【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
「俺も駆け出しの料理人だった頃は貧乏で、よく水に溶いた小麦粉を焼いて、それを食べてたもんだなぁ」
料理長のマルトーが、ヘラでフライパンの上のお好み焼きをひっくり返しながら、そう独りごちた。
「野菜を入れていたら、お好み焼きに似たものが出来ていたかもしれませんね」
その横でそれを見ていた才人が、マルトーに声を返す。
「入れていたとしても、こうやって細かく刻んで混ぜるってことは、思いつかなかったと思うぜ。あのころは馬鹿で未熟だったからな」
「それが今は、貴族学校の料理長ですか。努力したんですね」
「ガハハ、そう褒めるな恥ずかしい」
才人の言葉に笑いを返すマルトー。才人と話しながらもフライパンから目は離さない。
そのマルトーの横では、同じようにフライパンとヘラをもったキュルケが、お好み焼きを華麗にひっくり返していた。
そんなキュルケを才人は、素直に褒める。
「料理上手いな。すごいけど、ちょっと意外だ。貴族って、料理なんてしないかと思ってた」
「ま、あたしもここまで上達するまでに、いろいろあったのよ」
木のへらでお好み焼きの表面を軽く叩きながら、キュルケがそう言った。
「……もしかしてルイズ関連か?」
「するどいわね。子供の頃に、ちょっとあの子と一悶着あって、一緒に料理したの。それ以来ハマって、ね。実はルイズの実家は、あたしの実家の隣の領地なのよ。国は違うけれどね」
「へー、仲いいよな、やっぱり」
「別によくはないわよ。あのときのことも、結構苦い思い出だし。ま、結果的に趣味が一つ増えて、そこだけは良かったと思っているけどね」
そう言葉を交わすキュルケと才人を横目に、マルトーはさらにお好み焼きをひっくり返した。
「あ、マルトーさん、それくらいで良いです」
「おう、そうか。やっぱり火通るの早ぇなあ」
「本来は、お店でお客が、自分で焼きながら作って食べるものですからね。大火力でさっと焼いても、中の肉までしっかり火が通ります」
才人のそんなうんちくを聞きながら、マルトーは大皿に焼き上がったお好み焼きを載せる。
そして、油を染みこませた布でフライパンの上をこすると、再びお好み焼きの生地をお玉でフライパンへと流す。
才人は大皿に盛られたお好み焼きに、ケーキを切り分けるために使うナイフで切れ目をいれ、小皿に小分けにしていく。
キュルケもお好み焼きを焼き終わり、ヘラで直接お好み焼きを切り分けると、そのまま小皿へと載せていった。
その小皿をメイド達がテーブルへと運んでいく。
いつの間にか、厨房へ様子を見に来た使用人の数が増えていた。
◆◇◆◇◆
お好み焼きが載せられた小皿がテーブルに並ぶ。さらにテーブルの中心には、お好み焼きがいくつも積まれた大皿が置かれている。
完成したお好み焼きの量は多いが、容積のほとんどは小麦粉と水とヤシェ玉。
夜の使用人の戯れとして作るにはほどよい、安価で済む食材ぞろいであった。
そんなテーブルの前に座った、貴族の少女達と使用人達。
彼女達に促されるように、才人は胸の前で手を合わせ。
「いただきます」
と言った。
「サイトがときどき言うそれ、面白いわよねぇ。わたしたちの食前の祈りと比べると、短すぎて最初はビックリしたけど。ちなみに、誰に何をいただくと言っているの? 神様への祈り?」
ルイズがナイフで小皿のお好み焼きを切りながら、そんなことを才人に尋ねた。
「俺は無宗教だよ。そうだな、多分、料理を作ってくれた人と食材を作ってくれた農家の人と、食材そのものに言っているんだ」
「ふうん。人と食材への感謝の祈りね。ニッポン人って、道徳心は高いのかしら?」
「ないない。そもそも、俺、向こうじゃ滅多にいただきますなんて、言ったことなかったし。こっちじゃみんな食前に祈るから、対抗して言っているだけだ」
「フフッ、道徳心、低っ!」
ルイズはそう笑いながら、切り分けたお好み焼きをフォークに刺して、口へと運ぶ。
できたての熱さに、ハフハフと息を吐きながら咀嚼する。
美味しい。熱々の生地のほのかな甘みに、とろけるような肉の味。美味しい、美味しいのだが。
「何か物足りないわね」
と、ルイズは言った。
「休日の街の屋台で売っていそうな味ね」
と、キュルケも続く。
「野菜入りのミートパイみたいね。品のない舌触りだけど」
と、モンモランシー。
「薄味」
と、タバサ。
「そうですか? 美味しいと思いますけど」
と、ロングビル。
その微妙な評価に、才人はしまった、と叫んだ。
「大切なことを忘れてた! この上に、ソースとマヨネーズとカツオブシと青のりをかけるんだよ」
思わぬ失態に、才人は手の平で額を叩いた。
そして、その才人の叫びに聞き慣れぬ単語を耳にしたキュルケは、疑問を投げかける。
