【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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31.皆の決意、ルイズの決意

「行ってくれるかしら? ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール?」

 

 そう笑顔でルイズに告げる、アンリエッタ。

 それに対し、ルイズも笑顔を作り返した。

 

「ええ、分かりました、姫さま。その代わり……」

 

「報酬なら、しかと払うわよ。騎士の称号を与えても構いません」

 

「いえ、それもいただきますが。それよりも一つ」

 

 ルイズは笑顔のまま腕を持ち上げて、手の平を胸の前で握った。

 

「ただの学生相手に、無茶を言うのです。一発殴らせてください。ストレートで思いっきり。できれば顔を」

 

「魔女ォッ! 姫殿下にッ! なにをするかーッ!」

 

 ルイズの言葉に一拍おいて、大きな音を立てて扉が開き、何者かが部屋に飛び込んできた。

 

 それは女子寮にいるはずのない人物。以前、才人と乳戦争を引き起こした貴族の少年、ギーシュであった。

 

「姫殿下! そのような重要な任務、卑しい『魔女』に頼ることはありません。このギーシュ・ド・グラモンにお任せください!」

 

 ギーシュは右手に携えた薔薇の造花を振りながら、優雅にアンリエッタに進言した。

 

 ルイズは自分の部屋に無断で参上したギーシュを一(にら)みすると、その隣へと無言で歩いていく。

 そして、先ほど握った拳でギーシュのアゴを殴り上げた。魔女式アッパーカットである。

 

「おぶぅッ!?」

 

「姫さまを尾行したうえで、盗み聞きをした? 姫さま、どうしますか? 縛り首ですか?」

 

「あらあらまあまあ、困りましたわ。でもルイズ。縛り首はいけないわ。ええ、駄目よそれは」

 

 アンリエッタは口元に手を当てながら、困惑の表情を浮かべた。

 

「縛り首は、死体がとても汚くなるから、貴族の死に方として美しくないわ。ここはやはり斬首刑よ」

 

 そしてアンリエッタは、サラリとそんなことを言った。

 

 一方、ギーシュは突然告げられた物騒な言葉に、目を白黒させた。

 おかしい。こんなはずでは。颯爽(さっそう)と登場し、「その任務お任せください」「まあ、素敵な殿方。ぜひお願いします」「姫のためなら世界の果てでも行ってみせます」「素敵!」と話を運んで、姫殿下の覚えを良くするはずだったのだ。

 

 死刑を告げられたギーシュは、脂汗を流しながら、誰か助けて貰える人がいないかと部屋を見回した。自分を含めて一室に詰まる、七人の男女。

 そしてギーシュは、彼を眺めるマザリーニと目があった。その彼が、ギーシュを見ながら姫に進言する。

 

「殿下。このような場所で、重要な話をしていた我々にも非があります。死刑は認められませぬ。国法に反します」

 

 そのマザリーニの言葉に、ギーシュはほっと胸をなで下ろす。

 だが、続けて放たれたマザリーニの冷酷な言葉に、背筋を冷やすことになる。

 

「せいぜいが、数年の禁錮と、耳をそぎ落とす程度でよろしいでしょう」

 

「ででででで殿下! このギーシュ・ド・グラモン! けっして国に害をなす目的で、盗み聞きをしていたわけではありませぬ! そう、その任務、わたくしめにお任せくだされば、すぐさま手紙を取り戻してみせましょう!」

 

 ギーシュはやけになり、とにかく勢いで誤魔化そうとした。

 

 アンリエッタは、そのギーシュの言葉にふと考え込んだ。

 

「グラモン? あの女好きのグラモン元帥の縁者かしら?」

 

「女好き……ああいえ、その息子でございます、姫殿下」

 

 思わぬ父の評価にギーシュは唖然(あぜん)とするが、死刑か否かの正念場と言うことを思い出し、ギーシュは真面目な顔でアンリエッタに答える。

 

「あらあら、それなら女子寮に忍びこむのも仕方が無いですわね。ねえルイズ、この方は今回の任務に使えるかしら?」

 

「まあ、矢よけくらいにはなるかと」

 

「ルイズ!? 酷くないかい!?」

 

