院とド・オルニエール領を往復する日々を過ごした。

 

 才人がそんな充実した毎日を送っていた、十月(ケンの月)の末日頃。

 急にロマリアから、学院に使節がやってきた。

 元教皇であるヴィットーリオの使い魔であった、ジュリオである。そのジュリオは、才人に用事があるようであった。

 

「よう、兄弟。元気だったか?」

 

 学院の応接室で、ジュリオが親しげに才人に話しかける。

 応接室には、他にルイズもやってきていた。

 三人だけの密室での会談。そこで開口一番放たれたジュリオの挨拶の言葉に、才人は苦笑して答えた。

 

「もう兄弟じゃねーだろ。ルーンが消えたんだから、『ガンダールヴ』でも『ヴィンダールヴ』でもねえよ」

 

「知っているかい? 一度結ばれた兄弟の絆は、縁を切らない限り途切れないんだよ」

 

 そんなジュリオの態度に、才人はどこの任侠(にんきょう)だよと小さく笑った。そして、以前よりも、ジュリオが心を開いてくれているようだと才人はなんとなく感じた。

 おそらく、世界を救い終わって、もう他者を騙す必要がなくなったことにより、本気で自分と向き合ってくれているんだろう。才人は、そう思った。以前感じた、うさんくささのようなものが彼から感じ取れなくなったことも大きい。

 

「それで、わざわざ遠いトリステインまで、なんの用だ?」

 

 しばらく雑談を交わしたのち、才人はそう言って話を切り出す。

 すると、ジュリオはニヤリと笑って、才人に尋ねた。

 

「なあ、兄弟。お前、あの『聖地』の先、『約束の地』が故郷なんだよな?」

 

「……そうだな。俺は、あの『地球』からルイズに召喚された。それが?」

 

「帰りたいとは思わないのかい?」

 

 ジュリオの言葉に、才人は一瞬考えてから、素直に答える。

 

「里帰りはしたいけど、俺の居るべき場所はここだ」

 

「そうか……ところで、こちらにはこんなものがある」

 

 ジュリオは、傍らに置いていた荷物から、梱包された一抱えの品を取り出した。

 そして、丁寧に梱包を解いていくと……中から、見覚えのある品が姿を現した。

 それは、いつだかに見た、ロマリアの国宝。

 

「『始祖の円鏡』……?」

 

 才人とルイズは、まさかの品に驚きの表情を隠せなかった。

 なぜ、こんなものがここに? 才人は目をしばたたかせた。

『虚無』の力が世界から消え去ったといえども、始祖ブリミルにまつわる聖遺物には変わりないのだ。それをこんな遠い国まで、なぜ持ち込んでいるのか。

 

 驚く二人の表情をジュリオは笑って見てから、説明を始めた。

 

「実はこの鏡には、まだ『虚無』の力が少しだけ残っていてね。始祖ブリミルが、六千年前に込めた強大な力だ。もう、ほとんど抜けたけどね」

 

『虚無』が未だに残っている。その事実に、再び二人は驚きを露わにした。

 

「そして、ちょうど一人分くらいの『世界扉(ワールド・ドア)』が開ける。兄弟、キミの故郷に帰ることも可能だけど、どうする?」

 

 ジュリオの問い。それに対し、才人は真っ直ぐ彼を見つめて言った。

 

「いや、帰らないよ」

 

「……そうか。そうかそうか」

 

 ジュリオは才人の答えに満足そうにうなずき、鏡を仕舞おうとする。しかし、その動きを才人は右手をかざして止めた。

 

「でも、使わせてくれ。両親に、最後のメッセージを届けたいんだ」

 

 その言葉に、ジュリオは一瞬、キョトンとした顔をした。

 そして、すぐに笑顔に変わり、彼は応接室のソファーから立ち上がり、才人の肩を叩いた。

 

「そうか。親は大切にすべきだよな。ぼくは孤児だから親はいないけど」

 

 ジュリオの孤児ジョークに、才人はどう言葉を返していいか分からなかった。

 横にいるルイズは、素直に笑っていたのだが。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その翌日。

 才人は、コルベール研究室で皆が見守る中、ノートパソコンを起動した。

 そして、ルイズは『始祖の円鏡』を持ち、そこに浮かび上がったルーンを読み上げる。

 すると、円鏡の鏡面に、小さな『世界扉』のゲートが開いた。

 

 すぐさま才人はツールを使ってインターネットに接続すると、ウェブブラウザを操作してウェブメールを開く。すると、またもや大容量のメールが届いた。

 父からだ。どうやら、最後にもう一回、どうにかハルケギニアと繋がることを信じて、作りかけの資料をさらに送ってきたらしい

 

「そうきたかー。じゃあ、こっちからも贈り物だ」

 

 才人は、そう言って、自宅に向けて大量の装飾品やマジックアイテム、水の秘薬、砂金などを鏡面に押し付けるようにして送り込んだ。

 そして、鏡の向こうでは、ちょうど家にいたのであろう、父と母が驚愕の表情を見せていた。

 

 それに笑いつつ、才人は最後の一通となる手紙をゲートの向こうに放った

 

 これが、最後の別れだ。才人はゲートの向こうに見える両親を見つめ……そして、言った。

 

「これが本当に最後で最後の通信になるんだ! カメラで写真を撮るから、笑って、笑って!」

 

 鏡の向こうへとそう告げた才人は、コルベール研究室謹製(きんせい)の最新式カメラで向こうの世界を覗き込む。そして、慌てて笑みを浮かべた両親の写真を一枚撮った。

 ちなみに、最後に投下した手紙の便せんの中には、複数のカラー写真を同封してある。

 自分の写真、婚約者の写真、仲間の写真……。

 そして、手紙の本文も、とても分厚くなってしまった。だが、そこに込められた気持ちは本物であり……。

 

『どうか、お元気で』

 

 そんな言葉で締められた手紙が、世界を越えて地球まで届いたのであった。

 




次回、最終話。
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