【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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18.古めいた魔剣

 店主が落胆する様子を眺めていたルイズは、不意に彼の肩を叩いて話しかける。

 

「おじさま、傭兵向けに普通の剣を扱っていては知る機会がないでしょうけれど、こういう剣は儀礼剣っていうの。人を斬るための剣じゃなくて、式典や魔法の儀式に用いられるものよ。初めから、強度なんて考えられずに作られているの」

 

 ルイズの話を聞いても、店主は動かない。それほど、この大剣に剣としての価値が無かったことへのショックが大きかったのだろう。

 ルイズは頬をかきながら、さらに言葉を続けた。

 

「キュルケ、この剣を装飾品や工芸品として見た場合、いくらの値をつけるかしら?」

 

「そうね、この細工、この宝石の数、そしてシュペー卿の名前を考えるなら……三千エキューは下らないと思うわ」

 

「本当ですかい!」

 

 キュルケの鑑定に、店主が歳に見合わぬ勢いで身を起こした。

 

「え、ええ……」

 

 その勢いにキュルケは気圧されながら、肯定の意思を伝える。

 さらに、ルイズが剣についての補足を入れた。

 

「名剣だと言って貴族に売りつけて、いざ使ってみて折れたとなったら、面倒なことになるわよ。素直に、ブルドンネ街で貴族御用達になっているような宝石店にでも卸した方がいいわ」

 

「へえ、そうしやす。ありがてえ、ありがてえ……」

 

 ルイズとキュルケに、礼の言葉を何度も繰り返す店主。

 そんな彼に、店の入り口の方から声がかかった。

 

「だから言ったじゃねーか。宝石で人は切れねーってよ! 何が儀礼剣だ。剣の風上にもおけねーやつだ!」

 

 品のない大声を聞き、うっとうしげにルイズは振り向く。

 だが、そこには誰もいなかった。

 タバサが近くで細身のレイピアを手に取っているが、彼女がこんな声をあげるはずもないだろう。

 

「こら! デル公! 貴族のお客様の前で、下品な口を開くんじゃねえ!」

 

 礼の姿勢を止めた店主がキッと店の入り口付近をにらみ、乱暴な言葉をその方角へと叩きつけた。

 すると、またもや入り口方向から声が響く。

 

「うるせーな! 俺が何をしゃべろうが、剣の勝手だ!」

 

「……どういうこと?」

 

 虚空から聞こえる声に、ルイズは店主へと疑問の言葉を投げかけた。

 

「いや、実はですね、あそこにインテリジェンスソードが置いてあるんで」

 

「なんですって!?」

 

「意思を持つ魔剣なんて、そんな悪趣味な物、どこの魔術師が始めたんでしょうかねぇ……。剣がしゃべったところで、なんの役に立つのかってもんでして」

 

 その店主の説明も最後まで聞かずに、ルイズは入り口の方へと歩いていく。

 

「どこ?」

 

「おう、なんかよーか、娘ッ子」

 

 乱雑に積まれた数打ちの剣の束。その中から声が聞こえた。

 ルイズはその中から、全長1.5メイルほどもある一本の長剣を取り上げた。

 

 薄い錆にまみれた刀身の、古くさい長剣だ。

 

「あなた、インテリジェンスソードね?」

 

「おう、それがどーかしたか」

 

「おじさま、これ買いますわ。おいくらかしら?」

 

「って、オイ!?」

 

 長剣の問いを無視し、ルイズは長剣を握ったままカウンターへと戻っていく。

 

「へえ、そんな包丁にもなりやしない鉄屑なら、十エキューもいただければ十分でさ。むしろ、処分に困っていたくらいなもんで」

 

「そう」

 

 ルイズは長剣をカウンターに置き、背中のリュックの肩紐から腕を抜いてカウンターの上にリュックを落とした。

 鈍い音、そして小さな金属が大量にこすれる音が店内に響いた。

 その音を聞いたキュルケが、呆れたように言う。

 

「あなた、いったいどれだけお金持ってきてるのよ。小切手で良いじゃない」

 

「言ったでしょう、返り血を浴びたお金だって。持っていて気分が悪いから、さっさと処分してしまいたいのよね。……さ、おじさま、代金はこれで良いかしら?」

 

「へえ、まいど!」

 

 ルイズはリュックの中から取りだした新金貨十四枚を店主に渡すと、釣り銭の額を計算する店主をスルーしてカウンターに置いた長剣を手に取った。

 新金貨は、エキュー金貨よりも価値が低い硬貨。そのため、エキューで値付けされた品を新金貨で買うと、細かい釣り銭が出ることがある。だが、今のルイズは小銭などに興味は無かった。

