【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第三章 風雲ニューカッスル城
28.おてんば姫の行幸


 ルイズは、自らのメイジとしての力量を『ライン』相当であると考える。

 

 四大系統魔法のメイジには『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクウェア』の四つの段階が存在するが、それは魔法に重ね合わせられる属性系統の数で決定付けられる。

 たとえば『炎球(ファイヤーボール)』は『火』単独の魔法であるが、そこへさらに『火』の系統を重ね合わせると『フレイム・ボール』の魔法に変わる。

『ファイヤーボール』しか使えない『火』のメイジは『ドット』であり、『フレイム・ボール』を使える『火』のメイジは『ライン』となる。

 

 では、それら段階の違うメイジの間にある差とは何か。

 

 戦闘活劇を好むメイジの少年達は、その差を戦いにおける強さの差だと思っているのだが、それは本質ではない。

 属性の相性や得意とする魔法によって、それは簡単に覆される。『ドット』が『トライアングル』を打ち負かした逸話など歴史上にいくつも存在する。

 戦争用の魔法を使ったことなど一度もない魔法研究者が、『トライアングル』の力量を持つ、などということもざらにある。

 

 ルイズは、この四つの段階を魔法が秘める『真理』にどれだけ近づけたか測るものであると考える。

 

 熟練したメイジが多くの属性を重ねられるようになる理由は、始祖ブリミルがもたらした四大魔法の『真理』に近づき、魔法という技術にその『真理』を反映させているからである、と。

 

 そして、ルイズは自らの爆発の魔法について、『ライン』相当の『真理』を得ているだろうと感覚的に捉えている。

『トライアングル』、そして『スクウェア』の高みに届くには、さらなる研鑽が必要だ。そして、その『真理』の探究には爆発の魔法だけではなく、万物の知識や四大魔法の『真理』を知ることが必要である。

 これらの話に根拠は一切無いのだが、彼女はそう信じ続けて努力を重ねている。

 

 そんなルイズが魔法学院の授業にわざわざ出席する理由は、その『真理』の探求の一環とするためだ。本来、学院で学ぶような内容は、五年以上前に全て自力で学習済みだった。

 既に学習を終えていてもなお、こうして教室の最前列で授業を受ける必要性が彼女にはある。それは、熟練のメイジである教師達の、教本には載っていない知識と経験則の披露を己の目と耳で確かめるためだ。

 

 今、ルイズは教室で『風』の授業を受けていた。

 教鞭を振る教師は、風の『スクウェア』、ギトーだ。

 

「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」

 

 最強の系統、という言葉を聞いてルイズは吹き出しそうになった。

 自分の魔法はどの系統だからお前より俺の方が強い、などという話は、魔法の系統に目覚め始めた幼い子供達が言うような言葉だ。

 だがルイズは、それも仕方が無いと思う。

 

 学院で『風』の授業を担当するこの教師は、性格に難がある。

 幼い子供がする主張を未だに繰り返しているのも、それを正してくれる友人がいなかったのだろう。

 

 そして、ルイズは頭の中でギトーの人生を想像する。友人を得られず、彼は己の系統である『風』の魔法の鍛錬に青春時代を費やした。その結果、『スクウェア』という魔法の(いただき)に立ったが、貴族に必要なコネが得られず、魔法衛士隊や竜騎士隊への入隊は叶わず。結果、魔法学院で教鞭を執るという、最強の系統を活躍させられる華やかな日々とはほど遠い毎日を送ることになったのではなかろうか。

 

 と、そんな失礼すぎる妄想を脳内で繰り広げていると、ふと、ルイズは隣に座っていたはずのキュルケが居ないことに気付いた。

 教室を見回すと、彼女の背後、教室の階段の中程にキュルケが立っているのが見えた。

 

「何があったの?」

 

 そうルイズは隣の才人に尋ねる。

 

「ああ、なんだかあの先生がキュルケに、自分に魔法をぶつけてこいって……」

 

 才人がそう言うや否や、キュルケの前方に直径一メイルもある巨大な火の玉が浮かび上がった。

炎球(ファイヤーボール)』の魔法だ。もし直撃すれば、焼け死んでもおかしくはない。キュルケは殺る気満々だった。

 