 ここでフォローしてもらわねば困ると焦ったギーシュだが、相手は『魔女』であることを思い出した。やはり自分で何とかしなければと、考えを巡らせる。

 そして、ランプに照らされた暗い室内を見て、なんとか知恵をひねり出した。

 

「姫殿下、僕は『土』のメイジでございます。聞き伝えるところによるとグリフォン隊の隊長殿は『風』のメイジ。そしてキュルケは『火』でタバサは『風』。ルイズに至っては系統魔法を使えません。この『土』の力はきっと役に立つことでしょう」

 

 それがギーシュが何とか考えついた、自分を売り込むための文句。

 だが、そこにルイズが水を差した。

 

「ちょっとギーシュ。何を言っているの。キュルケとタバサなんて、付いてくるわけ無いでしょう」

 

「えっ、そうなのかい?」

 

「なんでトリステインの国際問題に、他国の貴族が関わるのよ。この中で行くのはわたし一人よ」

 

「サイトもかい? 彼は君の使い魔だろう?」

 

「死んだらどうするのよ。客人よ、彼は」

 

 そう腰に手を当てながらギーシュに言うルイズ。

 アンリエッタが依頼した相手は、あくまでルイズだけ。別に、この部屋にいる全員に頼んだわけではないのだ。

 

 だが、そのルイズの言葉に、キュルケは座ったままルイズの背後から語りかけた。

 

「ルイズ、行かないとは言っていないわよ。……トリステインの姫殿下。わたしの故郷であるゲルマニアとの同盟の危機と聞きました。この任務、このフォン・ツェルプストーもご一緒してよろしいでしょうか?」

 

「キュルケ!?」

 

 悪友のまさかの発言に、ルイズはキュルケに振り返って叫び声を上げた。

 

「あら、それは頼もしいですわ。でも、トリステイン王国の者であるわたくしは、あなたに命じられる権限を持ち合わせていません。……アルビオンへ旅行に行くルイズ・フランソワーズに友人として同行するというのなら、そもそも誰も止められる者はいないでしょう」

 

 淡々と言うアンリエッタ。

 一方のルイズは、とんでもないことを言い出したキュルケへと詰め寄った。

 

「キュルケ、キュルケ! あなた本気なの!?」

 

「ここまで聞いておいて、死地にあなた一人で行かせると思って?」

 

「分かっているの? 戦場なのよ!」

 

「何を今更、ね。オーク鬼の巣には連れて行って、戦場は駄目なんて道理が通っていないわよ」

 

 指先で髪の毛をくるくると巻きながらキュルケは何も気にした様子もなく言った。

 対するルイズは、なんとかしてキュルケの考えを改めさせようと、思考を巡らせ始める。

 だがそんなルイズの前に座るタバサが本を閉じ、顔をルイズの方へと向けた。

 

「わたしも行く」

 

「タバサも!? 何を言ってるの。あなたは完全に無関係じゃない!」

 

「今更。あなたには恩がある」

 

 タバサの視線は、揺るがない。

 勇者になるのだと誓ったタバサの想いは、強固だ。

 そして、勇者タバサがその剣と杖で守る相手は、自分の母を救った少女、ルイズである。

 

 そのタバサの宣言に、アンリエッタは一瞬困ったような顔をしたが、特に何も言うことはなかった。

 そこは止めに入るところでしょうと、ルイズはさらに困り果てた。タバサはガリアの王族だ。それを行かせるというのか。

 

「俺も行くぞ」

 

 焦るルイズに追い打ちをかけるかのように、才人も言った。

 

「女の子一人、戦場に送り込んで見ているだけなんて、日本男児のやることじゃない」

 

 才人は自分の持つ力に酔っていた。物語の中のような世界に喚び出され、『ガンダールヴ』という選ばれた力を授かった彼。自分がここにいるのはこのためなんだ、などと言う青臭い、それでいて少年らしい思いが全身を巡っていた。要するに、調子に乗っているのだ。

 

「サイトまで何を言っているの。これはわたしが受けた任務。あなたには関係ないわ」

 

「今更、だな。俺はお前の使い魔なんだぞ、ご主人様」

 

