【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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23.※この話は正月に投稿した正夢ネタ回の再録です。

「さて、どうしたものかしら」

 

 幼児へと変わった男の子二人を眺めながら、ルイズはそう言った。

 秘薬の力により幼くなった二人は、床に寝転がり炭で紙に絵を描いて遊んでいる。

 

「わたしは無関係」

 

 夜闇に二つの月が輝いている窓の外を眺めながら、タバサはそう言った。

 

「そうは行かないわよ。わたしたちは同罪よ。そもそも、ミスタ・ヒラガにだって、わざと飲ませたわけじゃないのよ?」

 

「無関係」

 

「……はあー」

 

 頑固に意見を曲げないタバサの姿勢に、少しでも多く共犯者を増やして罪を軽くしようとしていたモンモランシー。しかしタバサはかたくなで、モンモランシーはため息を吐いて引き下がった。

 事がバレたら無関係など、きっと突き通せない。そういう考えを秘めながらであるが。

 

 とりあえずルイズと二人だけでも、今後どうするか考えよう。モンモランシーがそう思ったときのことだ。

 

「おねーちゃーん」

 

 床の上の小さなマリコルヌが、ルイズ達の方を向いて呼びかけた。

 名前を呼ばずお姉ちゃんとだけ呼んだため、三人の少女達は一斉に振り向いた。

 

「おしっこー」

 

「んまっ!」

 

 あけすけなマリコルヌの言葉に、モンモランシーは思わず声をあげた。

 貴族がそんなはしたない。

 そう思って口に手を当てていると、横にいたタバサが動いた。

 

「連れてく」

 

「待ちなさーい、タバサ!」

 

 ルイズが立ち上がってタバサへと詰め寄り、両手で肩を押さえる。

 

「ねえタバサ、まさかよこしまな考えはないわよね? 純粋にトイレに連れて行ってあげようと思っただけよね? ね? ね?」

 

 真っ直ぐタバサの眼鏡の奥の瞳を見つめながら言うルイズ。

 

 そんなルイズの視線に、タバサはわずかに眉をひそめながら横へと向く。

 

「あ、タバサ、今、舌打ちしたわね? 小さく聞こえたわよ『チッ』って!」

 

「…………」

 

 そんな視線のやり取りをする、ルイズとタバサの横。

 

「おしっこー……」

 

 マリコルヌが身体をもじもじさせていた。

 そんな様子を見ていた小さな才人は、立ち上がってマリコルヌの手を握った。

 

「よし、おれがいっしょについていってやるよ!」

 

 幼い才人は、面倒見の良いガキ大将だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 トイレの前で共犯三人娘が立ち、言葉を交わす。

 

「本当にどうするのよ、ルイズ。あなたの使い魔はともかく、マリコルヌはあれでも貴族なんだから、隠しきれないわよ」

 

 そう、ルイズに詰め寄るモンモランシー。

 対するルイズは、腕を組んだままずっと頭を巡らしていた。

 

「……そうね、隠し通すことは無理ね。素直に学院長のところに行きましょうか」

 

「ええっ!?」

 

 やがて出たルイズの答えに、モンモランシーは驚きの声をあげた。

 

「い、いつもみたいに誤魔化すとか、丸め込むとか、うやむやにするとかしないの……?」

 

「被害者が居る以上、無理ね。でも、わたし達は罪には問われない。無罪」

 

「そう?」

 

 無罪と聞いて、タバサもルイズへと問いかけた。

 

「トリステインでは、豊胸の秘薬は作るのが禁止されているわけじゃない。あくまで、飲むことが禁止されているのよ。偽乳などけしからんって暴走した王室の馬鹿が、昔に制定した国法なの。で、わたし達は飲んでいない。そして飲んだサイトは、そもそも豊胸効果が現れていない。どこにも罪はない」

 

「マリコルヌの生家への説明はどうするのよ。秘薬の効果を考えるなら、時間切れなんてありえないわよ」

 