 轟音と共に撃ち出される、火の球。

 それを前にして、ギトーは慌てる様子もなく短くルーンを唱え杖を振るう。

 すると、次の瞬間。ギトーの杖の先から強風が吹き荒れた。

 

 キュルケの放った火球はその強風の前に霧散し、熱をまとった風が着席している生徒達へと迫る。

 

 それを見ていたルイズは咄嗟に腕を上げ、ルーンを唱えて指を弾いた。

 

 教室に響く轟音。煙をともなった爆発の魔法が、熱風を消し飛ばした。

 

 煙がはれたそのとき、キュルケは呆然とした表情で棒立ちになっていた。

 

「ミスタ・ギトー!」

 

 ルイズはキュルケと生徒達の無事を確認すると、振り返ってギトーに叫んだ。

 全身に響くような声に、ギトーは思わずビクリと身体を震わせ背筋を伸ばした。

 

「戦いの実技は、教室内でやるものではありません。オールド・オスマンの耳に入っては事ですよ」

 

「う、うむ。反省しよう。ミス・ツェルプストー、着席してよろしい」

 

 ギトーはルイズから目を逸らしながらキュルケに指示を出す。

 キュルケは自分の魔法が通用しなかった事実が気にくわなかったのか、ムスッとした表情で席へと戻った。

 

 そしてギトーは再び講釈を開始する。

 

「さて、このように『風』はすべてを薙ぎ払う。『火』も、『水』も、『土』も、『風』の前では立つことすらできない」

 

『ドット』の金属ゴーレムを『ドット』の『エア・ハンマー』で吹き飛ばすことは困難なのだが、ルイズはそれを口にすることはなかった。無駄に授業を妨害する必要もないだろう。教師に対して魔法について討論を仕掛けるのは、授業が終わりに近づいてからで十分だ。

 

「残念ながら試したことはないが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」

 

「あら、でもルイズの『爆発』は、吹き飛ばすことができなかったようですね」

 

 ギトーの講釈にキュルケがそんな合いの手を入れる。

 キュルケの言葉に教室中から小さな笑いがあがった。

 

 ギトーは鋭い眼光で生徒達をにらみつけ、その笑いを止める。

 

「……ゆえに、『風』は最強の属性たり得るのだ。目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあれば敵を吹き飛ばす矛となるだろう。そしてもう一つ、『風』が最強たる所以は……」

 

 ギトーは杖を胸の前に構えた。

 そしてルーンを唱え始める。

 

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

 

 ルイズは、そのルーンに聞き覚えがあった。昔、母から見せてもらった『風』の魔法。

 机から身を乗り出してその魔法の完成を待つ。

 だが、突如教室の扉が開き、集中を乱されたギトーは魔法の詠唱を中断した。

 

 何事か、と教室中の皆が扉を振り向く。すると、そこには全身に自転車用のチェーンを巻き付け、黒い油まみれになったコルベールが居た。

 そのコルベールに、ギトーが険しい表情をして言う。

 

「ミスタ、何事ですか。授業中です」

 

「ミスタ・ギトー。申し訳ない。本日の授業は全て中止となりました」

 

「中止とな?」

 

「はい、そうです。教室の皆さんにも、大切なお知らせがあります。背筋を正して聞くように」

 

 背筋を正す前に、まず自分の格好をどうにかしたらどうか、と教室の皆は思ったが、口に出す者はいない。

 

「皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」

 

 コルベールは後ろ手に手を組み言葉を続ける。全身に巻き付けられたチェーンが鈍い音を立てた。

 

「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

 

 教室中が、ざわめき立つ。

 そんな様子を一人眺めていた才人は、あのコルベール先生がこんな真面目な顔をすることもあるんだなぁ、と一人思っていた。ブリミルの降臨祭に並ぶなどと言われても、彼にはそのすごさが理解できていなかった。

 コルベールの言葉にも、お姫様がいるなんてますますファンタジーっぽいな、などと思っただけだ。

 

「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」

 

 生徒達は皆、顔に緊張した表情を浮かべる。トリスタニアの姫将軍殿下といえば、現在この国の頂点に立つ人物として有名だ。

 そんな生徒達の中、一人、立ち上がる者がいた。ルイズだ。

 

「ミスタ・コルベール。申し訳ないですけど、少々お待ちいただけますか? ……ミスタ・ギトー!」

 

「む、なんだね?」

 