 それよりも、インテリジェンスソードへの興味が、はるかに勝っていた。

 

「名前は?」

 

「……デルフリンガーだ」

 

「そう。今日からあなたはわたしの所有物。インテリジェンスソードの仕組みを調べるための実験に使わせて貰うわ」

 

「おいおいおい、そりゃねーよ」

 

「恨むなら、剣の身に生まれた自分を恨むのね。さあ、サイト」

 

 インテリジェンスソード、デルフリンガーとの会話を打ちきって、ルイズは才人に声をかける。

 

「ん、ああ」

 

 しゃべる剣を物珍しそうに眺める才人に、ルイズはデルフリンガーを手渡した。

 

「へっ、鑑定士か何かしらねーが、こんなヒョロい坊主に俺の素晴らしさが……って、こりゃあ、おでれーた。てめ、『使い手』か」

 

「『使い手』?」

 

 デルフリンガーのいきなりの言葉に、才人は首をかしげる。

『使い手』って何だ、そう聞き返そうとした才人の手に、突然痛みが走った。衝撃に手から柄がすっぽ抜け、剣は床の上をすべっていく。

 何事かと才人が顔をあげると、そこには脚を高く振り上げたルイズの姿が見えた。

 今のは蹴りか。そしてスカートの中身は紫か。才人はルイズに蹴ったことの文句を言えばいいのか、ラッキースケベに対する感謝を述べればいいのか、よく分からなくなった。

 

 一方、ルイズは脚を下ろすと、床をすべっていったデルフリンガーの元へと歩いていく。

 床に落ちた剣を拾い、ルイズは顔を錆びた刀身へと近づけた。

 そして、小さな声で剣に語りかける。

 

「これ以上、その『使い手』のことをわたし以外の誰かにしゃべってみなさい……。土の中に埋めて丸ごと鋼に錬金してしまうわよ」

 

「は、はい、分かりました……」

 

 ルイズは、器用にも震え声を出す魔剣の返答に「よろしい」とうなずき、その魔剣を拾ってカウンターへと戻る。

 

「はい、改めて、この剣を『鑑定』して。隅々までね」

 

「お、おう」

 

 デルフリンガーを再び手渡された才人は、両の手でその柄を握りしめる。

 

 ――すげえな、しゃべる剣って。一体、中身はどうなっているんだ。

 

 才人の中で湧き立つ好奇心が、武器の力を引き出す『ガンダールヴ』の力を高めていく。

 目を閉じ、心を剣に寄せ、知識を引き出す。

 

 そして。

 

「サイト!?」

 

 彼は倒れた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 才人は、頭の後ろに感じる柔らかい感触と共に目を覚ました。

 誰かが自分の頬を手の平で叩いている。

 

 才人が目を開けると、上下逆さまになったルイズの可愛らしい顔が目に映った。

 

「あ、起きた。大丈夫?」

 

 逆さまのルイズが、心配そうに言う。それを才人はぼんやりとした表情で見上げた。

 

「えー、あー?」

 

 才人がうめき声を上げると、横からキュルケの声が聞こえた。

 

「あなた、急に倒れたのよ。刃物を持ちながらだから、焦ったわよ」

 

 背中から固い床の感触を感じる。

 なんで、こんなことになっているのか。

 

 ――そうだ、しゃべる剣の使い方を『ガンダールヴ』の力で見ようとしたんだ。

 

 才人は身を起こして、周りを見回す。

 ランプに照らされた、薄暗い武具店の室内。カウンターの向こうからは、店主が何事かとこちらを覗きこんでいる。

 横には心配そうな顔でこちらを見るキュルケと、三日月刀を抱え、無表情でこちらを見るタバサが立っていた。

 そして、後ろを振り返ると、ルイズが正座の姿勢で座っている。

 

 どうやら自分は膝枕をされていたらしい。そのことに気付いた才人は、すぐに身を起こしてしまったことを後悔した。

 

「なんで急に倒れたのかしら?」

 

 膝を立てて立ち上がろうとしながら、ルイズは(かたわ)らに落ちたデルフリンガーに尋ねてみた。

 才人を『使い手』と呼ぶこの剣、もしかして何かいろいろ知っているのではないだろうか。そう考えてのことだ。

 

「あー、この坊主、慣らしもしないで、俺の中身をいきなり覗きこもうとしやがったからなぁー」

 

「慣らし……? どういうこと?」

 

「俺、こうみえても歴史の長い、すげー魔剣なのよ。それを一度に全部見ようとしたから、頭がそれを拒否してぶっ倒れたんだろ」

 

 錆だらけの刀身でランプの光を反射させながら、デルフリンガーがそう言った。

 

「歴史が長い……あんた、どれくらい前に作られたの?」

 