「マヨネーズ? カツオブシ? アオノリ? それも『ニッポン』の料理?」
「マヨネーズはハルケギニアにもあるわよ、キュルケ」
そう、才人ではなくルイズが答えた。
「あらそうなの? 聞いたことがないけれど?」
「ガリアのソース」
キュルケの疑問の声に、ガリア王国出身のタバサが追加で答えた。
「トリステインには輸入されていないわね。マルトーおじさまなら知っていそうな物だけれど……あれ、マルトーおじさまは?」
マルトーに話を振ろうとしたルイズだが、テーブルに彼がいないことに気付き、まわりを見回した。
すると。
「おーう、嬢ちゃん達、食うのはまだはえーぞ! このソースを使いな!」
マルトーが鍋を両手で抱えて厨房の奥から歩いてきた。
「賄い用に作ってるソースだ。きっとそれに合うぜ」
「よくソースが必要って分かりましたね」
マルトーの準備の良さに、才人は驚いて彼に訊ねた。
まさか料理人の勘というやつだろうか。
「いや、焼いている途中にちょっと端を食べてみて、これはソースがいるだろうってな」
「つまみ食いはズルいっすよ料理長ー」
「そうですよー」
マルトーの告白に、周囲の使用人達が口々に文句を言い出す。
「ガハハ、良いじゃねーか。おかげで、こうしてソースを用意できたんだ、どうせお前達も物足りなかっただろう」
そう言いながらマルトーはお玉でソースをすくい、皆の小皿のお好み焼きの上にソースを薄くたらしていった。
ルイズはお好み焼きの上に載せられたソースをナイフの先につけると、それをなめてみた。
甘味と酸味の混じった独特の味がする。食べた覚えのない味だった。
「おじさま、このソースはどうやって作ったの?」
「おう、普段の料理中に出た野菜クズや果物の切れ端を煮込んで、塩と酢と砂糖を混ぜた残り物ソースだな。嬢ちゃん達の食事に出したことはないぜ。昔、これ作って職場の上司に見せてみたら、客に残飯から作った料理を食わせる気かって叱られてなぁ。自信作だから、
「美味しいですよねー、『マルトーソース』」
マルトーの言葉に、メイドの一人であるシエスタが、ナイフでお好み焼きを切りながらそうソースの感想を述べた。
シエスタに追従するように、他の使用人もうんうんと頷く。学院の平民達には人気のソースなのだろう。
ソースを配り終えたマルトーに、ルイズはさらに訊ねる。
「マルトーおじさま、マヨネーズの作り方は知っているかしら? お好み焼きにかけると良いそうだけど」
「おー、マヨネーズか。作れるぜ。でも、今から作り始めたんじゃ、料理が冷めちまうな」
「カツオブシとアオノリは知ってる?」
「そっちは聞いたことねえなぁ。カツオって、あの魚のカツオか?」
「どうなの、サイト?」
マルトーの言葉を受けて、ルイズは才人へと話題を振る。
才人は記憶を巡らせて、カツオブシはどんなものだったかと記憶を巡らせる。
「ええと……魚のカツオをカチカチになるまで干して、
「ほう、面白そうだな。今度、カツオが入ったら試してみるか」
マルトーは才人の言葉に、目を輝かせた。
ソースがかけられたお好み焼きを前に、改めてルイズ達はナイフとフォークを握る。
そして冷めないうちにと、皆、お好み焼きを口にする。
すると。
「あら?」
「……一気に美味しくなったわね」
「……ん」
先ほどとはうってかわって、皆、美味しいと絶賛する。
「ソースで味を引き立たせる類の料理だったのね」
「ソースを足しただけでこれだけ美味しいなら、マヨネーズとカツオブシとやらが追加されたら、どれだけ美味しいのかしら?」
「もごもご……」
ルイズ、キュルケ、タバサの三人娘達は、小皿の上のお好み焼きをぺろりとたいらげ、さらに大皿に積まれたお好み焼きを小皿へと仲良く取り分ける。
ちなみにロングビルは、またもや感極まった様子で一口一口噛みしめながら食べていた。
「確かに美味しいけれど、見た目が汚いから貴族の食卓に並べるには、ちょっと不足しているかしらね」
一方、モンモランシーは、トリステイン貴族としての基準で優雅な動作を努めながら、そう感想を述べた。
ちなみに、トリステインでは現代日本ほど食事のマナーが発展していないため、才人からすると、さほど優雅には見えなかった。
「そうですなぁ。これを奇麗に焼き上げるのは、俺でも少々無理そうですぜ。材料も安いから、賄い行きですな」
モンモランシー相手には敬語のマルトーも、この料理の欠点をしっかり理解している様子。
「ひぃふふぃ」
「タバサ、口の中に物を入れながら喋るのはやめなさい。さすがに行儀が悪いわよ」
キュルケが苦笑しながら、お好み焼きを口いっぱいに入れながら話そうとするタバサを注意する。
叱られたタバサはしばし咀嚼を続け、口の中の料理を飲み込むと、改めて言葉を放った。
「使用人達だけズルい」
