【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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26.チャリで来た!

「この学院の教師はね」

 

 紙を片手に夜空の下を歩くルイズが、才人に語る。

 

「優秀なメイジが多いの」

 

 女子寮から出て、学院の外を歩く二人。すっかり陽が沈んだ後だというのに、すれ違う人の数は多い。いずれも使用人だ。

 先ほどまで行なわれていた、舞踏会の後片付けに追われているのだろう。

 

「『土』のミセス・シュヴルーズは『トライアングル』、『風』のミスタ・ギトーは『スクウェア』。サイトも、メイジの区分についてはもう知っているでしょう?」

 

「ああ、『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクウェア』だっけ? 確か重ねられる魔法の数で決まるとか何とか」

 

「属性系統の数、ね。魔法というのは生まれつきの才能の占める割合がそれなりにあってね。努力しても『ライン』止まりなんていう人もざら。『トライアングル』のメイジというのは魔法の盛んなトリステインでもそうゴロゴロ転がっているようなものじゃないの」

 

 才人は普段、ルイズの周りにいる貴族達を思い出す。

 爆発の魔法しか使えないルイズは置いておくとして、キュルケ、タバサが『トライアングル』。そしてギーシュは『ドット』で、ルイズの周りをよくうろうろしているマリコルヌとかいうメイジも『ドット』だ。

 同じ二年生で、『トライアングル』と『ドット』という大きな差が生じている。

 

「でも、この学院はそんな『トライアングル』以上のメイジをたくさん教師として抱えている。当然ね。トリステインの貴族から選ばれた子女を教育する場ですもの。生徒に少しでも多くの魔法を見せる必要がある」

 

「なるほど。で、それが自転車と何が関係が?」

 

「優秀な教師陣。元軍人や元魔法職人、元研究員もいるわ。そんな中でもね、やっぱり居るの。突出した才能を持つ人、天才という存在が」

 

 ルイズは、そう語りながら本塔の脇を進む。

 そして本塔と『火』の塔の中間、そこに何故か建っていたボロ小屋の前で足を止めた。

 

 ルイズは塗装が剥げかかった木の扉をノックする。

 

「ミスタ、いらっしゃいます?」

 

 数秒の時間をおいた後、中から扉が開かれた。

 

「やや、これはミス・ヴァリエール、それにミスタ・ヒラガ。私に何かご用ですかな?」

 

 そう言いながら、ハゲ頭の中年メイジが中から姿を現した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 才人は、このメイジを知っていた。

 学院の教師。ルイズ達には『火』の魔法を教え、皆からはミスタ・コルベールと呼ばれている。

 そして自分が召喚されたあの日、ルイズの(かたわ)らに立っていた教師だ。さらには、才人の正体が『ガンダールヴ』であると知る、数少ない人物でもある。

 

 ルイズは彼に「研究の種を持ってきました」と告げ、ボロ小屋の中へと入っていった。

 

 才人も「お邪魔します」と、つぶやいてからその中へと入っていった。ちなみにトリステインには、玄関で靴を脱ぐ習慣はない。

 

 足を踏み入れたコルベールの部屋。

 それは、一言で言い表すならば『混沌』そのものであった。

 

 壁は全て棚で埋め尽くされており、書物や瓶が置かれている。

 机の上には手作り感があふれる天体儀が置かれており、その下にはペンで書き込みのされた紙がばらまかれている。

 そして、床の上には様々な動物を入れたケージ。足下の篭で大きな蛇が動き、才人は思わずビクついてしまった。

 

「ミスタ・コルベール。ちょっと見ない間に、また散らかってるじゃないですか」

 

「いやはや、研究に没頭すると、どうしてもこうなってしまって」

 

「またキュルケが怒りますよ。あっ、言っておきますけど、あれでも彼女、ミスタに対して本気ですよ? 最近、他の男性とイチャイチャしている光景を見たことがありません」

 

「いや、そう言われても、私は教師で彼女は生徒であって……」

 

「元生徒の伴侶を持つ教師も、学院にはいらっしゃるじゃないですか」

 

 ルイズはそう言いながら小さな机の前へと行き、椅子を引いて座った。

 そして、手に持った紙をコルベールに向けて突きつける。

 

「ミスタ・コルベール。話というのはこれについてです」

 

「む、何かの設計図かね。む、むむむ、これは……!」

 