 生徒達と同じように真面目な顔を浮かべていたギトーは、突然呼ばれた自分の名前に困惑を返す。

 

「先ほど使おうとしていた魔法、ぜひ続きをお見せいただきたく思います」

 

「こ、これ、ミス・ヴァリエール!? 話を聞いていたのかね!?」

 

 そんなルイズの言い様に、コルベールが驚きの声を上げる。

 しかし、ルイズは気にした様子もなく言葉を続けた。

 

「聞いていました。でも、魔法一つ見るだけの時間はあるでしょう。ミスタ・ギトーが使おうとしていた魔法は、スクウェアスペルの中でも秘奥と呼ばれるもの。時間を割いてでも見る価値は、皆にとってもあります」

 

「ふむ……」

 

 その言葉を聞いてギトーはうなずき、アゴをさすった。

 確かに自分が使おうとしていたのは、魔法衛士隊の隊長格が使うような、強力な魔法。それをルーンを聞いただけでこの少女は、見破ったというのだ。

 ギトーは、このトリステインの『賢者』に自分の魔法を披露したくなった。

 

「あいわかった。ミスタ・コルベール。すぐに終わるのでお待ちいただきたい」

 

「むう、仕方ありません。私は次の教室に行きますので、早急に切り上げるようお願いいたしますぞ」

 

 そう言ってコルベールは、教室を後にする。

 残されたギトーは、先ほどと同じように胸の前に杖を構えた。

 

「一度しかやらぬので見逃さぬように。ユビキタス・デル・ウィンデ……」

 

 詠唱を終えた瞬間、ギトーの真横が霞み、やがてそこにもう一人のギトーが現れた。

 

「風は遍在する。これが風のスクウェアスペル。『遍在』だ」

 

 教室がまたもやざわめく。

 分身したもう一人のギトー。顔や体格だけではない。服や手に持った杖すらも、完全な形で二人に分かれていた。

 

「驚くのはまだはやい。どれ……」

 

 二人のギトーは同時に小さくルーンを呟き、杖を前へと振るう。

 二人の杖の先から、『明かり(ライト)』の魔法の光がともった。

 

「『遍在』は、もう一人の自分を生み出す魔法。遍在を唱えた時点でこの魔法は終わり、他の魔法を使うことができる。そして、遍在も、もう一人の自分として魔法を唱えることができるのだ。これが『風』が最強であることの証明だ」

 

 教室の皆が、その魔法に魅せられていた。

 コルベールが教室にやってきてからずっと一人で本を眺めていたタバサも、本を閉じてその魔法に注目していた。

 

「す、すばらしいですわ、ミスタ・ギトー!」

 

 ずっと不機嫌だったキュルケもその光景に見とれ、驚きの声を上げた。

 

「いや、私もまだまだ未熟。以前お会いしたグリフォン隊の隊長ミスタ・ワルドは、三つの『遍在』を作り出して見せたものだよ。……いかがだったかね、ミス・ヴァリエール」

 

「ええ、とても素晴らしい魔法でした。ありがとうございます」

 

「うむ」

 

 得意げな顔で、ギトーが微笑む。しかし、そこにルイズが思わぬ言葉を追加した。

 

「で、その分身、破壊させてもらってもよろしいですか? よろしいですよね?」

 

「うむ……?」

 

「分身が破壊される様子を確認するのも、勉強です。失礼いたします!」

 

 ルイズはそう言うと口の中で小さくルーンを唱え、腕を胸の前へと上げて指を弾いた。

『遍在』で生み出された分身ギトーが爆発し、風となってかき消える。

 

「むう!?」

 

「ご指導ありがとうございました! さあ、皆さん、姫殿下が参りますゆえ、急ぎましょう。御覚えがよろしくなるよう、しっかりと杖を磨きましょう」

 

 ルイズはそう言って、才人を引き連れて教室を後にする。

 ルイズにとって『遍在』の魔法そのものは、母が使えるため珍しいものではなかった。

 ただ、母との戦闘訓練で最後まで遍在の分身を破壊できなかった彼女にとって、どのように『遍在』の分身が消え去るのか。それを観察する機会として、たまたま今回、都合がよかっただけなのだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その日の夜。ルイズの部屋にはいつものように三人の魔女と、一人と一匹の使い魔が集まっていた。

 

「お姫様、綺麗だったなぁ……」

 

