【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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16.きゃらくたーめいきんぐ

 学院長室での説教後、午後の授業はしっかり受けたルイズ。入浴と夕食も終え、才人を連れてルイズは部屋に戻った。

 その間に、使用人が運び込んだのだろう。部屋の隅には下段に収納棚が据え付けられた、新しいベッドが用意されていた。

 

 二人はそのベッドの状態を確認することもなく、机の傍らの椅子に座った。そして、机の上に刃物を用意して、『ガンダールヴ』についての検証をしていった。

 興が乗って、一見武器には見えない物も机の上に並べられていった。検証はしばらく続き、才人が若干疲れた顔になった頃、ルイズは検証結果をまとめ、言った。

 

「今のところの仮定では、『ガンダールヴ』の力は二つ」

 

 ペン先を引っ込ませた四色ボールペンの先端で、ルイズはノートとして使っていた茶色い紙を叩く。

 

「一般的な武器、及び『サイトが武器と認識した道具』の使い方が、頭に流れ込んでくること」

 

 机の上に並べられているのは、短剣、ナイフ、ペーパーナイフ、布袋に石を詰め込んだ即席のブラックジャック、木の串、食堂から持ち込んだ食事用のナイフとフォークだ。

 最初、フォークでは発動しなかったガンダールヴのルーンだが、ルイズがフォーク一本で看守を殺し脱走したこそ泥の話をすると、食事用のナイフとフォークでも左手のルーンが輝くようになった。

 

 一方、木の串は、串どころか割り箸ですら事故で人が死ぬことを才人は知っていたためか、ガンダールヴの力を引き出すのにさほど時間はいらなかった。暗器か何かと判定されたのだろう。

 

 必要な要素はおそらく、手に持つものを武器と思い込むための想像力だ。

 

「そして、それらの武器を持つと、身体能力が向上すること」

 

 これは鉈で薪を切ったときや、広場での決闘で実践済みだ。

 さらに才人は先ほど、ペーパーナイフを持ちながらその場で宙返りもしてみせた。

 

「でも、この身体能力というのはすごく限定的ね。夕食の席で、ギーシュとの決闘を見ていた、軍杖術の使い手の先輩に確認を取ったのだけれど。サイトの動き、凄く変だったらしいの」

 

「変?」

 

「ええと、動きはまるで野獣のように素早い。でも、構えとか剣の振り方は、素人そのものだ、って」

 

 才人はその言葉に、母がレンタルビデオ店から借りてきた古代文明の戦争映画を思い出した。

 映画の中の筋骨隆々な戦士達は、どのようにして武器を振るっていたか。

 

「えーと、つまりあれか。向上した腕力だけで、無理矢理戦っていたと」

 

「それは少し違うと思うわ。腕力だけでは、青銅の塊を鉈で綺麗に真っ二つなんてできないわよ。あなたは武器の正しい扱い方、刃物をどう動かして、どう刃筋を立てれば物を切れるかについても理解している。……けれど、残念なことに、人が長い年月を培って積み重ねてきた技術、つまり『武術』については専門外なのよ、おそらく」

 

 刃物の正しい扱い方と、武術。

 近いようでいて、遠くもある理念だ。

 

「あー……確かに言われてみればそうだ。鉈を持っていたとき、なんつーか、スポーツをやるときみたいな正しいフォームの取り方とか、効率の良いゴーレムの倒し方とかは、これっぽっちも思い浮かばなかった」

 

「六千年前の伝説の使い魔だものね。その時代に、洗練された剣術や槍術がなくても納得できるわ」

 

 そう結論づけ、ルイズは机の上の刃物を片付け始める。

 その最中、ルイズはふと気付いたように才人に話しかけた。

 

「武術に興味があるなら、軍杖術の使い手を紹介するわ。うちの家の権力なら、学院に騎士や衛士を滞在させることも訳ないのよ。過去には、騎士団丸ごと一つを卒業まで学院に滞在させていた例があるらしいし」

 

 軍杖術とは、刃の付いたレイピア状の杖を剣のように操る貴族の武術だ。『ブレイド』という魔力の刃を発生させる魔法もあるため、軍人や衛士の間では、割とメジャーな存在である。