「がはははは、残念だったなぁ。実は賄いには、貴族の食卓に出してない俺の創作料理を一杯出してるのよ。貴族には、料理の材料だけで文句を言うヤツがいるからな。端材を美味しく処理してるんだよ、俺らは」
「ズルい」
そうして料理長特製『マルトーソース』の力により、大皿のお好み焼きはあっさりと無くなったのであった。
◆◇◆◇◆
食事を終えたルイズ達は、食器を片付けると、厨房で才人を囲み、日本の料理についてのさらなる話を聞く。
「日本の料理に欠かせないのは、やっぱり醤油と味噌だな。大豆から作る調味料なんだ」
「豆から調味料ねぇ……聞いたことはないわね」
「やっぱりハルケギニアにはないのかー。はあ、味噌汁が恋しい……」
キュルケの答えにそう言って、遠くを眺める才人。
そんな中、メイドの一人が控えめに手を上げた。先ほど『ニセキャベツ』と『マルトーソース』に言及した少女、シエスタだ。
「あの、わたしの曾祖父が生前、豆からショユとミソという故郷の調味料を作ろうとしていたそうです」
「えっ?」
シエスタから告げられたまさかの言葉に、才人は驚愕した。
「その話、詳しく」
「ええと、曾祖父は外国出身なのですが……トリステインには東方から偶然、迷いこんでしまったのだそうです。それで、故郷を
「偶然、迷いこんだ……?」
まさか、日本人ではあるまいな。才人は、話をしてくれた使用人、黒髪黒目のメイドをまじまじと見つめた。
才人に見つめられたシエスタは、恥ずかしそうに下を向く。
そんな彼女に、才人はさらなる話を聞き出そうと、口を開こうとする。だが、そこに横から声がかかった。モンモランシーだ。
「ねえ、ミスタ・ヒラガ。『ニッポン』には他にどんな料理があるのかしら? ハンバーグやお好み焼きのような実際に作れそうなもので」
才人は、メイドに話しかけるタイミングを
才人は拍子抜けした気分になりながら、モンモランシーの問いかけに答えることにした。
「俺、言うほど、料理は得意じゃないからなぁ……そこまで
才人は腕を組みながら、どんな料理を作れただろうと記憶を掘り返す。
目玉焼き、玉子焼き。いや、卵があるならそれくらい、ハルケギニアにもあるだろう。この前は、ハンバーグの上に目玉焼き載せて食べたし。
カレー。いや、カレールーなんて、どうやって手に入れるんだ。まさか、スパイスを調合してカレーを作れるわけもない。
昔、体験学習で打った
ペペロンチーノ。いや、パスタは普通に食堂で出てくるぞ。ただ、あちらにあって、こちらでは珍しいパスタもあるかもしれん。
そうして悩み続けた後、ふと才人はある料理を思い出した。
「コロッケっていう、揚げ物の作り方を歌詞にした歌があるんだ。実際には、作ったことないんだけど」
「へえ、揚げ物ね。どんな歌? 歌ってみて」
ルイズに促され、ここ最近の順調さに調子に乗っていた才人は、使用人達の前で一人歌い始めた。
順を追って料理のレシピを歌っていくという、トリステインでは見られない変わった歌だ。
それを面白そうに聞く貴族の面々と、真剣な表情で耳を澄ますマルトーを始めとした料理人達。
そのギャップに才人は笑いながら歌い続け、最後に次のような言葉で締めた。
キテレツは外国人である、と。
少なくとも貴族達の中で一人、真面目に聞いていたルイズの耳には、そう聞こえた。
「……キテレツ? いきなり誰よそれ。脈略ないわね」
最後に出てきた謎の存在に、ルイズは思わず突っ込んだ。
「ああ、しまった! マサルさんが混ざった!」
才人が最後に放ったフレーズ。
それは彼が子供の頃に読んだ少年漫画に出てきた、この歌に関するギャグネタだった。
ちなみに才人が歌った歌は、テレビアニメ『キテレツ大百科』のオープニング曲。
その歌詞は日本語からトリステイン公用語に訳されたせいで全く韻を踏まず、翻訳の過程でリズムも少々崩れてしまっていた。そのせいで才人は、厨房にいる皆にひどい音痴だと勘違いされたのであった。
・才人の歌
『お料理行進曲』の第一番。そのものズバリ、コロッケの料理レシピを歌ったものです。なおジャガイモは、この作品のトリステインには存在しないと設定しています。タマネギは原作に登場するため、存在します。
原作の才人はルイズを煽るときに時々歌いますが、翻訳機能の都合上、ルイズからは音痴と思われていそうですね。音痴な方が、煽り力高そうですが。
・才人が読んでいた少年漫画
『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』。『お料理行進曲』に関するギャグネタは単行本三巻(1996年発行)にあります。
・キテレツ大百科
テレビアニメは1996年まで放送。才人がハルケギニアへ迷いこんだ時期を西暦2004年とすると、才人が小学校低学年あたりまでに放送されていたことになります。なので、才人は幼い頃にテレビでこのアニメを見ていたと設定しています。