 コルベールは差し出された紙を受け取ると、眼鏡のかけられた瞳を見開いて、それをながめ始めた。

 目がギョロギョロと動き、なめ回すように紙の表面を視線でさらっていく。

 

「ミ、ミス・ヴァリエール、これは一体!?」

 

「わたしの使い魔が、異国から来た賢人だと言うことは何度もお教えしましたよね? 彼の国にあるという乗り物の話を聞いて、設計図を起こしてみました。名前は自転車」

 

「ふむ、自ら転がる車か。面白い、これは面白いですな」

 

「これを一週間後の使い魔品評会に披露しようと思っています。間に合いますか?」

 

「一週間。なかなか厳しい。しかし、これは実に面白い。む、ここについて、少し質問してよろしいかね?」

 

 設計図の一部を指さしながらコルベールはルイズに訊ねる。

 それを受けて、ルイズは後ろを振り向く。

 

「サイト、ちょっとここに来て、一緒に見て」

 

「ん? ああ、分かった」

 

 檻の中の動物を物珍しそうに見ていた才人は、ルイズに呼ばれて彼女の横に着席した。

 

 それと同時に、コルベールは質問を開始する。

 ペダルをスムーズに回すにはどのような構造が良いのか。初心者は加速がつけられず倒れてしまわないのか。

 才人は、これまで自分が乗ってきた自転車について思い出しながら、それらの質問になんとか答えていった。

 

 質問が終わり、やがて会話はコルベールとルイズの二人の議論へと変わる。

 素材はどうするだの、強度はどうだの、道の平坦さがどうだの、骨組みをどう加工するだの、話は才人の理解の範疇を超えた。そこで才人は、一人席を立って部屋の中を眺め始めた。

 

 分野を問わない様々な道具が、部屋の中に乱雑に散らばっている。才人の知らないハルケギニア独特のオブジェもあり、才人にはこの小屋が子供のおもちゃ箱のように思えた。コルベールは立派な大人の教師ではあるのだが。

 

 そんな乱雑な部屋の床を見ると、物の散らかりように反して、意外と汚れが無いことに気付く。

 先ほどルイズが、キュルケがどうこうと言っていたことを才人は思い出す。言われてみれば、キュルケは確かに、面倒見の良い性格をしている。案外この部屋も、彼女が普段から片付けているのかもしれない。

 料理上手で掃除もできるとなると、なんとも庶民的だ。才人は、貴族に対し抱いていた偏見を少し和らげた。

 

 そして顔を上げると、そこには立派な柱時計が置かれていた。才人にはそれが機械式なのか魔法の産物なのか理解はできなかったが、秒針は正確に動いていた。

 才人はそこに刻まれた時刻を確認すると、ポケットに手を入れ、中から懐中時計を取りだした。

 ルイズからもらったその時計を覗きこんだ後、才人は設計図を前に未だ議論を続ける二人の方へと向く。

 

「おーい、もう夜遅いんで、帰ってもいいかー?」

 

「ん? ああ、こんな遅くまで引き留めて申し訳ない。戻っても構いませんぞ」

 

「鍵は持っているわよね? 帰っていいわよ」

 

 そう言いながら、二人は机の前から一歩も動こうとはしなかった。

 才人はそんな二人を置いて、ボロ小屋の中から出ていく。

 使い魔品評会は、デルフと漫才をする案でいくか。そんなことを考えながら、才人は部屋へと戻った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ある日の午後。才人はルイズ不在の授業には出ず、広場で一人、剣を持ち素振りをしていた。

 いや、正確には一人ではない。

 

「どうした! なんだそのへっぴり腰は! ジジイのファックの方が、まだ気合いが入っている! 返事はどうした!」

 

「サー、イエス、サー」

 

「ふざけるな! 聞こえんぞ! 大声出せ! タマ落としたか!」

 

「サー! イエス! サー!」

 

 一人で剣を振るうことに飽きた才人は、手に握るデルフリンガーと『フルメタルジャケット』ごっこをしながら素振りを行っていた。

 レンタルビデオ店でたまに映画を借りてくる、才人の母。その母に付き合って、才人もときどき映画を鑑賞していた。

 

 罵倒の声に気合いを入れて叫び返し、才人は剣を振るう。

 数千年もの間、剣をやってきたデルフリンガー。彼には、軍杖術の師匠が不在の状況でも、才人に教えられるくらいには剣術の知識があった。

 