「さあー覚えてねえなぁ。千年以上前なのは覚えてんだけどなー。長生きしすぎて、いろいろ忘れてしまってんのよ、俺」

 

「…………」

 

 ルイズはデルフリンガーの言葉を聞いて、無言で立ち上がる。

 そして床からデルフリンガーを拾うと、彼女達の騒ぎを覗きこんでいた店主の下へと歩く。

 

「おじさま、この剣、買いますわ」

 

「へえ? お代はもういただきやしたが……」

 

 店主の返答を聞かず、ルイズはカウンター上のリュックに両手を突っ込む。

 そして中から口の閉じられた大きな革袋を取り出すと、店主の目の前にその革袋を置いた。

 鈍重な音が響き、カウンターがわずかに揺れる。

 

「新金貨で八〇〇枚あるわ。もしこれで足りない分は、今後もこの店をひいきにすると言うことで」

 

「は、はっぴゃく!?」

 

 突然、告げられた想像外の金額に、店主は驚きの声を上げる。

 

「それほどの価値が、あの剣にはあるのよ。少なくとも、わたしにはね」

 

「はあ……わかりやした」

 

 店主は革袋を掴むと、中身を確認することなく店の奥にそれを仕舞いに行った。

 調べるまでもない。中身にはきっとちゃんとした新金貨がつまっている。そう確信して、店主は金庫の中に革袋を詰めた。

 

 そして店主は、店の奥に置かれたひいきの客にしか譲っていない業物をいくつか見繕い、カウンターへと運ぶ。

 

「さて、若奥様、次はこんな剣はどうでしょう」

 

 凄腕の鑑定士を傍らに置いた、やり手なんだかよく分からなくなってきたブロンドの貴族令嬢に、店主は笑顔で話しかけた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「ねえ、タバサ」

 

「なに」

 

「ルイズ、あたし達に隠し事しているわよね」

 

「してる」

 

 次々と剣や槍などを鑑定していく才人を見ながら、キュルケは腕を組んだ。

 

「隠し事をされた悪友として、あたしはどうすれば良いのかしら」

 

「話してくれるまで待つ。隠し事は誰にでもある」

 

「隠し事だらけだったあなたが言うと、それっぽいわねぇ……」

 

 ため息をつきながら、キュルケは武器をいじるタバサを見る。

 剣は飽きたのか、先端にとげのついた金棒の柄を両手で握っている。

 

 さすがに貴族としてその金棒はどうなのよ、と頭の中で考えながら、キュルケは引き続きタバサに声をかけた。

 

「ねえ、どれを買うか決めたの?」

 

「ん」

 

 タバサは首を左右に振って否定すると、カウンターの前で槍を両手に構える才人の方を向く。

 

「彼に決めてもらう」

 

「ああ、『鑑定士』さんにね」

 

 キュルケはタバサと同じように才人を眺める。

 肌の黄色い黒髪の少年。

 だが、どうやら異世界から来たという以外にも、色々な事情がありそうであった。

 

 そんな才人は、店主を前にして、ルイズとどの武器を買うのかを話し合っていた。

 

「やっぱり槍は必要だと思うんだよなー」

 

「右手に槍、左手に剣って? いくら伝説の勇者がそうだからって、すぐにそれを真似しようとするのは安直だわ。やりたいならまずは、もっと筋肉を付けるところからね」

 

「じゃあお前は、どうするのが良いって言うんだ?」

 

「右手に長剣、左手にはさっきのソードブレーカーかマインゴーシュかしら。学院で『硬化』の魔法をかけてもらえば、かなり頑丈になるわよ。『固定化』をかければ錆びにくくなるし」

 

「それならいっそのこと、盾を持った方が良いんじゃねーかな」

 

「あら、サイトは盾を扱いきれるのかしら?」

 

 言外に、武器の使い手である『ガンダールヴ』が防具である盾を使えるのかと、ルイズは才人を笑った。盾はシールドバッシュもできる鈍器と解釈もできるが、重くてかさばるためにルイズは才人に買い与える気は起きなかった。

 

 才人は「むう」と、うなってから少し考え、ソードブレーカーを選んだ。形状が格好良かったからだ。

 

 才人の返答に満足したルイズは、他にもいくつか買っていこうか、とカウンターに広げられた武器を眺める。そして、ルイズはふとひらめいた。

 

「ねえサイト、あなたの故郷の代表的な武器って、どんなものがあるのかしら?」

 

「あー、地球か? そうだな、ここにある剣とかもあるけど……軍人が持つような武器となると、ほとんど銃だな」

 

「銃、銃ね。ねえ、おじさま、銃は置いてあるかしら?」

 

「へえ、ゲルマニア産のを少し置いてますぜ」

 