 ワイングラスを片手に、才人はそんなことをぼんやりと呟く。

 

「意外とサイトって面食いなのね」

 

 そんな才人に、キュルケは笑いながらそう言う。

 

「ただのエロ犬なだけよ」

 

 ルイズは手に持った紙を眺めながら、辛辣な言葉を述べた。

 タバサは一人会話に乗らず、グラス片手に読書をしている。ルイズの部屋には研究資料だけでなく、貴重な古典小説がそろっていると、最近タバサは気付いた。

 

「おま、ひでえなぁ。これでも健全な思春期の少年だっつーの、俺は」

 

「健全なのに、同じ部屋で寝るルイズに手を出さないのは、どうしてなのかしらねぇ」

 

 キュルケはニヤニヤと笑いながら才人をからかい、そしてルイズの方を見た。

 

「ルイズ、式典の最中ずっと不機嫌だったけどどうしたの? 他の人みたいに姫将軍殿下ばんざーいとでも言っていればよかったのに」

 

「今日は真面目に授業を受けようと思っていたのに、いきなり中断したからよ」

 

「お姫さまを見ても嬉しくなかったの? 他の子達、なんかあの王女を見てキャーキャー騒いでいたわよ」

 

「いまさら姫さまを見ても、ねえ……」

 

「ああ、そうだったわね。あなた、子供の頃から、あのお姫さまの知り合いなんだったわね」

 

 キュルケは昔聞いた、ルイズの子供時代の話を思い出しながらそう言った。

 他の貴族達にとって王女は雲の上の存在だが、ルイズにとって王女は仲のよい幼なじみなのだ。

 

「ま、姫さまはどうでも良いでしょう。それよりも、タルブよタルブ!」

 

 そう言ってルイズは身体を前へと乗り出すと、手に持った紙をテーブルの上に叩きつけた。

 するとキュルケは、自国の王女をどうでも良いと言い切ったルイズの態度に苦笑しながら、言葉を返す。

 

「あのメイド……シエスタだった? その子に何か話を聞いていたわね」

 

「そうなの。聞けば聞くほど、あの子の故郷は怪しいのよ。たとえば、名物のシチュー、ヨシェナヴェ。サイト、これはなんだって?」

 

「ああ、日本の伝統料理の寄せ鍋のことだな。野菜や根菜、それと肉を鍋に入れて煮込んだ鍋料理。寄せ鍋、ええと、発音はヨ・セ・ナ・ベだ」

 

 ルイズの説明と才人の答えを聞いて、キュルケもルイズ達が何を言いたいのか理解する。

 

「つまり、異世界のサイトの国にあるはずの料理が、なぜかその村にある?」

 

「そういうことよ」

 

「偶然ってことは無いの? ええと、たとえばこの世界で『ニッポン』に対応する遠い国から、交易で流れてきたレシピが、その村で落ち着いたとか」

 

 才人の主張する並行世界という概念を知るキュルケが、そのような疑問をルイズにぶつける。

 

「料理自体の一致はともかく、名前の一致はおかしいのよ。サイトに確認したけどハルケギニアの言葉は、地球の『ヨーロッパ』の言葉とは対応していないわ」

 

 それを聞いて、キュルケは腕を組んで思考を巡らせる。

 そして、横で一人黙々と本を読み続けるタバサに目線を送った。

 

「タバサ、あなたもちょっと考えなさいよ。これじゃ、あたし一人がルイズに知恵比べを挑まれているみたいだわ」

 

 キュルケの言葉に、タバサは本を閉じぬまま、わずかに上目遣いになって小さくつぶやいた。

 

「彼と同じ人がいる」

 

「同じ人? どういうこと?」

 

「ニッポン人」

 

 そこまで言って、タバサは本へと目線を戻した。

 一方のキュルケは、首をかしげたまま言う。

 

「えーと、つまりどういうことかしら?」

 

「わたしがサイトを召喚したのと同じように、何らかの手段で『ニッポン』からタルブ村まで、世界を越えてやってきた人がいるということよ」

 

 ルイズはそう、キュルケへ謎かけの答えを示した。

 

「ヨシェナヴェは、突然村に現れたシエスタの曾祖父が村に伝えたものだそうよ。例の、ショウユやミソを作ろうとした人ね。そして、その曾祖父が村に現れたときにまとっていたという、謎のマジックアイテムが、これ」