 その言葉を聞いてルイズは、ただただ頭を抱えた。

 もう彼女には彼らを止められない。策を打つ前に、キュルケ達の決意は固まってしまっていた。

 

 そんなルイズとその友人達の様子を見て、アンリエッタはトリステイン一とも呼ばれるその美しい顔に、憂いの表情を浮かべた。

 この状況、どこまでアンリエッタの想定内なのだろうと、ルイズは幼馴染みの姫を(にら)んだ。

 

「ああ、そうそう。みなさまに一つだけ」

 

 と、ルイズに睨まれたアンリエッタは、この部屋にいる皆に向けて言った。

 

「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが回収する書の中身をみなさまが見ることは、まかりなりません。あれには乙女の大事な秘密が書かれています。そうですね……もし見てしまったら、国際問題も無視して、その人を処罰したくなるでしょうね」

 

「……ああ、なるほど。麗しのラグドリアン湖にて、精霊に誓って書かれた文、盗み見るなどありえませんね」

 

 アンリエッタの言葉に何か納得がいったのか、ギーシュが同意するように言った。

 

「あら、ミスタ・グラモン。話が分かる方。きっと魔法もお得意なのね。得意系統は『土』でしたね?」

 

「はい、『土』です。しかし、研鑽が足りず、未だに『ドット』の身でございます」

 

「そう、ハルケギニアの未来を左右する程の、偉大な『土』のメイジとなることを願っていますわ」

 

「ご期待に添えるよう、(はげ)みます!」

 

 そうして話はまとまった。まとまってしまった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 結局、キュルケ達三人とギーシュは、ルイズに同行することとなった。

 マザリーニはしきりにルイズへ謝罪を続けていたが、ルイズはただ学院を離れる理由を学院長向けにでっち上げて欲しいとマザリーニに告げるだけで済ませた。彼女自身も、ここに来て引くつもりはなかった。

 

 その後、アンリエッタは身分証代わりだと言って、指にはめていた指輪をルイズに渡した。

 

「姫さま、これは?」

 

「トリステインの王家に伝わる国宝、『水のルビー』です。一説には、始祖ブリミルに由来を持つ古代の秘宝であるとか」

 

 そう告げられたルイズは、指輪を左手の人差し指に通す。すると、指輪はひとりでにサイズが調整され、ルイズの指にしっかりと嵌まった。

 その不思議な機能に、ルイズは目を輝かせて指に嵌まった指輪をまじまじと見つめる。

 

「ウェールズ様は、それと同じ形の『風のルビー』を身につけていておいでです。あの方のことは、ルイズもよく知っているでしょうが、念のため。万が一のときの、身分の証明に役立つでしょう」

 

 アンリエッタのその言葉を聞いて、ルイズは彼女の覚悟を受け入れる。

 始祖ブリミルの秘宝。まさしく唯一無二の国宝だ。

 そんな物、死を前提とした任務に持たせるわけがない。アンリエッタは、本気でルイズという人物の力を買って、今回の命令を出したのだ。

 

「明日、グリフォン隊の隊長に、身分を証明するための書も持たせます。マザリーニ、よろしくて?」

 

「……相わかりました」

 

「そして、もう一つアルビオンまで、届けてもらいたい物があります」

 

 そう言って、アンリエッタはキュルケ達が座るテーブルまで歩き、先ほどルイズが座っていた椅子へと座った。

 

 テーブルの上を一通り眺めると、アンリエッタは座ったままルイズへと振り返る。

 

「ルイズ、紙を二枚と、ペンを貸していただけます?」

 

 その言葉を聞いて、ルイズはアンリエッタに愛用の四色ボールペンとテーブルの横に積まれた紙を二枚、手渡した。

 

「あら、良い紙を使っているのね」

 

「ラ・ヴァリエール領で作らせている植物紙です。質は良いですが原価はたいしたことはございません」

 

「ですって、マザリーニ。……それとこれは、ペン、なのかしら?」

 

「はい、わたしの使い魔である賢人、ヒラガ・サイトの国で広く使われている、インク入りのペンです」

 

 そう言って、ルイズはアンリエッタに四色ボールペンの使い方を教える。

 アンリエッタは初めて見る地球の道具に、新しいおもちゃを与えられた子供のように驚き喜んだ。

 