 ルイズの注文に、店主はそう言って、店内の一角を指さす。

 木で出来た棚、そこに長銃身のマスケット銃が飾られていた。

 

「どう、サイト?」

 

「んー……確かに銃だけどなぁ、駄目だ、これじゃ使うのが大変だぞ」

 

 才人は片手でマスケット銃を握りながら、首を横に振った。

 銃が出てきたことには、内心驚いた才人。だが、手に取ったマスケット銃の仕組みは、ずいぶんと旧式っぽい簡素なものだった。

 しかし、これで最新の機関銃なんて物が出てきたら、才人としてはせっかくのファンタジー気分を台無しにされていたところだ。なので、むしろ、近代以前の旧式銃でよかったと思うほどである。

 

「地球で個人所有するようなメジャーな銃と言えばこう、手の平より少し大きいくらいの大きさで、持ち運びも楽なんだ。しかも、十発くらい連続して撃てる」

 

 日本人である才人は実際に地球の銃に触れたことは無かったが、テレビやゲームの中で拳銃を何度も見たことがあった。

 才人の中では、銃とは拳銃(ハンドガン)のイメージが強い。狙撃銃や猟銃といった長身の銃は、どうしても取り回しが難しそうな印象が強かった。

 

「ふうん、そう。まあ、火薬の取り扱いとかも難しいだろうし、遠くを狙うには弓の方が便利かもね」

 

 頭の中に才人の言った銃の知識をメモしながら、ルイズは銃の横の壁に立てかけられた弓を眺める。

 だが、今日は弓まではいらないだろうと、カウンターの前に向き直った。

 

「そうだ、おじさま、寸鉄とかの暗器も用意してくれる?」

 

「はあ、まあ、ありますけどね。でも若奥様、それ全部、この従者殿に使わせる気で?」

 

「ええ、『土くれのフーケ』が騒がれている世の中でしょう? メイジ以外も、身を守るすべは必要よ」

 

「そんなものですかね。確かに最近はフーケ対策とか言って、貴族の従者が店に訪ねては来ますが」

 

 そう言いながら店主はカウンターの上に寸鉄やふくみ針、ナックルダスター、投石紐(スリング)などを並べていく。

 裏町の住人が好んで買っていく、安価な武器だ。

 

 その中からルイズは先端にとがりのないブラスナックルと投石紐を選び、才人に持たせた。

 

「最近、巷ではフーケっていう盗賊が暴れているって噂で持ちきりなの。だから、それは常にポケットにでも忍ばせて、いつでも身につけられるようにね?」

 

 才人はルイズのその言葉を聞いて、その裏の意図に気付いた。

 これは、『ガンダールヴ』の身体能力強化を誤魔化すために使うのだ。暗器を携帯して、いつでも装備できるようにする。

 すなわち、いつでも身体強化を発揮できるようにして、普段は力を抑えているがその気になればいつでも本領を発揮できるという、二人で決めたキャラ設定の裏付けにするのだ。

 

 こうして、ルイズの『ガンダールヴ』研究のための道具調達は、大きな事件もなく終わった。

 異国の貴族ゆえ高額な品の支払いを面倒くさがったタバサが、こっそりと自分用の剣を購入品に混ぜルイズに代金を立て替えさせたが、ルイズがそれに気付くことはなかった。

 




第一章は以上で終了です。第二章は、学院での日々を送る平和な日常回が続きます。

・鑑定
『ガンダールヴ』の武器鑑定能力はオリジナル設定。
『ガンダールヴ』は、ロケットランチャーやゼロ戦、戦車といった地球の兵器を触っただけで、操作手順の把握ができる特殊能力を持ちます。そこから発展させて、ある程度の鑑定能力を持っているのでは……という解釈したうえでのオリジナル要素です。

・インテリジェンスソード
原作外伝で長期間稼働する自意識を持つガーゴイルが作成されている状況を見る限り、特殊能力の存在を加味しないならば、極めて珍しいと言うほどの存在でもないと考察できます。名高い土のメイジならおそらく作れるのでしょう。

・新金貨八百枚
金貨をこれだけ持ち運んだらすごく重そうな印象を受けます。しかし、原作でも才人が新金貨四百枚を腰に下げたポーチに入れたり、全身の服のポケットの中にエキュー金貨を五百枚ほど忍ばせて行動していたりと、この世界の金貨は軽そうです。
なお、新金貨よりも価値の高い貨幣であるエキュー金貨は、一円玉ほどのサイズだそうです。世界史に詳しくない自分としては金貨と聞くと、テレビで見覚えがある時代劇の小判サイズをイメージしちゃうので、一円玉サイズは小ささにビックリしちゃいますね。
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