「おたくのお子さんが痩せました。すごいでしょう。育て直してみませんか……じゃ駄目?」

 

「駄目に決まっているじゃない!」

 

 適当に言うルイズに、モンモランシーが突っ込みを入れる。

 それを受けて、ルイズは真面目に考え始める。

 

「それなりに素直に答えてみましょう。わたし達は珍しい秘薬の材料を見つけて実験をしていた。そこへ、うら若き乙女の部屋にマリコルヌが訪ねてきた。しかも夜に。驚いたわたし達は、調合に失敗。そうしたら、あら不思議」

 

「あら不思議、が、本当に不思議すぎるわね」

 

「まあ本気でヤバくなったら、アカデミーの知り合いを総動員して、どうにかするわよ」

 

 そう話し合っていると、トイレの中からマリコルヌと才人が出てきた。

 

「すっきりー」

 

「ちゃんとおててをあらったぞ! えらいー?」

 

「はいはい、えらいえらい」

 

 ルイズは才人の頭を撫でてあげると、職員寮へ向かうため女子寮を後にした。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 寮を出て学院の本塔へと向かう間にある広場。

 そこをルイズ達が歩いていると、ふと、広場の片隅に大きな穴が空いていることに気付いた。

 

 なんだろうかと、それを覗きこむルイズ。すると、穴の底に、一人の貴族の少年がうずくまっている様子が見えた。

 

「……何やっているのよ、ギーシュ」

 

「おやルイズ、孤独なモグラさんに何か用かい?」

 

「ウザい。キモい。で、そんな穴ぐらで何をやっているのよ」

 

 ギーシュの返答を切り捨て、さらにルイズは、穴の底でマントを土まみれに汚すギーシュへと再度問いかけた。

 それに対しギーシュは、ギュッと膝を抱えて縮こまると、自らに語りかけるように話し始めた。

 

「僕はモールだからね。情けない、しがない、みじめなモールだからね」

 

「だ、か、ら、何をやっているのよ、ギーシュ」

 

 ルイズの三度目の問いかけ。

 ギーシュはようやく身を起こした。

 

「うむ、それなんだがね、ルイズ。僕は恥ずかしいんだ、この前、しでかしてしまったことが。だからこうして一人で、モールのように反省しているんだ」

 

「反省? この前の決闘のこと?」

 

「いや、違うよ。そっちじゃない。その前に、二人のレディに失礼なことをしてしまった。それが恥ずかしいんだ」

 

「……あー、あの二股」

 

「二股、そうか、やはり二股に見えるかい? でもね、僕はそんなつもりじゃなかったんだ。ケティを遠乗りに誘ったのは、紳士として彼女を楽しませてあげようとしただけ。僕はずっと、モンモランシーのことを愛していたんだよ」

 

「それ、本当?」

 

「そうさ! ずっと僕は彼女を愛していた! あの香水を渡された時なんて、空を駆け出したい気分だったよ! それがなんだ? 見栄を張るためだけに、その香水は僕のじゃないだって? ああ恥ずかしい! 恥ずかしい!」

 

 そういって再び穴の中で丸まるギーシュ。

 ルイズは、それを見下ろしながら言った。

 

「そう、良かったわね、モンモランシー」

 

「へ?」

 

 急に振り返ったルイズ。その向こう。

 ギーシュが目を凝らすと、そこには小さな男の子の手を握った愛しき人、モンモランシーの姿があった。

 

「ももももんもらんしぃー!?」

 

「ギーシュ……」

 

 突然、姿を現した人物に、驚くギーシュ。

 そして、モンモランシーは目を潤ませて、穴の底のギーシュと見つめ合う。

 

「ギーシュ、あなた……」

 

「モンモランシー……」

 

「わたしの誤解だったのね。こんなにも、わたしのことを想ってくれていたなんて。わたし、わたし――」

 

「えっくち」

 

 小さな才人は、夜風に当たり湯冷めをしていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 子供が、三人に増えた。

