【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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15.がんだーるう゛

 決闘騒ぎが収束してすぐのこと。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、平賀才人、ギーシュ・ド・グラモンの三人は、学院長室に呼び出されていた。学院長室は、学院の敷地中心にある本塔の最上階にある。

 

 呼び出しを食らった三人は、部屋のカーペットの上に正座をして座っていた。

 叱られるときは、正座。ルイズは、その異国の風習を微妙に気に入った。いかにも見ていて辛そうな、反省を示せる座り方だからだ。

 

 ルイズ達の前には、学院長のオスマン氏。その(かたわ)らには、秘書のミス・ロングビルと、ルイズ達をここまで連行してきた教師のコルベールが立っていた。

 

「さて、問題を起こした当事者二人には、ミス・ヴァリエールが十分な罰を与えたようじゃが……、しかし、仮にも国法で禁じられている決闘騒ぎを起こした者に、こちらから罰を与えないというわけにもいかないのう。教師としての体面上、仕方なしじゃ」

 

 右手で小さな水パイプをふかし、左手で豊かな白髭を触りながら、オスマン氏はそう言った。

 それに対し、ルイズは正座の体勢を崩さぬままオスマン氏に言う。

 

「あら、決闘禁止令の対象は、この国の貴族のみでは? 異国の民であるサイトが決闘をしたとして、何のお咎めがありましょう」

 

「ええい! また、そうやって煙に巻こうとしおって! 魔法の使えぬ平民などが、貴族の生徒に剣を向けるなど前代未聞なだけ! 学院に居る者同士、杖を向け合うことと、杖と剣を向け合うことは、同じ罪なのじゃ!」

 

 そのオスマン氏の言葉に、ルイズはルーンを一言唱え、右腕を振り上げて指を鳴らした。

 次の瞬間、水パイプの先端に乗った煙草の葉が、小さな音を立てて弾け飛んだ。

 

「オールド・オスマン。今後一度でも、『賢人』のミスタ・ヒラガを『平民など』と下に見ることがあったら、私も大切な使い魔を侮辱されたとして、それなりの行動に出させていただきます。彼は異国の貴人で、ヴァリエール家の客人です」

 

「う、うむ……。その通りじゃな。詫びよう。それに、『平民など』という汚い言葉も、子供を導く立場のわしが使って良い言葉ではなかった」

 

 熟練のメイジであるオスマン氏が反応できないほどの速く器用な魔法に、彼は冷や汗を流しながら、うなずきを返す。

 

 ルイズに説教をするはずが、オスマン氏は逆に説教をされていた。

 この場には、平民階級であるミス・ロングビルも同席している。彼女は元貴族であると物腰から察せられるが、今はただの平民だ。よって、彼女の前で放った『平民など』という言葉は、オスマン氏の完全な失言であった。

 オスマン氏は、本来は平民と貴族を区別はするが、差別はしない人格者。自らの失言を恥じて、心の中で素直に反省をした。

 

 だが、この場は、決闘をした男子二人を罰する場。教育者としての凛とした表情は、保ったままだ。

 

「ミスタ・グラモンは、本日明日と二日間、寮の自室で謹慎して後日、反省文を提出。ミス・ヴァリエールはそうじゃな。使い魔の監督不行き届きと、先日の竜騎士隊からの竜鱗強奪の罰として、一週間の寮内謹慎としよう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 そのオスマン氏の処断に、貴重なナイロンの服を草の汁で緑に染めた才人が、食い下がった。

 

「この喧嘩、ルイズは全く関係ありません! なんでルイズに罰が与えられるんですか! 罰するならルイズではなく、俺に罰を与えてください!」

 

 その才人の言葉に、オスマン氏はふむ、とヒゲに触りながら考えた。

 

 ――ミス・ヴァリエールめ。なかなか(あるじ)思いな使い魔を召喚しよったな。感心感心。

 

「異国の民、ミスタ・ヒラガよ。この国において、使い魔の罪は、その主の罪となるのじゃ。凶暴な幻獣が使い魔となる可能性がある以上、それを完全に御するのがメイジの義務。学院長の立場として決闘に対する罰を与える以上、そこは譲れぬ線なんじゃ。すまんが納得してくれ」

 

「そうですか……」

 

 才人はその言葉を聞いて、グッと歯を食いしばった。

 

「ごめん、ルイズ……」

 

 そして、才人は正座の姿勢のまま、横に座るルイズへと頭を下げた。

 