「よし! 良いぞ! 家に来て妹をファックしていいぞ」

 

「サー! ……って、デルフの妹ってどんなのだ。レイピアか何かか」

 

「あー? いや、なんとなく言っただけだ。なんか、槍とか居た気もするが……」

 

 ひとしきり剣を振るい終わった才人は、首にかけた柔布で顔の汗をぬぐう。

 ハルケギニアにやってきてまだ二十日も経っていない才人だが、身体は少しずつ武人のそれに作り替えられつつあった。

『ガンダールヴ』のルーンで過度に酷使された肉体は、超回復を経て確かな筋力へと変わる。夜は筋肉痛に蝕まれながらベッドに身体を投げ出し、深い眠りについている。

 

 インターネットやアクションゲームが趣味だった才人がここまで運動に熱中していられるのも、ひとえに『ガンダールヴ』の力があるおかげであった。まるで少年漫画の主人公のように、素早く動く自分の身体。彼がタバサに語った『気』という説明も、漫画の影響であった。

 

 汗を拭き終えて、次はジョギングでもしようかと考えた才人。

 そうして彼が、学院の内壁へと足を踏み出したその時だ。

 

「サーイートー!」

 

 遠くから、何かが土煙を上げながら迫ってきた。

 

「できたわよー! サイトー!」

 

「ええっ!?」

 

 それは、自転車にまたがったルイズの姿だった。

 ゴムの巻かれた前輪に付けられたペダルを踏み込んで進むルイズ。

 後輪には、自転車初心者向けの追加オプション、補助輪が備え付けられていた。

 

 ちなみに立ちこぎをしているルイズ。前から吹く風にスカートが舞い上がっていた。水色だ。才人は思わず前屈みになった。

 

「眼福……って、違う違う! ルイズ! なんで、たったの二日で完成しているんだよ! おかしいだろ!」

 

「なんでって、できた物はできたのだから、仕方が無いじゃない!」

 

 初めての走行にテンションが上がりっぱなしのルイズ。

 目の下には大きなクマができていた。徹夜で作業をしていたのだろう。

 

 ルイズは才人に近づくと、ペダルから足の裏を離して速度をゆるめる。

 ちなみにブレーキは付いていない。危なくて仕方が無かった。

 

 日本で使われる自転車がアスファルトの上を走るのとは違い、草の生えた地面の上を進む手製自転車。

 そして、見えない位置にあった地面のくぼみに前輪を取られ、ルイズは地面へと投げ出された。

 

「あいたぁ……」

 

「あー、ルイちゃん大丈夫ですかー」

 

「誰がルイちゃんよ!」

 

「はっ、しまった、その背丈で補助輪なんて付けてるから、つい」

 

 一人で起き上がったルイズは、服に付いた草を払って倒れた自転車を起こす。

 

「やっぱりまだまだね。車輪が固いからガタガタしてお尻が痛いし、止まれないし、なにより整地された道じゃないとまともに進めない。もし完璧に作れたとしても、馬や馬車で荒らされた街道は走れそうにもないわ」

 

「でも二日でそこまでできれば十分だろ。いや、十分と言うかありえねぇ……。あれだ、さてはお前ら馬鹿だろう」

 

「誰が馬鹿よ! ……まあでも、これで品評会まで安心して改造し続けられるわ。さあ、サイト行くわよ」

 

「は? 行く?」

 

「ミスタ・コルベールのところによ。チェーンとブレーキと空気タイヤについて、詳しく話しなさい」

 

 有無を言わさず、ルイズは才人を引きずっていく。

 そうして才人は、また日が暮れるまで質問攻めにされるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 虚無の休日。コルベールの研究室に籠もるルイズと、それに付いていったキュルケ。

 自然と才人はタバサと二人きりになった。

 

 二人は剣の練習でもしようかと話し合った。そして、休日に合わせてトリスタニアへと向かおうとしていた軍杖術の師匠を捕まえて、アドバイスを聞く。すると、師匠からは、そろそろ掛かり稽古も含めた本格的な訓練を開始するかと提案される。

 

 そんな才人達が普段、使っている木剣は、堅めの木でできている。

 練習用の物と言えど、頭を強打すれば死の危険性もある。才人はそれを体格の小さなタバサへ向けて振るうことに、抵抗があった。

 そこで才人は、タバサと二人で掛かり稽古用の剣を作ることにした。

 