「まあ、まあ。色インクがたくさん入ったペンなのね。素敵ね。ではこの色を使って……」

 

 着席した才人達の見守る横で、アンリエッタはテーブルに置いた紙の上にペンを走らせた。

 闇夜の中でランプが一つ灯っているだけの薄暗い部屋では、彼らはその内容を盗み見ることはできなかった。だが、時折アンリエッタが「ウェールズさま……」とつぶやきながら虚空を見上げたり、「ああっ! 始祖ブリミルよ。わたくしたちを引き裂くだなんて!」と両手で自らの肩を抱きながら体を左右にひねる様子を見て、皆はおおよそアンリエッタが何を書いているか予想できてしまった。

 

 そしてアンリエッタは、書き終わった二枚の書を巻き、杖を振って『錬金』の魔法で封を施した。

『錬金』で作られた蝋に浮かび上がった花押には、トリステイン王家の印章である百合ではなく、アンリエッタの横顔が刻まれていた。

 

「この密書をあの御方にお渡ししてください。件の物をルイズに渡すように書いてあります」

 

「密書? 恋文の間違いでは?」

 

「あらいやだ、ルイズったら。でもそうね、わたくし達の未来を想う気持ちがこめてありますわ」

 

 ルイズの問いかけにそんなことを言うアンリエッタは、怪しい笑みを浮かべていた。

 一方、一連のやりとりを黙って見ていた才人は、王族となれば自由に恋をするのも命懸けなんだなと、そんなことを思うのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その日の夜遅く、ルイズと才人の二人だけになった部屋で、ルイズは一人机に座り、珍しく羽ペンで書をしたためていた。

 

 明日は朝が早いというのに、いつまで経っても寝間着に着替えようとしないルイズ。そんな彼女に、才人は眉をひそめながら語りかけた。

 

「何を書いてんだ?」

 

「遺書よ」

 

 振り返ることなくルイズが答える。

 

「いしょぉ?」

 

 頭に疑問符を浮かべながら、才人は座っていたベッドの上から降り、ルイズへと近づく。

 

「見て良いか?」

 

「どうぞ」

 

 ルイズの返事に、才人は今も何かを書き続けているルイズの手元を覗きこんだ。

 

「……筆記体は、まだ読めねえや」

 

「そうだったわね。これはね、要約すると、『わたしが死んでも、わたしに指令を命じた者を糾弾してはならない』って書いてあるの。わたしって、知り合いが多いから、その人達に向けた言葉ね」

 

 まさしくそれは遺書であった。

 

「それ、逆に糾弾する奴が出てくるだろ」

 

 そんなルイズの遺書に、才人は思わず突っ込みを入れた。ルイズの遺書が、押すなよ、絶対に押すなよ、という定番の芸に見えたのだ。

 そのルイズの返答はと言うと。

 

「それすらも禁じるくらい、キツく書いてあるわ。姫様は軽く言っていたけど、今回の件、本当に大変な国際問題なのよ」

 

 淡々と、ルイズはそう言った。

 

「……ルイズって、国への忠誠心高いんだな」

 

「忠誠心? フフッ、ないわよそんなの」

 

 ルイズは公爵家の娘だが、自分の好奇心を満たすために破壊の力を追い求め続けたその生い立ちのせいか、国への忠誠心というものが薄い。

 国のために、という貴族の意思で彼女が動くことはない。

 同じくして、領民のために、という古き良き時代の貴族の意思も彼女は持ち合わせてはいないため、ルイズはおおよそ貴族らしからぬ貴族であった。いや、自分のために、という卑しい貴族の意思は持ち合わせているのだが。

 

 ルイズの答えに、才人はさらに言葉を続ける。

 

「じゃあ、断れば良かったじゃないか」

 

「でもね。一国のためでなく、もっと大きな……そうね、周辺諸国全体を左右するような事態だと、さすがに無視はできないわね」

 

「今回の一件、そこまでのことなのかよ」

 

「そこまでのことなのよ」

 

 そう言いながらも、ルイズは遺書を書く手を止めることはなかった。

 

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