「僕からも謝罪の言葉を述べさせてもらうよ、ルイズ。今回の件は、完全に僕が悪いのだから」

 

 才人を真似して、ギーシュも正座からの謝罪を行なった。

 そんな二人に対し、ルイズは柔らかい笑みを浮かべながら応えた。

 

「いえ、良いわよ。このくらいいつものこと。もう慣れっこよ。それに、わたしからはあなた達に十分、罰を与えたしね」

 

 その三人の姿に、オスマン氏はヒゲに覆われた口に笑みを作った。

 

 ――よきかなよきかな。これがあるべき若人の姿というものじゃ。

 

「さて、ミス・ロングビル。ミスタ・グラモンを男子寮まで連行しなさい」

 

「分かりました」

 

「ミスタ・グラモン。退室してよろしい。なに、ちゃんと真面目に反省文を書けば、食事と風呂は許してやるわい」

 

「はい……とと、うおお、足がしびれる! これが正座の力か!」

 

 オスマン氏に促され、立ち上がろうとしたギーシュ。だが、思わぬ正座の威力に、彼は足をとられてカーペットの上を転げ回った。

 

 それからやっとのことで立ち上がったギーシュ。ミス・ロングビルに介抱されながら、彼は足を震わせて学院長室を後にした。

 そして正座のまま床の上に取り残される、才人とルイズの二人。

 そんな二人に、オスマン氏はずっと険しくしていた表情を緩めて話しかけた。

 

「さて、ミスタ・ヒラガ、ミス・ヴァリエールよ。いつまでもそんな格好で座っていては、辛いじゃろう。応接用のソファーにでも座りなさい。少し二人に大事な話があるんじゃ」

 

 オスマン氏は、そう言いながら机に水パイプを置く。そして、代わりに一冊の本を机の引き出しの中から取り出して、ソファーまで歩いていった。

 それを追うように、ずっと無言で待機していたコルベールもソファーへと向かう。

 

 才人とルイズは、なんのこっちゃと正座のまま二人で顔を見合わせた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「さて、話というのは、なんじゃ。ミス・ヴァリエールの使い魔についての話での」

 

 そう言って、オスマン氏は携えた古書の表紙をルイズに向けて見せた。

 

 表題は、『始祖ブリミルの使い魔たち』だ。

 

 それを見て、ルイズはオスマン氏が何を言いたいのか、おおよそ理解した。

 

「『ガンダールヴ』ですね」

 

「ふむ、流石はトリステインの『賢者』。すでに理解しておったか」

 

 感心するように、オスマン氏は目を細めていった。

 

「自分の使い魔のことを調べるのは結構なことですが、授業には出ていただきたいものですな」

 

 一方、今日の二年生の午前授業担当であったコルベールは、そうルイズに釘を刺した。

 ちなみにこのコルベール、自分の研究のために授業を放棄することが、しばしばある。他人のことは、全く言えなかった。

 

「で、『ガンダールヴ』が、何か?」

 

 ツンとすました顔で、ルイズが言う。すると、オスマン氏は眉をひそめて言葉を返す。

 

「何か、じゃないわい。ミス・ヴァリエールよ。これは、この魔法学院の使い魔召喚の儀、始まって以来の大事件じゃ」

 

 オスマン氏の呆れるような言葉。

 そして、次にコルベールが鼻の上の眼鏡の縁を人差し指で軽く持ち上げながら、話し始めた。

 

「すまないがミス・ヴァリエール。広場での一部始終は全て見せてもらった。止めることもできたのだがね、どうしてもミスタ・ヒラガが剣を使って戦うところを見たかったのだ」

 

「いつでも止められたのに傍観を決め込んで、それでわたしに一週間の謹慎命令って、ひどくありません?」

 

「ほっほっほ、反省文で済んだところが謹慎にまでなったのは、普段のおぬしの行いによるところじゃ。トリステインの『魔女』よ」

 

 ルイズの抗議の言葉に、オスマン氏がそう答えた。

 教育者として、何度もルイズに頭を悩まされてきたオスマン氏。年甲斐もなく、してやったりという顔をしていた。

 

「ともかくじゃ、薪割り鉈で青銅のゴーレムを真っ二つにしたその力、間違いなく『ガンダールヴ』のものじゃろう」

 