「いや、でも竹が無いとは思わなかったな。竹刀にしようと思ったのに」

 

 そう言いながら才人はナイフで木を削っていく。

 

 鉈で丸太を八分割にもできる才人。ルーンの恩恵で器用度も向上している彼は、伸縮性の高い木材を軽々と加工する。

 その横で、タバサは才人の削りだした部品を組み合わせて、剣の形を整えていく。いびつだが、竹刀に似た何かが、少しずつ完成していった。

 

 朝食後から始めた作業は、もう少しで夕食という時間で終わる。そして、二本のしなやかな竹刀型木剣が完成した。

 

「よし、打ち合わせてみるか。タバサ、ここに目がけて思いっきり振り下ろしてくれ」

 

 木剣を横に構える才人。

 そこに向けてタバサは、言われた通り体重を乗せて木剣を振り下ろした。

 

 次の瞬間、タバサの木剣は半ばから見事に折れた。

 

「ありゃ?」

 

 想定外の結果に、才人は首をかしげる。

 何が駄目だったのだろう。組み立て方か、それともやはり竹を使っていないせいか。

 

「乾燥が足りない?」

 

 折れた木剣を眺めながらタバサは、そうつぶやいた。

 

「乾燥かー。なんかそれっぽいな。くそー、ものづくりってこんなに難しいのか」

 

 才人は地面に散らばった木片を集めながら、ルイズにでも相談しようかと考えた。

 

 そんな時のことだ。

 

「サーイートー!」

 

 遠くから、何かが土煙を上げながら迫ってきた。

 

「できたわよー! サイトー!」

 

「ええっ!?」

 

 それは、補助輪付きの自転車にまたがったルイズの姿だった。

 

 踏み込むペダルの位置は前輪ではない。前輪と後輪の間に設置されたペダルは、その回転を歯車に伝え、さらに後輪へと繋がれたチェーンへと力を伝える。チェーン式の自転車。この数日で時代は数十年スキップしていた。

 

「って、ありえねえだろッ!」

 

「うっさい!」

 

 才人の叫びにルイズは怒声を返し、ハンドルに備え付けられたブレーキを握りこむ。

 ゴムがこすれる音を立てて、自転車は華麗に停止した。

 

 そしてルイズは右手を才人へと突きだし、サムズアップをした。

 

「どうかしら、サイト?」

 

「どうかしら、じゃねぇーッ! もっと考えろよ、文明レベルとか! ここは中世ファンタジー世界じゃなかったのかよ!」

 

「うっさいわねぇ。ほら、品評会は明日なんだから、あなたも補助輪無しで走れるようになりなさい」

 

 そう言うルイズの言葉も聞かず、予想外の事態に頭を抱える才人。

 そんな才人の袖をタバサは軽く引いた。

 

「ん? どうした?」

 

「……乗りたい」

 

 才人にそう言ってから、ルイズに自転車を借りるタバサ。

 補助輪付きの自転車に乗る一四二サントの小柄な少女の姿は、どう見ても自転車に乗りたての小学生のそれであった。

 

 そして翌日、使い魔品評会は(とどこお)りなく行なわれた。

 

 ルイズはまず、観客の皆に、才人の知識とタバサの氷の魔法で作ったカキ氷を使用人達に配らせた。普段食べているジェラートとは違うその食感に、貴族達の期待は高まった。そして、ルイズは自転車に乗った才人を皆に紹介する。

 

 ブラスナックルを手に持ち、身体能力を上げた才人は生徒達が見守る中、自転車で爆走した。

 

 才人の見せるウィリーなどの未知の自転車トリックに、生徒達は魅せられた。

 その日以降、コルベール式自転車は、魔法で空を飛べるはずの生徒達の間で人気の遊具になるのであった。

 




・時計
原作には懐中時計や壁掛け時計が出てきます。十五巻に出てきた時計は機械式とハッキリ書かれているため、マジックアイテムではなさそうです。

・レンタルビデオ店
ネット配信が普及する以前の2004年頃は、まだ各所に生き残っていました。

・自転車
原作のゼロ戦の解析で、精度を保った同じ部品の量産は不可能と判断しているコルベール先生。なので、今回の自転車の部品もおそらく加工精度が甘く、さらに量産は難しいかと思われます。
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