 

「どうするのよ、コレーッ! ルイズー!」

 

「どうやら、くしゃみをすると男の人に感染するようね……」

 

 二人で同時に頭を抱えるモンモランシーとルイズ。

 その横では、新たに増えた幼児を相手に、タバサは水の魔法を見せて遊んであげていた。

 

 もしかして、これは本格的に危ない感染症なのではないか。

 そう考え始めたルイズの後ろから、突然声がかかった。

 

「ミス・ヴァリエール! また広間に大穴なんてあけて何をしようというのですか!」

 

 風呂上がりのほてった赤い顔で、学院長秘書のロングビルが怒声を上げた。

 平民のメイジであるロングビルだが、彼女は特別に貴族用の風呂に入ることを許されていた。学院長の秘書として貴族に接することの多いロングビル。身だしなみは、貴族と同等に整える必要があったのだ。

 

 彼女は風呂上がりに職員用の寮へと戻ろうと思った矢先、少女の叫び声を聞いて広場へとやってきたのだ。

 そして見えたのは、謎の大穴とルイズの姿。

 また面倒事かと風呂上がりの頭に血を上らせた。

 

 沸騰しかけた頭。だが、ルイズの傍らに見慣れぬ子供がいるのを見て、一気に頭は冷めていった。

 

「ミス・ヴァリエール……」

 

「は、はい。これから学院長室に説明しに行こうかと思っていたところです」

 

「ミス・ヴァリエール、この子達……故郷のアルビオンに連れて帰って、育ててもいいですか?」

 

「駄目ーッ! 駄目ですよ、それー!?」

 

 膝をつき三人の幼児達を両腕で抱えてルイズを見上げるロングビルに、全力の突っ込みを入れるルイズ。

 もう、なにがなんだか、と混乱してきたルイズ達に、さらなる訪問者が現れる。

 

「ルイズ、どうしたんだいこんなところで騒いで。また変なことたくらんでいるのか?」

 

 風呂上がりの貴族達。

 同級生の眼鏡のメイジ、レイナールを先頭にした五人組の少年達だ。

 

「えっくち!」

 

 だが、彼らが近くに寄った瞬間、ロングビルの髪の毛に鼻をくすぐられたマリコルヌが、くしゃみをした。

 

 少年達は一瞬で、十ばかり若返ってしまった。

 

「やや、これはどういうことですかな!?」

 

 さらにそこに、ハゲ頭の教師がやってくる。

 

「えっくち」

 

「わわわ!」

 

 ギーシュのくしゃみに教師も秘薬の力に晒される。

 四十歳ほどの教師のハゲた頭頂部から急に髪の毛が伸び始め、まばたきする間に年の頃、二十ばかりの黒髪の美青年へと変わった。

 

「だ、誰ー!?」

 

「し、失礼な、あなた達も、私の名前をお忘れか! 私はジャン・コルベールですぞ!」

 

 整った顔にかけられた眼鏡を指先で動かしながら、黒髪の美青年は叫ぶ。

 

「なんじゃなんじゃ、騒がしい」

 

「えっくち!」

 

「オールド・オスマンー! って、変わってないー!?」

 

「ふぉ!?」

 

 くしゃみの連鎖は続き、やがて秘薬の力は学院を支配する。

 

 数日経つ頃には、水の精霊が怒りで洪水を起こしたかのようにトリステイン中に秘薬の力が広まり、空路を経てアルビオンへと到達し反乱軍の兵士達を無力な子供へと変える。

 大陸を侵食していく精霊の秘薬はやがてガリアの王城へと辿り着き、ガリア王ジョゼフに感染して純粋な思いを持つ少年へと変えた。

 さらに、感染は拡大し、ハルケギニア大陸西部を飛び出して東の砂漠地帯まで届く。そこで、人間に対し敵対的な思想を持つエルフ達が若く純真な頃に戻り、その凝り固まった過激思想から解放された。

 

 こうして、ハルケギニアに平和が訪れたのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「って、なによソレーッ!?」

 

 毛布をはねのけてルイズは上半身を勢いよく起こした。

 

「……あれ?」

 

 広場にいたはずのルイズ。だが、彼女はいつの間にかベッドの中にいた。

 夜中であったはずの窓の向こうの空は、明朝独特の薄暗い水色をしている。

 

 ――えーと、夢?