 オスマン氏はソファーの前に古書を置くと、本をめくって使い魔のルーンが書かれたページを開いた。

 ルイズは隣に座る才人の左手をとると、本の横まで彼の左手を引き、並べて見比べた。

 

 本に描かれたルーンと、手の甲のルーンの形は、完全に一致していた。

 

「始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』。二つ名を『神の左手』。剣と槍を自在に操り、始祖ブリミルの盾となったといわれているの」

 

 そう言ってオスマン氏は本を閉じると、再び空いた手の平でヒゲを(もてあそ)び始めた。

 

「メイジとしては、これ以上の使い魔はおらんじゃろう。じゃが、それを皆に広めることは自重して欲しい」

 

「どうしてでしょうか?」

 

 ルイズはオスマン氏が何を言いたいのか、おおよそ推測ができていた。が、あえてオスマン氏に何故かと尋ねた。

 

「『ガンダールヴ』の力は始祖の力。それを利用しようとする者は多いじゃろう。特に、始祖ブリミルの血族を名乗る王室は顕著であろう。今、隣のアルビオン王国が、戦火に見舞われているのは知っておろう?」

 

 ルイズはその言葉に、小さくうなずいた。

 

「始祖の力などを得た王宮のボンクラどもが、その戦にどう介入するかなど分かったものじゃないわい。いつの時代も奴らは戦が大好きだからのう。おぬしも自分の使い魔を他人に好き勝手使われるのは、望まないじゃろうて」

 

 そう、オスマン氏は言葉を締める。

 

 さてどう返答してくるか、とオスマン氏がルイズの顔を覗きこむと、唇の端を吊り上げた笑みが返ってきた。

 そしてルイズはその唇をゆっくりと開くと、オスマン氏に向けて話し始めた。

 

「わたし、使い魔召喚の魔法についての考察を王室直属のアカデミーに、送ろうと思っていたのですが」

 

「ほう、考察とな」

 

「魔法を使えないわたしがなぜサーヴァントの魔法だけ成功したのか、二つの使い魔召喚の魔法は本当にコモン・スペルなのか、始祖ブリミルの使い魔とは一体なんだったのか」

 

 そこまで言って、ルイズはソファーの上で脚を組み、膝の上で両手の指を組み合わせた。

 

「その考察、魔法を戦争利用することばかり考えている王室の下にある『アカデミーの方々』にお見せするより、トリステインの魔法の権威たる『オールド・オスマン』にお見せした方が有意義かしら?」

 

「……何が望みじゃ、『魔女』よ」

 

 苦々しい顔で、オスマン氏がルイズに尋ねた。

 オスマン氏はルイズが言いたいことを察したのだ。すなわち、『ガンダールヴ』のことを王宮に知らされたくなければ、自分の言うことを聞け、と。

 そんなオスマン氏に、ルイズは答える。

 

「なんてことはありません。……わたし、明日の虚無の休日に、使い魔の身のまわりのものを調えてあげようと思いまして。城下町へ行く予定でした。でも困りました。寮から出られないのでは、予定が狂ってしまいましたね」

 

「…………」

 

「ああ、それと、わたしの部屋には寝具が一人分しか無いのです。ですからこの二日、わたしの使い魔は床の上で寝ていました。始祖の使い魔を床の上で眠らせるなんて、こんなに失礼な話はありません。そんなことがブリミル教に知られたら、この学院はどうなってしまうかしら。困りました」

 

 全く困った様子のない笑顔で、ルイズは一人語った。

 してやられた、とオスマン氏は思った。せっかく、この問題児を一週間、すなわち八日間も押さえつけることができる機会であったのに。

 

「分かった、分かったわい。決闘禁止令を破った罰は、今ここで反省文を一枚書くだけで良いとする。それと、本塔の男子寮に一部屋用意する。それでよいな?」

 

「ありがたい話ですが、寮の部屋は必要ありません。『ガンダールヴ』の力を調べるにも、異国の話を聞くのにも、彼は私と同じ部屋にいた方が都合が良いのです。ですので、上質で、それでいて部屋を専有しない大きさのベッドを一つ、わたしの部屋に今日中にご用意いただければ、と」

 

「はあ、仕方がないのう……」

 

 こうして学院の長と魔女の交渉がまとまった。

 

 そのやりとりをあまり沈まないソファーに座りながら、横目でずっと見ていた才人。

 彼は、もしかしてとんでもないやつが自分の主になったんじゃないか、と今更になって気付いた。

 

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