 

 そこまでルイズはまくしたてると、先ほどテーブルの上に置いた紙を手の平で叩いた。

 その紙には、何かのオブジェが細かく描かれている。

 

「『竜の羽衣』という、空飛ぶ秘宝だそうよ」

 

「『竜の羽衣』……また仰々(ぎょうぎょう)しい名前ね」

 

 キュルケはテーブルの上に置かれた紙を眺める。

 翼を広げた大きな鳥のような姿をした、オブジェの絵。

 

「これのどこが竜なの?」

 

「竜じゃないわよ。ねえサイト、これは何か教えてあげて」

 

 ルイズは、ワインをチビチビと飲みながら二人の会話を聞いていた才人へと話を振る。

 

「……ああ、それは飛行機だ」

 

「飛行機!? あの大陸と大陸と飛んで行き来するっていう地球の乗り物!?」

 

「大きさからしておそらく一人乗り。時代を考えると……多分、世界大戦をやっていたときの戦闘用の飛行機……『戦闘機』だ。何十年も前、地球のいろんな国が同時に戦争を行なっていて、こんな大きさの戦うための飛行機が、毎日のように空を飛んで殺し合っていたんだ」

 

「『カガク』でできた地球版の騎竜ってとこかしら? 壮大な話ね」

 

 キュルケはそんな感想を述べながら、絵をまじまじと見つめた。

 

「そういうわけで、わたしと才人は近日中にタルブ村に行くつもりよ。何日か学院を離れるけれど、あなたたちも付いてくる?」

 

「うーん、付いていきたいけれど、また授業サボって大丈夫かしら?」

 

「大丈夫よ。ミスタ・コルベールに話を通すつもりだから。あの人は今、自転車をこがずに動かす発明にご執心だから。もっとすごいサイトの国の乗り物を調べてくるって言えば、大喜びで外泊許可を受理してくれるわ」

 

「あら、それなら、『石油』の時みたいに、ジャンにも付いてきて欲しいわね。二人で辺境の村まで旅行とか、素敵じゃない」

 

 と、ルイズとキュルケが言葉を交わしていると、突如、扉の方からノックの音が響いた。

 

「こんな夜中に誰かしら?」

 

 話を中断させられたキュルケは、思わぬ来訪者に首をかしげた。

 ノックは規則正しく、一定のリズムを刻むように部屋に響く。

 

 その音に、ルイズは何か心当たりがあったのか、目を見開いた。

 

「これは……いえ、確かに今日なら……」

 

 そう呟いて立ち上がると、ゆっくりと扉を開いた。

 そして、どうぞと来訪者を部屋へと招いた。

 

 その人物に、キュルケ達は眉をひそめた。

 怪しいのだ。漆黒のマントに身を包み、頭巾を目深に被っている。

 

 黒マントの人物は部屋の半ばまで進むと、懐から魔法の杖を取り出した。

 突然の事に、キュルケとタバサは咄嗟に身構え、各々の杖を黒マントの人物へと構える。

 

 だが、ルイズはキュルケ達に「大丈夫」と伝え、杖を下げさせた。

 黒マントの人物はルイズに軽く会釈すると、口述詠唱をして杖を振った。

 杖の先から光の粉が生まれ、部屋に降り注ぐ。

 

「……『探知(ディテクトマジック)』?」

 

 キュルケが光の粉を見てそう呟いた。黒マントの人物はその言葉にうなずく。

 

「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからな」

 

『ディテクトマジック』は、部屋のあらゆるところからマジックアイテムの反応を探知した。

 が、どうやらその中に、魔法の耳やどこかに通じる覗き穴はないようであった。それを確認した黒マントの人物は、ゆっくりと頭に被った頭巾を取った。

 そしてルイズへと話しかける。

 

「夜分遅く申し訳ない。お久しぶりです、トリステインの『賢者』よ」

 

 そこに居たのは、トリステイン王国の政治を動かす枢機卿。白い髪とヒゲを生やした老いた顔の『鳥の骨』、マザリーニであった。

 




・『遍在』
『風』のスクウェアスペル。
原作の序盤では『偏在』とも書かれますが、後の巻で『遍在』と書かれるようになったため、おそらく『偏在』は誤字。
正反対の意味で同音異義語とか、日本語って難しいですね……。
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