 

「そうだなー……こんな力があるならそっちも身につけた方が良いか」

 

「その理由以外にも、身体を動かす趣味を持った方が何かと楽しいわよ。わざわざ、わたしと一緒に使えもしない魔法の授業を聞くよりかは、ずっと有意義なんじゃないかしら。ちなみにわたしも武器を使わない武術なら、ちょっとだけ嗜んでいるの」

 

 両手に短剣を抱えながら、ルイズは腰をひねり右の回し蹴りを虚空へとはなった。

 空気を切り裂く軽快な音が室内に響く。

 

 才人にとっては残念なことであるが、彼の位置からは脚を上げたルイズのスカートの中身は見えなかった。

 そんな脚線美を披露したルイズに、才人が尋ねる。

 

「メイジに格闘技が必要なのか?」

 

「口を塞がれたり杖を奪われたりもするのだから、結局、最後に頼りとなるのは自分の身体よね」

 

「ルイズは他の皆と違って、杖を持っていないだろ」

 

「腕の中身を杖にしたから。ああ、腕を折られたら、魔法が使えなくなるかもしれないわね。ちょっと考えておきましょう」

 

 クローゼットの奥に刃物をしまいながら、ルイズはそう答えた。

 

 机の上には食器と木の串だけが残り、メモを取っていた紙も戸棚の奥にしまわれた。

 

 片付けを終えたルイズは再び椅子の上に座り、才人に向けて人差し指を突きつけた。

 

「さて、キュルケ達がまた来る前に、キャラ設定について決めておきましょうか。たまには自分の使い魔も構ってあげなさいって言っておいたから、今日は来ないかもしれないけれど」

 

「キャラ設定て……」

 

 キャラ設定という用語が、ハルケギニアの言葉に存在することに才人は呆れた。

 いや、自分になじみが深い言葉だったせいでそう訳されてしまったのか。そういえばパソコンのバッテリーに限りもあるし、もうゲームができないんだな、と才人は残念に思った。

 才人はノートパソコンに、ちょっとした戦略ゲームをインストールしていた。

 

「まず、異世界から来たという話だけど、これは、わたしとキュルケ、タバサの三人だけの秘密。他の人には、地図にも載っていない遠い異国の地から召喚された賢人と説明する」

 

「ああ、まあ異世界なんて、バレたとしても誰も信じないだろうけどな」

 

「だからこそ、漏れる経路が増えることを恐れず、タバサにも教えたのよ。一応、あの二人には口止めをしてあるけど」

 

 ルイズは四色ボールペンを手の中でいじりながら、そう答えた。

 四色のペン先を一色ずつ交互に出していく。さらに同時に二色を出そうとしても出てこないことを確かめたり、ペン先を出し切らずにスイッチ部がバネで戻る様子を観察したりしていた。

 ルイズは、すっかりこのボールペンを気に入ってしまったようだった。

 

 四色ボールペンに興味を奪われつつも、ルイズは言葉を続ける。

 

「そして、ここからは『ガンダールヴ』のルーンを秘密にするための、キュルケ達も含めた皆への説明。あなたは学問を学びつつ、武器の鑑定人をしていた」

 

「ああ、武器の使い方が分かるっていうのは、隠さないのか」

 

「真実に嘘を混ぜるのが、人のだまし方のコツよ」

 

 ボールペンの先を才人に突きつけ、ルイズは断言した。

 

「で、武器好きが高じて趣味でそれを振るってはいたけど、特に誰からも学ばなかったので剣術は習得していない。そんな設定でどうかしら?」

 

「なるほど。でも、身体能力の向上については、どうするんだ? 剣持ったときだけ素早くなるんじゃ、どう見ても違和感あるだろ」

 

「そっちは一応考えがあるわ。まあ設定上は、物を壊すと困るので普段は力を抑えているという感じにしましょう」

 

「種族が違うってことにすればいいか」

 

「種族?」

 

「ほら、俺、ルイズ達と違って肌の色が黄色いだろ。だから小型犬と大型犬の違いみたいに、ハルケギニア人とは種族が違うってことにすれば良いと思う」

 