 

 ルイズは頭を振って今までの記憶を振り返る。

 夢。そう、夢だ。なんだ、精霊の力で若返りって。長寿の秘薬なら聞いたことがあるが、若返りなど聞いたこともない。

 いや、そもそも豊胸剤という時点で、何かがおかしい。そんなものがあったのなら、モンモランシーの伝手など頼らず、とっくの昔に入手して自分だけで使用している。確かに『水の精霊の涙』は貴重品だが、公爵家の伝手で手に入らないほど稀少というわけでもないのだ。

 

「ふにゃ……」

 

 そんな思考の波に飲まれているルイズに、ふと声が届く。

 聞こえてきたのは部屋の反対側にあるベッド。才人の眠る場所だ。

 

 そこでルイズは思い至る。

 そうだ、先ほど光景が夢ならば、才人の姿は小さくはなっていないはず。

 

 そう寝ぼけた頭で考えたルイズは、裸足のまま才人のベッドへと歩いていく。ルイズは安全な部屋での就寝時、素足になって下着を脱ぐ癖があった。

 日の出に照らされる才人のベッド。目的の彼は頭から毛布を被っているようで、身体が縮まっているかどうか分からない。

 

 ルイズは、こっそりと才人の毛布をはぐ。

 

 毛布の中にいたのは、いつもと変わらぬ少年の姿だった。

 

 ホッと胸をなで下ろすルイズ。

 勘違いだ。ただの夢だ。そう結論づけて二度寝しようと自分のベッドへと足を向けたそのときだ。

 

「ふゃ、るいずおねーちゃーん」

 

 突然聞こえてきた寝言に、ルイズは反射的に魔法を放った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「あー、嫌な夢見たわ」

 

 ルイズは目の下にくまを作りながら、そうつぶやき朝食のテーブルの前にすわった。

 あの後、ルイズは二度寝できなかった。夢の内容が頭にフラッシュバックして、眠るに眠れなかったのだ。

 

「夢見が悪いからって、魔法を使うな、魔法を」

 

 その隣で、ボロボロになった才人が手櫛で髪を整える。

 主と同じく不機嫌だが、こちらは夢見の悪さではなく、物理的な暴力によるものが原因であった。

 

「ねえサイト、あなたは夢とか見なかったの?」

 

「見ていたとしても、あんな起こされかたじゃあ、覚えてねえっつーの」

 

 ぶつくさと文句を言う才人。

 一方、ルイズは眠気に支配される目をこすりながら、不機嫌な才人をなんとかなだめていった。

 

 そして、ルイズの才人とは逆の隣の席、そこにこれまた眠たそうなモンモランシーが着席する。

 

「ねえ、ルイズ……」

 

「眠そうね。もしかしてモンモランシーも、変な夢を見たの?」

 

「……は? 夢?」

 

 モンモランシーは眠たげな目を見開いて、ルイズを見つめた。

 

「あら、違うの?」

 

「違うわよ。あのね、ルイズ。ちょっと悩んでいることがあるの。それで昨夜はずっと眠れなくて……。『魔女』さん、ちょっと相談に乗ってくれないかしら?」

 

「どうしたの?」

 

 改めてかしこまるモンモランシーに、ルイズは問いを返す。

 それを受けて、モンモランシーはルイズにこう語った。

 

「すごい調合素材を手に入れたものの、使い道が思いつかなくて。なんと……『水の精霊の涙』よ」

 

「ヒエッ!?」

 

 まさかのワードに、ルイズの眠気は一瞬で吹き飛んだ。

 

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