「そうね、確かにそうね」

 

 ルイズと才人はノリノリでキャラ設定を作っていく。

 才人は普段からゲームや漫画にある程度触れていたためか、こういう設定を考えるのが好きな部類であった。

 対するルイズは、友人に演劇好きの幼なじみと読書好きの同級生がいるため、こういう人物設定の話をすることが割とあった。

 

 やや暴走気味であったが、それでも何とか整合性の取れた嘘を考える。

 

「問題は、この左手だよなぁ。理由もないのに、ずっと包帯を巻き続けるなんてわけにはいかないだろ。怪我なら、ずっと治らないのも変だし」

 

 才人は『ガンダールヴ』のルーンを隠すための応急処置として、先ほど試しに巻いてみた包帯をランプに向けて透かした。

 

「それは大丈夫。昼の決闘で鉈を落とさせるために、あなたの手を爆破したでしょう。あれで酷い火傷を負ったということにすれば良いのよ」

 

「あれは右手だったぞ?」

 

「どっちの手だったかなんて、誰も覚えてなんかいやしないわよ」

 

「でも、そうなるとルイズが、俺に人に見せられないような火傷を負わせたってことになるだろ? いいのかそれで」

 

「サイトは、ギーシュを斬るつもりはなかった。でも横で見ていたわたしは、自分の使い魔が貴族を傷つけるとあせり、魔法を使った。これなら、どちらにも非がないように聞こえるでしょう」

 

「うーん、そうかぁ?」

 

 才人は右手で、左手の包帯の表面を撫でながら、ルイズの言葉に首をかしげた。

 彼はまだ、メイジと使い魔の関係がどのようなものであるか、ほとんど理解していなかった。ルイズの話を使い魔と主ではなく、人間と人間としての間の出来事としてとらえていたのだ。

 

「ま、これで悪い評判が立ったとしても、今更、気になんてしないわ。それより、包帯だと手が動かしづらいでしょう。水のメイジに頼んで皮膚手袋を用意してもらうわ」

 

「皮膚手袋?」

 

「火のメイジが自分の手を焼いてしまうということは、たまにあるの。そういった人が火傷痕を隠すために使う、はめても違和感を覚えないマジックアイテムの手袋よ。色は白で良いかしら?」

 

「色はなんでもいい。でも、魔法でも火傷の痕は消せないんだな。地球でもひどい火傷痕は、皮膚移植とかしないと消せないらしいが」

 

「重度の火傷は、水のトライアングルメイジでもないと治しきれないわね。それに、手袋と比べて治療用の水の秘薬は、高級品なのよ。平民が何年も遊んで暮らせるくらいにはね」

 

 なるほど、と才人は頷く。

 だが、ルイズの言葉を少し反芻(はんすう)して考えてみると、おかしなところがあると気付く。

 

「ルイズには、火傷を消せる魔法使いの知り合いはいない? 貴族令嬢なのに、治療の薬を買うほどの金はない?」

 

「……どっちも答えは否、ね。でも傷を治さない理由は、どうとでも作れるわ」

 

「じゃあ、こういうのはどうだ。ルイズの命令を聞かず決闘を続けようとした俺は、自分を恥じて火傷の痕を自らの戒めとして……」

 

「クドい! というかクサい! 没ね」

 

「い、今更それを言うか、お前はッ……」

 

 得意げに設定語りをしていたところに入った思わぬ突っ込みに、才人は顔を赤くして反論した。

 

「この設定はわたしも関わることなんだから、真面目に考えてよね」

 

「てめぇ!」

 

 二人は左手の火傷の理由をどうするか、討論を交わし始める。

 その討論は、キュルケがフレイムを連れて部屋にやってくるまで続いた。

 

 そして、キュルケは机の上に置かれていた、『ガンダールヴ』の検証に使った食器と木の串を目ざとく見つける。

 

「あら、もう、何か食べていた?」

 

 キュルケにそう言われて、ルイズはとっさに、才人から地球の食器について聞こうと思っていたのだと、誤魔化した。

 

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